表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡娘と獣と騎士と。  作者: 葉月ナツメ
再び、トゥイタギアへ
72/78

遭遇

「……何処へ行ったんだ、あいつは」

「あの子、本当に足が速いですよね」

「……まあ、その足の速さで、今まで騎士達から逃げおおせてきたくらいだからな」

「そうですね……」


周辺をキョロキョロと見渡しながら、森の中をイシュマさんと共に歩いて行く。

前方を駆けていたあの子の姿を見失ってしまってから、どれくらい経っただろう。

草が高く生い茂り、獣道のような所を歩いている事から、だいぶ森の奥まで来てしまったように思う。


「……駄目だ、もうじき陽が暮れる。フィー、今日はここまでにして、夜営の支度に取りかかろう」

「えっ、でもそれじゃ、あの子が……!」

「……あいつがこの辺りから姿を消したんなら、また1から探せばいいだけの話だ。フィー、今ここには、もう1匹、危険な魔獣がいる事を忘れるな。暗くなって視界が悪くなった中、夜営の支度に気を取られている最中にもし襲われたら最悪だ。まだ陽のあるうちのほうが応戦しやすい。支度さえ済んでしまえば、あとは休みながらも警戒を怠らなければいい」

「あ……。……そうですね。わかりました」


イシュマさんに説得され、私はとりあえずあの子の捜索を中断して、夜営の支度に取りかかった。

本当はまだ探していたいけれど、もう1匹の魔獣の事も警戒しなければならないのもわかる。

ここは自分の意見を通すより、旅も、戦闘も、経験の勝るイシュマさんに従うべきだろう。


「ああ、それとフィー、合図を出して団長達と合流するぞ。団長達も今頃はもう森の中を捜索してる筈だからな」

「えっ。……わ、わかりました。あの子の様子に変わりがなかった事を話して、村を襲ったのはあの子じゃないって今度こそ信じて貰います!」

「……ああ、そうだな。それを話せば団長達だってその可能性は低いと判断するだろう。……あくまで、今の時点では可能性の話になるが、な」

「え、可能性……。……う~、仕方ない、ですね……」


そう、仕方ない。

真犯人を捕まえるまでは、あの子の容疑は完全には晴れない。

さっきのイシュマさんの話で、それはもう理解してる。

……してるけど……無実のあの子が疑われたままなのは、やっぱり悲しいし悔しい。


「……フィー。そんな顔するな。大丈夫だ、すぐに真実は明らかになる」

「……はい」

「よし。じゃ、合図出すぞ」


考えが顔に出ていたのか、イシュマさんが慰めるように私の頭をポンと優しく叩いた。

私がそれに頷くと、空へ向かって合図を放つ。

空高く輝くそれを、私はぼんやりと見つめた。


「……フィー? 手が止まってるぞ? 団長達が来るまでに夜営の支度を済ませる。今は二人しかいないんだ、サボるな」

「えっ、あっ、はい! すみません!」


ぼんやりしていた事をイシュマさんに見咎められると、私は慌てて夜営の支度を再開した。


★  ☆  ★  ☆  ★


周りの木の枝を風魔法の刃で切り落とし、更に小さく刻んで薪にし、その周りを石で囲んで、魔法で火をつける。

イシュマさんは探索魔法を使うと、『近くに川があるな。魚を取ってくる。フィー、警戒は怠るなよ』と言って川へ行ってしまった。

残された私は、火を消さないよう見守りながら、ひたすらイシュマさんの帰りを待った。

陽が落ちて、辺りは段々暗くなってくる。


「……イシュマさん、遅いなぁ。それに団長達も……今どの辺りにいるんだろうね、レン?」

「キュイ」


薪にした木の枝を新たに火の中に放り込みながらレンに話しかけた。

ただ待つというのは、予想以上に退屈だった。

レンを膝に乗せ、その体をゆっくりと撫でて退屈をまぎらわす。

しばらくそうしていると、ふいにレンが立ち上がり膝から降りた。

そして一方を見つめると、毛を逆立て、姿勢を低くして『フーッ』とまるで威嚇するような唸り声を上げる。


「レン? どうしたの?」


ただならぬレンの様子に、その視線の先を見ると、暗がりの中に、何かの影がある事が見て取れた。


「……レン、光って。周囲を照らして」

「キュイ!」


その影を見つめ、警戒しながらレンに能力を発動をお願いすると、レンは一声鳴き、その体から眩い光を放った。


「……えっ……!?」


明るくなった周囲に浮かび上がったその影は、翠色の毛並みに青灰色の瞳をした、逃げたあの子と全く同じ姿の魔獣だった。

だけど、その姿には、どこか違和感を覚える。

毛並みも瞳の色も同じだし、どこがとははっきり言えないけれど、とにかく違うと、直感がそう告げていた。

姿が露になった魔獣は、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「……貴方が、あの村を襲った魔獣だね?」


戦うしかないだろう、そう覚悟を決めながら、私はその問いを口にした。

イシュマさんが戻らないうちに遭遇してしまうなんて、ついていない。

出会うのなら、あの子のほうが何倍も良かったのにな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