慰めと告白と。
イシュマはフィーを馬からおろすと、少しかがんで目線を合わせた。
「どうした?フィー?」
「………」
そう尋ねるイシュマに、フィーは答えずに俯いた。
…こんな事、言えるわけない。
イシュマさんは、あの子が私にとって恩人だって事を知ってる。
その恩人やレンを、自分の為に利用しようとしてるなんて…聞けばきっと、軽蔑される。
…もちろん、あの子を危険から守りたいっていうのは本心だ。
嘘じゃない。
だけど……いくら否定しても、利用っていう考えが消えないのは、きっと、そういう気持ちもまたあるからなんだと思う……。
…私、最低だ。
フィーはその場にへたりこんだ。
そんなフィーを、イシュマは心配そうに見つめた。
しばらく沈黙が続いたが、やがてイシュマは再び口を開いた。
「フィー…話して、くれないか?…レンも、心配してるぞ?」
「……レン……?」
「ほら、膝の上」
「え…?」
そう言われて膝を見ると、右膝の上にレンがいて、フィーを見上げていた。
「フィーが座ってすぐに、鞄のポケットから出てきたんだ。レンもフィーの様子が変わったのに気づいて、心配したんだろうさ」
「………。…う…っ」
レンを見て、フィーの目からついに涙がこぼれた。
フィーはそっとレンの体を持ち上げ、抱きしめた。
「ごめん…ごめんねレン。私…私、貴方達を、自分の為に…利用、してるのかも、しれない…っ」
「…利用…?」
「っ!」
フィーの言葉を聞いて繰り返したイシュマに、フィーはピクリと体を震わせた。
涙が溜まっているフィーの目に、恐怖の色が浮かぶ。
…知られた。
軽蔑される…きっと、嫌われる…!!
フィーの体はカタカタと小刻みに震えだした。
「ああ…なるほどな。そういう事か。だいたいわかった。…フィー」
イシュマは座り込み、再びフィーと目線を合わせた。
フィーは思わず顔を背けて視線を外す。
「なあ、フィー。おればフィーを気に入ってる。だからフィーが旅団に来るよう陛下に進言した。けど、もうひとつ理由があってな。フィーの、レンや、あの魔獣をなつかせる能力。おれ達の任務の為に利用できるとも思ったんだ」
「…え……?」
「もちろん危険からは全力で守るし、生活で困った事があるなら相談にも乗る。約束できる。けど…駄目か?フィーは、そんな考えをもったおれを軽蔑するか?…嫌う、か?」
「………」
…イシュマさんが、私を利用しようとしてた?
私が、イシュマさんを軽蔑する?
イシュマさんを、嫌う?
「………。…いえ…軽蔑とか、嫌うなんて、そんな事、ありません。だってイシュマさんは、私にとても良くしてくれました。…あれが全部、私を利用する為の行為だったなんて、思えません。ちゃんと…私の事思ってしてくれた事だったと、思います…」
フィーは外した視線を戻し、そう言った。
「…そうか。良かった」
イシュマは安堵したように微笑んだ。
「なら、フィー。レンやあの魔獣だって、同じじゃないか?フィーだって、利用しようとしてるのが全部じゃないだろ?ちゃんと、守りたいって気持ちも、あるだろ?ならきっと、嫌わないさ。どうしても引け目が残るなら、誠心誠意、世話をすればいい。ちゃんとわかってくれるさ。おれを許した、今のフィーのように。なっ?」
「…イシュマさん…」
「大丈夫だ、フィー」
イシュマはそう言って、フィーの頭にポンと手を乗せた。
フィーは視線を落とし、膝にいるレンを見た。
「レン…許して、くれる…?」
フィーが小さくそう尋ねると、レンはピョンと飛び上がってフィーの肩に移動し、フィーの頬をペロペロと舐めた。
「…レン」
「どうやら、レンは許すみたいだぞ?良かったな、フィー」
「…。…はい。…私、頑張ります。あの子にも、ちゃんと全部話して、その上で、一緒に来てくれるよう、一生懸命お願いします…!」
「ん。そうだな、それがいい」
「はい!…ありがとうございます、イシュマさん」
「ん?…何だよ、何に対する礼だ?おれは何もしてないぞ?」
「いいえ…して、くれました。だから、ありがとうございます」
「…やめろ、くすぐったい。それより、早く泣き止め。あんまり長く休憩してられないからな?」
「ふふ…はい」
ぶっきらぼうに言い放つイシュマに、フィーは微かに微笑んだ。
フィーの涙は、止まりかけていた。