天の歌
1 目覚め
光がない。
俺は目が見えないのだろうか・・・・
いや、そうではない眼を開けていないだけだ。だが意識はあるのに目が開いていないのはなぜだろう・・・
そうか、体が眼を開くことを拒否しているのだ・・・
目を開けるとそこにはとてつもなく恐ろしいものがある気がするから、残酷な現実が待っている気がするから。
だが、俺は目を開けなければならない。
わからないから恐いのだ。人間というのは原始の時から形のないものに原恐怖を覚えるものだ、暗闇しかり霊しかり。
目を開き確かめなければならない・・・・そこに何があるのかを。
そこは、教室だった。
だが、俺の通っている高校の教室ではない。
俺は、まだ、自分が夢を見ているのではないかと疑った。
だが、そこは本物の空間で本物の時間だった。
そこに漂う木材に塗られたニスの匂い、黒板消しのチョークの匂い、掲示物に使われたシンナーの匂いは本物としか思えない。
俺は窓際の方へと目を向ける。
その、空間には放課後を思わせる,燃えるような赤い光が差し込んでいた
長い授業の後に訪れる優しく、懐かしい光だ。
その光の中には細かい粒子、埃のようなものが数多く浮かんでいた。
窓の外からも何か懐かしい音が聞こえてくる。
金属バットがボールを打つ時のカキンという音、サッカーボールが蹴られる音、誰かを呼ぶ女子高生の甲高い叫び声、どこからか、聞こえるたどたどしい楽器の合唱も聞こえる
だが、実際放課後のようだだった。
窓の外には、俺の通っていた高校の3倍くらいの広さのグランドが広がり、そのまた先にはテニスコートも何面もある。
この校舎は、グランドよりも一段高いところにあるらしく、見晴らしはとてもよい。
この学園はとてつもなく、広いようでどこからが敷地でどこまでが敷地なのかが区別がつかない、空には淡く赤い懐かしい光がこの世界を照らしていた。
「なんなんだここは・・・・・」
そうつぶやくと、俺は肩に何か冷たい感覚がした。
なにか、素肌に氷を押し付けられたような感覚、痛いような冷たいような・・・
そして俺は、後ろを振り返りそれを目撃してしまったのだ。
それを・・・・
「それ」をなにかと尋ねられればわからないとしか言いようがない。
もちろん、こんな夢か現実かわからないような空間にいれば、見るもの触れるもの全てが得体のしれないもので謎だらけなのは当然であるから、わからないというのも仕方がないことだとおもうが、だいたい姿かたちによって分類くらいはできるだろう。
例えば、今俺は高校の校舎のようなところにいて、教室の窓のようなところから、グランドのようなところにいる生徒のような人のようなものを上から見ていたと。
しかし、今俺の後ろにいる「それ」はそれすらもできない。
「○○のようなものといった」適当な分類づけすらできなのだ。
ただ、そこには闇があった。
だが煙のような黒煙でもなければ、ウミウシのような黒い物体ではない。
そこだけまるで空間が陥没したような、その空間だけ光も何もかも人型に取り除かれたようなものが現れたのだ。
ブラックホールは光を吸収してしまうため、そこだけぽっかり穴が開いているように見えるそうだがたぶん、ブラックホールを間近で見たらこんな感じだろう。
だが、恐らくここは宇宙空間ではないだろうし、ブラックホールがこんなに間近にあつたら俺は何百メートル単位で離れていたとしても吸い込まれて消しゴムほどの大きさに圧縮されてしまっているだろう。
だが、「それ」が何であろうがなかろうが今「それ」は俺の後ろに存在しているのは事実で、実際それは今俺に触れている。
それは勘であり
直感であり
反射であり、
本能だった。
俺は即座にそこを離れる。
一歩目から全速前進で地面を蹴る。
もちろん、俺の勘も直感も本能も当たっていた。
俺の過去位置にあったはずの窓際に設置されている、転落防止用の鉄パイプが消滅していた。
いや「それ」が
「手のようなもの」を使いそれを呑み込んでいたのだ。
「それ」が鉄パイプを呑み込んでいるのを確認すると、俺は全力で踵を返し、教室のドアを開き廊下に出る。
「廊下を走るな」とかチラシが張っているが知ったことか!
人生には校則なんかよりも大切なことはあるんだ!
例えば命とか命とか命とか!
よせばいいいのに俺は後ろを見る
うっかり見てしまったのだ
暗闇の中に口みたいなのがあるのが・・・・・
気のせいとかでは絶対ない
しかもその口がニヤッと口を開けたのを。
俺はそれを見て手をパーにして足を大きく上げてピッチを上げる。
今なら100mで10秒台が出せるんじゃないかというくらいスピードを出した。
俺の前には更なる障害物が待ち構えていた。廊下の角である。
このスピードで曲がり切れるかどうか…?
こけたりバランスを崩さないだろうか…?
そんな不安が胸をよぎったが・・・・
「うおおおおおおおおおお」
俺は叫びながら重心を右に傾ける。
体感的には右手はほとんど地面に触れるか触れないかくらい、右頬も地面で削る勢いで体を傾ける。
自分でもなぜバランスを保てているのかわからないほどの体勢から、バランスを取り戻しカーブした先を走り抜けようとする。
・・・・・ だがその先に「それ」が待っていた
カーブしたその先には、真正面「それ」があった。
人型の暗闇が・・・・
まるで待ち伏せていたかのように
まるで罠のように。
この体勢じゃ方向転換なんてできるわけがない。
だってスピードが出過ぎてほとんど前のめりに突っ込んでいるような体勢なのだ。
喰われる・・・・
このわけのわからないものに、わけのわからないまま・・・
自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からないまま・・・
「おーい!恵理子、出せるか?」
「出そうと思えば」
そんな会話かどこからともなく聞こえてきた。
最初は走馬灯かなにかだと思ったが、そもそも恵理子なんて名前の人物は記憶にない。
だが、その声を聞いたと同時に俺は閃光と共に吹き飛ばされる。
気づくと俺は自分が壁に叩きつけられたことに気付く。
何の受け身も取れなかったため、もろに背中を打ちつけすべての臓器特に肺が縮みあがり全く息ができない。
立ち上がろうにも全身に痛みが走り、生まれたての小鹿のような状態でまったく立ち上がれないのだ。
そして、ようやく臓器のけいれんが収まり俺は目の前にある空気を必死に送り込んだ。
なんとか、意識を外の世界に向けようと視界の焦点をぼんやりながら真正面に向ける。
そこには、さっきと変わらず「それ」がいた
だがさきほどと異なるのは俺の視界のすぐそこに人がいたのだ。
しかも二人も。
だが二人は「それ」の目の前にいる。
このままでは、やっとの思いで巡り合えた二人が「それ」に呑まれてしまう。
危険だということを早く2人に教えなければ「そいつは何でも呑みこんじまうんだ早く離れて!」と
だが、まだ体に酸素が足りないらしく口を開けても渇いた喘ぎが漏れるだけ。
声なんて出せそうもない。
だが俺はこの目で見たのだ、目の前にいる女がその人型の物体の喉笛を片腕一本で掴んで宙に吊り上げているのを。
あれに重さがあるかどうかはわからないが、あんな細腕で軽々と持ち上げている姿には微妙な違和感さえある。
そして、その女は腕を最高点まで振り上げると、こうつぶやく
「王者の風格」
そう呟くと、「それ」はまるで液体が沸騰してるような様相で、膨張しだし最後には声にもならない断末魔を上げ消滅した。
一つの事象が終わりを告げ静寂が訪れる。
余計な余韻の類などはまったくない。
そこにあるのは1人の男と2人の男女だけ。
そして、俺に背中を向けていた、そのうち一人の男が振り返り俺の方を見る。
男の方は、背丈は俺とそれほど変わらないかちょっと大きいくらいだが、背中に身の丈を優に超す長槍を預け、その精悍な顔には飄々とした笑みを浮かべている。
その端正な顔の男からは制服の着崩し方、首にかけたアクセサリーの類、髪の長さや髪の癖の付け方からちゃらちゃらとした印象を覚える。
「2年ぶりくらいじゃねあんなでかいヒトガタ見るのは、しかも旧校舎に。
さらに新入生君が、現体した場所もよりにもよって旧校舎ときたもんだ。
俺は何か運命みたいなものを感じるねーか?」
その男はそう高く朗らかな声でもう一人の女に飄々と尋ねる。
そして、女はその男が振り向くのにワンテンポ待つような感じで俺の方に振り向きながら答える。
「ちょっと、うちの連盟では、運命だとか宿命だとかそういった類の発言は禁止よ
忘れたの?
罰金として私の口座に後で1万円振り込んでおくように」
もう一人の男は慌てた様子で弁明する
「ちょっと!待てよ、
今のは恵理に話しかけんたんじゃなくて、新入生君に話しかけたんだよー!
だって、新入生君はここのルール知らないだから不安じゃん?
だから女の子を口説く要領でフレンドリーに話しかけただけなんだよ。
ノーカンだよノーカン
「ノーカンなわけないでしょ。
それにあなただけ特別扱いしたらほかのみんなにも示しがつかなくなる。
ルールってそんなものよ。」
「いや、マジヤバいんだって
次の奨学金の振込いつだっけ後10日だよ10日?!
後10日9円でどうやって生きていけばいいんだよ。
9円しかないから何も食えん(9円)
なんちゃって・・・・じゃねーよ!
9円って・・・・定価10円のうま味スティツクも買えねーよ」
「うま味スティック10分の9個くださいって店員に言えばいいじゃないの?」
「どこの世界にうま味スティック10分の9だけ売ってくれる店があるんだよ!?」
二人の男女が口論している中に気後れした感じで
「あのー、まだ時間かかりそうですかねー?」
俺が尋ねると、女生徒が俺の方を見る。
さっきまで西日が強かったため顔に影がかかってよく見ることができなかったが、角度が変わりその顔が現れる。
髪を結んでいる真っ赤なリボンとは対照的に、その容姿は、清廉な氷を思わせる美女だった。
年頃は、俺とそう変わらなく、思春期を終えたばかりの瑞々しさを残しているが、そのきつい眼差しからは意志の強さ、揺るぎない自我が感じられる。
俺の顔を見ると、女生徒はさっき男子生徒に向かって見せていた説教じみたきつい表情から一変して穏やかな表情で俺に微笑みかける。
女生徒は、かがみこみ、ローアングルから俺の顔を覗き込む、その表情はさっきのそれとは違い、いたずらっぽい少女のそれである。
「君、新入生?」
その口調はさっき男子生徒と口論の時と比べるとずいぶん和らげられており、面倒見のいい大人のお姉さんのような語調だった。
しかし・・・・
新入生?・・・・
どういうことだ?
俺は高校2年生で
季節は夏で
曜日は火曜日
日付は8月10日
なのに、新入生?
気が付けば、見知らぬ教室に立っていた。
そして、わけのわからないものに襲われ危うく食われそうになったのをわけのわからないまま目の前にいる2人に助けられて・・・・・
そして、そもそも俺は俺なのか・・・・・?
俺が今俺と思っているのは全くの他人という可能性はないのか?
「あなたの言いたいことはわかるわ、言わなくてもわかる。
ここはどこで、なぜあなたはここにいて。そして自分は誰なのかまあそんなところでしょ」
女生徒は意味深な微笑を浮かべながら、俺の心中をいとも簡単に言い当てる。
自らの心を見透かされているのではないかと考え、俺は一瞬当惑したが、よくよく考えれば、俺のような状況に立たされれば、100人中100人そんなことを考えるのだから言い当てられても何もすごいことはないとすぐに気付く。
「けど周りの状況がさっぱりわからないあなたでも、一つくらいは自分に関する一番大切なことには気づいているんでしょ?」
「制服がいつもと違う。」
「それも確かだけど、もっと大切なことに気が付かない?
