7話 劉焉と行商人達【後編】
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もろもろ言いたいことはありますが、ごめんなさいm(__)m
「まずは一点。管輅の予言を調べてほしいの。」
管輅。
最近、大陸に現れた予言者・占い師で各地に次の2つの予言を話してまわっている。
『流星より現れし天の御使い。乱世の光となりて大陸を平定する英雄となろう。』
『彼は一度大地より消えし者。乱世にて彼は蘇り、大いなる力を得て大陸を鎮める救世主となろう。』
「旅の途中あちらこちらで噂になっていましたな。こちら・・・益州に入ってからはあまり聞きませぬがね。」
「噂のことは知ってたけど、改めて聞くとマズいよね?霊帝様の治世はもうダメだよって言ってるもんね。」
費緯はこの予言についてあまりいい印象を持っていないようだ。
劉焉側の文官達や魏延も『恐れ多い』『なんと無礼な』とささやいている。
趙子竜、厳顔、黄忠は思うところがあるようで複雑な顔をしていた。
ダンナは礼を崩さず静かに劉焉の次の言葉を待っていた。
「まあ、ぶっちゃけ、劉宏の治世がどうとか私としてはどうでもいいんだけれどね。」
費緯や文官達は今の言葉に驚いて劉焉の方を見やる。
「だって幽州からこっちに来たのって、中央の派閥争いや権力闘争に巻き込まれたくなかった、ってのが理由よ?劉宏が『帝』になる前から、ああ、もう近い内に大陸は荒れるなって感じたもの。」
しれっと自分の思いを告げる劉焉だが、その目はとても寂しそうに感じた。
「まあ、そこら辺は後の依頼事に繋がるけど、この依頼聞いてくれない?『誰』が『それ』になるか知りたいのよ。こっちじゃあんまり有益な情報ないからはっきりしないのよ。」
「・・・まずは、すべての依頼をお話下さい。返答は、その後致します。」
ダンナは先程と同じように目を閉じたまま礼を崩さず自分の意見を伝えた。
彼にとっても治世がどうとかは関係ないのだろうか。
「わかった、じゃあ次ね。二点目は、先程の管輅の予言に繋がるのだけれど乱世になって活躍しそうな英傑を見てきてほしいの。」
「乱世で活躍する英傑・・・お姉さん、そうなりそうさ!」
「・・・私も武芸者だからな。それなりに名を上げたいとは思うがな。」
「心配しなくても、お前『ら』はそういう位置になりえる人物だよ。」
礼を崩さず、2人に聞こえるようにボソッと伝えるダンナ。
それに対して趙子龍が『ダンナ殿は?』と聞くが返答はなかった。
「貴方は益州でしか活動していない行商人だけれども、他商人との繋がりを活かした情報収集力、1000人規模の賊徒を壊滅できる武力。私の依頼を達成できる力を持つ者はそうそういないのよねぇ。」
「私は非才です故、劉焉様が言われるほどの力は有していません・・・一商人がそれほどの力を持っているなど恐ろしいことです。誰かと間違えているのではないですか?」
「私は貴方の事を知っているのよ?それくらい出来ると分かっているんだから・・・非才なんてよく言うわ。」
劉焉は頬杖をついて、ダンナの言い分を否定する。
文官達の中に『こやつがあの砦落としの・・・』『漆黒の断罪者』などと、またもヒソヒソと話す声が聞こえてきている。
「ダンナ、その道の人はみんな知ってるんだから諦めるさ。それに、前の砦落としやったとき役人さんにバレかけたし、今更何を言っても無駄よ?」
「あなたを非才と認めれば、その辺の天才・秀才は凡才と成り果てますなぁ・・・あまりご自分を卑下されないで下され。」
後ろの2人は劉焉の援護なのか、ダンナの言葉を否定する。
少し後ろを向き、『お前等・・・!!』と言わんばかりに鋭い威圧的な気を向けるが2人とも、しれっとした態度で目をそらす。
「実力があるって事なんだから誇りなさいよ?私としては想像以上に強く育ってくれたから嬉しいんだけどね・・・まあ、本当なら私の下でそうなってほしかったけど。」
「・・・昔は昔、今は今。それで、最後の依頼とは何ですか?」
「もう、せっかちなのは嫌われるわよ?どうせ、二つの依頼受けてくれるんでしょ?だったらついでにもう一つも聞かずに受けてくれたっていいじゃん!」
「依頼達成不可能な物を受けるわけにはいきません・・・仮に二つは受けるとしても、最後を聞かなければ契約はしません。」
むむむ、と言わんばかりに劉焉は難しい顔をしている。
ダンナに至っては、少し後ろを向いたりしていたが、服を着替えてからはずっと礼を崩さずにいた。
一部の文官達はその姿が、とても好感が持てる姿だったと、後の報告に上がっていた。
劉焉は観念したのかガックリ肩を落として最後の依頼を伝えようとする。
