計画を実行しました。
夜になると、私は、いや、私達は、行動を開始した。
「レン、光って。皆さんを先導して、街道まで連れて行って。……皆さん。私がしんがりを務めますので、後ろは気にせず、走る事にだけ集中して下さい。万一追手がかかった場合は、必ず私がなんとかしますから。いいですね?」
女性達を見回しながらそう尋ねると、全員がしっかり頷いてくれた。
「では、行きましょう。レン、お願い」
「キュン!」
光るレンを先頭に、女性達が次々と階段を登っては、窓の外へと消えていく。
……さぁ、正念場だ。
イシュマさん、皆。
どうか、私に勇気をください……どうか、うまくいきますように……!!
最後の一人が階段を登り出すのを見届けて、私は一歩を踏み出した。
途中までは、順調だった。
追手が来る様子もなく、女性達も問題なく走っていた。
けれど、やはり長距離を走る事は厳しい人もいたようで、段々と、走るスピードが落ちてくる人が出始める。
私はその人達に声をかけ、励ましながら、ひたすら一番後ろを走り続けた。
「大丈夫ですか? 頑張って下さい。逃げ切るまで、どうか……!」
またスピードが落ちた女性に、そう声をかけた時だった。
後ろのほうから、ガサガサと草を掻き分け何かを探すような音と、男の声が微かに聞こえてきたのは。
……逃げ出したのがバレたんだ……!!
私達を探してる!!
その事実が頭に浮かび、恐怖が沸き上がる。
「っ!!」
咄嗟に後ろを振り返ってその先を凝視すると、すぐ近くから息を呑む音が聞こえた。
そちらに視線を向けると、声をかけたばかりの女性が同じように立ち止まり、顔を青ざめさせて震えていた。
……あ……っ。
……駄目だ、しっかりしなきゃ。
私が怖がってどうするの……私は騎士でしょう、この人達を、守らなくちゃ……!!
「……大丈夫です。さっき言った通り、追手は私がなんとかします。だから貴女は、走って下さい。どうか、頑張って。さあ、行って!」
「あ……っ! は、はい……!!」
私がなんとか口角を上げてそう言うと、女性は頷いて、弾かれたように駆け出した。
……うん、これでいい。
あとは……。
私は顔を上げ、今まで走ってきた道の先を睨みつけた。
お願い、震えないで、私の体。
虚勢を張ってでも余裕のある態度を見せて、奴等を牽制する為に。
魔法を使って、奴等を足止めする為に。
……大丈夫。
あの馬車に仕掛けた目印は、多くの人の目に止まったはず。
レイドさんから私が拐われた事を聞いて、更なる情報収集に乗り出せば、きっとイシュマさんが気づいてくれる。
あれから時間も経った。
先頭を走るレンや女性が、街道まで出てくれさえすれば、きっと、なんとかなる。
大丈夫、大丈夫……。
必死に頭の中でそう繰り返しながら、次第に大きくなる男達の声に、私は拳を握り締めた。
ここは森、火は使えない。
火事にでもなったら洒落にならない。
光も駄目。
私のいる正確な場所をみすみす男達に知らせるようなものだ。
使えるのは……風と水と氷と土。
うん……大丈夫、十分足止めできる。
「……私はソドウィザムの騎士、フィー・ストロベル……拐われた女性を救う、初任務……必ず、成功させる!!」
目を瞑ってそう呟くと、パンっと軽く両頬を叩いて気合いを入れる。
次いで両手を前に突き出し、私は魔法を唱える準備をした。