あなたのアイデンティティ的なことで」
女生徒は掛け算の概念がわからない子供に必死にその概念を教えようとする母親のようにもう一度問い直す。
考え直すためにいつものくせで頭を掻こうとする
「あれ・・・・・
俺、もしかして髪切った?」
「たしかに、髪は大切だよ!髪型一つで人の印象がらりと変わるしねーー
でも他にない?!もっと本質的な意味で?!」
本質的?・・・・
俺は最後の記憶を辿ってみる
はっと俺は息をのむ。
「記憶がない・・・・?」
「惜しい!、でもようやく頭が温まってきたみたいね。もっとあなたの存在を揺るがすような事実よ。」
俺は不吉な胸騒ぎを覚えた。
今俺の考えている仮説はできるだけ最後の最後で答えたい。
そんな俺の動揺を見て、哀れに思ったのか、女生徒は俺の両手首を優しく握り、穏やかな表情で、俺に問いかける。
「あなたの名前は?」
「白紙段」
「そう…どんな漢字で書くの?」
「白い紙に階段の段」
「じゃあ、これどう感じる?」
そういうと女生徒は俺の手の甲を優しくつねる。
それほど痛くはないが、
「痛い」と答える。
「じゃあ、これは?・・・・」
そういうと女子生徒は俺の頭に腕を回す。
ちょうど、俺の顔は女子生徒の谷間に押し付けられたような状態になる。
俺はどうしていいかわからず下から女生徒の顔を見上げる。
だが、女生徒は俺の頭をさらに締め付け、俺の顔は両胸にのめり込むような形になる。
その両胸は彼女のほっそりとした体に比べるとかなりしっかりしていて柔らかった。
そして、彼女からは何か懐かしく暖かい匂いがした。
「どんな感じがする?」
「懐かしくて温かい」
彼女は俺の答えを聞くと、俺の頭を優しく抑えていた腕をほどき元の体勢に戻った。
「あなたは死んでいるの・・・」
彼女は申し訳なさそうにそして硬い声で答える。
しかし、俺は言われなくてもそんなことは薄々気づいていた。
確かに認めるのは勇気のいることだが人に言われてみると案外現実はあっさりと受け入れらるれた。
「わかってる。だからそんな顔はしないで俺は大丈夫だから」
「そうあなた強いのね。自分の死を受け入れるなんてなかなかできないわ。
ますます我が連盟にスカウトしたくなるわね。、ねえ武川君」
そういうともう一人の男子生徒に微笑みかける。
武川と呼ばれた男子生徒は、「そうかあ?俺には普通の奴にしか見えないけどな?」
と怪訝そうに答える。
・・・・・・「おいこら武川スカウトの基本は褒めて褒めてほめまくるが常道だろうがこのアホ」と女子生徒が武川の頭をどついているのが見えたが知らないふりをしよう。
「ところでここはどこなんだ、
なぜおれは死んだのに思念できるんだ?
そしてあなたたちは誰なんだ?」
納得のできぬ俺の問いに杏奈は頷く。
「質問が多いわね、白紙くん
まあいいわ逆にここどこだと思う?」
質問に質問で返されたことに疑問を持ちながらも、俺は考える・・・・
俺は暫し眉を寄せてから独り言を言うように答える。
「俺が死んでいるというのならここは地獄か天国なんじゃないかな。
もしくは三途の川というのも考えられる。」
引っかけ問題にそのまま引っかかってしまったできの悪い生徒を見るような教師のような表情で杏奈は溜息混りに首を振る。
「月並みね白紙くん
でもここには、血の沼もなければ、罪人の腸を引き裂くケロべロスもミノタウロスもいやしないわ。
地獄にしてはちょっと刺激の足りない場所だと思わない?
かといって、天国にしては生きてた頃の世界とあまりに変化がなさすぎるし。
さあどこだと思う?」
そういわれても、俺には分からない、死んでいるのにもかかわらず天国でもなければ地獄でもない禅門問かなにかだろうか。
顎に手を添え、思念に耽るがいつまでたってもそれらしい答えは生まれなかった・
恵理にたしなめられにやにやしながらこれまで沈黙を守っていた武川がここにきて口を挿んだ。
「そろそろ教えてやれよー班長
俺でさえ分からなかった問題が解ける奴なんているわけないじゃーねか~」
「えっ?あんた以外は全員答えたわよ?」
とりあえず武川というこの男子生徒がこの世界ではアホ扱いされているのを理解しつつも、この質問に答えなければ俺もアホ扱いされるであろうことにプレッシャーを感じる。
「あと5秒」
突然杏奈がタイムリミットを言い出す。
せめて1分前くらいに言えよと心の中で突っ込む暇もなく、頭をフル回転させると何か思い出したかのように口が独りでに動く。
「れ・・・・煉獄?
ここは煉獄じゃないか・・・・?」
武川が自分と同類の人間があと一歩のところでできたチャンスを失い残念そうな顔をしている。
恵理は微笑混りに俺の瞳を真っ直ぐ見据え
「正解―煉獄へようこそ」
新たな友の誕生をここに祝福する。
そう俺は煉獄に来たのだ。
「ようやく理解してくれたみたいね。
じゃあ、やることは決まったわね、私たちの連盟に入るの!」
恵理は腰に手を添えて仁王立ちのポーズでそう宣言したが、経るべき段階が何段もすっ飛ばされた気がする。
「おいおいちょっと待ってくれよ。
そもそも、煉獄って言われったって天国と地獄の間の霊界ということしかわからないし
それにあんたたちも、幽霊かなにかなのか?」
「ちがうわ、人間よ」
「じゃあこの中で俺だけが幽霊だって言うのか?」
「違うわ、あなたも人間よ」
「うーん、よくわかんねーな
じゃあ、あんたたちも死んでるのか?」
「そうよ、死んでいるわ」
「死んだ人間を人間と言えるのか?
そういう場合幽霊じゃないか」
「誇りを持ちなさい白紙君。
人間は死のうが死なまいが人間よ。
どんな苦難、試練を前にしても一人の人間であることを忘れない。
例えそれが神の前であっても、人間は人間なのよ。
それ以上でもそれ以下でもない
それがこの世界で生きていく上で一番大事なことなのよ」
この恵理子という女生徒は独特な人間観を持っている。
だがその思想に少しの揺らぎもなければ迷いもない。
その表情からは自分は死んでいるという悲壮感は少しも感じられないし、それどころか
その大胆な思想からは揺るぎない自負と威厳が感じられる。
その堂々たる態度に押されながらもともかく順を追って質問していく。
「じゃあ、煉獄って具体的にどんな場所なんだ。
どんな人間が送られ、どんな暮らしを送っているんだ?」
「武川君説明してあげなさい。」
恵理の命令を受け、それまで、携帯端末のようなものを弄りながら傍らに控えていた武川が説明を始めた。
「えーっと、旧教の教義によると天国は生前に善い行いを行ったものが行き地獄には悪い行いを行ったものが行くと言われているんだ。
そしてその間に存在するとされているのが煉獄またの名を浄罪界という
永遠に罰を受け続けるべき罪を犯した地獄の住人に対して、煉獄の住人は罪を犯したがその罪が軽い者、情状酌量のできる人間が行きそこで罪を浄化し天国に行くとされているんだよ。
わかりやすく言えば、煉獄は現世で言う刑務所みたいなものなんだよ」
武川の説明に一定の理解はしたものの、納得はしきれないが自分なりにアウトプットしてみる
「ということは、この世界に住む者たちは何かしら背負うべき罪があり、そしてそれをここで償っているというわけか・・・・・・
じゃあ、天国や地獄も存在するのか?」
そこで、恵理が口を挿む。
「もちろんあるわ。
そしてそこには人も存在している。
天国にも地獄にも」
「地獄に行くような人間はどんな人間なんなんだ。」
「そうねえ、相当の罪を犯さなければいかないわ。
例えば、歴史に残る虐殺者、異端者、無差別殺人犯、盗人、裏切者、肉欲に溺れたもの
など言い出したらきりがないんだけど、煉獄行きか地獄行きなのかはを決める時にはもちろん情状酌量があるわ。
まあそれは神様次第だけどね。
でもその中でも一番重い情状酌量の全くない罪があるの。」
俺はポツリとつぶやく
「神への反逆・・・・」
「あらあなた呑み込みが早いわね。
話し相手が吸収力のある人間だと教える方も教えがいはあるわ。
ねえ武川君。
あなたが現界した時この話題に移るまでどれくらいかかったけ?
40分くらいかかったような気がしたけど」
皮肉めいた言い回しで武川に話を振るがおれは間髪を入れずに質問する。
「じゃあ、あんたたちの言う連盟という集まりの目標としては自らの罪を償うことで自身の魂の浄化をして、そして天へと到達することというわけなんだよな」
「違うわよ」
俺は予想以外の恵理の答えに呆気を取られ、目を丸くする。
「えっ、?
ここは煉獄で罪を償う場所で、罪を償えば天国にいけるんじゃないのか?。」
「よく考えてみなさい白紙くん
別に贖罪がしたいのなら、別に私たちは団結して連盟なんて結成しなくても、
この学園で普通に学園生活をして、年に数回訪れる試練を乗り越えられれば無事に天国に行けるわ。
でもね、私たちの目指すところはそこではないの」
「それはいったい・・・」
「神への反逆よ」
「なんでそこで反逆するんだよ、
高校生にもなって反抗期かよ。
普通はそういう活動していつ奴を尻目に見ながら「なにあいつ・・・・あんな暑苦しいことしやがってバカな奴だなあ」と冷めた目で見るのが普通の高校生っていうもんじゃねーのか?
別に適当に学園生活過ごして天国に行けばいいじゃないのか?」
「確かに、神が本当の意味で善良で平等であると仮定するなら
罪を償い天国に行く、それは道義的に正しいかもしれない。
でも、それって人生と言えるかしら?
まあ死んでいるんだけどね。」
その時チャイムが鳴り響き、校舎の電燈が一斉に消える。
空き教室の天覧からのぞき見える時計は午後7時のちょうどを指している。
窓から見える空も燃えるような夕焼けから静寂の青黒い空に様変わりしていた
「あっ!完全下校の時間だわ
この話しだすと長くなるから今日は終り。
順序がおかしいかもしれないけど自己紹介させてもらうわ。
私の名前は伊達恵理子 あだ名はそうねーだてえりって呼んでくれたらうれしいわ
でもこのあだなどうにも言いにくいのが玉に瑕でこのあだ名で呼んでくれる人がとっても少ないの
だから白紙くんに読んでそう呼んでくれるとうれしいな
そして肩書としてはこの学校の非公認団体通称「逢魔連盟」の代表をさせてもらっているわ。
でも、無理やり私たちの連盟に入らせようとは思わないから、1週間後にあなたの答えを聞かせてちょーだいね」
そういうと恵理子は踵を返し、小走りで走り去ろうとするが、段が一声かける。
「あ・・あの・・だてえり!
、まだこの世界のこと半分も理解できてないけど・・・・
、今日は助けてくれてありがとう」
恵理子はそのことに不思議そうな顔をしたかと思うと、これまでにない笑顔を浮かべ
「かぁ・・可愛げあるじゃない志奈積君
実は初めてなの
だてえりって呼んでくれたの!」
そういうと、段のちょうど下前辺りに移動したかと思うと、段に「ちょっと目線下にしてくれる?」と言う。
指示通りに下を見ると、恵理子は制服の首元を引っ張っていて、そこからは恵理子の下着と少し大きめの胸がちらりと見えていた。
「はい!これは呼んでくれたお礼!
じゃあね!」
そういうと恵理子は小走りで、暗闇へと消えていった。
俺は武川だけが暗い校舎の中に取り残された。
一呼吸静寂が漂ったが、段が先に武川に話しかける。
「帰ると言われても俺はどこに帰ればいいんだろうか武川くん?」
「そこんとこは大丈夫この学園には学生寮があるからそこで寝ればいい。
俺が案内してやるよ。」
そう言われ段は武川に導かれて暗い廊下を歩いていく。
「そういや武川くん、って下の名前はなんていうんだ?」
武川はどこから取り出したかわからないアイスバーを頬張りながら答える
「武川信綱。
下の名前はゴロが悪いから武川と呼んでくれ
呼びやすいからお前のこと段って呼んでもいいか?」
こんなフレンドリーな笑顔を見せられては断る理由もなく。
「ああ、いいよ、もちろん!
段って呼んでくれ
それにしても、
武川信綱って・・・・
戦国武将みたいでかっこいい名前だな
俺の名前は名字は珍しいと思うんだけど、それに対して名前が平凡過ぎでなんかバランスが悪いんだよ。]
おれももっとカッコいい武将みたいな名前がよかったなあ・・・・」
「いやいや、段って呼びやすくていい名前だと思うぜ、俺なんてなにぶん名前がよびにくくて親兄弟くらいしか名前が呼ばれねえだから。
逆に太郎みたいに平凡すぎずちょうどいい個性があって、かといって奇抜すぎず呼びにくくない名前だ。
段!いい名前じゃないか」
「そういや、武川のところの連盟長さんに胸の谷間見せられたんだけど
やっぱり、団長さんの犯した罪ってエロい方面なのか?」
「いやいや違うよ。
あの人が犯したのは・・・・・
ちょっと待て・・・これ言って良いんだろうか?
