再会と容疑と詰問と
「オォン!」
「えっ」
西にあるという森を探索し始めてしばし。
近くから、どこか弾んだ様子の鳴き声が聞こえてきた。
聞き覚えのあるその声に視線を向けると、あの子がこちらに向かって駆けてくる姿が見えた。
「あ……! やっと会えた! 久しぶりだね、元気だった?」
「オォンッ」
再会した嬉しさに、私は自然と笑顔になってあの子に声をかけると、あの子は更に弾んだ声色で、返事のように鳴いた。
ほら、あの子は何も変わってない。
あの子が人を襲ったなんて、やっぱり何かの間違いだ。
私はそう確信すると、駆け寄るあの子へと歩み寄ろうとした。
けれど次の瞬間、私の横を何かがすり抜け、私とあの子の間の地面に刺さった。
「え、何、こ……れッ!?」
視線を落として地面を見ればそれは矢で、その矢は風の魔法を纏っていたのか、次の瞬間、まるで私とあの子が近づくのを阻むように、矢を中心に渦を巻くように風が吹き荒れる。
「わっ……!」
突然襲いかかる突風に、私は目を瞑り、両手を顔の前に出してそれを耐える。
「悪いが、そこまでだフィー。それ以上そいつに近づくな。……魔獣、お前もだ。今はお前がフィーに近づく事は認可できない」
「え……っ! イ、イシュマさん!? どうして……っ」
突風がおさまりかけた頃に響いたその声に後ろを振り向くと、そこにはあの村で振り切ってきたはずのイシュマさんがいて、私は驚きに声を上げた。
「どうしても何も、こっそりついてきたに決まっているだろう。危険だと分かってるのに一人で行かせると本気で思ってたのか?」
イシュマさんは微かに呆れを滲ませてそう言うと、視線をあの子に移した。
その目がスッと細められる。
「さて、魔獣。お前には近くの村を襲った容疑がかけられている。このままじゃ俺達はお前を退治しなきゃならなくなる。……お前が無実なら、それを証明して欲しい。……俺の言っている事は分かるな? 証明、できるか?」
「なっ……ま、待って下さいイシュマさん!」
あの子に向かって告げられたイシュマさんの言葉に、私は慌てて両手を広げてあの子を背に庇う。
やっていない事の証明なんて、どうやって。
人の言葉を喋れないあの子に、そんな事できる訳がない。
けれどイシュマさんは、私の背後にいるあの子に厳しい視線を向けたまま、再び口を開いた。
「フィー、そこをどけ」
「い、嫌です、どきません! イシュマさん酷いです! そんな証明なんてっ……!!」
私を全く見ずに短く放たれた言葉に、私は首を振りながら、悲壮な声を出した。
すると、イシュマさんの眉がぴくりと動く。
「……フィー、いい加減にしろ。お前、自分のやっている事が分かっているのか? このままじゃそいつは死ぬぞ。たとえ今ここで逃がしたとしても、あの村を襲った犯人として手配され、そう遠くないうちに退治される。どんなに逃げ足が速くても、数で囲まれれば逃げようがない。待っているのは死だ」
「そ、そんな……!!」
僅かに怒りを含んだ声色ではっきりと告げられ、私は体から血の気が引くのを感じた。
何もしてあげられない悔しさに唇を噛む。
「それを回避するには、そいつの無実を証明するしかない。だから、そこをどけ、フィー」
「え……? イ、イシュマさ……っ、で、でも、証明って、そんなのどうやって」
「オォンッ」
「! おい待て!」
「えっ」
喋りながらゆっくりと近づいてくるイシュマさんに、私がオロオロしながらも言葉を返すと、ふいにあの子が一声鳴く声が聞こえ、次いでイシュマさんが慌てたように声を上げた。
ガサッと茂みが揺れる音に振り向くと、あの子が背を向けて去って行く姿が見えた。
「あ……っ!」
「ち、あの馬鹿! 証明しないまま逃げてどうするんだ……! 追うぞフィー!」
「えっ、け、けどイシュマさん、証明って、どうやって」
「決まってる、爪や牙を改めるんだ! あれだけの惨状だ、もし洗い流したとしても落としきれず、どこかに血が付着してるはずだ。それがなければ、少なくともあいつの容疑は薄まる。あとはとりあえずあいつを拘束して、真犯人を探し出して退治すれば終わりだ。……だってのに、あいつは……! 行くぞフィー!!」
「え、あ、は、はい!!」
私の問いに早口に答えを返すと、イシュマさんは苛立ったように言い捨てて駆け出した。
私も慌ててその後を追う。
視線を走らせあの子を探すイシュマさんについて走りながら、私はその背を見た。
……容疑を晴らす方法に、真犯人を探し出すという、あの言葉。
厳しい態度を見せてはいたけど、イシュマさんはきっと、心の底ではあの子の無実を信じていてくれたんだ。
だからこそ、あの子が何もせず逃げた事にこうして苛立っているんだろう。
その事実に嬉しくなって、私はこっそりと、笑みを浮かべた。