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刃なき剣の旅路  作者: 雪夜小路
旅立ち
18/53

遅すぎた幕間 「オッカム潜入記 その二」

 蒼髪は槍の刃先をオッカムに向けるようにして構えた。


 そんな蒼髪に対し彼女は再び力を発動させた。

 後ろから飛んでくるものは草と土くらいしかない。おそらく、木は無理だろう。

 いまならいける。そう判断した。


 蒼髪は苦笑する。


「またそれかい。次は後ろに死体もないから大丈夫だと思ったのかい。狼さんの後ろには引き寄せるものもあまりないよ。それに一回見せたから、次は振り返らないだろうね。でも――」


 蒼髪に近寄ろうとしていたオッカムは後ろから力を受けた。

 歩みが速くなる。

 その引力はすさまじく止めようにも止められなかった。

 歩みは走りへと変わった。動かないと倒れてしまうだろう。


「自分が動けなくなって槍が振るえなくても、狼さんのほうからこの槍に突き刺さるんだよ」


 その引き込まれる先には、蒼髪が向けていた槍の先があった。


 オッカムは蒼髪の方へ、正確には槍の先端へと力を受けている。

 勢いはもう止まることはない。減速の力ではどうしようもない。


 それならいっそ――。

 相手の槍の先、大刃の頂点の位置を確認する。

 そして、ナイフを構え、大刃の頂点に向かって滑走した。


 蒼髪はオッカムがなにをするのか気づいたようで、声を出して笑う。


「おもしろい! おもしろいよ、狼さん。本当にそれができるのか見せてくれ」


 蒼髪はさらに引力を増した。オッカムの速度はさらに増す。


 槍まであと数歩の距離になって、オッカムの集中はもはや限界すれすれとなっている。

 彼女の視界にはすでに大刃の先端しか見えていない。

 左手に持った剃刀の刃がうっすらと銀色の光を発する。


 このときオッカムは共鳴に達した。

 ナイフの軌跡がうすい銀色の光跡として残っていく。

 共鳴と彼女の集中力により初速の問題はほぼ解決される。

 人間の体である以上、体を止めようとしても、どうしてもわずかに動く。

 そのわずかな動きに対して彼女は減速をかけることができるようになる。


 すなわち、相手は動けない。


 速度がほぼゼロの止まって見える槍でも、共鳴に達した彼女の力により減速を受ける。

 ほぼ固定され大刃の先端はもはや動かない。


 オッカムが槍へと近づくにつれ、オッカムの速度は上昇していく。

 そして、その点とオッカムが交わるとき、その点に対してオッカムはナイフの腹を当て、わずかに力をそらした。

 ナイフの腹はその頂点にほんのわずかに触れただけだ。

 しかし、その速さと絶妙な刃の角度ゆえに体は完全に大刃の切っ先から逸れた。


 問題はもう一つある。

 蒼髪はその槍の腹が地面と平行になるように構えていたということだ。

 その大刃を逸らしたとしても、横についている小刃へと体が突き刺さる。

 小さな刃ではあるがこの速度でぶつかったなら肉と骨を抉るには十分なものとなる。


 意識を小刃へと集中させる。

 再びナイフの腹を小刃の先端に触れさせた。

 力は逸れ、無事に槍の刃を通過することができた。


 その勢いを保ったまま彼女は蒼髪の腕を斬り落としにかかる。

 共鳴段階の減速能力――ほぼ停止能力によって男の体は爪の厚さほども動かせない。


「みごとな集中力、そして共鳴だよ狼さん。たしかに魅せられたよ」

 でもね、と続けた。


 オッカムは蒼髪の戯れ言には構わず、その腕にナイフを振るう。ナイフは蒼髪の腕へと食い込む……とった。


 しかし、振るわれたナイフは腕の途中で止まる。振り抜くことができない。それどころか腕へと沈み込んでいく。

