謁見の間にて。
フィーはフェザークに連れられ、王宮へとやって来た。
広いエントランスを抜け、階段を上り、長い廊下を進んでいく。
ど、どこに行くんだろう?
大事な用事があるって、団長さんは言ってたけど…王宮に、大事な用事?
しかも私に関係がある?
…全然思いつかない…。
フィーはちらりと前を歩くフェザークを見た。
フェザークは一言も話さず、ただ何処かへ向かって歩いていく。
「…あの、団長さん。聞いていいですか?どこへ、行くんです?」
フィーは遠慮がちに尋ねてみた。
「ん?…ああ、すまない。説明がまだだったな。これから謁見の間へ向かう」
…謁見の間…って、王族に会う部屋の事、だよね。
てことは。
「王様にお会いするんですか?」
「そうだ。昨日で、君のソドウィザムの住民登録と、騎士団への入団登録が終了したからな。あとは陛下に任命して戴けば、手続きは全て終了する」
…住民登録に、入団登録?
え、そういうの、必要だったの?
「あ、あの、すみません。団長さんが、それ全部やってくれたんですよね?本来なら、私がやらなきゃなのに…私知らなくて。本当に、すみませんっ!」
フィーは勢いよく頭を下げた。
それを見て、フェザークはふっと表情を和らげた。
「構わない。君の場合は特殊だ。手続きも通常とは少し異なるからな。君の後見となる、私がやるべき事だった」
「え?団長さんが、私の後見…?」
「ああ。君は私の団の団員だ。不自然ではないだろう?さあ、陛下をお待たせするわけにはいかん。行くぞ、フィー」
「あ、はい」
フィーとフェザークは再び歩き出した。
えっと、王様に会って、任命してもらう、と。
…任命って、何だろう?
話の流れからいくと、住民の、なわけはないから、騎士の任命?
……………ん?
き、騎士の任命式!?
よく物語にある、こう、肩とか首とかに剣を当てられて、忠誠を誓え、背けば死あるのみ!とかいうやつ!?
忠誠……そりゃ、騎士になるんだし、騎士は王家に仕えるものだし…やっぱり、忠誠って必要?
そういうの、よくわかんないんだけど…大丈夫かな、私?
「流星旅団団長フェザーク、並びに団員フィー、参りました」
「!」
フィーが思考の渦に沈んでいると、突然フェザークの凛とした声が響き、フィーは意識を引き戻された。
顔を上げると、立派な作りの、大きい扉が目の前にあった。
ギィィィィと重厚な音を響かせ、扉が開かれる。
フェザークがゆっくりと歩き出し、フィーはそれについて部屋の中へと入った。
広い広い部屋の奥には、縁に綺麗な装飾が施された緋色の椅子があり、セイヴィリムが座っている。
フェザークはその数歩前で立ち止まった。
「フィー、片膝をついて顔を伏せなさい」
首を少し動かし、フィーを見ると小さくそう言い、セイヴィリムに向き直る。
「国王陛下。本日、新たに我が流星旅団の一員となる者を連れて参りました。名をフィー・ストロベルと申します」
フィーが慌てて膝をつくのと、フェザークが話し出したのはほぼ同時だった。
「ふむ。フィー・ストロベルか。なかなか良き名だな」
ふむ、って、王様、私の名前なんてもう知ってるのに…初対面って感じでやるのかな?
「では。…フィー・ストロベル」
セイヴィリムはフィーの名を呼びながら立ち上がり、フィーの前へと進み出た。
「王家に忠誠を誓い、民の為に戦い、国の礎となる、その覚悟はあるな?」
…王家に忠誠、民の為に戦い、国の礎??
覚悟はあるな?って…………ないんですけど。
わ、私、甘かった!?
役に立てるならって、流星旅団の一員になること承諾したけど、そんなに軽い話じゃあなかった!?
どどど、どうしよう!?
忠誠なんてよくわからないし、戦うなんて無理だし、そもそも国の礎って何!?
フィーはパニックに陥った。
すると、頭上で、フッ、と、微かに笑う声がした。
え…?
フィーは恐る恐る顔を上げると、微笑んでいるセイヴィリムと目が合った。
「そなたは騎士となっても特殊な存在。言葉を変えよう。フィー・ストロベル。流星旅団の一員として仲間を支える覚悟は、あるか?」
…流星旅団の一員として、仲間を…イシュマさん達を支える覚悟?
それなら。
「はい、あります!」
フィーははっきりと答えた。
「良い返事だ」
セイヴィリムは満足そうに頷いた。
「フィー・ストロベル。そなたを流星旅団の一員と認める。日々研鑽を積み、騎士道に恥じぬ行いを心がけよ。…貴女の無事を、いつでも祈っているよ。フィーさん」
「え」
最後に優しくそう言うと、セイヴィリムは背を向け、奥の扉をくぐり、去っていった。
「…王様…」
セイヴィリムが消えた扉を、フィーは呆然と見つめた。
「フィー」
名を呼ばれ、視線を移すと、微笑みを浮かべたフェザークが隣に立っていた。
「先程の返答、嬉しく思う。皆も聞けば喜ぶことだろう。…さあ、次へ行くぞ」
「次?…え、任命って、これで終わりですか?…って、そういえば王様、行っちゃった…?」
フィーは再び、セイヴィリムが消えた扉を見た。
「ああ、終了だ。…本来の任命式は、もっと長いのだが、陛下も言った通り、君は特殊な存在だからな。色々と省かれたんだ」
「省かれた…?…な、なるほど。あ、それで、次って、今度はどこへ?」
「君の制服を取りに行く。明日からは、制服を着るようにな」
「制服!わぁ、皆さんとお揃いですか!?」
「ああ。騎士団でも、隊ごとに少し違うが、君は我が隊の一員だ。皆と同じだよ」
「うわぁ…っ!嬉しいです!明日が楽しみになりました!団長さん!早く!早く行きましょう!」
フィーは立ち上がり、フェザークの腕を引っ張った。
「こらこら、待ちなさい。そう急がずとも、制服は逃げはしないぞ」
フェザークを促し、早足で歩き出したフィーを諭しながらも、フェザークはどこか嬉しそうに笑みを浮かべていた。