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平凡娘と獣と騎士と。  作者: 葉月ナツメ
異世界の来訪者
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遠征・二日目~中編~

「いたぞ、魔獣だ!」

「総員、臨戦態勢!」

凛々しい掛け声がかかり、騎士達は馬を降り、剣を抜き放ち前方へ駆けて行く。

朔はキキの手をかりながら、レイドの馬から降りた。

前方を見ると、以前、この世界に来た時に襲いかかってきた、茶色の魔獣によく似た魔獣が見えた。

…良かった、あの子じゃない。

朔はほっと胸を撫で下ろした。

『あの子を退治なんてさせない』

レイドにはそう啖呵を切ったが、この騎士達の中、自分一人でどうすればあの翠色の獣を助けられるのか、その方法がどうしても思い浮かばなかった。

…なら、見つからなければいい。

どうか、あの子が見つかりませんように。

この辺りには、もういませんようにーー。

朔はそう願った。

「おい、まだいるぞ!気をつけろ!」

「えっ」

騎士の声に朔は周囲に目を凝らした。

すると、茶色の魔獣のすぐ近くに、同じ茶色の魔獣が何匹もうようよといるのが見える。

その様は、大きな土の塊が広く積み上がっているかのようだった。

違った、あの子じゃない。

あの子じゃない…けど…良かったけど…これは。

「…多い…」

朔は眉をひそめて呟いた。

「そうね…ちょっと、多いかしら」

「え?」

朔の呟きに、キキが答えた。

「いくらソドウィザムの騎士がいるとはいえ、この数は厳しいかしらね。…ルル」

「ええ、キキ。…お嬢さん、ここにいて。動かずに、じっとしていてね。絶対よ」

「へ?」

朔の返事を待たずに、キキとルルは剣を手に前方へと駆け出して行った。

「ええ~…行っちゃった…」

朔は呆然とその姿を見送った。

「だ、大丈夫…だよね?戦ってる場所からは、ここ、少し離れてるし…一人でも…」

そう口にしてはみたが、一人になった事に不安を感じ、朔は胸の前で手を握り、ゆっくり周囲を見回した。

すると、視線の左端に、大きなこげ茶色の何かが写り込んだ。

「…え」

朔の動きがピタリと止まり、視線はそのこげ茶色の何かに釘付けになった。

「グルルルルルルル…」

低い唸り声を上げ、こげ茶色の何かはゆっくりと動き出す。

「ま、魔獣…魔獣だよ?キキさん~ルルさん~…こっちにも魔獣がいるよ~…?」

朔はゆっくりと首だけを動かし、キキとルルが駆けていく方向を見て言った。

しかしキキとルルはもう遥か前方へ行ってしまっていた。

「は、早っ…えっ、えと、どどどどうしよう!?」

キキとルルを追いかけても、戦闘の只中に行く事になる。

しかしここでじっとしていても、あのこげ茶色の魔獣の餌食になる。

どちらにしても危険度は高い。

「えっと、えっと、どうするべき!?いや、あっち行ったほうが少なくとも怪我ですむ!?それとも、ここでじっとしてたらあの魔獣私をスルーしてあっち行ったりしないかな!?」

朔はパニックになった。

その間も、こげ茶色の魔獣はゆっくりと朔のほうへ近づいてくる。

「うっ、こっち来る!これは…スルーしてはくれないね!うん!…たっ、助けて~~~!!」

朔はすぐさま全速力で前方へと駆け出した。 

するとこげ茶色の魔獣も走り出し、朔へと迫る。

「うそっ速い!…や、やだ、こっち来ないで…!!」

沸き上がる恐怖に、朔は涙目になっていく。

「…だ、誰か、ねぇ気づいて!助けてぇ…!!」

朔は必死に足を動かしながら、前方の騎士達に向かって叫んだ。

すると突然、横から強い力で腕を引っ張られた。

「きゃっ!?」

はずみで朔は地面に倒れる。

「おっと、悪い。強く引きすぎたな。けどちょうどいい。あんたそのままそこに伏せてなよ。すぐ終わる」

「え?」

上から聞こえた声に顔を上げると、朔の前に、栗色の髪をした男性が立っていた。

…この人は、確か。

「ソドウィザムの騎士…さん?」

昨夜、レイドさんに連れられて行った輪の中にいた気がする。

名前…えっと、何だっけ?

「ああ。イシュマ・クリミドだ。…トゥイタギアの騎士には、上を通してあとで説教だな。こんな場所に、保護対象を一人放置したりして……さ!」

そう言うと、イシュマと名乗ったその男性は地を蹴り、こげ茶色の魔獣へ向かって行った。

こげ茶色の魔獣の攻撃をすんでのところで避けながら、できた隙を逃さず、何度も斬撃を繰り返す。

その斬撃で斬られた場所からは炎が上がり、こげ茶色の魔獣の体を燃やしていく。

「うわ…凄い。あれ、魔法剣だ…実際見ると、こんなに迫力あるんだ…」

近いせいか、熱気が伝わってちょっと熱いし。

「お嬢さん!大丈夫か!?」

朔が興味深げに見ていると、横からレイドの声がした。

「あ、レイドさ…ん!?」

朔がレイドに視線を向けると同時に、すぐ横に膝をついたレイドは、朔の肩をガシッと掴み、険しい顔で上から下までその体を凝視した。

「良かった…怪我はないな」

そう言うと、レイドははーっと安堵の溜め息をつく。

「あ…ありませんよ。あの人…イシュマさんが、助けにきてくれましたから」

レイドの様子に、何故か気恥ずかしげな気分になり、朔はイシュマのほうへ視線を移して言った。

「…彼は、イシュマ殿というのか。あとで礼を言わねばな。だが今はまず、助太刀をせねば。…キキ、ルル。決してお嬢さんから離れるな。きつく申し渡す」

「は。…申し訳ございませんでした」

「二度は、決して。…ごめんなさい、お嬢さん」

「えっ?い、いえ…」

いつの間にか傍に戻っていたキキとルルに神妙な態度で頭を下げられ、朔は戸惑った。

その後、レイドを含む数人がこげ茶色の魔獣との戦闘に加わり、茶色の魔獣の集団と同時討伐が行われた。

時間がかかり、苦戦を強いられてはいたが、やがてどちらも無事に討伐が終了した。

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