たこ焼き屋物語
「おじさん!たこ焼き1つちょうだい!」
「あいよ!」
オレはたこ焼きが大好きだ。
この愛するたこ焼きとオレが出会ったのは小学校1年生の時だ。母さんがスーパーで買ってきてくれたやつだった。食べてみてオレはその美味しさと魅力に心を奪われた。
そこからオレのたこ焼き人生が始まった。
「あんちゃん!美味しそうに食べるね~。おじさん嬉しいよ」
たこ焼き屋のおっさんがオレの顔を見ながらそう言う。
「おっちゃん、このたこ焼きおいしいよ!タコもフレッシュなやつ使ってるね。ザンジバル近海で獲れたやつでしょ?食感でわかるよ!」
オレは自信満々でそう言った。
「おぉ、あんちゃんよくわかったね。もしかしてあんちゃん、たこ焼きドライバーの方だね。抜き打ち検査だろ?」
「はい??たこ焼きドライバー?なんですかそれ?」
「あんちゃん、たこ焼きについて詳しいのにもしかしてたこ焼きドライバーを知らないのかい?」
「あ…。ハハハッ……。もちろん知ってますよ。たこ焼き通の人でたこ焼きドライバーを知らない人なんていませんよ」
オレはついウソをついてしまった。
たこ焼きドライバーなんて知らない。
というかたこ焼きドライバーってなんだ?
たこ焼きを作るのに資格がいるのか?
たこ焼きに乗るのか?
まるで意味がわからない。
「なぁんだ、知ってるなら知ってるって言ってくれよ。恥ずかしがりやさんなのかい?知ってるってことはたこ焼きドライバーの方なんだろ?」
「あぁ、ボクはたこ焼きドライバーです」
話すのがめんどくさくなってきたからオレは適当にそう言った。
「ほ~ら、やっぱり。じゃあたこ焼きドライバー資格証見せて?」
マズイ…。そんなもの持ってない。そもそもオレはたこ焼きドライバーじゃない。
「どうしたんだい?まさかウソをついたのか?たこ焼きドライバーにウソは禁物じゃぞ」
おじさんは鋭い目でそう言った。
「あぁ、いつも持ち歩いてないんですよ」
「持ち歩いてない?免許証見せてみぃ?」
「免許証?車の?それならもちろん持ってますよ」
そう言ってオレは車の免許証を見せた。
「あんちゃん資格証持ってるじゃん。ほら、ここ見てみい?」
そう言っておじさんは免許証の資格欄を指差した。
たしかに、自動二輪の横に「たこ焼き」と書いている。
「えっ!?たこ焼き?オレいつそんな資格取ったの?というかたこ焼きドライバーって自動車学校で取れるの??」
ますます意味がわからなくなった。たこ焼きドライバーというのは原付き免許みたいなやつなのか?ということはたこ焼きに乗るのか?
たこ焼きに乗る?あぁ、そう言うことか!
いや、やっぱりワケわからん。なんでたこ焼きに乗らなきゃならないんだよ。
あぁ、もう…。ワケわからん…!
オレは自分を見失った。
「あぁ、風が気持ち良い…!」
たこ焼きバイクに乗りながらオレはそうつぶやいた。
あの後、おじさんからたこ焼きドライバーについてみっちり教えてもらい、今では一緒にたこ焼きバイクでツーリングする仲にまでなった。
オレは今、胸を張って言える。
たこ焼きドライバーになったんだと。
「あんちゃん!ここら辺でたこ焼き作るかい?」
「はい!師匠!今日は絶好のたこ焼き日和ですね!」
俺達の目の前には青い空が大きく広がっていた。