段はまだ一応部外者だからだめなのかな?
うーん 言ったら、怒られそうだから、ノーコメントで頼むわ
でもエロい方面ではないのは確かだから
、そこんとこよろしく
あれはたぶん照れ隠しだろうな。
ここ最近連盟長のこと名前で呼んだ人間なんて俺とそのほか数名
以外いなかったから、たぶん連盟長なりにうれしかったんだろうな
ところで背負っている罪なら教えてやるぜ
聞きたいか?」
「言ってもいいのか?」
「ああ、いいのいいの
こう見えてもおしゃべり大好きだし。
親友同士で秘密は一切なくすべきとまでは思わないけどこういうことは後で残しておく方がややこしくなるもんだから」
心配しなくても君はどう見てもおしゃべりだしもう親友扱いなの!?と心の中でツッコミを入れながら頷く
「そうだな俺が犯した罪は怠惰、嫉妬、殺人、淫蕩、傲慢、強欲、傲慢だ。この3つだ」
―――――えっこいつ人殺しているのか、こんなフレンドリーな感じなのに?
殺人鬼なのか?
「おっ勘違いしないでくれよ
殺人というのはまあ事故みたいなものだったんだよ」
「いや、それ犯罪者の言い分じゃねーか!」
「ちょっと落ち着いて話を聞いてくれよ、
これは生前の話だ。
18歳の時俺はある女の子にフラれちまったんだよ、それでやけくそになって家で酒を浴びるように飲んでたんんだよ」
「その時点で犯罪じゃねーか!」
「いやいや未成年飲酒は犯罪じゃねーよ違法なだけだ。
それにみんな飲んでるって
まあそんなことはどうでもいいだけどな。
もうそのときべろんべろんに酔っちまってなもう自分でも意識あるんだけどもうなにしでかすかわからない状態さ。
例えるなら夢の中さ。
夢の中なら現実なら絶対にしないような行動を起こしてしまうことがあるだろ。
それでな、なぜだがおれは浣腸がしたくなったんだよ。」
「カンチョウ?浣腸ってあの浣腸か?
尻の穴に薬を入れるやつだよな。
なんで浣腸がしたくなるんだよ」、
「いや、おれもわからないんだ。
でがそのときなぜか浣腸したくなったのは事実なんだ。
それで、ふらふらになりながら家中浣腸一つのために探し回ったんだ。
でも、どうやっても見つからない。
途方に暮れた俺はあるものが床に転がっているあるものを見つけたんだ」
そこで一呼吸置いて、段の顔を見る
「聞きたい?」
「聞きたい」
俺にはここからどう殺人を犯すことになるのかまるで見当がつかないがきっとものすごいストーリなんだろうなと息をのむ。
「ウオッカだよ」
「はっ?」
「ウオッカ」
「ウオッカってあのロシアの酒のウオッカだよな?
やたらアルコール度数の高いと言われている?」
「そう。
そのウオッカで浣腸したらアルコール中毒になって死んで、それが自殺とつまり自殺と見なされて殺人の罪を背負わされたんだ。」
「はっ?」
「だからウオッカで浣腸したら自分で自分を殺したと天界に審判されちゃったんだぜ!」
段は一呼吸おいて、今日は星がきれいだなあといった感じで窓の外を眺めながら、武川に問いかける
「武川君」
「なんだい」
「お前アホだな」
「褒めるなよー」
「褒めてねーよ、
つーかウオッカで浣腸で死亡って・・・・
その情けない死に方恥ずかしくないの」
「その感情がねえから、こんなところにいるんだろ!
そんな感情一欠けらでもあったら天国にとっくの昔に行っているわ!」
なぜか、俺は逆切れされてしまった
アホな人に逆切れてしまった。
「そんでその淫蕩っていうのはなんなんだ?
痴漢でもしたのか?」
「いや、あれは小学2年生の時かな、俺は女の幼馴染がいたんだよ。
それで幼馴染がお飯事したいって言うんで公園でお飯事してたんだよ
俺が夫役で、幼馴染が妻役でな
それで、お飯事をしているうちになぜだかわからないが、信綱少年はあることに気付いたんだよ。
夫婦ならキスぐらいするんじゃねって
それで突然女の子にキスをしたんだ。
それが俺の淫蕩の罪だ
正直、あれは自分でもなぜあんなことしたのかいまだにわからねえ
しかし当時の俺はなぜだか夫婦→キスしなければならないって考えちまったんだよ。
でも正直、あれは時効的な意味でノーカンだと俺は思うんだけどな。
それにガキなんて大人から見たら、とんでもないようなことしでかすなんてよくあることだと思うし」
「ふーん。 まあしょうがねえか」
この武川という男どうやら確かにアホであることは事実だが、人間的には悪い人間ではないようだ。
それがわかって段はとても安心した。
しかし段は実は先ほどまでの一連の会話で何か違和感を感じていたそして、この瞬間その違和感の正体が突き止めた。
「なあ武川?」
「なんだ、段」
「お前さっきから生前の話ばかりしてるよな」
「それが?」
「生前のこと覚えているのか」
武川は不思議な顔をして
「覚えてるも何もここは己の罪を後悔そして懺悔することで罪の浄化を目指す場所だ。
生前のこと覚えてないのにどうやって自分の罪を後悔、懺悔そして償えばいいんだ」
「覚えてないんだよ」
「えっ?」
「俺には生前の記憶がほとんどないんだ」
俺と武川の間を風が舞う。
その風には何か予感めいたものが含まれていたことに俺はまだ気づくことができなかった。
それから段と武川は学生寮にたどり着き別れた。
なぜだか段の制服の内ポケットには、恐らく学生寮の部屋番号らしい数字が書かれた鍵が入っており、それを頼りに部屋を探す。
この学園の学生寮というのは山小屋の集まりの様だったか、その大きさもちろん小屋というよりはマンションに近かった。
それらは丘の傾斜地に生えているように、建てられており木を中心とした落ち着いた様相で坂道を上りながら見るその眺めはまるで外国の樵のコロニーを連想させられる場所だった。
傾斜地にあるというだけあって坂道を上るのには骨が折れたが、後ろを振り返り眺めるその遠望の風景は星々が輝き、その下のぽつぽつと光る学園の建造物の人工的な光のコントラストは絶景といっても決して大げさな表現ではない。
建物群に入るにつれて、段を包み込む、幻想的で温かい光の煌めきは強さを増していき、
学生寮から野菜を切る音、蛇口の水が流し台を叩く音、やかんが沸騰する音などの生活音が段の耳にも届く。
「・・・・白鳳館のT―230号室・・・あれかな・・・・?」
そして、丘の上の一番高いところ、そこに白鳳館があった。
白鳳館もほかの学生寮と同じく木を基調としたつくりで、その大きさはほかの学生寮と比べ小さくアパートほどの大きさだった。
その建物の入り口の脇に設置されている石碑でここが白鳳館であることを確認し、その門をくぐるとそこは吹き抜けだった。
緑色のソファが数台と、大きなテレビが一台その吹き抜けのロビーの中心に円形に設置されており、広間の脇の区画では男子生徒が、プリントを丸めて作った紙の野球ボールで
キャッチボールをしており、風呂上りらしき髪を濡らし、浴衣を着た女子生徒3人が廊下から楽しそうにおしゃべりをしながら歩いてくるのが見える。
そのテレビ、電源はついているのだが、煉獄にもテレビ放送はされているのだろうか?80年代のトレンディドラマが放送されていた。
見知らぬ顔が入ってきたからだろうか?俺がロビーに入っていこうとすると、いったんおしゃべりが止まり、まさにしーんとしたが一呼吸おくとまた女生徒達は会話を再開し、
男子生徒たちもキャッチボールをだらだらと再開した。
。
段は吹き抜けのあるロビーを後にし学生たちの個室がずらりと並ぶ廊下に出た。
個室のドアの横には、部屋番号と名札が張り付けられておりその名札から、この学生寮は基本2人部屋だということがわかる。
壁に貼ってある、寮内地図によると俺が目指すべき個室は、2階の一番端の部屋の様だ。
廊下側からの窓は山肌側にあるので、恐らく、個室の窓を見れば、この世界を一望できるだろうと期待する。
段は階段を昇る。
――――この学生寮は2人部屋の様だが、俺とこれから寝食を共にする人はどんな人だろう?、武川のようにフレンドリーで話しやすい人ならばいいのだが・・・
段は2階の廊下の端から2番目の部屋を前にする。
驚いたことに、ドアの横に貼ってある名札には俺の名前が書いてあった。
まだこの世界に来てから、2時間も経ってないのに、誰が書いたのだろうか?
まあ、死後の世界に来たのだから俺の常識に反したことなんていくら起きても不思議でないだろう。だからこんなことで驚いているようでは先が思いやられるなどと自分に言い聞かせて深く考えないことにした。
そして併記されているルームメイトの名前を見る。
「・・・・・我喜屋伊吹?
ガキヤと呼ぶのかな?
珍しい名字だ
聞いたことがない」
そして段はノックしてドアを開ける。
初対面の人と接するときには第一印象が一番大切。
このときにぼそぼそと喋ったり、固まった表情で話すと、それだけで話しにくい奴扱いされちまう。だからはきはきと明るく笑顔で!
「ちわっーーす!
今日からお世話になる白紙段っす!
よろしk・・・・?」
ドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。
窓のカーテンから、月の光がわずかに零れていたが、その光が照らしだしているのは
窓の辺りだけだった。
俺は光を求める蛾のように、窓の方へと吸い寄せられる。
「なんだ?留守か?」
部屋の概観は暗くてよく見えないが、窓からは月に照らされたこの世界が一望できた。
周りは山に囲まれ、その山の下にはポツリポツリとこの学園の建造物が生えている。
段が眼をさまし、「あれ」に襲われた校舎もここからぼんやりとだが見える。
校舎の横にはもちろん馬鹿でかい運動場があるがそれだけではなくテニスコート、プールに陸上競技場まである。
運動場はナイター照明で照らされ、野球部の生徒たちだろうか?ここからではぼんやりとしか見えないがボールを追いかけまわしているのか見える。
段は暗闇の中で上着を脱ぎ、仰向けになる
同時にぴんと張っていた緊張の糸が切れたのか、堰き止められた水が一斉にダムから解放されるように疲労感がどっと全身に流れ込む。
目を覚ました時もちろん辺りは真っ暗なのであるが
・・・・なにか様子がおかしい。
この部屋には窓があってそこからは月光やその他自然光があるはずだった、だが
さっきまでとは暗さの質が違う。
段は窓があるであろう方向に首をまわしたが、そこには窓だけではなく
「なにか」がいた・・・
しかも3つも・・・・・・
その3つの影の後ろからは月明かりが僅かに漏れていたが部屋をその影の正体を照らし出すほどの明かりでない。
段は嫌な感じがする
段は夕方自分を襲ったあの黒い影を想起する。
そして次に枕元にも何かがいる。「いるだろうという」推測ではなく、「実際にそれはいる」と断言できる存在感だった。
暗闇の中から黒い影が浮かび上がり、それが段を見下ろしている。
それも、2、3個ではない5・・・?いや8はいる・・・
筋肉が硬直する。
段は反射的に起き上がろうとするが間髪を入れずに、その黒い影たちは段を締め上げる。
段の手足はその黒い影により締め上げられる。段は体をくねらせ、もがく。
この絶望的な状況で段の脳裏に浮かんだのは、この黒い影は夕方見た黒い影と同じなのだろうかという疑問である。俺は確かに夕方あの黒い影に触れられた。
しかし、その時感じた感覚は絶望的な、希望なぞひとかけらも残さず奪い去ってしまうような冷たさだった。
だが、今段の首筋に感じるのはどちらかというと温かく生ぬるい感触だ。
そこで段はこう思った・・・こいつらは人間では?
