贈り物は大切に。
フィーは馬に揺られながら、鞄を引き寄せ、ピンクのリボンがかかった箱をそっと取り出した。
箱を胸の前まで持ち上げて、嬉しそうに微笑む。
「ねぇイシュマさん、もう開けてもいいでしょう?」
フィーは背後のイシュマを振り返り尋ねた。
その目は期待を滲ませ、キラキラと輝いている。
「ああ。…気に入ると、いいんだけどな」
「あ、それは大丈夫です。どんなものでも嬉しいですから」
お祝いをという、その気持ちがこめられたものなら。
フィーはしゅるりとリボンを解くと、それを丁寧にたたみ、鞄にしまう。
次いで箱を開け、落とさないように慎重に中身を取り出した。
「わぁ、ブレスレットですね!可愛い!」
細い銀のバングルの中央に、桃色の花を型どった石があり、その左右に二つずつの小さな赤い花の形の石と、一つずつの小さな白い花の形の石がついていた。
透き通ってるし、ガラスみたい。
そういえば、どこかのファンタジーな物語で、ガラス石とかいうのがあったっけ。
それと似たようなものかなぁ。
「ありがとうございます、イシュマさん!」
「気に入ったか?」
「はい、とっても!」
「そうか。なら良かった。それは魔法石だから、いつも身につけておけ。そうする事で自分の魔力を魔法石に溜めておく事ができる。自分の残存魔力が少なくなっても魔法を使わなきゃいけないなんて時に役に立つ」
「わぁ、それはいいですね!」
ガラス石じゃなく、魔法石っていうんだ、この石。
魔力を溜めておけるなんて便利だなぁ。
ああでも、聞いた事なかったけど、私の魔力ってどうなんだろう?
確か…約束の地で調べられた時に見た私の魔力の数値は………95、だったっけ。
「ねぇイシュマさん?イシュマさんの魔力って、数値でいうとどれくらいですか?」
「ん?…確か、今年の測定では390ぐらいだったはずだが、それがどうかしたか?」
390。
つまり、私の4倍以上…。
で、でもイシュマさんは訓練受けてきた騎士だしね、うん。
……………。
…聞かなきゃ良かったかも…。
「フィー?どうした?」
フィーが突然黙りこんで俯いた事に疑問を覚え、イシュマは背後からフィーの顔を覗きこんだ。
「…イシュマさん。私の魔力、95だったんです…」
フィーは俯いたまま、小さくそう言った。
「95?なら、一般的数値よりは、少し高いんだな」
「え、高い?ほ、本当ですか!?」
イシュマの言葉に、フィーは勢いよく顔を上げた。
「少しだけ、だけどな。まあ、気にする事ないさ。訓練していけば自然に増えていくから」
「そ…そう、ですよね!増えますよね!いざとなれば、このブレスレットもあるし!あっ、つけておかないと」
フィーはブレスレットを左手首にはめた。
「そうだな。魔力を補充するときは魔法石を壊せばいいからな。その花の部分を一つずつ取って、地面に投げつければ壊れる。ちょっと力を入れれば取れるはずだ」
「え?……壊す、んですか?」
せっかく、イシュマさんがお祝いにってくれたものを?
「まあ、そういうものだからな。石を全部使い切ったら言え。また魔法石をバングルにつけられるから、買って加工してもらうから」
「………はい。ありがとうございます」
何でもない事のように言うイシュマに、フィーは小さく微笑んで、そう答えた。
次いで、ブレスレットをじっと見つめる。
……魔法の訓練、頑張ろう。
絶対にこれを壊すような事には、ならないようにしなきゃ。
訓練をする理由がひとつ増え、フィーは決意を新たにした。