 やがて柄すらも飲み込もうとするので、オッカムは慌ててナイフから手を離す。


 蒼髪の顔を見た。表情は笑っているといえるものだが、目はまったく笑っていない。

 その蒼い瞳は深い湖、そうまるで――、


「言ったはずだよ。このメリサニの能力は引き寄せること、引き込むこと。そして、引きずり込むことだと」


 彼女の集中力は共鳴中にほぼ最大になる。

 その集中力は細い糸を張り詰めている状態だ。

 予想外の現象を目の当たりにして、張り詰められた糸はぷつりと切れてしまった。

 顔につたう汗の冷たさを感じたとき、自らの集中力が切れたことを自覚した。


 蒼髪は槍を振るう。

 刃ではなく柄であったが、その力は圧倒的でオッカムの体は胴体を中心にくの字で吹き飛んだ。

 宙に浮いた彼女は見た。蒼髪の刃が青白い光を発していることに。


 共鳴……。


 オッカムの体は吹き飛ぶ途中で、その引力により徐々に減速し、柔らかく地面へと下ろされた。手心を加えられた。


 集中力を大きく削がれ、彼女は立つことも厳しい。


「これが刃吏十二軍が第三針の力だよ」


 「まあ、元がつくんだけどね」と続けたが、やはりオッカムには男が何を言っているのかわからない。そんな部隊は聞いたことがなかった。


 蒼髪はナイフを腕から引き抜き、足下に捨てた。

 緑服にはナイフによる切れ目がついているが、腕はなんともなっていなかった。


 オッカムはここで倒れるわけにはいかなかった。

 蒼髪に再び挑むため立ちあがる。

 ナイフはその手から失われ、刃である剃刀だけが残る。

 これは厳しい。彼女の攻撃は効きそうになく、しかも最後の柄による一撃でだいぶふらついてきている。


 蒼髪に対して再び力を発動させる。

 二度あることは三度ある、と言うが、三度目の正直を実現させる必要があった。


「同じ手を何度も使うのはよくないよ。狼さんも気づいているよね、『自分には勝てないって』。聞きたいんだけど、どうしてそこまでして立ち上がるのかな?」


 彼女は気づいている、自分ではこの蒼髪には勝てそうにないと。

 このふざけた男は、しかし強すぎる。

 どうして今まで名前が出てこなかったか、まったくもってわからない。

 最近、能力者(ホルダー)になったとしてもここまでの技量があれば名前は知れ渡るはずだ。


 過去に銀章をつけた能力者とも戦ったが、ここまでの差はなかった。

 少なくともあのときは相手も本気でかかってきていたはずだが、この男はまるで力を出していないように思える。

 この蒼髪は銀章どころか金章の力はあるだろう。

 純粋な力ならデデキント第二部隊隊長、それにテレス副リーダーと比べても遜色がないと考えられる。


 不意打ち、闇討ち、だまし討ちならともかく、正面から戦うには彼女にとって、あまりにも分が悪すぎる相手だ。

 逃げるにしても彼の刃で引き寄せられてしまうだろう。


 そんな圧倒的な力を持った彼が、彼女に疑問を投げかけた。

 普段なら絶対に話さないが、この蒼髪をどうにかするため、自分への鼓舞として少しだけ口を動かす。

 能力もいったん緩める。


「私は、私の望む世界が見たい」

「望む世界?」

「力を持たない弱者、数が少ない弱者が一方的に虐げられることのない世界だ」

「それは……」


 蒼髪は顔を笑わせたままこわばらせた。


「軍で銀章をもつお前にはわからないことだろう。『そんなものはありえない』と笑いたければ笑えばいい。しかし、私はその世界の実現のためなら、今の世界の犠牲を問わない。その世界を達成するなら私はどんなことでもやっていく。この手を汚すし、嘘もつく、非難もあまんじよう。そして――ここでお前を仕留めてみせる」


