色硝子
「でもそれって違うと思うの」
彼女はそう言ってグラスを投げた
割れるグラス
フローリングはその繰り返しでぐちゃぐちゃだ
違うのは捨て台詞だけ
色々なガラス片、ウイスキー、ジン、焼酎
それらのものでピカピカと光る
ピカピカ、チカチカ、クラクラする
目眩がしてきた
いや、目眩はとっくにしている
グラスの割れる音が耳の内側で反響
キーンと残った音
段々と別の音に聞こえてきて、キーンなのか、グワーンなのか、はたまたギーンか
これはグラスの割れた音なのだろうか
五回目辺りからそんな思考がよぎり始めた
いや確かにグラスの割れた音だ
だって今、また割れて、音が鳴った
そして聞こえて
キーンと残る
やっぱり、キーン、だ
彼女はまた、割るために飲み始める
そして私は、ああどうしようと、また思い始める
ああ本当に、どうしよう
彼女が立ち上がる、歩き出す、フラフラだ
ああ、そっちにはピカピカがあるよ!危ないよと手を伸ばす
手を掴まれた
そのまま二人で倒れこむ
ピカピカが迫る綺麗だなと思うと、彼女は私の下敷きになった
あ、と私は言った
彼女は何も言わない
彼女の背中から、血が
血がフローリングを伝って
立ち上がろうとした私を、彼女は抱きしめて止めた
「血が、、血を、、止めないと、、」
私はあまりの事態に、パニックになる一方
しかし彼女は
「大丈夫、、もう少し、このままで、、このままがいい」
少しだけで言いからと、彼女は言った
彼女の胸の中で彼女の背中を思う
ズタズタに傷ついた背中
でもきっと、多分
綺麗なんだろうな
色ガラスと血の彩る、白いシャツの背中は、きっと綺麗だ
想像して、ピカピカが目に浮かぶ
ああ、私は、この親友の事が好きなのだと、どうしようもなく思ってしまった
私は彼女にキスをする
彼女は少しビクッとして、でも受け入れた
血の匂いがする
彼女の匂い、お酒の匂い、血の匂い
混じって、むせ返る様だ
どうしようとは、もう思わなかった
二人共二十代のイメージで書きました
場所は、どちらかの部屋で、時間帯は深夜です