密談
襲いかかる睡魔に抵抗し続けていた朔だったが、明け方近くについに屈し、眠りに落ちた。
衝立で区切られた場所の向こう側から穏やかな寝息が聞こえてくると、赤毛の男性はパチリと目を開け、ゆっくりと立ち上がった。
…やれやれ、やっと眠ってくれたか。
赤毛の男性は衝立のほうを見て苦笑すると、静かに天幕を出ていった。
「あ。やっとお出ましですか、小隊長」
天幕から出てきた赤毛の男性を見て、オレンジの毛の男性は声をかけた。
「ああ。待たせてすまないな。…あのお嬢さん、ようやく眠ってくれたんだ」
「なかなか頑張りましたね。もっと早いと思っていましたが」
「同感。…それで、小隊長。どう見ます?あの子」
青い毛の男性は、朔のいる天幕を見つめて言った。
「…そうだな。本人の言う通り、恐らく武器は持ってはいないだろう。普通の、一般の女子だろうと思う。…あくまでも、恐らく、だがな。…お前達はどう見る?」
赤毛の男性がその場に集まっている三人の男性を見回すと、青い毛の男性が口を開いた。
「小隊長と同意見、ですね。体つきも、鍛えたものには見えない。…故意にそう見えるように装っている暗殺者の類いなら、別ですが」
「…暗殺者ねえ?歩き方ひとつ見ても、僕にはとてもそうは見えないけど。そういう輩なら、もう少し静かに歩くものじゃないかな?そうは思わない?」
青い毛の男性を言葉を半ばからかうように黄色い毛の男性はそう言った。
するとオレンジの毛の男性が首を振りながら口を開く。
「それはあくまでこちらの見解、と言えるな。異世界では暗殺者の有り様も違うかもしれない。…今の時点では私には判断しかねる、と言うしかないですね。小隊長」
「ふむ…まあ、そうだな。魔獣の討伐を阻止した事も、ただ動物の殺害を止めただけとも考えられる。…となれば、やはり全ての判断は明日、か」
そう言うと、赤毛の男性は空を見上げた。
「どちらにしろ、陛下にお目にかける前に確かめなくてはな。結果、危険性があると判断したなら…可哀想だが、その命…」
そうならなければいい。
そう思いつつも、赤毛の男性の表情には迷いの色はなかった。