弾む心と沈む心
翌日、フィー達はレイド達と共に、翠色の魔物の目撃情報があったという場所に向かって出発した。
「あの子、この前会った場所からだいぶ移動してたんですね。この前会ったのがここで、目撃情報があったのがここ…と」
フィーはイシュマから借りた地図を見ながら指でなぞった。
流星旅団のメンバーは、世界各国を渡り歩く為か、全員が世界地図を所持しているらしい。
万が一何かあって、はぐれた場合の為かなぁ?
地図があれば、旅の行程から考えて、皆が辿るだろう場所へ行けば合流も難しくないもんね…。
私も、地図買ったほうがいいかなぁ?
いくらくらいだろう…というか、お給料日、いつだろう…。
フィーは今まで、買い物に行った時は誰かに払って貰っていた。
トゥイタギアにいたときはレイドから。
ソドウィザムに来てからはフェザークから、フィーにと買い物資金が出されていた。
…返さなきゃなぁ。
服とか、生活に必要なものを買うためだったから甘えたけど…騎士になってお給料も貰えるだろうし、そしたらレイドさんと団長に………いや、お給料出る前にトゥイタギアからは出るだろうから、レイドさんには団長に頼んで立て替えて貰って返しておこう。
団長なら任務とか訓練でいつも会うから、お給料出たらすぐ返せるし…うん、そうして貰おう。
今は側に皆がいるから、今夜の宿営地が決まったら、お願いしに行こう。
とと、思考が逸れた。
今は、あの子だ。
5日程かかるって、今朝レイドさんは言ってた。
つまり、5日後か、遅くても6日後にはあの子とまた会えるはず。
元気かな、あの子。
レンみたいに、すんなり一緒に来てくれるかな?
そうだといいけど…渋られたら、何とか説得しなくっちゃ。
私達と一緒にいれば、きっともう魔獣として退治しようと襲われる事はなくなるし!
それに、旅団の魔獣調査の任務の為にも、同行してくれる子は多いほうがいいだろうし。
人を襲わない魔獣がいたら説得して、世話をする、その為に私は旅団に迎えられたんだし……。
…………あれ?
え?私、あの子を退治される危険から、守りたいから迎えに行くんだよね?
旅団の任務の為に、私の旅団での存在価値を得る為に迎えに行くんじゃ……ない、よね?
自分の為にあの子やレンを利用してる訳じゃ……ないよね……?
………………。
バサリ、と音を立てて、フィーが手にしていた地図が馬の背に落ちた。
フィーは俯き、呆然と落ちた地図を見る。
その表情は心なしか青ざめていた。
…違う。
違う違う違う!!
そんなわけない、そんなんじゃない……!!
フィーは心の中で必死に自分の考えを否定した。
しかし、いくら否定しようと、思い浮かんだその考えは消えなかった。
「フィー?どうした?」
フィーの様子の変化に気づき、イシュマが背後から気遣うようにフィーの顔を覗き込む。
「!…イシュマさ…っ」
「…団長!すみません、少し休憩を取りたいのですが」
フィーの目に溜まっている涙を見て、すぐにイシュマはフェザークに視線を移して声をかけた。
「何?もうか?…む。…わかった、そうしよう。皆、すまないが休憩としよう」
フェザークは訝しげな視線をイシュマに向けたが、イシュマの前で俯いているフィーが目に入ると、頷いた。
「ありがとうございます。…少し離れても?」
「許可する。だが、離れすぎるなよ」
「はい」
イシュマは短く返事を返すと、一行から離れ、ギリギリその姿が見える位置で、馬を止めた。