ウ(トゥ)ルス(・フルエフル)の章
どこかで見たことある?
いつも通りなら雑談猥談をしているはずの昼休み……ぼくは屋上にいた。
屋上といえばあれだよね……うん!
まあ、屋上のお約束はさておき、ぼくはクラスメイトの女の子に呼ばれている……しかも可愛いというよりもクールで美人な子で、そのバストは実際豊満だ……やっぱり告白かなと思った。
自慢じゃないけどぼくはぱっと見どころか数々の変態発言を加味しても女の子としか思われないのだ。もう男という事を明かして絶望させるのが気持ち良くなるくらいに……
それはさておき、こういう美しい感じの子に限って可愛い物好きなパターンが多いのだ。主にラブコメで……リアルでは……見たことないね……まあ、リアルで初めての子になるかも知れないので、そっちの方にかける。
そしてその結果だけど……
「お前……ツァトゥグァもしくはイホウンデーを知っているか?」
告白じゃなかった……ぼくよ、これが絶望だ……まあ、二年生の人と付き合っているとかいう噂があったりなかったりしているから決闘の申し込みじゃないかという勘はあったよ、うん……でもね、予想のはるか斜め上を大暴投だよ! これ!
「つぁとぅぐぁ? いほうんでー? 誰、それ? ぼくはユウ」
「別の質問だ……エイボン、という名称を知っているか」
「エイボンなんて神官さん知りませんよ」
「そうかそうか、知っているのか……ならば何故誤魔化そうとした?」
「え! だからぼくは知らないって」
「ならば何故神官だと言った? わたしはそもそも人かどうかすら口にはしていないぞ?」
終わったね、ぼく……完全に袋小道に入っちゃったよこれ! というかこの人何者なの? ひょっとして年増さんだったりするのかな?
「一応言っておくが、まだわたしは未成年なのだが……」
「……心でも読んだの?」
「いや、なんとなくお前の表情から察しただけだが……」
「……許して下さい! ぼく……なんでもしますから!」
「再び質問するが、ツァトゥグァ及びイホウンデーを知っているな?」
詰んだ以上、正直に答えるしかないよね、これ……
「……はい、そうです……知っています……というかほとんど毎日のように会っています」
「やはりそうか……ならばこれは忠告だ……邪神の英知を利用してよからぬことをするようであれば……潰す」
「アッハイ、分かりました」
「それと……邪神には近付きすぎるな。朱に交わり赤くなるように、邪神に囲まれれば悪影響があるかも知れない……その実例がお前のすぐ近くにもいるからな」
「……ゑ?」
「……言い過ぎたな……忘れろ」
「いえ、忘れろと言われても……」
そうそう忘れられるものではない。ただ一つ分かることといえば、ぼくの周りの邪神から悪影響を受けるかも知れない、ただそれだけでした……
「……という事があったんですよ」
「いきなり『という事が』で始まりませんでしたか? ユウさん」
「まあ、端折って短くまとめますと……クラスのあの転校生さんにツァトゥグァさんとイホウンデーさんと一緒に居るのがバレました」
「そうですか……よく生きて帰ってこれましたね、『眷属狩りのサーシャ』に邪神関係者ということがバレたのに」
「……はい? 今なんか厨二病患者の戯言みたいな言葉が聞こえた気がしたんですが」
「察して下さい。沙耶に眷属をやられた邪神達が自分達に対しては手も足も出ないという嘲笑も含めて眷属狩りという渾名を付けたんですよ……あの子の潜在能力はおそらくまだ半分と現れていないというのに……」
「そうですか……大変ですね……」
正直、殺られるかと思っていたから、個人的にはその辺はどうでも良かった……眷属狩りじゃなくて眷属殺しじゃ駄目なのかとは思ったけど。
そんな事を考えた時、イホウンデーさんですらノックをしなくなったはずなのに、誰かが扉をノックした……そう、誰かが……
生徒というのはまず除外してもいい。図書室なら新しい方の図書室を使えばいいし、ましてや資料室なんて名ばかりのただの稀覯本の保管庫と化しているここに来る必要なんて全くない。
教師……というのも恐らく考えられない。どこから漏れたのか――もしくはツァトゥグァさんが意図的に流したのか――資料室は暗黙の了解で、委員長のツァトゥグァさんのぼくに対するカウンセリングという名目で使用されることになっているから教師も除外したほうがいい。
まあ、ここまでは邪神及び邪神の関係者を除いたパターンだ。そして、この条件から考えられるノックの主、それは……
「30点です」
「なんなんですか? なんでさり気なくかつ当たり前のように心が読まれてるんですか?」