 オッカムは再び全神経を集中させる。

 剃刀はその刃に再び銀色の光を纏う。その輝きは先ほどよりも明るくなっている。

 蒼髪の全体を減速させる。こいつはもう動けないし、喋らせない。槍はこちらに向いていない。

 今なら殺れる。

 先ほどは腕だけを落とすつもりであったが、その甘さは通用しそうにない。確実に首を狙う。


 彼女は蒼髪へと一歩踏み出した。

 しかし、すぐに彼女の力は意味をなくした。

 蒼髪の周囲に霧が集まったのだ。どうやら霧を引き寄せたらしい。

 彼の姿がまったく見えなくなった。


 これでは力を発動できない。力の対象はあくまで見えているものだけだ。

 霧を減速させても意味がない。


「その答――気に入ったよ。狼さんは獣じゃなくて人間だったんだね。それなら大丈夫そうだ。獣よりも獣であろうとしてる。それは獣でないからこそできることだよ」


 霧の中から蒼髪の声が聞こえた。

 その声には今まで含まれていたふざけた口調が入っていなかった。

 霧に包まれその顔はおろか姿さえも見えない。


「……でもそれなら、人よりも人であろうとしてるルーはいったいなんなんだろうね」


 こちらから見えないということは、あちらからも見えないのではとオッカムは思ったが、霧の塊は正確にオッカムへと近づいてきた。

 オッカムは距離を取るため、後ろに飛んだ。体が浮かぶ。


 しかし、彼女の足が地面につくことはなかった。そのまま後ろに引き寄せられる。

 振り向くと後ろの木の上に蒼髪がいた。その位置から槍をオッカムに向けている。


 どういうことだ……あの短時間で後ろに移動してあそこに登ることはできないだろう。

 どちらにせよ、蒼髪は霧の中から出て、外から霧を自分に向けて引き寄せていたようだ。

 そのあとで自分を引き寄せたのだろう。


 これはどうしようもできない。詰みと言ってもいい。

 自分が動いているのでは減速する意味はない。

 先ほどと同様に力を逸らすにしてもナイフはすでに持っていない。

 剃刀でも出来そうだが、失敗のリスクが高すぎる。

 それに宙に浮くこの状態では集中がうまくできない。あまりにも分の悪い賭だ。


 あれこれと考えているうちに蒼髪の槍が目の前に迫る。

 刺さると思ったその瞬間、彼はその刃を消した。

 なぜ消したのかわからず、オッカムは混乱した。

 さらに蒼髪はオッカムの勢いを上手に殺して優しく受け止めた。

 彼女はもはや思考を止めた。


 蒼髪の顔を見ると、やはりへらへらと笑っている。

 オッカムが問い詰めようと口を開こうとすると、蒼髪は人差し指を口の前に持ってきてその発言を止めた。

 そして、その指をオッカムが来た道の方へ向ける。


「何か来る」


 蒼髪はそう言った。

 オッカムも落ち着いてそちらのほうを見る。

 視界には入らないが、確かになにかが来る気配がした。

 どうやら戦っていたせいでそっちに気が回らなかったようだ。


 すぐにその何者かが姿を見せる。

 二人いた彼らは東国(デクストラ)兵と同じ種類の服を着ていた。

 しかし、その色は黒。あれは、


「執行者だ」


 小さな声で呟く。

 蒼髪はなにそれ、という表情でオッカムを見る。


「デクストラの精鋭部隊」


 蒼髪はそうなんだ、とニコリと頷いた。




 執行者は先ほどまでオッカムと蒼髪がやり合っていた地点へ来ると静かに頷いた。

 片方が笛を出して口に当てる。音は聞こえない。

 あれは特別に訓練したものでないと聞き取れないと言われる笛だ。

 どうやらここに仲間を呼ぶつもりらしい。


 蒼髪もそれに気づいたようだ。こっそりと、

「ちょっと待っててね」

 と残し、彼は地面に降りる。着地したときにはその手に槍が戻っていた。


 執行者の二人がそちらを見たと同時に蒼髪のほうへ引き寄せられていた。

 その吸引力はとてつもなかった。

 どうやらオッカムに使ったときはかなり力を抑えていたらしい。


 執行者は宙に浮いて彼の方へ引き寄せられた。

 引き寄せた彼らに蒼髪はその槍を薙いだ。

 その横薙ぎはオッカムの目でもぎりぎり見えるかどうかの速さだった。

 先ほどの戦いではあそこまでの力を出していない。

 やはりかなり手加減されていたようだ。


 果たして斬られた二人の執行者は胴体で二つに分かれ、計四つの部品に分かれた。

 蒼髪は奥の道へと歩いて行き、倒れていた青服の下っ端をたたき起こす。

 下っ端は蒼髪を見て「おはようございます」と寝ぼけたことを言っていた。


「執行者ってのが出てきたみたい。君は基地に戻って豚に報告よろしく」

「……えっ?!」


 蒼髪は指を向けて先ほど薙いだ黒服――執行者の二人だった計四部品を指す。


「わっ、わかりました。えっと、対象は?」

「対象には逃げられたけど、もう片方の対象を助けに行くはずだよ。もう片方の対象を人質として基地長室に置いておけばいい。そう伝えといて。自分はここに残って執行者を始末する。いいかな」

