ショッピングです。①
「フィー。フィー。起きて、フィー」
「んん~…?」
朝食をとった後、部屋へ戻って再びベッドの上に横になり、夢の淵を漂っていたフィーは、誰かに体を揺さぶられて、目を覚ました。
顔を動かして揺さぶる人物を確認する。
「…クリムさん…?」
ぼんやりとそう呟くと、クリムはほっとしたような笑みを浮かべて口を開いた。
「良かった、起きたね。なかなか起きないから、ちょっと困ったよ。あのね、これから私達、皆で次の遠征に備えて必要な物を買いに行くの。フィーも行くでしょ?」
「…皆で、遠征に、必要な物、買いに…?…あっ!か、買い出しですか!?」
寝ぼけた頭を一気に覚醒させ、フィーは尋ねた。
「うん、そう。フィーも行くよね?」
クリムは頷いて、再び尋ねた。
「は、はい!行きます!すぐ支度します!」
フィーはベッドから飛び起きると、大急ぎで支度を始めたのだった。
街に出た一行は、いくつかの店を巡り、手際よく必要な物を買い揃えて行った。
「薬OK、小道具OK、剣は研ぎに出したし、食料は前日に買うからよし」
「ん、全部買ったな」
「じゃ、帰ろうぜ。午後には隊別の訓練だし」
流星旅団平騎士の男性陣がそう言って歩き出す。
「あら、まだよ?ねえ、ユスティ、ミレット、フィー」
「ええ。けど、三人のうち二人は帰っていいわ。一人だけ残ってくれれば、ね」
「そうだね。荷物持ちは、一人いればこと足りるもんね」
「え?に、荷物持ち…!?」
女性陣三人の言葉にフィーは驚きの声を上げるが、男性陣は苦笑すると
「はいはい、荷物持ちね。誰残す?」
「今日は何をどのくらい買うんだ?」
「かなり買うなら、お前らも少し持てよな」
と、口々にそう言った。
…な、なんか、慣れてる?
フィーが呆然と男性陣を見ていると、視線に気づいたイシュマがフィーを見て口を開いた。
「…いつもの事だ。こいつらが買い物行くときに暇してると、荷物持ちに駆り出されるんだよ」
「そ、そうなんですか…」
「今日買うのは、フィーちゃんの生活必需品よ。それに衣服。フィーちゃんの荷物ほどいたら、ほんの数着しかなかったし」
「トゥイタギアの騎士はケチよね。女の子のものよ?もっと買ってあげてもいいでしょうに」
「あっ、いえ。もっとっていうのを、私が遠慮したんです。定住する国に移動する時に、荷物が増えるといけないと思って」
「あら、そうなの?まあ、確かにそうね」
「はい」
…本当は、別の理由なんだけど…。
フィーは、キキやルルと買い物に行った時のあの顛末を思い出した。
自分たちの好みを勧める二人が持って来る服の傾向を見て、それに近く、なんとか自分が着てもおかしくないものを選んで納得して貰ったあの時。
…自分の好みとは、ちょっと違う物なんだよねぇ、今持っている服。
だから、ちょっとしか買わなかったんだよね。
今日買い揃えるなら、今度こそ私の好きな服を買えるといいんだけど…。
フィーはちらりとクリム、ユスティ、ミレットを見た。
…この人達なら、あんな事にはならないと思う。
思う、けど…でも、万が一そうなったら。
「…あの、付き合っていただくのも申し訳ないので、あとは私一人で買いに行ってきます。皆さんは先に戻っていて下さい」
「え?そんなの、気にしなくていいんだよ?」
ミレットは首を振りながら言った。
「…いえ、でも…」
フィーは視線をさまよわせる。
そんなフィーの様子を見て、ユスティはわずかに目を細めた。
「ねえフィー?聞いていいかしら。貴女、その服、自分で選んだものなの?」
「え!?」
「…ちょっと、違和感があったのよね。あの遠征から今まで、私達は少なからず貴女と過ごして来たけれど…貴女が持っていた服、貴女が選びそうな物とは少し、違っているような気がしたのよ」
「そういえば…フィーのイメージとはちょっと、違うよね?」
「うん、言われてみれば」
「え、ええっと…」
す、鋭い。
どうしよう、正直に言う?
でもそうしたら、一人で行くって言ったのは私達も自分の好みを押しつけると思ったからなのって話になったり、しないかな?
「…ええっと。………。」
フィーは俯いて黙りこんだ。
「…仕方ないわね」
俯いたフィーを見て、ユスティは溜め息をついた。
「私達は先に帰るわ。けれどイシュマを荷物持ちに置いていくから、遠慮なく使いなさいフィー」
「え!?で、でもっ、荷物持ちなんてそんな」
「いいわよねイシュマ?」
フィーの言葉を遮ってユスティはイシュマに尋ねた。
「…ああ、構わない」
「だそうよ、フィー」
「…ええ…!?」
「安心しろ。俺は服選びには口を出さない。荷物持ちに徹するから、気にしなくていい」
「え、あの、荷物持ちにってだけで、十分気にするところだと思うんですけど…」
「あら、どうして?」
「え、何で?」
「へ?どうして?」
フィーの言葉に、女性陣三人が一斉に疑問を口にした。
三人とも、不思議そうにきょとんとしている。
「…ええと」
何て言ったらいいんだろう?
不思議そうな三人を前に、フィーは困惑した。
「フィー。見ての通り、この中では俺達を荷物持ちに使う事は普通の事だ。だから本当に、気にしなくていい」
「え…ほ、本当に、いいんですか?」
「ああ、構わない」
「そ、そうですか。なら…はい、お願いします」
「わかった」
軽くぺこりと頭を下げたフィーに、イシュマは頷いた。
「決まりね。それじゃ私達、帰るね」
「次に私的な買い物をするときは、私達も交えてしましょうね。フィー」
「じゃ、また後でね!」
「荷物持ち、頑張れよイシュマ」
「今回は頼んだ」
口々にそう言って、フィーとイシュマを残し、流星旅団のメンバーは宿舎へと帰って行った。
「じゃあ、行くか。店は、あいつらが利用してる店でいいだろ。色々な系統のがあったはずだから、きっとフィーが好きな服もあるだろ。こっちだ、ついてこい」
「あ、はい!」
フィーはイシュマに案内され、二人並んで大通りを歩いて行った。