「ツァトゥグァは一般に温厚な邪神というイメージの邪神なので、眷属狩りの沙耶が直々に来る必要性が無いというのが一つです……もうひとつは、もし仮に攻めてきたというのならノックせずにすぐにずけずけと踏み行った方が早いというのが一つです……あ、最後に一つ……もう既にわたしがツァトゥグァという事は沙耶さんに伝えてあります」
「…………え~」
そのオチはあんまりじゃないですかね……(半ギレ)
「わたしの偵察を辞める代わりにわたしも非常時以外は動かないという事と、オススメのデートスポットを教えるという交渉をした結果、交渉は成立……不可侵条約を締結しました」
「それはそうと……外の人が半分キレてるみたいですよ? というかなんでカギを締める必要があるんですか?」
「……イホウンデーに古書を食べられたくないからです……イホウンデーを見張ってなかったら食べようとするので……」
まあ、鹿だから仕方がないね……馬鹿じゃないけど鹿だからしかたがないね……
特に理由もない駄洒落は置いておいて……ドアノブの部分のロックを外し、ドアを外側に開くと……そこにいたのは
「アダっ! ……アンタ何するの! アタシの顔に傷が……あら可愛い」
感情の上下左右が激しそうなお姉様が、右手で額を押さえながら立っていた……長くて綺麗な金髪、片目眼帯で……実際豊満であった……
ところで、感情の左右ってなんだろう?
「アタシはウルス! まあ、本名は長ったらしくて好きじゃないからこっちを名乗らせてもらうわ」
「浄化の精霊みたいな名前ですね」
「名前をもじっただけだから気にしないで。これ以上気にしたらアタシを嫁にしてもらうからね」
「あっハイ、分かりました」
嫁にしてもらうって……神なのにワケの分からない脅し文句だね……
「ウトゥルス・フルエフル……性魔術を司る神……本名も含めてこれで合っていますよね?」
「なんでアタシの名前をバラすのさ……? あとウルスって略称を使ってほしいんだけど」
「ところで……『孤立の女たち』の一団に関してのお話を聞かせてもらえませんか? 眠くない内に纏めて記憶してしまいたいので」
「…………はぁ……これだから仕事優先の頭がカチコチな輩は嫌いなのよ……まあいいわ、アタシが説明してあげる」
要約すると孤立の女たちの一派は元々はウトゥルス(略)……ウルスさん達を崇める魔女たちの集団だったらしいんだけど、いまやそんな名目は形骸化して……直球にいえばレズ、ふた♀好きの女性、男の娘好きの、魔女をもしくはその末裔を中心にした女性の集団になっているらしい。そして少人数ながらもかなりの数があるらしい。
「でもってアタシは孤立の女たちの教団の教祖兼巫女兼神様ってわけ、分かった?」
「はい、だいたいわかりました……あなたによからぬ趣味があることも含めて」
「よよよよからぬ趣味とは失礼ね! あああアンタは可愛い子に恋することが罪だと」
「シャングリラぁ!」
「ユウさんは黙ってください」
黙っていてと言われてぼくが黙ったらあっちゃんも苦労しないのにね……まあいいや、茶々入れはしばらくやめようかな。
「それで、レズビアンのウルスさんは」
「誰がレズよ……誰がレズよ!」
「入室直後の事をもうお忘れですか? 自然な流れでユウさんに対して言った言葉をお忘れですか?」
「可愛い子に可愛いって言って何が悪いの!」
まあ、確かに言われてみればそうかも知れない。若干貞操の危機を感じて興奮したけどね……押し倒される感じでやるのも嫌いじゃないし。まだ童貞だけど
「まあそちらは良いのです……問題は少し後の発言です……あなたはウルスという通称が浄化の精霊みたいだとユウさんが言った時、何と言いましたか?」
「………………」
無言でツァトゥグァさんから目をそらして、ぼくの方を見つめた……ぞくぞくするね、捕食者に見つめられるなんて
「わたしの記憶が正しければ、『これ以上気にしたらアタシを嫁にしてもらうからね』と言っていましたよね?」
そういえばそんな事を言っていたような言っていなかったような……
「この子は男でしょうが!」
「では男の娘スキーのウルスさん」
「間違いじゃないけどその言い方はやめなさい」
「ウルスさん、風の噂で聞いたのですが……あなたの母乳には人を狂わせ、変異させる魔力があると」
「調べさせて下さいって? お断りよ!」
「飲ませて下さい。というか吸わせて下さい! ぼくがなんでもしますから!」
「嫌よ」
「これ以上狂ったらどうなるか分かったものじゃないので駄目です」
「えっひど」
まあ、人として終わっているくらいに駄目なのは自覚してるけどあまりにも言い過ぎじゃないかとは思う。
