異世界に来ていました。
「理解してくれたか?お嬢さん。ここは、君が生まれ育った世界じゃないんだ」
茫然と佇む朔に、赤毛の男性は声をかけた。
「っ!」
朔はぴくりと体を震わせ、俯いた。
そして。
「な…なるほど!凄い手品ですね!全然仕掛けもタネもわかりませんでした!」
明るい声で、そう言った。
「手品?…ふぅ、そうきたか。けれどお嬢さん。残念だが」
「手品です!…魔法なんて、そんなわけ…異世界、だなんて…!」
またも赤毛の男性の言葉を遮り、朔は声をあげた。
その声はだんだん震え、弱々しくなっていく。
「…お嬢さん」
赤毛の男性はハッとした表情を浮かべると、数歩歩いて朔の前に回り、その顔を覗き込んだ。
朔は目を潤ませ、唇を引き結んでいた。
ーー帰る方法は不明だと、さっきこの人は言っていた。
この人の言っている事が本当なら、私はもう家には帰れない。
大好きな家族にも、友達にも、二度と会えない。
嫌だ、そんなこと…認めたくない…!
そう思いながらも、朔は懸命に気持ちを抑えていた。
少しでも気を緩めれば、みっともなく泣き叫んでしまいそうだった。
「ねぇ…手品なんでしょう?魔法なんかじゃなく…」
お願い、そうだと言って。
否定はしないで。
お願いだから…!
朔はすがるように赤毛の男性を見た。
赤毛の男性は一瞬辛そうに顔を歪めたが、目を瞑り、首を横にふった。
「…いいや。あれは魔法だ。手品じゃあない。…お嬢さん。酷だとは思うが、受け入れてくれ。ここは、異世界なんだ。先程も言ったが、君の世界へ帰る方法は不明だ。君はこれから、この世界で生きなければならない」
赤毛の男性のその言葉を聞いた途端、朔の目から涙が一滴こぼれ落ちた。
「う…うわあああああん!!」
一度流れてしまうと、もう堪えるのは不可能だった。
朔はその場に、泣き崩れた。