疑い
やっと更新する時間が取れました。
けど、短いです。
私はぐるりと周囲を見回し、皆の表情を伺い見た。
その表情は厳しいものだったけど、時折私をちらりと、どこか気遣うような視線を向けてくる。
この村を襲った魔獣の特徴はあの子とそっくりなものだ。
村長さんの話を聞けば聞くほど、皆の疑いはあの子に向いていっているのがわかった。
だからこそ、あの子を恩人だと言った私にこんな視線を向けるんだろう。
……でも。
「……あの子じゃ、ありませんよ」
「! フィー……!」
皆に向けて、小さくもはっきりと私が呟くと、皆の視線は一気に私に集まった。
皆一様に、眉を寄せて重苦しげな顔をしている。
私を気遣ってくれる皆の気持ちは、嬉しい。
だけど。
「……皆の気持ちはわかりますし、嬉しくもあります。だけど、皆、そもそもを間違えてます。あの子は人を襲いません。そうでしょう?」
「…………」
私が更に言葉を紡ぐと、皆は口を引き結び、何人かは気まずそうに私から視線を逸らした。
「……確かに、そうだ。……今までは、な」
「……今までは?」
重苦しい空気の中、口を開いたのは団長だった。
けれど発されたその言葉に引っ掛かりを感じて、同じ言葉を繰り返す。
「そうだ、今までは、だ。……フィー、魔獣については、謎が多いのだ。陛下が、我々にその調査を任務として命じるほど。……確かに、人を襲わない魔獣はいる。あの魔獣もそうだ。……いや、そうだった、と言うべきか」
「……だった……?」
「何らかの事象があの魔獣に起こり、人を襲う魔獣へと変じた、という事なのやもしれぬ。それがない、とは、言い切れんのだ、フィー。……わかるな?」
……人を襲わない魔獣が、人を襲うようになる?
何らかの事柄が起こって?
……魔獣は謎が多い、確かにそうだ。
ないとは言い切れないのも、わかる。
……けど……だけど。
「……いいえ。……いいえ、わかりません!」
「フィー……」
私は大きく首を横に振り、団長をまっすぐに見据えた。
すると団長はまた、気まずそうな表情になる。
他の皆と、同じように。
「あの子が人を襲うなんてあり得ません! あの子じゃありません! ……私が、私がそれを証明してみせます!!」
「! フィー! 待ちなさい!!」
「フィー! どこへ行くの!?」
「まさか……! 危険だ、フィー!!」
私ははっきりと言い放つと、くるりと踵を返し、走り出した。
後ろから、団長や皆の焦ったような声が聞こえるけれど、私は足を止めなかった。
……あの子の無実は、私が証明する。
このまま、あの子を退治なんてさせない。
そんな思いを胸に、私は、あの子らしき魔獣が現れるというその方向へと向かって、単身、ただただ駆けた。