勉強しました。
「さて…まずは、お嬢さんが知っておいたほうがいい事から話そうか」
支部と呼ばれる、朔が先刻逃げ出した建物に戻り、その中の一室に入ったレイドは朔にソファに座るよう促し、その正面に自らも座ると、すぐに話を切り出した。
「私が、知っておいたほうがいい事…ですか?」
「ああ、そうだ」
朔が聞き返すと、レイドは頷いて続けた。
「まず、この世界の地形について。これを見てくれ」
レイドはテーブルに丸めて置いてあった紙を広げた。
そこには、中央に少々いびつな丸が大きく書かれており、その丸にいくつか線が引かれ、何か文字のようなものが書かれている。
大きな丸の中心には小さな丸があり、引かれている線はどれもその小さな丸から伸びていた。
「これは、この世界の地図だ。この世界には12の国がある。見てわかる通り、領土の大きさは様々だ。大国があれば小国もある」
「大国…小国」
朔は地図の区切られた線をなぞりながら呟いた。
「…戦争は?大国が小国を攻めたりとか、あるんですか?」
朔の知る、剣と魔法があるファンタジー世界ではよくある話だ。
もっとも、それらはフィクション上のものだが。
「戦争か。大昔はあったらしいが、今はないな。国家間のいさかいは話し合いで平和的に解決する事になっているんだ。まあ、中にはなかなか解決しない事柄もあったりはするようだが、それでも戦争にはならない。根気強く、何度も話し合いがされる」
「…どうして?」
「…大昔の戦争で、皆が懲りたんだ。世界の全ての国を巻き込んだものだったらしくてね。どの国も、その戦争でとてつもない被害を被ったんだ。こうして後世まで、きつく和平協定が結ばれるほどに」
そう言って、レイドは暗い笑みを浮かべた。
「…え、えっと…こ、ここは何?この中心の丸。ここも国?」
その表情に朔は言葉をつまらせ、地図を指差し、話題の転換を試みた。
「そこは、話し合いが行われる、約束の地だよ。どの国からも平等に領土を取って場所を作ろうという事で、世界の中心になったんだ。どの国からも隣接した場所だから、話し合いの場所にたどり着くのにあまり時間のズレが生じないという利点がある。近い国の王は遠い国の王の到着を首を長くして待つ、という事が起きないんだ」
「なるほど…よくできてるんですね」
朔は感心して頷いた。
「お嬢さん、君は近々、この場所へ行く事になるよ。この約束の地へ」
「えっ?」
唐突に告げられ、朔は顔を上げ、目を丸くしてレイドを見た。
「異世界人が現れると、全国に知らせがいき、約束の地に各国の王が集まる。異世界人を引き取る国を決める為に。…この世界には、君のように、大昔からたまに異世界人が迷い込んでね。言葉は通じないし常識も違う事から、大昔は異世界人は困った存在だったんだ。けれどある時、異世界人が持つ未知の知識に気づいたとある国の王が、なんというか…悪用してね。その未知の知識というのが兵器に関するものだったから始末が悪く…さっき話した大昔の戦争は、それが発端だったんだ。以来、異世界人は放置せず、その知識、能力は世界全体の繁栄の為、より良く活かせる国に異世界人が引き取られる事になった」
「…未知の知識?…世界の繁栄?…より良く活かせる国が引き取る?」
「そうだ。だから君は約束の地で、各国の王からその能力を調べられ、どんな未知の知識があるかを試される。そしてその結果で住む国が決まる」
「……………」
朔は絶句しあんぐりと口を開けた。
能力を調べる?
未知の知識を試される?
…平凡を絵に書いたような自分に、そんな、王様が欲しがるような能力や知識があるだろうか?
…いや、ない。
あるわけない。
「あの…それでもし、どの国にも有用なものを持ってないと結論づけられたら、どうなるんです?」
まさか、どの国からもつまはずきにされ、どこにも行く場所がなくなるんじゃ――。
朔は内心青くなりながら、恐る恐る尋ねた。
「大丈夫だ。どんな結論になっても、必ずどこかの国が引き取るよ。だからあまり固くならず、気楽に試験を受けるといい」
「そんな…!じ、自分のこれからの定住地がかかってるのに、とても気楽になんて…!!」
「大丈夫だよ。…さて、次の話に移ろうか」
「レイドさん!?」
驚愕の真実に不安と焦りを露にする朔を放置して、レイドはさっさと次の話に移ってしまったのだった。
いつも読んでいただいてありがとうございます!(^-^)
祝!お気に入り登録10件越え!
という事で、今日は頑張って二回目の更新です。
さて、日頃読んでいただいている皆様に感謝し、お気に入り10件突破の記念として、番外編的な話をひとつ書きたいと思います!
話は皆様に選んでもらう三択方式です。
一番選択の多かった話を書きます。
次の中からひとつ選んで、感想の一言欄にでも書いておいて下さいまし。
1、サブタイトル、見たことのない獣に出会いました~キャンプ場にたどり着きましたまでの翠色の獣視点の話。
2、レイド率いる第二小隊の昔――黄色の毛の男性と青色の毛の男性の着任騒動。
3、朔に支部の部屋から逃げられてから塀横の石造りの建物に行くまでのレイド視点の話。
受付は明日、3・14の午後6時まで。
……短いかもですが、初めてなのでとりあえずお試しで…。
ちなみに、一件もコメントがなかった場合、この企画は消滅です…。
逆に一件でもあればそれを書きます!
…どうか消滅しませんように…。
それではお待ちしてます!