拘束されました。
男性達が見ている事も構わずに、朔は泣き続けた。
そうしてひとしきり涙を流したあと、しゃくりあげながら顔を上げた。
「…少しは、落ち着いたか?お嬢さん?」
それを見て、朔が泣いている間、ずっと黙って傍にいた赤毛の男性が口を開いた。
朔はこくりと小さく頷く。
「…そうか。それならひとまず、良かった」
赤毛の男性は安堵の溜め息をつく。
そして、一歩前に出てかがみこむと、両手で朔の手をそっと掴み、立ち上がらせる。
「さて、それじゃあ…すまないな。お嬢さん」
「…え?」
…何で謝ってるんだろう?
突然謝られて、意味がわからず朔は首を傾げた。
赤毛の男性は苦笑すると朔の手を離し、数歩後ろに下がる。
直後、代わりに青い毛の男性が朔の前に立ち、赤毛の男性に掴まれて体の前に出ていたままの朔の両手首に、素早く何かを巻きつけた。
朔が視線を下に移すと、そこには細長い縄で縛られた自分の手首があった。
「!!??」
朔は目を見開き、青い毛の男性と自分の手首を交互に凝視する。
その視線を受け止めて、青い毛の男性は口を開き、
「…昔、異世界に来た事に対する混乱から、異世界人が事情を説明した騎士を未知の武器で攻撃し大怪我を負わせたという事件があった。以来、ボディチェックを行うまでじゅうぶんに警戒する事がこの世界共通の、暗黙の了解なんだ」
そう淡々と告げた。
「そ、そんな!武器なんて、私持ってません!」
だからほどいて下さい、と、朔は縛られた手を青い毛の男性の目線の高さまで上げた。
しかし青い毛の男性は動かなかった。
「…その言葉を信用してあげたいのはやまやまなんだが。君のボディチェックをするまでは、ほどいてあげるわけにはいかない。そしてご覧の通り、ここにいるのは男性ばかりだ。女性のボディチェックを行うには、少々問題がある」
青い毛の男性の背後から、赤毛の男性がそう告げた。
「そんな!私本当に武器なんて持ってません!信じて下さい!」
朔は上体を少し右に傾け、青い毛の男性の背後にいる赤毛の男性に訴えた。
しかし赤毛の男性は首を横にふり、困ったように笑うと
「…もう一度言うよ。その言葉を信用してあげたいのはやまやまだ。けれど、縄をほどいてあげるわけにはいかない」
穏やかに、けれどハッキリとそう告げた。
その様子に朔は、何を言っても聞いてもらえないのだと悟り、上げていた両手を降ろし、俯き、同時に溜め息をついた。
そんな朔を見て、青い毛の男性が再び口を開いた。
「明日になればすぐに女性騎士のいる場所に移動する。それまで我慢しろ」
「…明日…」
つまり、今日はずっとこのままという事だ。
手を縛られたままで、眠る事などできるのだろうか?
第一、食事はどうしたらいいのだろう?
…いや、そもそも、食事をさせて貰えるのだろうか?
朔がそんな事を考えていると、赤毛の男性が穏やかな笑みを浮かべて言った。
「拘束している間の不便な事柄については、私が責任をもって世話をしよう。少々気恥ずかしいが、食事は私が食べさせる。寝台は私のものを使っていい。私は敷物の上で眠るとしよう。…同じ天幕にはなるが、その点は我慢して欲しい」
「天幕?」
今の台詞について色々ツッコミたい事はあったが、それを口にしたところで意味はなさそうなので、朔は疑問に思った単語だけを聞き返した。
「ん?…ああ、天幕と言ってもわからないのか。あれだよ」
そう言って、赤毛の男性はテントを指差した。
どうやら、あのテントの事らしい。
「え?…という事は、同じテント、じゃなくて、天幕で寝るんですか!?」
「すまない。しかし、誓って女性に強引に迫るような事はしない。だから安心して欲しい」
「…」
両手を縛られている状態で、会ったばかりの見ず知らずの男性とひとつ屋根の下で寝ろと言われ、どう安心しろというのか。
意地でも今夜は一睡もしない。
朔はそう固く心に誓った。