改名しました。
フェザークが部屋を訪れると、セイヴィリムは朔が団員となる事を承諾した旨を伝えた。
「そうですか…承諾してくれましたか」
ほっとしたようにそう言うと、フェザークは朔に向き直った。
「お嬢さん、ありがとう。改めて自己紹介しよう。私は流星旅団団長、フェザーク・スターテスだ。これからよろしく頼む」
「あっ、はい!こちらこそよろしくお願いします!私は、日向朔……朔、日向です!」
朔は勢いよく頭を下げた。
「サク・ヒムカイさんか。…それが、貴女の世界の名なのだな。やはり少々、こちらとは違うようだ。変わっている、という印象が否めないな」
「あ…やっぱり、そうですよね。こっちの名前とは、ちょっと、違いますね」
朔がそう同意すると、セイヴィリムが口を開く。
「ふむ。なら、サクさん。この世界の名をもってみてはどうかな?」
「え?」
「過去に何人か、そうした人物がいたようだし。こちらの名をもてば、よりこの世界の一員となったという実感がするかもしれん」
「この世界の…名前」
「うん。貴女が今のままがいいと言うなら、それで構わないが、どうかな?」
「…それなら…」
朔は一瞬だけ考えると、再び口を開いた。
「フィー・ストロベルで、どうでしょうか?」
「…フィー・ストロベル?」
「…ずいぶんと、すんなり思いついたものだな?」
セイヴィリムとフェザークは驚き、目を丸くした。
「あ、はい。私、この名前を、RPG…えっと、架空の冒険物語があって、その物語を冒険して遊べるというものがあるんです。 そこで、私がよく使ってる名前なんです。だから」
「架空の、冒険物語?…よくはわからないが、貴女が親しんでいる名前なのだな?」
「ならば、それがいいかもしれませんね、陛下」
「ふむ、そうだな。フィー・ストロベル、か。では」
セイヴィリムは一度言葉を切り、真顔で告げた。
「フィー・ストロベル。流星旅団団員としての活躍を期待しているよ」
「…は、はい!頑張ります!」
朔は姿勢を正して答えた。
活躍。
…あれ?活躍って…何すればいいの?
朔はオレンジ色の獣を見た。
…私は、この子みたいな獣と会った時、調査をする、その為に団員になった。
でも…調査って、何をどうするんだろう?
……………。
「あの…すみません。聞いても、いいですか?この子達の調査って、どういう事をするんでしょう?私でもできるでしょうか?」
朔は不安げに尋ねた。
「うん?…調査をかい?」
「いや、お嬢さん…フィーさんがする必要はない。調査は我々がする」
「え?」
朔は目を見開いた。
「フィーさんは魔獣と交流をはかってくれればいい。その魔獣のように、連れ帰り、その後も行動を共にできると助かる」
「え…」
それって、つまり…この子達の、世話係?
魔獣の世話係要員として、世話を頑張る事が、王様の言う、私の活躍?
…ま、まあ、いっか。
それなら、私にもできるしね…うん。
朔は複雑な思いを残しながらも、半ば無理やり自分を納得させた。
「さて、では他の団員達に改めて引き合わせよう。一緒に来なさい。陛下、失礼致します」
「あ、はい。失礼します、王様」
フェザークは騎士の礼を取り、退室しようと扉へ向かった。
朔もぺこりと頭を下げ、フェザークの後を追う。
「ああ、待てスターテス。サクさん…いや、フィーさん。何か望みはないかな?」
「はい?」
望み?
「いや、安穏な生活を送らせてあげられないからな。せめて何か、望みがあれば叶えようと思うのだが、何かないかな?」
「えっ、いえ、そんな!とんでもないで…」
あ、でも。
朔は、とんでもないです、と言おうとしたが、途中である事を思い立ち、口を閉じる。
そして
「…あの。何でも、いいんですか?」
そう、再び遠慮がちに口を開いた。
「うん、もちろんだ」
「なら…私、魔法を覚えたいです」
「魔法を?」
「はい」
「フィーさん。魔法を覚えたいなどと…貴女は戦う必要はないのだぞ?危険な事は我々騎士がする。貴女は」
「あっ、いえ!戦う為の魔法じゃないんです。傷を癒したりとか、こう、身を守る為に土の壁を作ったりとか…そういう魔法も、あります、よね?」
朔は身振り手振りを交え、説明する。
「…回復魔法と、支援魔法の事か?」
「あ、はい!それです!」
朔は大きく頷いた。
魔獣の世話係になる事は、別にいい。
けど、将来、魔獣の調査がもし終わってしまったら、流星旅団にとっての私の存在価値はなくなってしまう。
その時、私は流星旅団にそのまま残れるかわからない。
もしかしたら、また新しい場所で新しい生活を始めなきゃならないかもしれない。
…そんなのは、嫌だ。
なら他に、存在価値を作っておけばいい。
戦うのは怖いし、とてもできない。
けど、回復や支援要員になら、なんとかなれるはず!
「お願いします、教えて下さい!私、頑張って覚えますから!」
「ふむ。約束の地での調査の時、貴女の魔力を見たが…決して多くはないが、少なくもない。スターテス」
「…かしこまりました。フィーさん、少しずつ教えよう」
「あ、ありがとうございます!頑張ります!」
やった!
朔は小さくガッツポーズをとった。
「フィーさん、他には、望みは?」
「あ、はい!あとひとつだけ。トゥイタギアにもう一度行きたいんです。トゥイタギアにいる、あの翠色の子を迎えに。あの子は私の恩人です。退治される危険から、守りたいから」
「ふむ。報告にあった魔獣だね?いいだろう。スターテス、一度王都に戻り、準備を整え、出発するように」
「は」
「ありがとうございます!…望みは、それだけです」
「そうか。では、流星旅団の団員達に、改めて挨拶するといいだろう」
「はい!」
「では失礼致します」
そう言うと、朔とフェザークは部屋をあとにした。
朔の新しい名前、フィー・ストロベル。
フィーは、ファンタジー世界にありそうなものを。
ストロベルは……苺の美味しい季節になりました。←
今後、主人公の名前は、日向朔じゃなく、フィー・ストロベルで書いていきます。
ご了承下さいませ。