渾身の力を振り絞り、黒い物体の顔らしき部位を殴りつける。
その黒い影は吹き飛ばされとまでも言えなくても、その衝撃をもろに顔面に受け、仰け反った体勢になる。
そして、段はその隙を狙い、その影の間を縫うように通り抜けドアの方へと全力ダッシュしほとんどドアに激突する勢いでこの部屋から脱出しようとする。
そして廊下に飛び出すと、その勢いで足がもつれて顔から床に転倒してしまう。
「た・助けてくれー!」と段は助けを求め叫ぶ
すると廊下の角から小走りの足音が聞こえてくる。
「段じゃないか!どうしたんだ?」
その声の主は浴衣姿の武川だった。
「黒い影がいたんだよ!黒い影が!」
「黒い影?まさかー?どこにいたんだ?」
武川は段の狼狽ぶりの方がびっくりしたといった感じで尋ねる。
「この部屋だよこの部屋!黒い影がいたんだ!しかも何体も!」
「この部屋?誰のへやだったっけ?
ああ!あいつか!」
武川は一瞬顎に手を添え何かを思い出すようなポーズしたがすぐに何かを思い出したかのような表情をした。すると、何の躊躇もなく、ドアを開き中へと入っていった。
「ちょっ?!」
段は驚き呼び止めようとしたがもうその時には武川はドアノブに手をかけていた。
「電気はどこっかな♪」
武川は暗闇の中手探りで電気のボタンを探すが見つからないようだ
「おい、伊吹、電気つけろ」
そう武川は暗闇に向かって問いかける。
すると、電気はつき、段を襲った黒い影の正体が明らかになる。
それは・・・・・
8人の男子生徒達だった。
しかし、彼らはただの男子生徒ではない。
全員同じ顔でだったのだ。
他人のそら似とか髪型がちょっと似ているとかそういうレベルではない全くの同じ顔。
風貌としてはどちらかというと目が大きく鼻筋の通った普通の男子高校生のようであるが体は細身な印象である。
「おい伊吹なにやってんだ、うちの連盟の加入候補生に向かって?」
その8人の少年たちは同じタイミング、同じ声色で
「副連盟長殿今は任務遂行中であります」
「任務ってなんのだよ」
「はい、副連盟長3日前から頻発中の黒い影襲撃事件のにおける首謀者の調査および捕獲であります。2日間不眠不休でトラップを設置して監視していましたが、今から7分30秒前にターゲットを発見、2分30秒前に捕獲作戦を単独で実行しましたがターゲットは逃走、これから追跡を開始します。」
「いや、お前がさっき捕まえようとした奴が、こいつだよ」
「パードゥン?」
「だから、お前がさっき捕まえようとした奴がこいつ。」
8人の男子生徒は全く同じタイミングで手で頭を抱える。
「なんということだ・・・・
ターゲットの確認など基本中の基本だというのに」
本気で落ち込んでいるようだ。
ここに崖があればすぐにでも飛び降りそうなくらい落ち込んでいる。
そこで段はいたたまれなくなって口を挿む。
「武川、俺はそんなに気にしてないから、それにしても君たち8つ子?
すごいなあ・・・俺八つ子なんて聞いたことねーよ」
「いえ、私たちは8つ子ではありません。」
伊吹と呼ばれる男子生徒たちは一斉に答える
「えっ歳の違う兄妹なのか?
いやあり得ない、一番上の兄と一番下の弟は最低でも8歳離れているはずだ
なぞなぞかなにかか?」
8人の伊吹たちはどう説明したものかと困ったような顔をして、
「つまり、こういうことです」
伊吹たちは一斉に指を鳴らすと、7人の伊吹は消え一番端にいる伊吹だけがさみしく
残った。
「これは、いったい・・・・?」
そのとき、段の後ろのドアが開く、
伊達恵理子だった。
「白紙くんいる―?
あら武川じゃないどうしたの」
武川は後ろを振り返るとやれやれといった感じで手を広げながら
「段が部屋の中に何かいるっていうんで見に来たら、伊吹だったってオチさ」
「また伊吹くん?あなたのスキル[分裂}は便利だしあなた自身もまじめでいい子なのだけど・・・もうちょっと根回しだとか慎重さだとかそういう言葉をあなたは覚えた方がいいわ」
「了解」
一人さみしく残された1人だけの伊吹は、背筋をピンと伸ばし恵理子に向かって敬礼する。
息吹という少年は生前軍人だったのだろうか、その言動仕草は妙に軍人じみていた。
だが一人この中で状況がうまくつかめなく解せない様子な人間がいた。
もちろん段である。
「だてえり。
伊吹君が8人いたはずなのに、指を鳴らしたら1人になっちまったんだ!
武川もだてえりも平然としているけど、俺だけまるで狐に化かされているみたいじゃないか。」
その問いに伊吹が答える。
「はいこれは、私の神罰スキル分裂ですが・・・・」
そんなことはさも当然のようにそんなことをわざわざ答える自分にさえあきれ果てるかのように平然と伊吹は答えるがもちろん段にはまるで意味不明の答えである。
「神罰・・・?分裂?」
いまだに釈然としない段の問いに、恵理子は頷く。
「あれ?武川まだ説明してあげなかったの?
説明してなくても察しのいい白紙くんなら、薄々気づいていたものだと思ったんだけれど。
いいわ教えてあげる。
伊吹君分裂できたのは、神罰スキルによるものよ。
「神罰スキルってなんなんだ?」
「私たちが神に抵抗するために開発した能力よ。」
「もっと具体的に頼む。
「神罰スキル
それは、己の背負いし罪の負の力を能力として昇華したもの
つまり、罪が大きければ大きいほどそのスキルの出力は強力になり、重ねた罪が多ければ多いほど一人の持つ神罰スキルは多彩になるわ。
己に与えらえた罪ですら神への抵抗の道具とする不服従、反骨精神まさに私たちの連盟にふさわしい道具よ」
「つまり、逢魔連盟は、このスキルを使って神に抵抗している?」
「そう、このバカな武川君が副連盟長の座にいられるのも、彼が生前犯した罪の多さから生まれた、彼のとりわけ多い神罰スキルのお蔭よ。
このスキルがなかったら刺身にタンポポを乗せる大臣にすらつけなかったわ。
それだけこのスキルはこの世界で生きていくには大切なの・・・・まあ死んでるんだけどね」
「けど、なんかすっきりしないなあ?」
段は首をかしげながら呟く。
「なにが?」
「決してだてえりや武川達をを蔑むつもりはないんだが・・・・
罪が重いやつってつまりは悪い奴なんだろう?
それなのに罪の重さに比例して力が増えるなんておかしいなと思ってさ」
「あら、それって生前の世界でも同じことでしょ
生前を思い出してみなさい。
人格的に優れた人間があの世界で成功していたかしら。
むしろ、そんな人間は蹴り落とされていなかった?
同じように人間の屑みたいなやつがそれ相応の代償をあの世界から受けていたかしら?
むしろ、あの世界では成功していなかった。
そして残念ながらそれは天国でも同じことよ。
善良すぎる人間はね、神様からも見捨てられるものよ。」
段は恵理子に天国に行ったことはあるのかと聞きたかったが、恵理子が何か意味深なこれまでにないような悲しい顔をしていたのでその質問はしなかった。
4人とも何を話していいかわからず部屋の中に静寂が訪れる。
その静寂を破ろうと、武川は段に話しかける。
「ところで、段
お前の罪教えてくれよ~
お前は生前何やらかしたんだ~
もしかして痴漢とか?
淫蕩は7つの大罪でも一番軽いとされていて
神罰スキルも一番へぼいぞ~」
武川はおちゃらけた感じで言うが、武川は武川なりに場を和ませようとしているのだ。
それに応じて、段もにこやかにそれに答える
「いや、記憶喪失だから俺覚えてないって~
もう俺の言ったこと忘れたのかよ~」
それに恵理子も口を挿む
「あれ、段君記憶喪失だったの気が付かなかったわ。
まあでもこの世界に来るときはよくある話よ。
この世界に現界するさいには誰でもどこかに自分のなにかを忘れてくるの
一番多いのは、黒子だとか体の痣とかだけど、ごくまれに記憶を忘れれてきてしまう
奴がいるわ。
でもそのどこかに忘れてきたものも、時間が経てば、修正プログラム見たいに、自分の体に戻ってくるから心配しないで。
でも私がこの世界に来て一番驚いた忘れ物っていうのがね顔なの」
「顔っぉ?!」
「そう・顔。
、私がある夜眠れなくて暇つぶしに寮の周りを歩いていたら夜の3時だというのに女の子が歩いていたの。
そのまますれ違おうと思ってんだけど、ちらっとその子の顔を見たの
そしたらね
その子顔がなかったの・・・・・
もうあんときは「きゃっー!」なんてかわいい声じゃなかったわ
もう「ぎえっえええええええ!」って感じだったわよ」
武川は手を叩き大笑いする。
「HAHAHAHA!
連盟長もうちょっと女の子らしくすべきだぜ
それにしても「ぎえええええ」って女の子の叫び声じゃねえよ」
「あら、パニック映画の女優の叫び声なんて女の子からしたら全然リアルじゃないわ。
女の子だって
ピンチになったら(ぎええええ)くらい言うわよ」
恵理子は変顔を交えながらリアルな女というものを熱弁しそれを聞いてまた武川が大笑いする。
「それで話はあの夜のことに戻るんだけどね
もう全力で逃げたんだけどちょっと待ってくださいっていかにも悲しそうで必死そうな声だったから振り向いたの、そしたらあの子も全力で走っていてはあはあ言ってたの。
口がないのに息を吐くなんておかしいだろなんて野暮なツッコミはなしよ!
そこで私もかわいそうになって「どうしたの?」って聞いたのよ、そしたら「急に目が覚めたら知らない山の中にいて、川の水面に顔を写したら顔がなかったから、パニックになってやっとの思いで人を見つけたと思ったら怖がられて私どうしたらいいのかわらなくなって」って言ってもうわんわん泣くもんだから、かわいそうだから私の寮の部屋に入れてあげたのよ」
「いくらそういったからって、のっぺらぼうを自分の部屋に入れるなんて肝っ玉が据わってるなうちの連盟長は!」
「当りまえよ、人の上に立つものとして神に抗うものとして幽霊なんかに怖がっていられるものですかって感じよ。」
「さっき「ぎえええええ」って言って逃げたって言ったじゃねーか」
「それはそれ、これはこれよ」
「それでだてえり、そののっぺらぼうはどうなったんだ」
「その子の希望もあって
2日間私の部屋に泊めてあげたわ、でも口がないもんだからなにも食べれないし、飲めなくてまあこの世界はご飯がたべられないくらいじゃ死なないんだけど
でも怖かったわよ、夜寝返りを打った時のっぺらぼうが寝ていたら。
それで、3日目の朝になって目が覚めたら、私の布団の隣にそれはそれはかわいい美少女が寝ていたのよ。
もう本当にかわいい顔をしていたわね。
そのときは私もわけがわからずもしかして私昨日女の子を連れ込んで過ちを犯したんじゃないかって思ったくらいよ。
もちろん私にはそっちの気はないわ
結局その美少女は3日前に私が連れ込んだのっぺらぼうだったのよ。
それでその子も私が一人であたふたしていたせいで起きちゃって、私が鏡を見せたらまたわんわん泣いちゃって。
ああ本当私いいことしたわ。
もう自分で自分にノーベル人間賞を与えたいくらいだわ」
感慨深げにしみじみと己の業績に悦を入っている恵理子を横目に武川は段に尋ねる。
「いやでも記憶がなくても自分の罪はわかるはずだぜ」
「えっ?どうやって? 記憶がないんだぜ
どうやって自分の犯した罪を確認するんだ?」
そう段が言うと、武川は段の胸あたりを指さし
「お前の制服の上着のどこかに、黒い紙{クリミネカルタ}が入っているはずだぜ。」
「クリミネカルタ?」
段は尋ねる
「つまり、お前が生前犯した罪の詳細が書いてある紙のことだ。
これにより、これからお前が何を犯したのか何を償わなければならないのかがわかる。
この世界に現界した人間はみんなこれを持って現れるんだ。」
そういうと武川は黒い紙を制服の胸ポケットから取り出す。
その紙にはその罪を犯した年齢、7つの罪のうちその行動により何があてがわられるのかが表のようにされていた。
武川の黒い紙には嫉妬 怠惰、殺人、淫蕩などの文字が並びどんな状況でそれが行われたか子細に記述されていた。
段は言われた通りにまずズボンのポケットに手を突っ込み、黒い紙を探すが見つからない。
そして次は学ランの胸ポケットを指で押し広げてそれらしき紙を探すが見つからない。
そして次は学ランの横ポケットを探ってみるが、紙どころか埃の一つも見つからない。
カッターシャツの胸ポケットを探して見てもそれらしきものはない
最後に右の内ポケットを探ってみるが、もちろんない。
最後に残ったのは、左内ポケットだ。
段がこの内ポケットを最後にしたのには理由がある。
それは左内ポケットはさっきこの部屋の鍵を取り出すために手を付けたはずだからだ。
段はその胸ポケットに手を突っ込んだが、もちろんそこにあるのはこの部屋のカギと
・・・1枚の紙切れ・・・・・?
