説明されました。
朔はセイヴィリムに連れられ、一際立派な天幕へとやって来た。
セイヴィリムは地面に敷かれたラグのような敷物の上に座ると、朔に向かいに座るよう促した。
そこに朔が座るのを待って、セイヴィリムは口を開いた。
「さて、では最初から順を追って話すとしよう。最初の休憩をした街で、私の元を流星旅団の団長と、一人の団員が尋ねてきた。その二人から、遠征の折に、貴女が、遭遇した魔獣を庇った事、魔獣が大人しく貴女に従った事、貴女がその魔獣を恩人だと話した事などを報告された。そして…流星旅団から、貴女を団員に欲しいと、遠回しに願い出られた」
「え?わ、私を…騎士団員に?どうしてですか?」
「うん。…先ほども話した通り、我が国の騎士は他国へ赴き、その他国が手を焼いている荒事…つまり、魔獣退治をする事が多い。そしてその役目…他国へ赴く役目は、流星旅団が一手に担っているんだ。故に、人を襲わない類いの魔獣に遭遇するのも、流星旅団でな。…人を襲う魔獣と襲わない魔獣、その違いは何か、それを調査する事を、私は流星旅団に命じているのだ」
「襲う魔獣と、襲わない魔獣の、調査…」
「しかしね。魔獣は魔獣だ。幼い頃より魔獣の危険性を教え込まれて育つ、我々、この世界の人間は、どうしても警戒してしまう。している間に、人を襲わない類いの魔獣は逃げてしまう。だから調査は進まない」
「…この世界の、人間」
じゃあ、流星旅団が私を団員に欲しいっていうのは、私が異世界の人間だから?
魔獣を警戒しないから?
…でも、それは。
「あの、待って下さい!私、魔獣を警戒しない訳じゃありません。そりゃ、この子とか、あの翠色の子とかは警戒しませんでした。怖い感じはしなかったから。でも、それ以外の魔獣は…見るからに怖くて…近づく事すら、できないと思います。とても調査なんて」
「ふむ。なるなど。貴女のその話を聞くに、サクさん、貴女は人を襲う魔獣と襲わない魔獣を一目で判別する事ができるのかもしれないな」
「え、ええ!?」
セイヴィリムの言葉に、朔は困惑の声を上げた。
「そ、そういう訳じゃ、ないと思いますけど…」
「さて、どうかな」
「王様…」
「サクさん。魔獣を恐れるのは普通の事だ。けれど貴女には恐れる事のない魔獣がいる。それだけで、我々には…流星旅団には十分価値があるのだよ。恐れない、つまり、警戒しないなら逃げる隙を与えず近づける。逃げられないなら調査する時間もある」
「あ、あの、ですから、恐れない訳じゃなくて」
「だが実際、恐れない魔獣がいるだろう?」
セイヴィリムはオレンジ色の獣を見て言った。
朔はセイヴィリムの視線を追うように、オレンジ色の獣を見た。
「それは…そうですけど」
「ならば、これからもいるかもしれない。その事実が大事なんだ。そして…その魔獣。連れ帰った事でいつでも観察できる。これは流星旅団にとって大きな助けになるだろう」
「助けに…。イシュマさん達の…」
「うん。…だが、魔獣に関する事だ。常に危険がつきまとう。流星旅団には、貴女を守りきる自信があるかを尋ねたら、あると即答はしたが…」
「え」
朔が目を見開くと、セイヴィリムは苦笑した。
「即答しなければ、絶対に許可せず、貴女に話をする事もなかったよ。流星旅団は、その名の通り、流星のように国内外を流れ歩く。王都にいる事は一年のうち、ひと月程度だろう。一員となれば貴女もその生活を送る事になる。…だから、サクさん。貴女が嫌だと言うなら、私から流星旅団にそう返答を伝える。決して強制ではないから、よく考えて決めなさい。私からの話は、以上だ」
「…………」
セイヴィリムの話が終わると、朔は沈黙し考え込んだ。
魔獣は怖い。
けど、この子やあの翠色の子は怖くない。
…この先も、そういう子が現れるんだろうか?
もし現れるなら、王様の話から考えると、魔獣として退治されないよう、危険はないと証明してあげられるのは、私だけという事になるよね…。
…私だけ。
異世界人は、この世界に利となる知識や才能を持ってる事があるから、各国の王様達にそれを調査される。
でも私にはそんなものない…ううん、なかった。
王様の言うように、私に人を襲う魔獣と襲わない魔獣を判別できる力があるかはわからない。
けど本当にあるなら。
それがこの国にとって利になるのかもわからないけど、少なくとも、イシュマさん達の、流星旅団の助けになるなら。
襲ってくる魔獣からは守ってくれるなら。
定住せず、あちこちを旅して歩く生活っていうのは…正直、ちょっと想像つかないけど、慣れればきっと、大丈夫だよね?
そこまで考えると、朔は顔を上げた。
決意を胸に、口を開く。
「王様。…私に、魔獣を判別できる力があるかはわかりません。でもこの子達が怖くなかったのは事実です。この先も、そういう子に会う可能性があるなら…その子達が退治されるのを防げるなら、そしてそれが流星旅団の助けにもなるなら…私、流星旅団の一員に、なります」
「…そうか」
朔の言葉を聞くと、セイヴィリムは短く答え、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ありがとう、サクさん。そしてすまない。安穏な生活を送らせてあげられず、本当に」
「そんな!王様が謝る事はありません。決めたのは私ですから」
「…ありがとう。…流星旅団の団長をここへ。サクさんの返答を伝える」
セイヴィリムは朔にもう一度礼を言うと、部屋の隅に控える護衛の騎士に告げた。
「はっ!」
騎士はセイヴィリムに騎士の礼を取ると、部屋をあとにした。