お別れしました。
朔が円形の部屋を出ると、扉の近くにレイドが立っていた。
「ああ、お嬢さん。待っていたよ。話は終わったのかい?」
レイドは朔に歩み寄った。
「はい、終わりました」
そう言うと、朔は軽く周囲を見回した。
「そうか。…それで…どの国に」
「レイドさん、イシュマさんはどこです?」
レイドの言葉を遮って、朔は姿の見えないイシュマの所在を尋ねた。
レイドは一瞬、ピクリと顔をひきつらせる。
「…彼は、ソドウィザムの方々が使用している建物に戻って行ったよ。お嬢さんの様子を見に来ただけだからと」
「ソドウィザムの方々が使用?…なら、私もそっちに移ったほうがいいのかな…?」
朔はわずかに首を傾げて呟いた。
「は?…移る、って…どうしてだい?お嬢さん?」
レイドは思わず尋ねたが、頭の片隅で、その理由に気がついていた。
「え?だって、私、ソドウィザムに行く事になりましたし」
「…………」
予想通りの返事が返ってきて、レイドはしばし沈黙した。
ギュッと手を握りしめる。
「レイドさん、ソドウィザムの人達が使ってる建物って、どこか知ってますか?」
朔はレイドの様子に気づかず、尋ねた。
「…移る、必要はないよ。お嬢さん」
レイドは努めて穏やかに言葉を返した。
「え?でも」
「ソドウィザムからは、明日の朝迎えが来るだろう。だから、お嬢さんとは明日の朝でお別れだ。…別れを惜しむ時間を、私にくれないか」
レイドは寂しげに微笑んだ。
「あ…。…そう、ですね。皆さんにもちゃんと挨拶しないと駄目ですよね。わかりました」
朔は頷いて言った。
「…皆さん、に?」
「はい」
「…そう、か。…そうだな。皆にも、頼む」
「はい。…特に、レイドさんに、ですけど」
「え?」
「最初は本当に散々でしたけど、今では結構感謝してます。これまで私を保護してくれてた事、この世界について色々教えてくれた事、本当にありがとうございました」
そう言って、朔は頭を下げた。
「…お嬢さん…」
レイドの胸に温かいものが満ちていく。
「あ。…そういえば、私の名前、知りたがってましたよね。…私、日向朔っていいます。…この世界だと、朔、日向かな?もう会えないかもですけど、良かったら覚えていて下さいね」
「…サク・ヒムカイ、か。…忘れないよ。絶対に。…教えてくれて、ありがとう」
朔とレイドはお互いに微笑み合い、朔の部屋へと向かって並んで歩いて行った。
翌日、朔はレイド達が見送る中、迎えに来たイシュマやソドウィザムの騎士達と共に、約束の地を後にした。
レイド達第二小隊、とりあえず退場です。
最後にほんのちょっとだけ報われたレイド。
良かったね(笑)