部屋にて。
騎士団宿舎の決まりごと。
ひとつ、朝食、昼食、夕食は隊ごと・団ごとに決められた時間を厳守して食べること。
ひとつ、入浴は隊ごと・団ごとに決められた時間を厳守して入ること。
ひとつ、男女の交流は節度を守って行うこと。
ひとつ、私闘は禁ず。
「…これだけ、ですか?」
宿舎の決まりが書かれた紙を見て、フィーは尋ねた。
「ええ、それだけよ」
ユスティがあっさりと返事を返す。
「…これだけ、なんだ…もっと、事細かに、厳しい決まりがたくさんあると思ってました。門限とか、起床時間とか、消灯時間とか」
「門限は、特にないわ。隊によっては、夜間のパトロールとかがあるもの。そういう理由で定められていないの。けれどだからといって、深夜まで街で騒いでいたら、確実にお叱りを受けるわね」
「起床や消灯時間もないわね。けど、毎日早朝に全体訓練があるから、訓練時間に間に合うように起きないとならないし、夜遅くまで起きてたら翌朝が辛いから、皆夜更かしはしないの」
「あとは…まあ、王家に仕える騎士なら、それに恥じない生活態度をって、ね。暗黙の了解ってとこ。決まりにないからって騎士道に外れるような事したら、きついお叱りがあるわ」
「な、なるほど…。えっと、食事とか、入浴時間は、決まっているんですね?」
「ええ。いくつかの隊や団ごとにね。食堂はすごく広いけど、騎士団は何隊にも分かれていて、人数もかなりいるから、一度にはとても全員は入りきらないのよ。そのせい。浴場も、同じね」
「ああ、なるほど。理解しました。…あの、毎日、早朝に訓練がある、って…それはやっぱり、剣と魔法の?」
「いいえ。早朝のは全体訓練…全騎士合同訓練だから、全騎士が一度に参加できるものになるの」
「えっ、全騎士が?それって相当な人数ですよね?…一体、どんな事するんです?」
「基礎よ。王城の敷地をぐるっと一周、走り込みよ」
「は、走り込み!?王城の敷地内を一周!?ひ、広い、ですよね?」
しかも、かなり…。
フィーは王城の門からこの宿舎までの距離を思い出しながら言った。
「ええ、広いわね」
「でも、新人の頃はきっつかったけど、すっかり体力がついた今では多少疲れる程度よ」
「そうだよね。…まあ新人フィーちゃんには、厳しいかもね。でも、走り込みの順位ワースト10人と、その所属する隊の人間は、連帯責任で、その日の昼からの通常訓練のメニューが倍になるから、頑張ってね!」
「へ!?わ、ワースト10人…連帯責任!?倍!?」
か、確実に私、毎日ワースト10人に入りそうなんだけど。
でも、そうすると、流星旅団の皆さんも連帯責任で、通常訓練メニューが倍に…。
嘘、どうしよう~!?
フィーが困惑し頭を抱え始めると、ユスティが口を開いた。
「…ミレット、悪趣味よ?からかうのはやめなさい。フィー、気にしなくていいわ。貴女も訓練には参加するでしょうけれど、順位づけからは除外される筈だから」
「…え、除外?ほ、本当ですか!?」
なら、皆さんに迷惑かけずにすむ!!
「ええ、本当よ。だから安心して。…そうよねミレット?」
そう言ってユスティはミレットを一瞥した。
「うん。…えへ、ごめんねフィー。素直な反応が新鮮でつい、ね」
ミレットはそう言って謝った。
「フィーは順位は関係ないから、完走だけ目指して頑張って!」
「か、完走…!?」
あ、そっか…広いもんね、完走も難しいよね…。
だけどせめて完走だけは…が、頑張らなきゃ!!
フィーは強く決意したのだった。