移動中。
約束の地を発ってしばらく、朔は馬車に揺られながら、どこか居心地の悪さを感じていた。
馬車の乗り心地はとてもいい。
何しろ、座っているのは皮張りのソファーだ。
馬車の中は広さもあって、快適である。
しかし、朔の正面にはソドウィザムの王が座っていた。
他には誰も乗っておらず、朔は今ソドウィザムの王と二人きりでいた。
一国の王と同じ馬車に同乗、しかも二人きり。
その事柄が、朔の居心地の悪さの原因だった。
ど、どうして、こんな事に?
突然王の馬車に同乗する事になった理由がわからず、朔は戸惑っていた。
ソドウィザムへ向かった朔は、最初、イシュマの馬に同乗していた。
けれど一度休憩を挟んだ後、イシュマの上役の騎士に、何故かこの馬車に案内され、乗るように言われた。
馬車には何かの紋章がついていて、それを見ながら朔が馬車に乗り込むと、そこにはソドウィザムの王がいた。
驚き立ちすくんだ朔の後ろで、ドアが閉められる。
朔は慌てて振り返ったが、馬車は動き出してしまい、呆然としている朔に、ソドウィザムの王は座るように促したのだった。
「娘さん、まだ、緊張はほぐれないかな?」
「えっ!?」
座るように言った後、全く口を開かなかった王に突然声をかけられ、朔は驚き、びくりと体を震わせた。
「ああ、突然申し訳ない。驚かせてしまったかな。貴女の緊張が和らぐのを待っていたのだが、難しいようだね?」
「あ…えっと…す、すみません…」
「いや、謝ることはないよ。…少し、貴女と話がしたくてこちらに乗って貰ったのだが、どうだろう?私と話してもらえるかな?」
「え?…あ、は、はい!」
「ありがとう。ならまずは、自己紹介からしようか。私はセイヴィリム・ソドウィザム。36歳。知っての通りソドウィザムの王だ。娘さん、貴女の名前は?」
「は、はい、私は日向朔…えっと、朔、日向、です。17歳、学生です」
「学生?貴女は、学徒なのかい?…そうか…学ぶ意欲があるのなら、学問の国へ紹介状を…」
「えっ、あの、いえ!それは大丈夫です!」
朔は慌てて手を振りながら断った。
「む?なぜ…?学びたい事があるのだろう?…ああ、もしかして、こちらの世界では学べない事なのかい?ならば、とても残念だろうな」
「えっ、えっと…いえ、その。特に、学びたい、という訳じゃ…私の世界では、私の歳くらいの子はほとんど、学生なんです」
「ほとんどが?それは…皆が、学べると?」
「はい」
「なんと…!」
朔の言葉に、ソドウィザムの王ーーセイヴィリムは、感嘆の声を上げた。
「娘さん…サクさんの世界は、とてもしっかりとした政が行われているのだな。素晴らしいことだ。良ければ、サクさんの世界の話をもっと聞かせてもらえるかな?」
「あ、はい」
朔は頷き、それからしばらく、セイヴィリムに自分の世界の話を話して聞かせた。