自己紹介されました。
朔は塀の横にある、物置小屋のような大きさの石造りの建物に連れて行かれた。
「おい、いい加減に白状しないか!」
正方形の木のテーブルを挟んで朔の正面に座る騎士が、ドン!と音をたててテーブルを叩く。
強行突破で街を出ようとした朔は何らかの悪事を働いて逃亡しようとしたと判断されたらしく、先ほどから取り調べを受けていた。
「……………」
白状する事なんて何もない。
朔は無言を貫いていた。
「…ふぅ、全く、強情な。いいか?もう一度初めから聞くぞ?名前は?歳は?どこに住んでいる?何をした?」
騎士は根気強く、一句一句ゆっくりと、そしてはっきりと尋ねた。
「……………」
名前も歳も、教えるつもりなんてない。
まして住所なんて……そんなものこの世界にはない。
「…あくまでもだんまりを続けるのか。…まあ、いい。今支部のほうに問い合わせている。お前が誰で何をしたのか、じきに判明する。…その前に白状したほうが賢明だと思うがな」
「!」
問い合わせ。
という事は、私がここにいる事をあの赤毛の男性も知る事になる?
あれからどれくらいたったっけ?
千なんてもう数え終わったかな?
だとすれば、すぐにここに来る――。
「……失敗、かぁ」
朔は意気消沈し、がっくりとうなだれた。
…まあ、街を出られない時点で、見つかるのは時間の問題だったかな。
もう駄目だ…このあと何を命令したとしても、あの人達からは逃げられない気がする。
まさか街を出るのに手形…つまりは許可証?が必要だったなんて…。
常識が違いすぎる。
この世界で平穏無事に生きて行くためには、まずこの世界の事を知らなくちゃならないかも…。
「白状する気になったのか?なら、名前からだ。名前は?」
うなだれた朔を、観念したととらえた騎士が尋ねた。
すると、朔の背後から男性の声が響いた。
「そのお嬢さんは、何もしてはいないよ。うちが保護してる異世界からの来訪者なんだ。解放してあげてくれないか」
…ああ、来ちゃった。
男性の声を聞いて、朔は頭を抱えた。
振り向かずともわかる。
あの赤毛の男性だ。
「え?…レイド・アベニカ小隊長!?は、はっ!かしこまりました!どうぞお帰り下さい!」
騎士は突然現れた赤毛の男性に驚き立ち上がると、敬礼をして言った。
「ありがとう。では、行こうか?お嬢さん」
赤毛の男性は朔に向かってにっこりと微笑んだ。
「……貴方、レイド・アベニカさんっていうんですか」
朔は立ち上がりながら赤毛の男性を見て言った。
「おや?…ああ、そうか。まだ名乗っていなかったのか。失礼したね、お嬢さん。私はレイド・アベニカ。レイドと呼んでくれ。29歳、独身だ。お嬢さんの知る、あの騎士達の所属する小隊の隊長の座と、伯爵の位をいただいている」
赤毛の男性――レイドは、にこやかにそう自己紹介した。
「良かったら、お嬢さんの名前も教えて貰えないか?」
「………お嬢さんで、充分だと思います。それより、私にこの世界の事を教えて」
レイドの言葉をさらりと交わして、朔は言った。
しかしレイドは気にした様子もなく、頷いた。
「わかった。…やはりお嬢さんの世界とでは常識が違ったかい?何から知りたい?」
「もちろん、常識から。あと、私の世界と違うもの、全部。騎士がいて、魔法があるのよね?移動手段は馬車と何?お金はどんなの?一年は何日?季節はいくつ?一日の時間はどれくらい?それから…」
朔は思いつく事柄を次々とあげていく。
「…了解、お嬢さん。ちょっと待った」
レイドは朔のあまりの勢いに、ストップをかけた。
「まずは支部へ帰ろう。腰を落ち着けて、1からじっくり話すよ」
「…わかりました」
レイドの言葉に、朔は素直に頷いた。
やっと赤毛の男性の名前が決まりました。
レイド・アベニカ。
赤毛という一点を元に、レッド、赤、紅とあげて、
レッド→レイド
アカ+ベニ→アベニカ
と、一字抜いて足して組み合わせて……出来上がりました。
え?赤もレッドも同じじゃないかって?
…うん、そうですね!←
何はともあれ、今までも今日もそしてこれからも、楽しんで読んで貰えたら幸いです。