「りょ、了解しました」


 下っ端はそのまま霧の中へと走っていく。

 その姿が見えなくなると、蒼髪はオッカムの方を向いた。


「降りて来なよ、狼さん。それとも自分が受け止めた方がいいかな?」 


 オッカムは木の上から自身の足で地上に降りた。


「聞いてたろ。そういうことになった。確かにその力と意志をみせてもらったよ、オッカム第三部隊隊長さん」


 オッカムは蒼髪の真意が読めなかった。


「どういうつもりだ?」

「自分はつい先日、刃の(ラーミナ・)解放軍(リベラティオ)に拾われて、そのまま第二部隊に入ったんだ」

「なに?」

「そこで、リーダーの使いを名乗るやばそうなおっさんに頼まれた。『この島にオッカムってのとルーが来るから逃がしてやってくれ』ってね」


 リーダーの使いを名乗るおっさんというのは、単眼鏡をつけた彼だろう。やばそうなというのはよくわからないが……。


 オッカムは彼からそんな話を聞いていなかった。おそらく急遽きまったことだろう。

 ルーというのはルイゼットことで間違いなさそうだ。かなり親しげに呼んでいることからこの蒼髪の正体がやっとわかった気がした。しかし、


「なぜそれを先に言わない?」

「言ったろ。自分にあっさりやられるようなやつにルーを任せるわけにはいかないってね。おっと……黒服さん達が来たみたいだ。自分はここで時間を稼いでるよ。道はもう片方の道から行った方がいいね。ちょっと時間がかかるけど基地の裏に出るみたいだ。見回りの兵士も少ない。あとこれ――」


