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平凡娘と獣と騎士と。  作者: 葉月ナツメ
再び、トゥイタギアへ
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奮闘の末に。

呼吸が乱れ、酷い倦怠感が体を襲う。

時折目が霞み、立っていられなくて膝をついた。

攻撃は全て防いだ。

だから、どこも怪我してはいない。

なのにこんな状態になってしまっているのは……魔力を、使いすぎたんだろうか。

あれから、思いつく限りの、足止めができる魔法を放った。

けれどそれらはすぐに無効化され、再び魔法を放つ合間に反撃された。

それも魔法で防いだのだから、確かに、使いすぎているのかもしれない。


「あれ、もう終わり?」


私が膝をついたのを見て、男がにやりと口元を歪ませて、からかうように言った。

その言葉に悔しさを覚え、私は怠くなった腕を再び前に突き出す。


「石の牢獄!」


そう叫ぶと、男達の周囲を高い石の壁が囲う。

けれどたぶん、これもすぐに消えてなくなるだろう。

そうわかっていても、やらないわけにはいかない。

……あれから一体、どれだけの時間が経ったんだろう?

結構な時間が経った気もするけど、まだたったの数分のような気もする。

わからない……。

自分の魔力が残り僅かだとわかった今となっては、結構な時間が経ったというほうに賭けたい。

先頭を走っているレンと女性達が街道に辿り着いてさえいてくれたら。

街道に出たレンの魔力を、周囲を捜索してくれてるだろう皆が気づいてさえくれたら。

きっと、私のこの初仕事は成功するのに。

目の前で、ガラガラという音を立てて石の壁が崩れていく。

にやにやと笑う男達が目に入る。

悔しさに泣きたくなる気持ちをこらえ、私は突き出したままの腕に力を込めた。


「風の」

「草の鞭」


新たな魔法の言葉を紡ぐ前に、男が素早く魔法を唱えた。

すぐ側の草が伸び、私に向かってしなるように迫る。

咄嗟に反応できず、それは私の体を容赦なく打った。


「ぅあ……っ!!」

「草の鎖」

「!!」


打たれた反動で倒れた私の体を、草が巻きつき縛り上げた。

口にも巻きつかれ、声を出す事ができない。


「ごめんね、もう飽きちゃった。長々と付き合うわけにもいかないしさ。……この子は俺が拘束するから、お前達は逃げた女共を連れ戻せ」

「「「「 へい、ボス 」」」」


男の指示を受け、周囲の男達が一斉に歩き出す。

……嫌だ、来ないで、進まないで。

彼女達を、追いかけないで。

失敗するわけにはいかないの。

失敗したら、彼女達の中にある、流星旅団に対する評価を下げたら。

たとえこの先もしどこかで助かっても、私、皆に合わせる顔がない……!!

奪わないで。

この世界に来て初めて私を欲しいと言ってくれた、仲間だと言ってくれた皆を、あの場所を。

失いたくない…………奪われたくない!!

私はギュッと一度目を瞑り、再び目を開けると、歩く男達の足を睨んだ。

無詠唱。

声が出せないなら、魔法を使う手段はそれしかない。

やった事ないし、できるかどうかもわからない。

でも、それでも、やるしかない!!

魔法はイメージ。

私は男達の足をじっと睨み続けて、その足を凍らせるイメージを頭に思い描いた。

そうする事、数十秒。


「うわっ!?」


男達の中から困惑の声が上がった。

その事に成功したのだと喜びが胸に沸き上がりーーそして消えた。


「冷てぇっ、何だこれ!?」


そう言って持ち上げられた男の足には、爪先に僅かに氷が張りついていた。

……ああ……失敗かぁ。

そりゃ、そうだよね。

そんなに上手くいくはずはないよね……。

男の足を見て、私は落胆した。

しかし。


「……くそ! おい、戻れ! どうやら、俺から離れるとまずいみたいだ。使うのは下手でも、魔法の心得があるやつがどっかに潜んでやがる! 大方、この嬢ちゃんを助けに来たんだろう!」


…………えっ?


「へ、へい、ボス!」


男の言葉を受けて、進んでいた男達がその回りに戻って行く。


「ちっ、どこだ、どこにいやがる……!」


男は苛ついた声を出し、周囲を睨んで警戒している。

……魔法の心得があるけど、使うのが下手な助け……?

そんな人物には、心当たりがない。

旅団の皆は勿論、レイドさん達も、それなりに魔法を使えていた。

それに、今の氷は、私が試した無詠唱魔法のはず……。

……つまり、失敗はしたけど、足止めの役には立った、って事かな。

どうかあの男が、少しでも長く勘違いしてくれますように。

あ、その為に、一定の時間をおいて、何度かまた無詠唱を試してみたほうがいいのかな。

私の魔力が、どれだけもってくれるかだけが、問題だけど。


★  ☆  ★  ☆  ★


あれから、数分ごとに2回、無詠唱で魔法を使ってみた。

その効果はないに等しいけど、警戒を持続させる役には、立った。

でも、それももう、できない。

私の魔力が尽きたのがわかる。

その証拠に、意識が朦朧とする。

閉じたくないのに、瞼が重くて、段々と落ちてくる。

…………気を失ったら、どうなるんだろう。

任務、失敗……するのかな。

それは、嫌、だなぁ。

頑張った、のに…………。

重い瞼が完全に落ち、視界が暗く閉ざされた。

瞬間、風が吹き、草が揺れる音がした。


「ごめんね、遅くなっちゃった」

「よく頑張ったな、あとは任せろ」

「ゆっくり休め、フィー」

「お仕置きは、代わりにやっておくよ。キッツーくね」

「皆、手加減は無用だ。大事な仲間に手を出した事、嫌というほど後悔させてやるといい。私が許す」

「「「「 了解! 」」」」


意識を失う直前、よく知る人達の、そんな会話が聞こえた気がした。

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