村の惨状と訴え
皆と別れ、私はイシュマさんと共に村の中を駆け回る。
村の中は本当に酷い状態で、どこへ行っても、建物は壊れ、作物も植物も踏み荒らされていた。
「失礼します! どなたかいらっしゃいませんか!?」
壊れ、荒れ果てた家々を一軒ずつ回り、生存者がいるかどうかを隅から隅まで確認する。
時折壁や床に赤黒い染みがあり、顔を歪める。
全滅、という考えが浮かぶも、頭を左右に振って必死に否定した。
そうして、ひとつの家を確認し終わり、また次の家へと向かおうとした時、一瞬、辺りが白い光に包まれた。
「えっ、何? 何!?」
慌てて周囲を見回したけれど、光に包まれる前と特に変わった様子はない。
私は首を傾げ、側にいるイシュマさんへと視線を移した。
「フィー、上だ」
私が疑問を口にするより早く、イシュマさんはそう言って空を指差した。
「上?」
その指の先を追い、私も空を見上げる。
するとそこには、白くて丸い光が、眩しい程に輝きを放っていた。
それはまるで昼間の月のようだけど、昼の月はあんなふうに輝いたりはしない。
……だとすると、あれは、もしかして。
「イシュマさん……あれって、前に教わった、隊の合図ですか? 白い光は、確か……集合……?」
「正解だ。誰かが何か見つけたんだろう。行くぞ、フィー」
「あ、はい! ……あっ、でも、隊の合図なら、レイドさん達はわからないんじゃ?」
「大丈夫だ。旅団はずっと昔から、他国に赴いてそこの騎士達と行動する事があるんだぞ? 合図の意味くらい、知ってるだろうさ」
「あ、な、なるほど。わかりました。あ、じゃあ、急ぎましょう!」
「ああ」
私とイシュマさんは、白い光が輝く場所を目指して駆け出した。
★ ☆ ★ ☆ ★
光の下に辿り着くと、既に全員が揃っていた。
そこは教会らしき建物の裏手で、見知らぬ人達が座り込んでいた。
中には怪我をした人がちらほらいて、ユスティさん達が治療を行っている。
きっとこの人達が、村の人達なんだろう。
皆、疲れた顔をしている。
近づくと、団長が私達に気づき、口を開いた。
「来たか。これで全員揃った。村長殿、待たせてすまなかった。何があったのか、説明を頼む」
「は、はい……」
団長の視線を受けて、そのすぐ側に座っていた初老の男性が立ち上がった。
男性は一度私達を見回し、両手をぎゅっと握りしめると、ゆっくりと口を開いた。
「恐ろしい……とても恐ろしい事です。つい先日まで、ここは長閑で平和な村でした。ですがある日を境に、このような有り様に……。……村の近くに、一匹の魔獣が住み着いたようなのです。その魔獣が……村の作物や家畜、果ては村の家々にある食料まで奪っていくのです。抵抗する者は容赦なく襲いかかられ……我々はもう、ただ逃げ惑うしか……!!」
そう説明しながら、村長さんは、次第に声を震わせ、最後には悔し涙を目に溜めた。
「……そうか、やはり、魔獣か。人の手での破壊の仕方ではなさそうだとは、思ってはいたが……」
「……ここまで被害を出したとなれば、退治する以外、ないでしょうね」
「そう……ですよね、やっぱり」
「………………」
村長さんの話を聞いた皆は、何故か浮かない顔をした。
そして、何故か私の顔をちらりと見てくる。
な、何だろう?
「え、えっと、魔獣退治を、するんですね? わかりました、私も、後方支援でしょうけど、役に立てるよう頑張ります!」
「……フィー……」
「……あ、あのね、フィー……」
「おお、退治して下さるのですか! ありがとうございます!!」
皆の視線に戸惑いながらも言葉を紡ぐと、クノンさんとミレットさんが、どこか言いにくそうに口を開く。
けれどその二人の言葉を遮るように、村長さんの声が響いた。
「件の魔獣は西の森におります! どうかあの憎き翠色の魔獣に、天誅をくだして下さいませ!!」
「………………え?」
……ちょっと、待って。
今…………何て言ったの?