表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡娘と獣と騎士と。  作者: 葉月ナツメ
再び、トゥイタギアへ
71/78

再会と容疑と詰問と

「オォン!」

「えっ」


西にあるという森を探索し始めてしばし。

近くから、どこか弾んだ様子の鳴き声が聞こえてきた。

聞き覚えのあるその声に視線を向けると、あの子がこちらに向かって駆けてくる姿が見えた。


「あ……! やっと会えた! 久しぶりだね、元気だった?」

「オォンッ」


再会した嬉しさに、私は自然と笑顔になってあの子に声をかけると、あの子は更に弾んだ声色で、返事のように鳴いた。

ほら、あの子は何も変わってない。

あの子が人を襲ったなんて、やっぱり何かの間違いだ。

私はそう確信すると、駆け寄るあの子へと歩み寄ろうとした。

けれど次の瞬間、私の横を何かがすり抜け、私とあの子の間の地面に刺さった。


「え、何、こ……れッ!?」


視線を落として地面を見ればそれは矢で、その矢は風の魔法を纏っていたのか、次の瞬間、まるで私とあの子が近づくのを阻むように、矢を中心に渦を巻くように風が吹き荒れる。


「わっ……!」


突然襲いかかる突風に、私は目を瞑り、両手を顔の前に出してそれを耐える。


「悪いが、そこまでだフィー。それ以上そいつに近づくな。……魔獣、お前もだ。今はお前がフィーに近づく事は認可できない」

「え……っ! イ、イシュマさん!? どうして……っ」


突風がおさまりかけた頃に響いたその声に後ろを振り向くと、そこにはあの村で振り切ってきたはずのイシュマさんがいて、私は驚きに声を上げた。


「どうしても何も、こっそりついてきたに決まっているだろう。危険だと分かってるのに一人で行かせると本気で思ってたのか?」


イシュマさんは微かに呆れを滲ませてそう言うと、視線をあの子に移した。

その目がスッと細められる。


「さて、魔獣。お前には近くの村を襲った容疑がかけられている。このままじゃ俺達はお前を退治しなきゃならなくなる。……お前が無実なら、それを証明して欲しい。……俺の言っている事は分かるな? 証明、できるか?」

「なっ……ま、待って下さいイシュマさん!」


あの子に向かって告げられたイシュマさんの言葉に、私は慌てて両手を広げてあの子を背に庇う。

やっていない事の証明なんて、どうやって。

人の言葉を喋れないあの子に、そんな事できる訳がない。

けれどイシュマさんは、私の背後にいるあの子に厳しい視線を向けたまま、再び口を開いた。


「フィー、そこをどけ」

「い、嫌です、どきません! イシュマさん酷いです! そんな証明なんてっ……!!」


私を全く見ずに短く放たれた言葉に、私は首を振りながら、悲壮な声を出した。

すると、イシュマさんの眉がぴくりと動く。


「……フィー、いい加減にしろ。お前、自分のやっている事が分かっているのか? このままじゃそいつは死ぬぞ。たとえ今ここで逃がしたとしても、あの村を襲った犯人として手配され、そう遠くないうちに退治される。どんなに逃げ足が速くても、数で囲まれれば逃げようがない。待っているのは死だ」

「そ、そんな……!!」


僅かに怒りを含んだ声色ではっきりと告げられ、私は体から血の気が引くのを感じた。

何もしてあげられない悔しさに唇を噛む。


「それを回避するには、そいつの無実を証明するしかない。だから、そこをどけ、フィー」

「え……? イ、イシュマさ……っ、で、でも、証明って、そんなのどうやって」

「オォンッ」

「! おい待て!」

「えっ」


喋りながらゆっくりと近づいてくるイシュマさんに、私がオロオロしながらも言葉を返すと、ふいにあの子が一声鳴く声が聞こえ、次いでイシュマさんが慌てたように声を上げた。

ガサッと茂みが揺れる音に振り向くと、あの子が背を向けて去って行く姿が見えた。


「あ……っ!」

「ち、あの馬鹿! 証明しないまま逃げてどうするんだ……! 追うぞフィー!」

「えっ、け、けどイシュマさん、証明って、どうやって」

「決まってる、爪や牙を改めるんだ! あれだけの惨状だ、もし洗い流したとしても落としきれず、どこかに血が付着してるはずだ。それがなければ、少なくともあいつの容疑は薄まる。あとはとりあえずあいつを拘束して、真犯人を探し出して退治すれば終わりだ。……だってのに、あいつは……! 行くぞフィー!!」

「え、あ、は、はい!!」


私の問いに早口に答えを返すと、イシュマさんは苛立ったように言い捨てて駆け出した。

私も慌ててその後を追う。

視線を走らせあの子を探すイシュマさんについて走りながら、私はその背を見た。

……容疑を晴らす方法に、真犯人を探し出すという、あの言葉。

厳しい態度を見せてはいたけど、イシュマさんはきっと、心の底ではあの子の無実を信じていてくれたんだ。

だからこそ、あの子が何もせず逃げた事にこうして苛立っているんだろう。

その事実に嬉しくなって、私はこっそりと、笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