これか・・・・・?
いや武川は黒い紙だといったしさっきの見たときあの紙は白かったはずだ。
最後の手段として、学ランを脱ぎ、ばさばさとふってみたものの落ちてきたのは
この部屋の鍵と白い紙きれ1枚。
どこかに落としたのかもしれないと、今日目が覚めてからの記憶を辿ってみる
途方に暮れている段を尻目に武川は地面に落ちた白い紙を拾う。
「副連盟長、
これって・・・・・?」
武川は恵理子にその紙を渡す。
恵理子は腰につけたポーチから、老眼鏡のようなものを取出しその紙を上下を回転させて観察し、それが終わると、その紙を指でなぞったり折り目がつかない程度にそれを曲げてみたりした。
「間違いないわ・・・・・」
「なにがだよ」
段は問う
「これは色や形状は違えどもクリミナルカルタと同じ素材で製造された紙よ。
つまり・・・・」
「つまり?」
「これは、れっきとした正真正銘のクリミナルカルタよ」
「なんだって・・・く・・・クリミナルカルタは黒い紙じゃないのか?
だがそれは白い紙じゃないか。」
いまだに状況が理解できない段は矢継ぎ早に質問を投げかける
「だがこれはクリミナルカルタだ。
色はどうであろうと。
この世界に来た者の上着の利き手の反対の胸ポケットには必ずクリミナルカルタ入っている。
例外はない。」
武川は先ほどのおちゃらけた雰囲気からは打って変って、その顔は真剣そのものだ。
「クリミナルカルタについては我々の連盟で研究を進めているが未だに謎が多い。
だが、確かなのはこの紙の黒は己の罪の重さを表しているということだ。
その証拠に、この世界に来て己の背負う罪が浄化されるにつれつまり天界に近づけば近づくほど、この紙の黒は薄くなっていく。」
「どういうことなんだ?
俺のクリミナルカルタが白いという事実はどんな現実を表すんだ?」
「つまりね、段くんあなたの白いクリミナルカルタが真っ白なのは・・・」
恵理子は静かに結論を言う
段は息をのむ。
「つまり、あなたには背負うべき罪がないからよ」
罪がない・・・・・?
おかしいじゃないか
この世界は罪を償うための場所なんだろ
ならなぜ俺はここにいるんだ?
罪がないのなら天国に行くじゃないのか?」
ここで伊吹が口を挿む。
「副連盟長、
段氏は罪自体を記憶といっしょにどこかに忘れてきているのでは?
それなら辻褄も合う。」
だが恵理子は首を振る
「それも考えにくいわね。
この世界に来た人間の中でどこかに自分の一部を忘れてくる人間は一定人数いるけど決まってその忘れ物というのは一つだわ。
記憶なら記憶一つだけ、痣なら痣だけ。
それにこの世界は罪を償うための場所。
その前提が崩れ去ってしまうもの・・・・・
だけどもしそう仮定するならば
この世界になにか重大な変化が起きているのは事実 」
「天界側のミスという可能性は?」
「それもあり得ない
神は気まぐれなのは事実だけど過ちは絶対に犯さないわ。
神は絶対だからこそ神なのよ」
「しかし納得がいかないな。
自分がそれほど悪い人間だとも思わんが、かといって聖人だとも思えない。
そして俺が今一番心配なのは
もし俺が本当に罪がないとしたら、
だてえり達は俺をどう思うのかだ。」
「どういう意味?」
恵理子は不思議そうに首を傾げる。
「つまりだ、あんたらの連盟とやらは神への反逆を目的としているのだろう?
ところが俺はもし本当に罪がないと仮定するならば天国に行くはずだった人間であ
り本来は天界の人間なんだろう。
俺はだてえりたちに敵意など全く持ってないんだが・・・・・
俺たちは敵同士になるんじゃないか!?」
恵理子は、一度顎に手を添え何かを考え込む動作をしたかと思うと
ニコッと笑い
「あら?あなたが我が連盟に入る理由がないと思っているのかしら?
いやあるわありまくりよ
逆にこう考えなさい、罪もないあなたをこんな肥溜めに放り込んだ神にぎゃふんと
言わせてやると。
それがあなたがこの連盟に入る大義名分よ。
わかったらさっさっとこの我らが連盟の体験入部志願書にサインなさい!」
段は言われるがままなにか手作り感たっぷりの体験入部書にサインをさせられる。
「じゃあ今日は遅いから、解散!
明日、放課後3時に白鳳館、3階の部室に連盟員全員集合!
もちろん、段くんもよ!
とりあえず自己紹介してもらうから
適当に自己紹介の文章考えとくように
わかった!
じゃあお休みなさい―!」
そう叫びながら疾風のように恵理子はこの部屋から出て行った。
残された3人は顔を見合わせる。
「まったく、連盟長の突拍子もないとんでも理論にはいつも驚かされる・・・・
だが、俺はあの説明で充分納得したぜ段!
お前は俺らとは少し違うかもしれねえけど、だからってそれで友達止めるほどの理由にはならねえそうだろ?」
段が頷くと、武川は曇りなき屈託のない笑顔を見せ、この部屋を出て行く。
残されたのは段と伊吹の二人だが、活気ある二人がいたせいかまだ熱を帯びていた。
段は無口な伊吹と二人になり、なにか、同居人へのこれから世話になることへの
挨拶としてなにか話しかけようとするがちょうどいい文句が見つからない。
「段氏!」
口火を切ったのは伊吹だった。
「えっ?何?!」
反応しきれず、頓珍漢な反応しか段はできなかった。
伊吹は、頭を深々と下げ
「段殿
先ほどのご無礼面目次第もありませぬ
我が任務に専心するばかりに、段殿に無礼を・・・・・」
伊吹は、侘びの言葉を申す。
その中性的な顔を後悔に歪める様は、彼がどれほど段をねじ伏せたことを申し訳なく思っていることを物語っている。
「いや、いいって、頭上げて上げて!
任務だからしょうがないって!
同居人がこんなにまじめで逆に安心したくらいさ!」
「段殿・・・
その寛大な心遣い痛み入る」
「殿はいらなくない?
段でいいよ段で!
その方が言いやすいし聞き取りやすい」
「それでは段、
改めて名乗らせてもらいます私の名は
我喜屋伊吹
我、喜ぶ 屋で伊吹
今後とも、御指導御鞭撻の程宜しくお願い申し上げます。」
どうも堅苦しい喋り方だが、悪い人ではなさそうだと段は安心する。
そこで段は夕方から疑問に思っていたことを伊吹に尋ねてみることにした。
「ここは学園なんだよな?」
「はい、そうです」
「学園ってことは校名ああるのか?」
「はい、もちろん、
この学園の名前は・・・・
天立丘の上煉獄学園
それがこの高校の名前です。」
「丘の上煉獄学園・・・・」
段は繰り返しつぶやく。
そして白紙段の天立丘の上煉獄学園での物語が始まるのであった。
朝、段は丘の上煉獄学園学生寮白鳳館T―230号室で目を覚ます。
段の部屋は学生寮には珍しい和室であり、段と伊吹は川の字で寝ていた。
だが、そこにいたはずの伊吹はいない。
そういえば、昨日の夜寝る直前に「私は朝の5時からロードワークに出かけます。
もしその時に起こしてしまったら申し訳ない」と伊吹が言っていたのを思い出す。
段がそんなことを、目が半分閉じたまま気怠い様子で考えていると、段の枕元から鼓膜を針で刺すような轟音が鳴り響く。
目覚まし時計であるがその音はものすごく不快な音でまるで頭を鉄の輪で締め付けられているみたいだ。
もちろん、心地よい音ならば逆にまた2度寝を誘ってしまうので目覚まし時計の音声としては不適格だろうがこれほど不快な音にしなくても・・・と段は思う。
時計の針はもう8時を回っている。、
この世界を一望できる窓際からさんさんと朝日の光が段の霞がかった意識を徐々に覚醒へといざなう。
死後の世界でさえ太陽は美しい。
まあこれが俺の記憶の中の太陽とは恐らく似て非なるものだというのは確かだが・・
ふらふらとした足取りで洗面所に行き顔を洗う。
この顔の冷たい感じもこの気怠さも太陽の温かさも紛い物なのだろうか・・・
そして、自分は何者なのか・・・・疑問に思うことは多々あるがあまり気に病んで
いても仕方がない、人生少しくらいアホな方が得するのだ。
まあ死んでるんだけどな・・・・ と
自嘲じみた微笑を浮かべ付け加える
顔を洗い終え、髪をちょうどいい感じに整えると、鏡から目を背けるようにして洗面所を出る。
段が洗面所を出ると、部屋の脇に寄せられていたテーブルにメモが置いてあることに気が付く。。
「もしよかったら、台所には味噌汁とごはん、それが口に合わないのであれば台所の流しの上の戸棚に携帯食料があるので、ぜひ朝食に」
と書いてあった。
こんなに気を使ってもらって逆に悪い気持ちになってしまうがこの好意を無碍に はできぬと、コンロに火をつけ味噌汁を温め、ご飯をよそい、缶切りでサバの缶詰を開封し朝食の支度をする。
時間はあまりないので、サバは噛ぶりつくようにして食べ、ごはんを味噌汁で胃の中に流し込む。
本当は、昨日からこの世界にきて何一つ口に入れていないのでもっと朝からガッツリと食べたかったのだが、贅沢は言えまい。
段はご馳走様を言ったかと思うと飛び出すように、伊吹から借りた寝巻用の赤のジャージを脱ぎ制服へとフォルムチェンジする。
ちょうど
他の部屋の学生たちも、支度を終え部屋から出るようだった。
その生徒の流れから逆走するように一人の男子生徒が段の方に駆け寄る。
「おはよう、段」
その身長より30cm近く高い槍を肩に預けてその制服はチャラちゃらした感じに着崩されている男は武川だ。
校舎にそんなでっかいものをもっていくのだろうか?
「おはよう、武川、」
「お前一人で学校に行くのはさみしいだろうしな
いっしょに行こうぜ」
「ああ、ありがとう。
一人で教室に入るのは心細いのはもちろん、何よりもこの学園のシステムだとかがまったくわからないから助かるよ」
そうして、段と武川は白鳳館を出る。
ご存知の通り、この白鳳館は丘の上煉獄学園を見下ろせる小山の上に建てられており、校舎に行くにはこの小山を下りていかなければならない
1000人近くの黒い集団が山を下りていく様は民族大移動なみのスケールである。
この大集団の中にあってさえ武川の2m近い槍はかなり人目を引くように思われた。
そこで、そのことについて段は武川に尋ねる。
「そんなでかいの校舎に持ち込んで大丈夫なのか?
ここが学園ってことは教師に見つかって没収とかされるんじゃないか?」
武川は一瞬何のことかと思い自分の体をチェックするが、段が武川の背中を指さすといたずらぽく笑い
「あっ!これのことか!
大丈夫これは奴らには見えねえよ。」
その「やつら」という言葉に違和感を感じた段は武川に質問をする。
「もしかして、この学校の教師は俺らとは何かが違うのか?」
武川は指を鳴らす。
「大正解!!
朝から冴えているじゃないか、段。
いい勘してるぜ段。
そのとおりこの学校の教師は煉獄の住人じゃない。」
「この世界の住人ではない。
つまり、この世界が管理施設だとすると教師たちは管理人ってところか?」
「まあそんな理解で充分だが
正確に言えば管理人とかよりはもうちょっと上等な奴らだ。
この学校の教師たちは天界の人間だ。」
「天界の人間?」
「そう天界の人間。
奴らは、天界からの出向つまり転勤みたいなものかな?・・・でこの世界に来て教師として俺たちを監視している。
もちろんわざわざ天界よりも環境の悪い場所に出向させられているくらいだが天界の中ではやつらは下っ端だ。
だが曲がりなりにも奴らは天界の人間だ。
教師一人で俺たち煉獄の生徒たち約50人分くらいの力を持っている。」
「50人分!?」
「だから、気負つけることだな、
ん?
