続・訓練です。
翌日の午後、フィーは剣技訓練場にいた。
「土の防壁!」
スッと手を上げながら防壁を作る。
フィーは壁の高さが自分の頭を越しているのを確認すると、地面に置いていた木刀を手に取った。
半歩下がり、木刀を構える。
「えぃっ!」
フィーは気合いの入ったかけ声と共に、木刀を力一杯、壁に向かって降り下ろした。
木刀で叩かれた壁は、粉々に崩れ落ちる。
「…また、駄目かぁ」
フィーは肩を落とし、ため息をついた。
ちらりと横を見れば、少し離れた場所で流星旅団のメンバーが剣での試合をしている。
『今日は剣の訓練で、私も参加するから、フィーはここで一人で昨日の防壁の訓練をしていてくれるかい?防壁を作ったら、これで思い切り叩いて、それでも壊れない強度のものが出来たら、私を呼んでくれていいから。はい、これ』
ルヴィークさんにそう言われて、木刀を渡されてから、どのくらい時間が経ったんだろう。
一向に崩れない防壁ができない…。
何が、いけないのかなぁ?
フィーは崩れた壁を見つめて原因を考え出した。
「どうしたフィー?手が止まってるぞ」
「え?」
突然聞こえた声に思考を途切れさせ、フィーは声のした方向を向いた。
すると試合をしていたはずのイシュマが、いつの間にかすぐ傍に立っている。
「あれ、イシュマさん?え?試合は?」
「おれが勝った。で?あんたはどうしたんだ?魔法の練習、もうしないのか?」
「え?いえ。…ただ、作っても作っても、叩くと壊れちゃうから、どうしてかなあって、思って。このままただ作り続けても壊れるだけで、また訓練時間終わっちゃう気がして」
そう言って、フィーはまた崩れた壁を見た。
「…なるほどな。…なら、ひとつアドバイスだ。フィー、魔法で大切なのはイメージだ。崩れない強固な防壁をしっかりイメージして、やってみろ。イメージできてるって言うなら、あとは練習あるのみだぞ?」
「イメージ…崩れない、強固な壁…」
鉄とかでできた壁なら、まず崩れたりしないんだけど、土じゃあなぁ…。
………ん?
もしかして…土だと思うから、崩れる、とか?
大切なのはイメージ…。
…作るのは、土の壁じゃなく、鉄の壁。
文言も、土の、を取って言ってみよう。
鉄の壁、鉄の壁、鉄の壁……。
「…防壁っ!」
スッと手を上げながら、フィーは防壁を作った。
自分の頭を越す高さの壁を見ると、フィーは木刀を手にした。
…どうか、崩れませんように…!
「やぁっ!」
かけ声と共に、木刀を力一杯降り下ろす。
すると、びしり、という音を立てて、防壁にヒビが入る。
しかし、それだけで、崩れはしなかった。
「…や、やった…!イシュマさん!できました!私できましたよ!!」
フィーは興奮した様子でイシュマを振り返った。
そんなフィーを見てイシュマは苦笑した。
「そうだな。けど、喜ぶのは早いだろ?ヒビが入るようじゃまだ駄目だ。要練習。頑張れよフィー」
「はい!」
「よし」
フィーの返事を聞くと、イシュマは元の場所に戻って行き、リューイに声をかけた。
どうやらまた試合を始めるようだ。
「…私も訓練、頑張らなきゃ!」
フィーは木刀をふり、ヒビが入った壁を完全に壊すと、また新たな防壁作りに集中した。
大切なのは、イメージ。
作るのは、土じゃない、硬い硬い、鉄の壁。
「防壁!」
フィーは手を上げながら言い放った。
「…はあ、はあ、はあ」
フィーは荒い息をしながら、壁をじっと見つめた。
「フィー?今日の訓練はここまでだよ。続きはまた明日にして、終わりにしよう」
ルヴィークはそう言いながら、フィーの元へ歩み寄った。
フィーは首だけを動かし、ルヴィークを見た。
「ルヴィークさん…これ。壁、叩いてみて下さい…」
「うん?」
ルヴィークは差し出された木刀を見て軽く首を傾げると、防壁を見た。
「………へえ、これは…。わかった。貸して」
まじまじと防壁を見つめた後、ルヴィークはひとつ頷いて木刀を握った。
「…はっ!」
短いかけ声と共に、ルヴィークは木刀を勢いよく振り下ろす。
ガィン!!
大きな音を立てて、木刀は防壁にぶつかり、止まった。
防壁には傷ひとつついていない。
「…ふむ。フィー、合格だよ。頑張ったね。明日になってもこれを維持できていたら、違う魔法を教えるよ」
にっこり笑って、ルヴィークはそう言った。
「…合格…!は、はい!ありがとうございます!」
合格、と聞いて、フィーの表情は、みるみるうちに嬉しそうなものに変わっていった。
「うん、じゃあ、明日からも頑張」
「イシュマさん!やりました!ルヴィークさんに合格貰えました~!!」
口を開いたルヴィークに気づかず、フィーは満面の笑顔でイシュマの元へ走っていく。
「お、そうか。やったな、フィー!」
「はいっ!」
軽く片手を上げたイシュマに、フィーも手を上げ、パンッとハイタッチをする。
その様子を見て、ルヴィークは苦笑した。
「…まあ、いいか」
そう小さく呟くと、ルヴィークは訓練場を後にしたのだった。