そして、多分これ以上の性癖となると、人外萌えの極地までたどりつくと思う。つまり、触手単体で(略)
……うん、やっぱり駄目だよね……いまのぼくでもたどり着けない「変態」の極にたどり着くなんて事は……駄目だよね……
「そんな獲物を見つけたグールのような足取りで近づいては駄目です」
「うぅ~」
「ちょいとツァトゥグァさん? それはアタシが決める事じゃ……」
「……はぁ……じゃあ任せました」
「ほら、こっちに来なさい、アタシが慰めたげるから」
「ありがとうございますウルスさん!」
ツァトゥグァさんが半目で睨んでいるのは無視して、ウルスさんの上に座る……身長は150ちょいだし体重も結構軽いから、重くは無いはずだ。それどころか手足が細すぎるからか、ツッコミに関してはサディストで容赦なくフォークを投げそうなあっちゃんでさえぼくに対しては言葉だけのツッコミしかしないくらいだ。
……少しだけ悲しい事に、ウルスさんの身長が少し……具体的には20センチくらいだけ高いから、ぼくとしては嬉しいけど悲しい状態になっている……毎日のように牛乳飲んでも背が伸びなかったし……
「……ユウさん、ちょっと用事を思い出しましたのでわたしはお先に失礼します。……間違っても人としての一線を越さないように気をつけて下さいね?」
「一線って?」
「邪神と交わる事です。間違って邪神との子ができようものなら、ダンウイッチの二の舞ですから……」
「……何故かは分かりませんけど、初めて言われた気がしませんね」
「奇遇ですね、わたしもあなたに言ったのは初めてのハズなのに前にも一度言ったような気がしてきました……」
まあ、その一度はエイボンなんだろうけどね……ところで、ぼくと同等の変態だったらしいエイボンって、一体何者なんだろうね?
「もしもし……わたしです、ツァトゥグァです……はい、作戦通りウトゥルスさんは足止めしておきました……では、あなたは作戦通りに…………ああ、そうですか、だからウトゥルスさんは……はい、ところであなた達とウトゥルスさんにはどんな因縁が…………あっはい……わたしにとってはもはやしょうもないとしか言いようのない……はい、あなたにとってはそうではないのですか……はい、あなたは作戦通りに…………はい、どうせわたしは邪魔だったので抜け出して暇だったところで……はい、それとなく誘導……分かりました」
相手方の状況を聞き終え、ツァトゥグァは電話を切り、荷物を持ち外へ向かった……
すべてはわたしを保護してくれている彼女のため……そして、わたしにとって大切な、ユウのために……
「そういえば、いいんでしょうかね、ツァトゥグァさんは……こんな虎と狼を一緒の檻に入れて一晩放置するような……率直に言って最悪の状況を作り出すような事をして……」
「まあまあ、それだけ他の用事が忙しかったんじゃない? あと、アンタはデリカシーというものを理解しなさい」
「デリバリー?」
「デリしか合ってないわ! ……はぁ、やっぱりアンタといたら疲れるわ」
「じゃあ疲れるけど気持ちいい事を」
「それはまたのお楽しみよ」
またのお楽しみということはいずれヤるみたいだ……やっぱりいいや
「やっぱりやめにしましょう」
「え……なんでそんな急に手の平を返したのよ……?」
「いずれ分かりますよ……それはそうと、暇ですね……」
「そうかしら? アタシは全然問題ないけど?」
ぼくの頭をナデナデしながら、ウルスさんは言った……モットハヤクナデナデシテー?
「むふ……ふぅ……」
「気持ちいい?」
「ナデナデシテー」
「よしよし……」
「モットハヤクナデナデシテー」
「よぉしよしよしよしよしよしよしよしよし」
「はぁっふぅ~ん……」
気持ちいい……たまにはこんなにマッタリした気持ちよさもいいや~……なんだか眠くなってきた~……
「すやぁ……はっふん! ……寝てませんよ、ええ」
「寝ても良かったのよ?」
「じゃあお言葉に甘えますね~……」
暖かくて気持ちよくてマッタリできてリラックスできて…………すやぁ……
「…………寝たわね? ……そ~っと」
「……っもるすぁっ! ……なななナニをするつもりですか!」
ナンデこの人は寝てるぼくの制服を脱がしてるんですか!? 痴女なんですか変態なんですかそうですか……姑息な真似ですね(無言のドン引き)
「ふぅん、結構うぶなの……童貞……よね?」
「ドドド童貞ウォーリアーちゃいますがな!」
「それ、完全に自供したようなものよ……あなた」
「くっ……!」
体力が回復するまでの2ターンぐらいはほとんど動けないかな、これは……?