おう!軽川じゃねえか」
そう武川が後ろに向かって挨拶すると段もつられて後ろを向く。
一人の男子生徒が立っていた、しかしただの男子生徒ではない
武川と同じく武器を背負っている。
だが武川の長槍とはかなり様相が異なる。
その武器とは短機関銃{サブマシンガン}・・・・・
・・・・・かなり物騒だ。。
それに比べれば武川の長槍なんて平和と愛の象徴に見えるくらいこの男の背負っているものは物騒だ。
なぜ学校にいくのにサブマシンガンが必要なのか、段には理解できない。
護身用のスタンガンとかいうレベルじゃない。
軽く大量殺戮兵器レベルだ。
しかもこの人めちゃくちゃ目つきが悪い。
「おう、武川おはよう
ン?
見ねえ顔だな。
誰だ?こいつ?」
そういいながら軽川は段に指ではなくサブマシンガンの銃身を向ける。
何このひと?めちゃくちゃなんだけど
「はさみとか危ないものは人に向けちゃだめ!」って小さい時先生に教えてもらわなかったのか?
と段は心の中で突っ込みを入れる。
「ああ、昨日現界してきたやつだよ
名前は白紙段だ。
仲良くしてやってくれよな」
そう武川がフォローしてくれたが未だに段は引いている。
「あっ・・・・
白紙段です・・・・・・
よろしく・・・・・」
いままで一番力ない自己紹介だった。
「しらかみ・・・・どう書くんだ?」
軽川は尋ねる。
「白い紙で白紙」
すると、突然
「わははははは!
白い紙って!はははは
おもしれえ名前だな!
俺の名前は軽川好俊
よろしくな白紙」
段には自分の名前が何がそんなにおもしろいのか理解できないが、どうやら第一印
象はよかったようで安心する。
そして、3人は20分ほどかけて丘を下り校舎にたどり着く
「俺のクラスとかはどうなるんだ?」
「安心しな!
恵理が俺たちのクラスに押し込んでくれたから」
「そうか同じクラスか」
そして3人は階段を昇り校舎の3階まで昇り、階段すぐ手前の教室に入る。
クラスの人数は30人程度 教室の前後には黒板があるいかにも月並みの教室風景
だ。
野球部らしき髪を短く切り上げた浅黒い生徒もいれば、吹奏楽部だろうか楽器のハードケースを抱えながら教室に入ってくる女子生徒に本を一人で読んでいる女子生徒もいる典型的な教室。
段は努めて勝手知ったる風に黒板の前を通ろうとするが、見知らぬ生徒をほぼクラスの全員が段の顔を上から下まで品定めするようにまじまじと見る。
段はできるだけ目線を下にやりながら、武川に
「俺の席ってどこかな?」
と若干声のトーンを下げて尋ねる。
窓際後ろからの3番目。なかなかいい席だ。
運動場も見えるし、山も見える。
そして、段がに着くと同時にチャイムが鳴り担任らしき教師が教室に入ってくる。
俺の目には、しょぼくれた中年のおっさんにしか見えないが、この人も天界の住人なんだろうか。
天界の住人というと、半裸のマッチョな白人というイメージがあったのでその平凡なおっさんを具現化したようなおっさんが天界の住人とはにわかに信じられなかった。
そして、俺の方を見るとしゃがれ声で、「白紙君だね、黒板の前で自己紹介してくれかな」と言われたので前へ出て、自己紹介をしようとするが一つの疑問が頭に浮かぶ。
「おれってそもそも転校生なのか?」
普通、こういう転校生の自己紹介の時って、○○高校から転校してきた白紙ですって言うよな?、でも俺は前の学校の記憶がほとんどないので校名もあまりわからない。
俺が黒板の前で黙ったまま突っ立っていると、担任が「別に特別なことは言わなくていいですよ、名前とまあ趣味か何かとこれから勉学を共にする友たちへの挨拶だけで充分です」
と言われたので「白紙段です、趣味はjポップとか好きです、これからよろしくお願いします」という当たり障りのない挨拶をすると拍手が鳴り響く。
自己紹介が終わると授業が始まりそして休み時間になり、そしてまた授業が始まりそして昼休みになるという何の変哲もない普通の学校のルーティンだった。
なので、本当にとりわけて話すことがないので子細は割愛させてもらうことにするが一応授業で何をやったかくらいは話しておきたいと思う。
教室に入るまで俺は自分が何年生という設定なのかわからなかったが、数学の時間では数学bの教科書を使用したことからなんとなく自分が2年生なのかな予想していたが昼休みに教室を出る時に確認するとここは2年3組らしい。
昼休みなると段はまず一番にトイレを済まし教室に帰ると武川が
「まず、うちの学校さあ・・・屋上開放しているんだけど飯食わない?」
「ああーいいね」
もちろんOKだ、一人で昼食はさみしいからな。
「でも俺金もってねーぞ」
「そうだ言っていなかったか?事務室に行けば月3000円奨学金としてお金がもらえるんだよ。」
煉獄でも円が使われていることに驚愕しつつも、「3000円?言っちゃ悪いが少なくないか?」
「働かざる者食うべからず、アルバイトとかで稼ぐんだよ」
「バイト?どこで働くんだ?」
「それも事務室に行けば、この学園内の求人情報が出ているはずだぜ。
主にこの学園内の清掃とか購買とかだな」
段、武川、軽川は事務室に行き、奨学金を受け取り購買に行く。
段、武川、軽川は購買に行き、各々自分の好きなものを買う。
武川はから揚げ高菜弁当、軽川は、いなり弁当、段は一番人気と書いてあった煉獄スタミナ弁当を買った。
そして、4階にたどり着く。
そしてその上が屋上になっているはずだが
「あのー武川さん、生徒立ち入り禁止と書いてあるんですけど」
「いいの、いいのみんなやってるし」
武川は腰あたりくらいの柵をまたぎながら言う。
その屋上へと続く階段は4階までの階段とはまるで角度が違いかなり狭くちょっとバランスを崩せば、後ろに倒れ落ちてしまいそうな階段だった。
その崖のような階段を用心深く一段一段、段たちは昇っていく。
武川,軽川はどんどんと歩を進め、段は最後尾でそれを追いかける。
段は下を見る、かなりの角度で落ちるとかなり大惨事になりそうだ。
武川と軽川は階段を昇り終え、段を踊り場で待っている。
段が到着するとのを確認すると軽川は屋上へとつながるドアを開く。
そしてここは屋上だ。
風景はさきほど授業を受けていたときに見た風景と大して変わらないが、開放感がまるで違う。
風が段に激しく吹き付け、鋭い音が段の制服の上着を揺らす。
叩き付けられるような風だが気持ちの良い風だ。
段は敷居となっている高い鉄柵にもたれ、空を見上げる。
気持ちの良い空だ。
こんな気持ちの良い空ならば、ここで上着脱ぎ昼寝をしたらどんなに気持ちの良いことだろう。
青を基調としたこの大空に、大きく白い雲が我が物顔で浮かんでいる。
この空の下ずっと遠くまで見ることができる。
段が元いた場所と同じくこの世界の空にも限りはあるのだろうか?と遠くを見ながら段は青い空にポツリと浮かんでいるような遠くの濃い緑の山を見る。
そしてふと気が付くこの屋上には先客がいたと、それも2,3人のグループではなく、10・・・いや15人はいる。
武川は、その集団に向かって声をかける。
「おーい恵理―!
段連れてきたぞー!」
するとその集団から一人の女子生徒がこちらに向かってくる。
「ごくろうさま、
さて、黒草
これで全員集まったかしら」
その声の主は恵理子だそしてその隣には小柄な女子生徒がいる。
その女子生徒の頭にはその小さな頭にはやや大きすぎるイヤホンマイクがかけら
れており、手にはノートほどの大きさの携帯端末が抱えられおりそれに何やら打
ちこんでいる
「播磨さん、光城さん、在原さんはバイトのためお休みです、連盟長」
抑揚のない声で答える。
「しょうがないわ、働くことは大切だものね。
じゃあここのメンバーだけで、体験入部員歓迎会をはじめまーす!」
いえーいと後ろの集団からばらばらの歓声が沸く。
「じゃあ、紹介するわ、みんな!
この子が白紙段くんよ
昨日現界してきたばかりでわからないことがたくさんあるだろうからみんな優しくするのよ!
わかった!?」
そしてばらばらにはーいという返事が聞こえる。
「あっ、白紙段です
よろしく、昨日はここの連盟長さんに命を救ってもらったので改めて感謝と
その連盟長さんが代表を務めていらっしゃる団体の皆さんとお会いできた喜びをも
って僕の挨拶とさせていただきます」
「固い固い!
もっと肩の力抜いて!」
と恵理子は段の両肩をポンポンと叩く。
「じゃあ、宴会よ!」
と指を鳴らすと、どういうトリックからか、虚空から寿司が現れた。
宴会は終始和やかなムードで行われ、武川が野球部兼連盟部員の神奈川君に投げ飛ばされ五階の高さから鉄柵を飛び越え転落する微笑ましいハプニングが起き、序盤は硬い表情だった段も大はしゃぎ
連盟長自らも連盟部員たちのコールに合わせストリップショーに挑戦するが、風の能力を持つ連盟女子部員のお茶目なサプライズで下着が風に飛ばされたのを見て会場は今日一番の大盛り上がり。
白紙段歓迎会は大成功に終わった。
半裸に肩に制服の上着を乗せただけの連盟長に段は話しかける。
「あの…・楽しかったんだけど
まだ決めかねているんだ」
「なに、私の胸を触るか触らないかについて?」
「ちがうわ、まあ結構いいもの持ってると思ったけど・・・・・
そうじゃなくて、そのこの連盟に入るか入らないかについてなんだけど」
「もちろん、無理強いはしないわ。
天国に行こうとするのもそれが自分の選択ならば尊重されるべきよ
わたしはね、人に選択を押し付ける人が大嫌いなの。」
「それでだ、だてえり
一つこの世界についてもう一つ聞きたいことがある」
「いいわよ」
「
「神というのは存在するのか?
存在するのならだてえりは見たことがあるのか?
いるとしたらどこにいるんだ」
「見たことはないわ・・・・
でも・・・・いるのは確かよ」
恵理子からは聞かないでというオーラが出ていたので段は話はここまでにした。
そして
午後の授業は世界史と生物、
ユスティニアヌス帝だとかビザンツ教師が言っていたのは覚えているが、それ以上は寝ていたため覚えていない。
授業は3時に終わった。
クラスの生徒たちはそれぞれ自分の部活の支度をしたり、おしゃべりをしたりしている。
段も恵理子の指示通り白鳳館へ行くために、学生鞄を肩に引っかけ教室を出ようとしたところで、武川に声を掛けられる
「悪い、俺と軽川ちょっと用事できたんで、先に行っててくれ」と言われ、段は一人で校舎を出る。
さきほど言ったように段と伊吹の部屋がある白鳳館は丘の上である。
道は整備されているとはいえ、軽い山登りぐらいの強度がある。
息は楽だが帰りはきつい。
まあ、授業からの解放感があるので朝寝坊して丘の上の学園に走って登校しなければならないよりははるかはましだ。
段は山道を歩く。
そしてふとカチャカチャという金属音と人の足音が後ろから聞こえる。
もちろん、帰宅の途についているのは段だけではなくほかの生徒もいるので、
人の気配が後ろからするのはおかしくないが、なにやら人が歩くにしては妙な音
がしている。
段は後ろを振り返る。
後ろから走ってきたのは伊吹だ。
・・・なんだ、伊吹と思い声を掛けようとするが
伊吹と並んでだれかが走っていることに気が付く
だが伊吹の走りに付いている人物、なにか走るフォームがおかしいと思い段は目を細
めそっちの方を見る。
なんとその伊吹の隣の人物逆立ちで走っているではないか!
しかも、その足は鉄の拘束具で締め付けられおり、その鉄の拘束具には30kg位ありそうなダンベルが鉄の鎖で付けられている。
しかも、その速さが普通のスピードではない伊吹は全力で歯を食いしばってフルピッチで走っているのにそれすらも上回っている。
というか伊吹イメージではもうちょっと速いイメージだったのが思ったより足は速くないようである。
そこで、伊吹が俺の様子を見出したのか、段の方へと方向転換する、それにしたがってその逆立ち男も伊吹に合わせる形でこっちめがけて突っ込んでくる。
そして2人は段の前で急ブレーキをかける。
「はい、私の勝ちー!
