街の外を目指しました。
部屋を出た朔は再び階段を降り、玄関へと向かった。
玄関の場所は先ほど連れ戻された時に判明していた為、迷う事なく一直線にたどり着けた。
玄関を出て、まっすぐ伸びた道の先の門へと向かう。
馬車で通った時には、あそこに見張りはいなかった。
つまり、見咎められずに通れるはず!
今度は脱出成功だ…!
朔はそう確信して、笑みを浮かべた。
そして、その通りに、門を抜けられたのだった。
朔は上機嫌で大通りを歩いていた。
並び立つ店の中を窓から眺めながら、ひたすら歩く。
目的地は、街の外。
あの赤毛の男性の言う通り、ここは異世界なのだろう。
もう自分のいた世界には帰れないのかもしれない。
この街を出ても、行くあてはない。
でもこの街に留まる事は考えられない。
この街には、あの騎士達がいるのだから。
先の事は不安だらけだが、他の場所で、なんとか生きていくすべを探そう。
朔はそう考えていた。
しかし、眺めていた窓の端に、ふいにあの赤毛の男性の姿が現れた。
朔は驚いて振り返る。
すると朔から数歩離れた場所に、赤毛の男性は立っていた。
朔と目が合うと、赤毛の男性はにこ、と微笑んで言った。
「どこへ行くのかな?お嬢さん?もし欲しい物があったなら、遠慮なく言うといい」
この言葉に、朔はあんぐりと大きく口を開けた。
しかしすぐに我に返ると、赤毛の男性を睨みつけた。
「…絶対服従なんじゃなかったんですか?私は動かないでって言ったはずですけど」
朔がそう言うと、赤毛の男性は頷いた。
「ああ、確かに。けれど、いつまで、とは指定されなかったからね。お嬢さんが部屋を出た時にその命令は終了させて貰ったよ」
「!」
…ツメが甘かった!
そういう逃げ道があったんだ…!
朔は反論する事が出来ず唇を噛んだ。
…だけど!
「それなら、指定します!今から、えっと……ゆっくり千まで数を数え終わるまで、動かないで!」
この世界の時間の概念が元の世界と同じなのかわからず、朔はとりあえずと考えて、そう言った。
「おや…そうきたか。仕方ない、わかった」
赤毛の男性は困ったような笑みを浮かべたが、しっかりと頷いた。
それを見た朔は踵を返し、街の外へ向かって猛スピードで走り出した。
絶対に逃げ切る!
朔はそれだけを考え、ひたすら走り続けた。
立ち並んでいた店が途切れ、ただまっすぐに伸びた道だけがある場所まで来ると、道と草原の境目に高い高い塀がそびえ立っているのが見えてきた。
その塀の周りに、何やら人だかりができている。
こんな所で、何をしているんだろう?
朔は不思議に思ったが、その事に関わっている余裕はない。
人だかりを横目に見ながら、朔が塀を越えようとした、その時。
「こら、何をしている!順番を守りなさい!」
そう声が飛んできて、朔は腕を掴まれた。
朔は腕を掴んだ人物を見上げた。
鎧を着ている。
「…順番?何の?」
また騎士か…。
そう思ってややげんなりしながら、朔は尋ねた。
「何の?…何を言っている?通行手形を改める順番に決まっているだろう?皆きちんと並んでいるんだ、君も並びなさい」
「…通行、手形?」
何それ?
意味がわからず、朔は首を傾げた。
その様子を見た騎士は、訝しげな視線を朔に向けた。
「まさか…持っていないのか?旅行へ行くにしても、街を出る時は通行手形が必要な事は知っているだろう?持っていないのなら役所で申請して貰って来なさい。でないとここは通せない」
「えっ!?」
そんな決まりがあるの!?
役所って、申請って、どうやるの!?
その通行手形って私でも貰えるもの…!?
朔は愕然とし、その場に立ち尽くした。
「どうした?早く行きなさい。役所の場所は知っているだろう?住所と名前と目的地を言えば発行して貰えるから」
「住所…名前…目的地…」
住所―異世界。
名前―日向朔。
目的地―特になし。
…うん、発行はきっと不可能ですね!
ならば………強行突破させて頂きます!!
朔は自棄になった。
まず、大人しく従うと見せかけるべく街のほうへ一歩踏み出すと、次いでくるっと反転してそのまま街の外目指して駆け出す。
「あっ!?こら、待て!!」
誰が待つものか!!
朔は必死で走ったが、そんな抵抗虚しく、やはり捕まったのだった。