 蒼髪は四つ折りにされた紙を渡す。


「これは?」

「基地の見取り図だ。昨日、自分が書いたから間違いないよ。さっき話したようにルーは基地長室にいるはずだ。そこは火薬庫から距離がある。わかるかな?」

「いい誘導になりそうだ」


 蒼髪は頷き、執行者たちの来ていた道を見る。その顔に驚きが浮かんでいた。


「なんだ、あのでっかいのは」

「あれは……」


 霧の中から巨大なシルエットが浮かんできた。

 斧に見える。その斧はそれをもっている男の身長よりも大きい。


「あれはジャックの斧。能力者だ」

「有名な人なのかな?」

「ああ、残忍なやつだが実力者だ」

「そっか。なら、ここは自分に任せて行ってくれ」

「わかった」


 この蒼髪なら問題ないだろう。

 オッカムはそう判断し、シニストラの基地へ向かうことにした。


「ちょっとまった。二つ言い忘れてた」


 出鼻をくじかれる。


「一つ目はルーに伝言。『風邪引くなよ』って」

「それだけか?」

「そうだね。ルーならわかるよ」


 蒼髪はニコニコと本当に楽しそうな顔をしていた。


「もう一つは狼さんに言っとくことなんだ」

「なんだ?」


 蒼髪の顔から初めて笑顔が消えた。当然、その目も笑っていない。


「もしルーになにかあったら、オッカムさん。あなたをどこまでも追いかけていくから」


 オッカムはあとずさる。彼女にとってこれは久しぶりの感覚だった。


 蒼髪の顔はすぐに笑顔へと戻る。

 しかし、その目は引きずり込まれるような深さを持ったままだった。

 そして、その目はどこまでもまっすぐに彼女の内面を見つめている。


 蒼髪のルイゼットに対する感情は友情や愛情のそれだと考えていたが、彼の目を見てどうやらそれはズレていることにオッカムは気づいた。

 たしかに友情や愛情といったものも含まれているが、主成分は違う。


 彼女はこれに近いものを見たことがあった。

 それは忠節、忠義、忠誠というものだ。

 彼女にはその概念がよく理解できなかった。

 それ故に印象に深く残っている。


「なんか告白みたいになっちゃたね、照れるなぁ。まあ、ルーが簡単に死ぬとは思えないけどね。じゃあよろしく頼んだよ、オッカムさん」


 彼はオッカムに背を向けて、槍を片手にジャックの方へと歩み始めた。


「わかったよ……蒼髪」


 名前を呼ぼうとしたが、聞いていなかったことにオッカムは今さらながら気づいた。

 彼女も蒼髪に背を向け、落ちているナイフを拾って道を駆けていった。




 蒼髪の言ったとおり、道を進んでいくと基地の裏側に到着した。


 図面を見たところ、どうやら火薬庫はすぐ近くにあるようだ。

 配置を覚えて服の中にしまう。


 火薬庫がある建物の周囲の警戒は想像よりも少なかった。

 火薬庫は基地長室と距離がある。

 基地長室の方に兵が回されて、こちらの警備が薄くなっているかもしれない。


 入り口には青服を着た二人の兵が立っていた。

 木陰に隠れて見守る。一人なら簡単に始末できるが、二人となると少々手間だ。

 時間の問題もあったため強行突破で行くことにした。


 オッカムはナイフを一人の脳天に向けて投げる。

 同時に、もう一人へと一気に近づく。

 ナイフが狙い通り片方の頭に突き刺さる。

 そして、もう片方が彼女に気づく。声をあげようとするが、力を使い、その口の動きを減速させる。これで喋ることは難しくなる。

 うまく口が動かず男は戸惑った。その戸惑いは近づくための良い時間稼ぎとなった。

 男が剣を抜くころには、剃刀が彼の腕、首の順で切り裂いていた。


 彼女は入り口の扉から火薬庫の中を伺う。どうやら中には誰もいないらしい。

 物置同然であり、火薬以外のものも多く置いてあった。

 彼女はすぐに入り口前に転がる兵士であったものを火薬庫に詰め込む。

 死体はここで爆発させるから処理は必要ない。


 問題はどうやってここを時間差で爆発させるかであった。

 なるべく基地長室に近づいてから爆発させたい。

 見渡すとロープと油の入った瓶があったので、ロープに油を染みこませる。

 『火気厳禁』という旨の書かれている箱を開け、ロープの片端を箱に差し込む。もう片端を引きずって部屋に敷いた。

 入り口の扉から周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。その後、ロープの片端に火をつけて、徐々に燃え移っていくこと確認して、彼女は速やかに火薬庫をあとにした。


 木陰の中に再び入り、基地長室のほうへと移動していく。

 もう少しで基地長室、というときに火薬庫の方から耳を打つ轟音、そのあとに煙が立つ。

 すこし派手すぎたが、いいタイミングだ。動くにはちょうどいい。


 爆発が収まると次は兵士の声が立ち始める。

 どうやら兵たちはもくろみ通り火薬庫の方へ向かっていく。

 オッカムは開けっ放しの入り口から入り、基地長室の方へ向かう。


 目的の部屋のそばへ行き、近くの物陰で様子を見ていた。赤服を着た兵が顔に焦りを貼り付けて出てきたので、通り過ぎたところを後ろから素早く口を押さえ、ナイフで首をかっきった。

 死骸はそのまま物陰に捨て置いた。

 他に兵士がいる可能性があるため少し物陰で再び様子を見ていた。そうすると、また赤服が部屋から出てきたため、彼女は同様にこれを処理した。


 部屋の扉が少し開いたままだったため、中を確認する好機と考え近づいたが、扉の近くに兵が立っており、オッカムは慌ててドアの影に身を隠す。

 どうやら兵士にははっきりと彼女が見えなかったようで、兵は扉から首をだしてきた。

 彼女は兵士に対して力を使い、動きを封じた。

 そして、その顔を掴んで力尽くで部屋から引き出す。

 兵士は暴れたが、首を腕でホールドして、そのまま捻って折る。腕を離すと兵士は抵抗なく床に落ちた。


 音を立ててしまったため、中から兵が出てくるだろうと彼女は警戒したが、どうやら部屋から物音はしなかった。

 このため、兵士は今の赤服で最後と判断したオッカムはナイフと剃刀を両手に持って、ドアをほんのすこし押し、ゆっくりと部屋の中へと入っていった。

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