「さぁて、こっちはどうかしら?」
「……あっ……っ」
「じゃあこっちにしようかしら……」
「……っ……っ!」
「フフ……」
動けないけど、動きたくないけど動かなかったらこのまま色々と搾り取られる……でも動けないのに動かなくちゃ……!
「……それで、あなたたちはお楽しみだったわけですか……」
「はぁはぁ……最後まで……気持ちよかった……です(小並感)」
30分後、様子を見に来たツァトゥグァさんによって戦いは終わった……ウルスさんの手によって――比喩表現的にも愛撫的にも――ぼくのライフはアトランタルを12回ほど投げつけられたくらいに減少した……古参に対して分かりやすく言うなら、ラーの効果を使用したマリク並みに減っている。
そんなぼくを椅子に半分放置して、ツァトゥグァさんはウルスさんを正座させて、説教をしていた。
「まったく……あなたは何をやっていたんですか……? まったく……あなたを信用したわたしが馬鹿でした……よからぬ事をやろうとするのを止めてもらうつもりでしたのに、あなたがよからぬ事をやってどうするんですか……」
「あ……アタシは悪くない……! ユウが誘ってくるのが悪いのよ……アタシは悪くない……! アタシは悪くない」
「言い訳するようでしたら、今はデート中ですけど沙耶さんを呼びますよ? ……サーシャさんを呼びますよ?」
「くっ……」
沙耶さんを呼ぶと脅された結果、即行黙った……いったい過去に何があったんだろうか……?
「ユウが何か聞きたそうな顔をしてるから教えてあげるわ……過去にサーシャ……沙耶とアタシはある男(の子)を巡って争った仲なのよ……」
「アッハイ、そして沙耶さんのデートの相手が」
「ユウさんの察しの通り、彼女とウルスさんはある少年を巡って争ったりしていました……ほとんどウルスさんが一方的に」
「アンタは一言余計よ!」
「そして少年は沙耶を選びました……ウルスさんは眼中になかったらしいですが」
「…………ぼくで良ければお相手になりますよ? もちろん体のシャッフうにゃっ!」
「そんな言い回し普通の人に分かると思ってあるのですか? アニメ化したとはいえ昔の漫画ですけど……」
久々にツァトゥグァさんの物理的なツッコミを受けた気がする……ほとんど毎日のように喰らっているはずなのに……今日だって……そういえば今日は雑談猥談フェイズすらやっていなかったか……雑談フェイズはやってたけど、完全に聞き手をやってたし
……あっちゃん、なにをどうしたら幼女もとい少女2人も居候させていていて、更に双子の美少女を一時的に預かることになったんだろうね……確か、親がどうとか言ってたけど許嫁だったりしたのかな? 片方もらいたいんだけど。
「……ところでアンタの家の親は?」
「…………………………」
正直、触れられたくないところに、ウルスさん……いや、ウトゥルス・フルエフルの女性は触れた……ツァトゥグァさんは分かっているだろうけど、今日初めて会ったウトゥルスさんには分からないということは自分にも分かり切っている事だ……なのに、何故こうも説明したくないのだろうか。
「それはわたしが説明します。ユウさんのご両親は……その……」
「生きていますよ、父さんはちゃんと……ただ単身赴任に行っただけです。十数年前から」
「…………ユウさん、色々と言いたいことはあるのですけど、……まず父親は死んでいると聞いたような気が」
「嘘です」
サムズアップして自分至上かなり良い笑顔で答えた……まあ、十年以上も単身赴任で海外に行っているなんて海外に飛ばされたとしか思われないから仕方がないね。
「ところで、今日はアンタの家にはアンタしか」
「多分今日は叔母がいますけど……」
「…………(無言のチョップ)」
「…………(無言のガード)」
正直危なかった……叔母さんにガードレッスン(応用編)を受けてなかったらチョップ受けてモルスァって後ろに倒れてコートオブ後頭部を強打していたところだった……
まあ、後ろに倒れるのは確定事項だったらしいですけどね……
「…………痛いです」
「自業自得ですね」
スカートの奥のほうでツァトゥグァさんのBAGOON(隠語)が見えてるけど、あえて指摘するのはやめておこう。恥ずかしがる表情もいいかも知れないけど、今はこれ以上痛い目にあいたくないし。
ああ!そrってハネクリボー?