事件勃発。
私とレイドさんは、被害者の女性の行方の情報と、犯人の手がかりを手に入れる為、街を歩き、人々に話を聞いて回った。
けれど、現在入手している以上の情報は手に入らなかった。
……ちょっと、疲れたなぁ。
「フィーさん、大丈夫かい? どこかで一度、休憩しようか」
私の様子に気づき、レイドさんはそう声をかけてきた。
ああ、いけないいけない!
レイドさんは全然平気そうなのに、私のせいで休憩なんて、してられないでしょう!
「いえ、大丈夫です! 捜査を続けましょう、レイドさん!」
「……無理はするものじゃない。休憩しよう。フィーさん」
「う……はい。すみません、レイドさん」
情けない、足を引っ張っちゃってる。
そう思って、私は俯いた。
するとレイドさんは苦笑して、頭を撫でてきた。
「謝る事はないさ。気にしなくていい、フィーさん」
「でも……」
「大丈夫、少しくらいの休憩なら問題は………ん? お嬢さん、どうしました?」
「え?」
レイドさんは私の頭から手を離し、横をすり抜けて、少し離れた建物の壁に向かって歩いて行く。
振り返り視線を移すと、その先にはうずくまってる女性の姿があった。
「大丈夫ですか? どこか具合でも?」
そう言ってレイドさんが女性を覗き込むと、女性は勢いよく顔を上げ、レイドさんに何かを吹きかけた。
「なっ……!?」
レイドさんは反射的に後ろに飛び退くが、直後、その体はぐらりと揺れ、地面に倒れた。
「レイドさん!?」
「おっと! あんたはこっちだ!」
「え!?」
驚いた私はレイドさんに駆け寄ろうとしたが、突然後ろから男性の声がして、腕を拘束された。
な、何……!?
突然の事に状況が飲み込めず、私は混乱した。
「あはははは! うまくいったね! 本当にこの国の騎士は馬鹿だねぇ、こんな手に引っ掛かるなんてさ!」
「ははっ、そうだな! ……騎士が護衛する、珍しい黒目黒髪の女! きっと噂に聞く異世界の来訪者だぜ! 高く売れるぞぉ! 今日はついてるぜえ!」
う、売る……!?
わ、私を!?
男性の言葉に、私は恐怖を覚えた。
慌てて拘束を解こうと抵抗するが、男性はびくともしない。
「おい、暴れるな! 大事な商品に傷はつけたくないからなぁ? さ、商品は商品らしく、倉庫にしまわないとな! 行くぞ!」
そう言うと、男性は私に袋を被せ、肩に担ぎ上げた。
視界が遮られ、更なる恐怖が私を襲った。
「や、やだ……やだ!! レイドさん!! 起きてレイドさん!! レイドさん!!」
私はレイドさんが倒れているだろう場所に向かって必死に叫んだ。
「うるせぇ! 静かにしやがれ!」
苛立った男性の声が響き、背中に痛みが走る。
……叩かれた……!!
じんじんと痛む背中に、私は目を潤ませる。
私、どうなるんだろう……助けて、イシュマさん……!!
男性の肩の上で揺らされながら、私はイシュマさんの顔を思い浮かべる。
ここにはいないその人に、心の中でずっと助けを求めながら、私はじっと男性の肩で揺られていた。
そうしてしばらく経った頃、私は何かの上に座らされた。
聞こえて来るのは、馬の蹄と、回る車輪の音。
馬車だろうか。
恐怖で身がすくみ、私はただじっとしていた。
すると、近くに座っているのだろう男女の話し声が聞こえてきた。
「これでもう安心だね。ふふふ、いくらで売れるだろうね、異世界の娘って」
「思いっきりふっかけようぜ。何しろ、何もできない異世界の女だ。探す親もいないし、どんな事もやりたい放題だからな、ははは!」
……何も、できない?
その言葉が聞こえた瞬間、あまりの事に混乱し続けていた頭がスッと冷えた。
……そうだよ、私は異世界人で、身内はいないし、何もできない。
……ただし、それは、この国にいた時の、日向朔だった私ならね!
今の私は、栄誉あるソドウィザムの騎士、フィー・ストロベルよ!!
私は上を見上げると、意識を集中させた。
狙い定めるは馬車の上。
私の頭には、昨日の仲間達の言葉が甦っていた。
『一網打尽にしなきゃ意味がない』。
『泳がせてアジトを突き止める』。
……お願い、どうか、気づいて。
イシュマさん……!!
街の大通りを走る馬車のひとつに、真上に大きな氷細工を乗せた馬車があった。
街の街門目指して走るその馬車を、栗色の髪をした青年が一人、険しい顔で見つめていた。