山川さん残念でしたね
これで、私の5連敗もこれでストップです」
逆立ちの男は後天宙返りをし、普通の姿勢に戻ると
「いやいやどう見ても俺が勝ってたわ。
伊吹ちゃんいい加減なこといったらアカン。」
「いや、はあはあ・・・・
いや私の胸が先にゴールに到達していたん・・・
だから私の勝ちでは?」
伊吹は膝に手を当てハアハア呼吸しながら答える。
「いや、どう考えても俺逆立ちしとるから、胸では不利やろ。
今回の勝負では俺は尻がラインに触れていればゴールや」
一方その逆立ち男は息の一つ乱れず答える。
「いや、それは卑怯では?
だってふつう陸上競技では胸がゴールラインに到達してゴールなんだから。」
「じゃあ、そんなに文句あるんやったらこの兄ちゃんに決めてもらおうや。
おい兄ちゃんどっちが勝ってたんや?」
・・・・・いやどっちって言われても正直あんまり見てなかったし・・・
たぶん伊吹って答えたらやっかいなことになりそうだから・・・・・
・・・・・・・ごめん!伊吹!
「あなた?」
と段は答える。
「やったぜ」
その逆立ち男はガッツポーズをし伊吹はうなだれる。
「うう・・・・
今回こそは勝てたと思ったのに・・・・」
「ははははははははh、
その悔しいという気持ち忘れたらアカン
チャンピオンはいつでも伊吹ちゃんの挑戦を待ってるで」
そしてその上半身裸に黄色のスパッツを履いたその男に一番さっきから気になっていたことを尋ねる。
「あんた誰だ?」
「百獣の王やけど」
・・・・だめだ話がかみ合っていない。
俺の質問がダメだったのだろうか
普通の会話ならあなた誰ですかと聞かれて「百獣の王」と答える人間がいるわけがない。
「どちらさまでしょうか?」
「えっ!?・・・百獣の王ですけど?」
・・・・だめだやはり俺の質問がダメなのか?
もしかして俺は自分では「あなたはだれですか」という意味で尋ねているつもりでも
相手には別の意味でとらえられているのでは
いやいや日本語って難しい。
それならば・・・・
段 「WhO are yоu?」
逆立ちの男 「I am hixyakuziunоuやで」
英語でも駄目?!
もうしかたがないから伊吹に聞く。
「この人だれ?」
「はぁはぁ・・・
えっ~とこの人は私たちと同じ連盟のメンバーで・・・・
山川さんって言います」
伊吹はまだかなり息が上がっているようだ。
「おお!
もしかして君が伊吹ちゃんと同じ部屋の新入りの?
えーと?何やったけ?
はくびしん君やな」
・・・・はくびしんって・・・・・
いろいろ間違い過ぎだろう・・・・
間違いの上に間違いを犯してるじゃねーか
・・・・・たしかに白紙って漢字あったら「はくし」って読みたくなる気持ちもわからなくもないけど・・・
けどどう考えてもハクビシンはないでしょハクビシンは・・・・
「白紙と書いてしらかみって読みます・・・
白紙段。
以後よろしく」
「なんや、白紙君かー
俺もおかしいと思っとったねん!
俺の名前は山川騫{かける}。
背負いし罪は暴食と怠惰や!
よろしくやで~」
その鍛え上げた鋼鉄のような体からは怠惰とは程遠いのでは?と段は疑問に思うが
「よろしく」
段達は丘を登り切り学生寮の集落のようなところに出る。
もちろん、山川は逆立ちだ。
周りの学生たちも珍しいものを見るような目線でこちらを見てくる。
さすが段も気になり、山川に尋ねる。
「なんで、逆立ちなんだ?山川君」
「そりゃ、チンパンジーに勝つために決まってるやろ」
決まってるやろって言われても・・・・・
今の回答で段は何一つ理解できなかった。
「いったいどういうことなんだ?」
「俺は百獣の王をめざしとんねん。
だからチンパンジーだろうがライオンだろうが勝たなあかんねん、
でもなあ、敵を倒すにはまず敵を知れって格言通り図書館で調べたら
なんと、チンパンジーの握力300kg!
そんとき、このままではやばいって思ったんや!
あかん!
このままでは野生の王どころかチンパンにすら勝てん!ってな
だから、もうとにかく手を鍛えることに俺は決めたんや!」
「それで、校舎からここまで逆立ちで?」
「そうやで、でも正直もうチンパンくらいやったらもう勝てるで。」
「本当なのか?」
「ああ、もちろん、まずチンパンの一番武器はあの手やあの手に持たれたら
正直俺でも引き裂かれてまう。
だからな、まず全速力でチンパンの懐に突っ込むんや。
もちろん、チンパンはカウンターを狙って俺に殴りかかってくるやろ
でも俺ら人間様には猿には持たない力を持つんや。
なにか、わかるか脚力や、
あいつら樹の上で生活しとるやろ、脚力はまず弱いやろ。
だから俺がもうチンパンのパンチが触れるか触れないかのところで、バックステップをかましたるんや!
パンチを振りかぶってしまったチンパンはバランスを崩すやろそこで俺は足にもうがんっ!!って蹴りかましたるんや、
俺の強烈な蹴りをくらったチンパンはもう重心を崩してしまって、倒れ込んでまうやろそこで俺は倒れ込んだチンパンのこめかみに蹴りを入れまくるや。
そしたら、俺の勝利や。」
段は呆れてものも言えないが一応礼儀としてもう一つ尋ねておく。
「じゃあ、ライオンにはどうやって勝つんだ山川君?」
「ライオンか?
あいつは強い!でも俺やったら勝てるで。
俺は最強やからな
やり方は単純でまさに決闘といった感じやな
まず、この場合でもまず全速力でライオンに突っ込んでいく。
そしたら、ライオンも噛みついてくるやろ
そこで白紙くん「、山川さん!!ここでバックステップや!バックステップでライオンにカウンター喰らわせるんや!」って心のなかで思ったやろ?
甘い!、甘いで!白紙君!」
別に思っていないわけだが・・・・段は心の中で突っ込む
「ライオンの足の速さ知っとるか?時速60kmやで!
さすがに、連盟で1,2を争う俺のスピードでもバックステップで勢いづいたライオンはよけきれへん。
だからここである格言を使うんや「骨を切らせて肉を断つ」左手をライオンにかませるんや 痛くないかって? そりゃ痛いわ!でも男は我慢しなけりゃいけない時ああるんや。
そしたら見てみ、ライオンもう牙使えへんやろ!
そんで目の前にライオンの顔あるやろ!
残った右手でサブマシンガン持ってライオンの頭に弾丸ぶち込んだら終りや」
「ちょっと待てぃえええええええええ!!
今何つった?サブマシンガン?
なんで、今の流れでサブマシンガンが出てくんだよ!」
「いや、ポケット入ってたし」
「なにが「ポケット入ってたし」だよ!
なんでポケットにサブマシンガンが入ってるかはこの際目をつむるとして、
今までの流れ通りだと、お前が正々堂々素手で動物と戦うって流れじゃねーのかよ!
なんで、サブマシンガンなんて文明の利器、チート武器使ってやがるんだよ!」
「だって、俺ら人間やで」
「だから、おめーーが野生の王とかいうからこっちも話合わせてやってんじゃねーか!」
「まあまあ落ち着いて、段、白鳳館に着きましたよ」
伊吹が白鳳館を指さす。
白鳳館4階。
この階は、生徒の住居スペースではなく、リクリエーションルームやミーティングルーム大浴場がある場所だ。
恵理子によると、この階のミーティングルームを逢魔連盟の部室としてつかっているらしい。
そして、なぜこの逢魔連盟がそのような独占的にこのミーティングルームを使えるのかというとなんと白鳳館には逢魔連盟のメンバーしか入居していないのだという。
恵理子が裏でどんな根回しをしたかは不明だがそのことは彼女は優秀なリーダーであると同時に彼女が優秀な工作員でもあること証明している。
4階のミーテイングルーム前
その部屋と廊下を区切る、扉は普通の学生寮の扉にしては余りにも大きくそして頑丈そうだった。
例えるなら、銀行の地下金庫の鉄の扉。
ダイナマイトくらいの衝撃なら簡単に跳ね返しそうな扉。
学内施設としては余りにも不釣り合いなその扉は、階段を昇り終えた、段たちを待ち構えていたように、そこに厳かに存在していた。
その扉周辺には防犯カメラが何台も宙に吊り下げられており、段たちの動きに合わせてそれらのレンズも方向を変える。
伊吹は、その扉の横についている呼び鈴を鳴らす。
「合言葉は?」
その呼び鈴から、ノイズのかかった声が尋ねる。
「我らこの黄泉の国であっても亡霊には非ず、ただ一人の人間なり。」
「はい、いらっしゃーい」
その、鉄の扉が開かれる。
その扉の向こうには・・・・・
畳にこたつ・・・?
そこはその物騒な扉からは想像もできない空間だった。
広さは段たちの部屋4つ分くらいあるのだが、
かなり大きなこたつ、5m位のこたつ。
そのこたつの上にはポテトチップスの袋が開かれており、その横にはやりかけのオセロ板が敷かれていた。
床は畳だった。
そのあまりにも緊張感のない空間。
段は連盟のアジトというくらいだから、もうちょっとパソコンのコードで覆われた近未来的な空間。
もしくは銃弾の穴だらけのコンクリートの壁で囲まれた退廃的な空間を想像していたのだが、これではただの和室じゃないかと段は心の中で突っ込む。
段が呆気にとられているうちに伊吹と山川は靴を脱ぎずかずかと部屋へと入っていく。
「あら、白紙君、いらっしゃい」
恵理子は一番奥の床の間の前でポテチを寝転がりながら食べていた。
恵理子の前の机には申し訳程度に逢魔連盟連盟長という三角名札が置かれていたがその威厳はそのふんぞり返った体勢からはまるで感じられない。
そもそも、年頃の女の子がふんぞり返りながらポテチを食っている様を衆目にさらしてよいのかどうかも疑問であるが。
「だてえり、ここが部室なのか?」
「そうよ、なかなかいいところでしょう」
「ああ・・・まぁ・・・
アットホームな感じだな。」
「ところで、この学園について、まだ知らないことは多いでしょ?」
「そりゃ、まあ・・・
まだ2日しか経ってないからなあ。」
「でしょ!
だから、我が連盟員の中からこの学園の案内係をあなたに付けるわ!
誰にしようかしら?・・・・
そうあの子にしましょう、
赤嶺―!
赤嶺ちゃん あんた白紙くんにこの学校のこと案内してあげなさい」
そう呼ばれ出てきたのはなんと女だった。
別に女ということ自体に驚きはないのだがその装いはまあ珍妙っていうか何というか・・
まあ一言で言えば第一印象は魔女っ娘である。
ほかの女子生徒と同じ服を着ているし、髪がブロンドということ自体もさしておどろきのないことなのだが問題はその頭である。
その金色の頭の上には魔女の帽子が乗っていたのだ。
「私の心はあなた色、あなたの心は私色
はじめまして
あなたのハートにーーファイアーマジック!」
「はっ?(威圧)」
静寂が生まれた
さっきまでこの部屋の中には10人弱の生徒がいて各々会話していたのだ。
にもかかわらず、それが同時に止まったのである。
顔の変化の少ないはずの伊吹までも信じられない顔をしている。
これはいったいなぜなのだろうか・・・・・・
その原因となる少女が段の目の前に立っている。
「・・・・・しょっ・・・紹介するわ・・・・
この子があなたの教育係的なことをしてくれる赤嶺さんよ
わからないことがあったらなんでも聞くのよ
じゃあ、早速、この学園案内でもしてもらってきたら?」
というわけで・・・・俺は赤嶺さんとかいう魔女帽子を被った女子と校内散策に出かけることにしたのだ。
この世界に来てこれまで奇人変人ばかり見てきたが、今回もヘビィーな奴が出てきやがった。
「赤嶺さん、さっきのはあれなんだ?」
「あれ?はははは、冗談だよ冗談
面白かったでしょ!」
・・・・あれ本気で面白いって思ってるんならかっなりいてぇやつだぜ・・・
「ところで、赤嶺さん、下の名前はなんていうんだ?」
「えっ!きららだけど?」
・・・・こいつ名前まで痛いのか・・・・・・
「あっ今痛い名前って言わなかった?」
「いや、言ってない!言ってない!(大嘘)
漢字ではなんて書くんだ?」
「姫の星できららって読むんだよー
なかなかロマンチックな名前だよねー」
・・・・・姫星でどうやってきららって読むんだよ・・・・・
「趣味とかあるんすっか?」
・・・・・・・・・お見合いのテンプレ質問じゃねーか・・・・
「ん―――あえて言うならコスプレ・・・っかな」
・・・・・・なんか話し方が痛いんだよな・・・この人・・・・・
・・・・・しかも趣味コスプレって・・・・・
「えっ?今痛いって言わなかった?」
「いや!いや!言ってない!言ってない!(すっとぼけ)」
・・・・・しかもなんで俺の心の声読まれてんだよ・・・・・
「ところで君の名前は?」
きららは段に尋ねる。
「あれ?まだ言ってなかったっけ?
俺の名前は白紙段。
白い紙に階段の段だ。」
「そう、いい名前だねー
ところでどこ行きたい?
正直連盟長に案内しろって言われてもさあ
なにしたらいいのか私にもよくわからなくて
あっ、そうだ私の所属している部活に来る?」
「何の部活なんだ?」
「演劇部だぜ」
・・・・・・・これは別に痛くないじゃないか
「演劇ってことは文化祭で上演とかするのか?」
「確かに文化祭でやったりもするんだけど、メインとしてはアニメ好きがアニメにつ
いてだべってるのがメインかな」
・・・・・アニメ
「・・・・・シェイクスピアのリア王とか読まないのか?」
「えっ・・・・・リア充が何だって?」
「・・・・・・・・」
そんなこんなで、俺たちはまた、校舎に戻り演劇部に来たのだ。
この学園にはわざわざ部室棟なるものがあるらしく、文化系の部はもちろん野球部などの運動系の部活のミーティングルーム、ウエイトルームなども同居していた。
放課後の午後5時とういうだけあって、教室錬とは対照的にかなり人でごった返していた。
あちこちから、吹奏楽部の個別練習の音、生徒たちの笑い声、叫び声がばらばらに
段の耳に届く。
演劇部とやらは、部室棟1階のの一番奥の部屋らしい。
「部員は何人いるんだ?」
段はきららに尋ねる。
「私含めて3人」
「少ないな」
「白紙くん、入らないか?」
「まあ、考えくとくよ」
段ときららは演劇部部室の扉の前に立つ。
そして、きららがバン!と乱暴にその木製のいい感じに古ぼけた扉を開ける。
「黒草―!、お客様だぞー」
そこには、黒のショートヘアの巫女さんが座っていた。
手にはタッチ型のモニターが抱えられ、その黒い髪にはやたらとでかいイヤフォン
が掛けられていた。
段にはこの女子生徒に見覚えがある。
そう、昼休みに見た恵理子のオペレーターだ。
だが、その巫女さんは段の存在どころか、きららの存在にも気づいていない。
その視線はそのタッチ型のモニター一点にのみ注がれている。
きららが横からおーいっと声をかけても、それは変わらない。
そして、3回ほど声をかけてようやく気づく。
「なんだ・・・・
有象無象のきららか・・・・・・」
「ぶっちゃけすぎでしょ、黒草さん、
しかも、人に対して有象無象なんて言葉使う人初めてみたぜ」
「で?、何なの!
あのクソ人使いの荒い連盟長から、やっと解放された私のささやかなPCタイムを一分
一秒でも費やすほど価値のある要件なのかしら。
もしそうでなければ、刎頸に値するわ」
・・・・・・・何この巫女オペレーター・・
こんなにまじめそうな顔なのに腹ん中真っ黒じやねーか
「黒草、女の子があんまり口が汚いのはどうかと思うぜ。
ところで刎頸ってなんだ?」
「首をはねるという意味よ」
「ええええええええええええ!」
・・・・・・きららはきららでなんかなんかリアクションが大きすぎて、
微妙にうざいんだよな・・・・
あの巫女オペレータがいじめたくなるのもわからんでもない・
「いや、いや例の体験部員だよ!体験部員!
さっき、連盟長にこの人の学校案内任されちゃったんだけどさあ、どうしていいかわからないからとりあえず、ここに来たってわけなんなんだぜ。」
「そう」
このオペレーター巫女さして興味なさそうに相槌を打つ。
「ところで、わたしがが二日前に宿題として見るように言った、「僕の妹は893だった?!秋葉原に忍び寄る陰謀篇」は見てくれたかしら?」
「見た!見た!めちゃくちや面白かった!」
「具体的にどこがおもしろかったのかしら?」
「そうだな~
主人公と妹である893の再会のシーンだな
主人公が前の車に追突してしまってその車がいかにも893の車だったんだよ。
それで、もちろん、追突された893がぞろぞろ車から出てくるんだけど、その893の親分がなんと妹だったったってことがわかるシーンがめちゃくちや感動してさあ・・・・」
「そうね あなたは犬が棒に当たっただけで感動するような女だものね・・・」
「「照れるぜ・・・」
・・・・・ほめてねえよ
「ところで黒草、私がおすすめしたゲームはやってくれたかい?」
「やったけれどあまりおもしろくなかったわ。」
「ええ!なんで
めちゃくちゃ面白いだろう?!」
「私ああいう、ただレベルを上げれば勝てるよゲームは好きじゃないの。・・・
レベル上げつて要するに単純作業じゃない・・・・
わたしはもうちょつと知的でクリエイティブなゲームがしたいわ」
「桜吹雪を背負う男たちっていうのがおもしろいよ、
これはシューテイングゲームだから、黒草も楽しめるはず。」
「そう、じゃあまたこんどやらせてもらおうかしら。」
「なんやかんやで仲いいじゃないか二人とも」
段はほっこりした顔で言う。
「白紙くんが、2人とも仲良いーねーだって」
きららは照れくさそうな、しかし喜びは隠しきれていないような表情で黒草に言う
・・・黒草「いや別に仲良くないっスよ」
きらら 「え!?・・・・・まあ友達かな・・・」
黒草「仲良くはないっすよ」
きらら「仲良いっていうか、まあ親友だな・・・」
黒草「私きららと友達だちだったっけ?・・・・・
きらら「 えっ、ちょっ、なっ、ええ?」
黒草「えっ?」
きらら「私はどっちかというと仲良いほうだとおもっているのだけれど・・・
黒草「友達じゃないよね」
きらら「わっ・・・・・わっけわかねーよ
じょ・・・冗談きついゼ」
「きららのことあまり好きじやないよ」
静寂が生まれた。
・・・・本日2回目の静寂だ。
この現場に巻き込まえる俺の身にもなってもらいたいものである。
あのあと、俺ときららは演技部の部室を出たわけだが、まあ割と楽しかったいえよう
後で黒草から聞いた話であるが、実際はきららのことを友達と思っているらしい。
なら、なぜあのようなことをいったのかといと、「あの子はちょっといじめられて萎れているほうがかわいいのよ、だから私には悪意はないのよ、むしろあれは好意の裏返し。」と本人は言っているが
俺からしてみれば悪意しか感じないのだが・・・・・
だがきららに友達がいて安心したという気持ちももちろんある。
といわけで俺のこの世界での2日目が無事終わった。
この世界に来て3日目の話。
段は目を覚ます。
昨日と同じに、伊吹はロードワークとやらで段の隣の布団はもうすでに押し入れに押し込まれており、その姿はない。
昨夜、伊吹に聞いた話によると朝のロードワークとはたいてい山川、あの逆立ち関西弁男と一緒に走る20KMのジョギングのことらしい。
よくもまあ、朝から20KMも走れるものだなと段は感心したが、伊吹によると山川の場合、さらに30KGの重りを足につけて走っているらしい。
そこまで、彼を駆り立てるものはなんなんだろか・・・・・?
まあ、それは置いといて
この世界誕生3日目にしてもうすでに段はこの部屋に慣れてしまったのか、昨日は夢
の一つも見ずにとても気持ちよく寝ることができ
、朝も7時のちょうど30秒前、めざましの鳴る直前に起きることができ、渾身のドヤ顔で目覚ましのアラームをオフにセットしたところだ。。
朝の7時で起きてからまだ1分と経っていないのにその意識は完全に覚醒しており、
カーテンから漏れるまぶしい光も、肌寒いくらいの外気も趣がありまたよい。
段は顔を洗おうと洗面所へと向かう、段達の部屋の洗面所は風呂場の脱衣所に
設置されており、その脱衣所と段達の眠るスペースは扉で区切られている。
今更ながら、この部屋のつくりは学生寮にしては割と豪華な造りで、広さもけっこうあると思う。
段はその脱衣所の扉を開こうとすると、何やら水の音がする。
「段?・・・・段ですか?」
その声は伊吹だ。
恐らく朝のロードワークでかいた汗をシャワーで流しているのだろう。
「ああ、伊吹か
俺に気にせずゆっくりしていってくれ」
段は、洗面台が使えないために流しで顔を洗い、朝食の準備をしようと、流しの上の台に手をかけた瞬間、洗面所から伊吹があわてて出てくる。
服は着ているが、髪はぬれたままである。
「 お風呂お先でした、段。」
風呂上がりの伊吹はその中性的な雰囲気がいつにも増していた。
「そうだ、せっかく俺もちゃんと起きれたことだし、伊吹、
今日一緒に登校しようぜ」
「ええ、もちろん」
そうして、段と伊吹は一緒に味噌汁とサケの塩焼きという朝食を2,30分で済ませ
学校へ行く支度をする。
すると、ドアが外からバタンと開かれる。
ドアを開いたのは伊吹だった。
もちろん、段は神罰スキルとやらで、伊吹に分裂能力というのがあるというのはわかっていたが一瞬戸惑った。
「あれ・・・・伊吹が二人・・・・・?
ああ…そうか神罰スキルか・・・・」
外にいる伊吹はすでに制服姿で髪も整えられている。
「召集です。
連盟長が連盟部員は今すぐ、4階部室に来るようにと」
「学校は?」
「今日は休むようにと」
「了解」
部屋の中の伊吹は間髪入れずに答える。
「ですが、段あなたはまだ体験入部員の身
もし望まないのならば拒否してもかまいませんが」
「おもしろそうだから、だてえりには行くと伝えておいてくれ」
「了解」
伊吹は磨き上げられた黒曜石のような目で段を見つめながら、抑揚のない声で答える。
段達は急いで制服に着替え廊下から出ると、隣の部屋にも伊吹は立っている。
そして、その隣の部屋にも、そのまた隣の部屋の扉の前にも、。
そして階段からさらに伊吹が、2、3人登ってくるのが見える。
少なくても、この階層だけで伊吹は10人以上いる。
一体伊吹は何人いるんだろう?
そして、隣の部屋から、カッターシャツからだらしなく出したくしゃくしゃの乱れた制服姿なのは武川だ、髪もぐちゃぐちゃでまさに寝起きといった感じである。
「おはよう、武川」
「おう、段、おはよう」
「なんだろう、緊急招集って?」
「わからねえ・・・
でもハッピーなことではねーことは確かだ。
それに副連盟長の俺にも連絡が今になって届くなんて・・・・・
まったく…・うちの指揮系統はどうなってやがるんだ・・・」
「ところで、」
段はせかせかと走り回る伊吹たちのほうに目をやりながら言う。
思いのほか、さっきみたより伊吹たち大きさが小さくなったような気がする。
「伊吹たちっていったい何人いるんだ?」
武川はなぜそんなことを言い出すんだという顔をしてから頭を掻き
「うーん、数えたことないけど本人たち曰く気分や環境によって変わるんだと
一人増えるごとにそれぞれの身長が1CM縮むらしい
だから、伊吹たちの身長測ればわかるらしいんだが・・・そもそも元の大きさがどれくらいなのかわからないからなあ
でも、うわさによるとあの中で一人それらの中心的個体がいて
なんでもその通称伊吹オリジナルは微妙にほかの伊吹たちと容姿が違うらしい。
その、伊吹オリジナルだけは身長が縮まないらしくてほかの個体と比べて少し身長が大きいとも聞いたな。」
「へー伊吹って謎が多いんだなー
っていうか本人たちは教えてくれないのか」
「うーん、あいつら無口だからなあ
山川とはトレーニング友達らしいんだが・・・
教えてくれって言っても無視されるのがオチじゃないか?」
「ああ、わかった教えてくれてありがとう。
じやあ4階に行こうぜ。」