「最後の依頼はね、スッゴい個人的な事なのよね・・・」
「まあ、貴方にも関係のある事なんだけれども・・・」
「私としては貴方に頼むのは難しいと考えているのだけれどね・・・」
「私にとって大事な事なのよ・・・」
妙に焦らす言い方をし始める劉焉。
ダンナ以外の者は個人的な依頼がどんなものか固唾を呑んで見守った。
「幽州の私の元居城から忘れ物w『先の二点は受けましょう。最後はあなたの部下にでも取りに行かせて下さい。』・・・もう、いいじゃん!!忘れ物取りに行くだけじゃん!!誰かに会え!!って言ってるわけじゃないじゃん!!英傑見聞と一緒に出来るでしょ!?」
「幽州地域に彼女・・・趙子竜ほどの英傑がいるのですか?」
いきなり話を振られ驚いた趙子竜だったが、ダンナの自分の評価がとても高かったことが嬉しいのか少し顔を赤くしていた。
費緯は少し羨ましそうにダンナの後ろ姿と趙子竜を見ていた。
「いる!!櫨植先生の所に勉強に行ってた子達は結構いいのが揃ってた!!」
「・・・大体、誰がそうなるか分かっているのではないですか・・・」
「『貴方』の『目』で英傑に成り選るかを見てほしいの!?分かる!?」
「何をさせたいかは把握しています・・・ですか、3点目の依頼とは話が違います。他、2点は契約させていただきます・・・3点目は他を当たって下さい。」
先の2点は比較的快く引き受けたように感じていたが、最後の依頼についてはほぼ、話を聞かず受けないと切り捨てていた。
費緯と趙子竜はなぜそこまで頑なに拒むのだろうと疑問に思っていた。
「わかった・・・貴方に対して忘れ物なんて回りくどいこと言った私が間違ってた。」
一度、目を瞑り、呼吸を整えると先ほどはまるで子供のように話す女性だった劉焉は『王』として毅然とした態度でダンナと対面した。
「厳密には『忘れた』のではなく『連れてこれなかった』のよ・・・意味分かるわよね?」
「・・・。」
「私の『知り合い』が大事にしていた馬『風切』よ。あの子を連れてきてほしいの。」
今まで意見は言ってきたが顔を上げずにいたダンナだったが、礼を崩し劉焉を真っ直ぐに見た。
「乗り手を失い、以降は私以外誰も寄せ付けなかった風切。連れてきたかったけどあの城から一切出ようとしなかった・・・最低限の世話はお願いしたけど、私としては不安なの。とても大事な馬なのよ・・・『無理』に出そうとしなくていいから様子だけ見てくれない?」
「・・・分かりました。3点共、依頼として引き受けます。」
「助かr『ただしお願いが。』わ?」
「私は商人です。仕入先との繋がりがあります。そことの交渉が成功しないと益州から出れません。なので、少しお待ちいただけますか?」
「説得できるの?」
「無論。できるから引き受けました。依頼にすぐ取りかかれないので時間が欲しい、と言うのがお願いです。用意が出来次第、永安より新野方面に渡り洛陽を目指します。」
「わかった。永安は黄忠に任せているから、用意が出来たら寄りなさい。私の集めた資料とか渡せるようにするから。」
ダンナはそれには答えず、スッと立ち一礼をした後、踵を返し玉座より出て行った。
費緯達はサッサと出て行ったダンナに着いていけず、慌てて礼をとり、ダンナの後を追っていった。
3人がいなくなった玉座は文官達の話し声で少し騒がしくなったが、劉焉の横に並ぶ黄忠と厳顔が彼女に対して自分達の想いを告げる。
「よろしいのですか?もう少し話がしたかったのではありませんか?」
「・・・ええ、いいのよ。2度と見ることがないと思っていた顔を見せてくれた・・・それだけで本当は十分よ。」
口に手を当て、くすくすと笑う劉焉。
その姿は成長した息子を見る母親のようだった。
「それにしても驚きましたな。普段の姿を見ていた分、やつにあのような姿が出来ようとは思いもしませんな。」
「私も、部屋に案内する前と後であそこまで態度が変わるのには混乱しましたね。」
「これからもっと驚かされるわよ?あの子の本当の姿は『さっきの姿』でも『行商人』でもないのだから。」
そう言いながら、玉座から立つといつまでも話をしている文官達に指示を出していく。
その姿は、息子を見る母親ではなく、一国の王としての姿だった。
『・・・にぃにはしょこでしらべものをしていました。なにをしらべているか聞いてみたら・・・さまのまえに出るときのために礼を学ぶんだって。父上は・・・にぃにの作法ならだいじょうぶってあとから聞いた。・・・はことばづかいをおぼえなさいって言われた。・・・がんばろう。』
次の日、歴史資料館に足を運んでみた。
バカ馴染みの義妹もついてきた。
しかし、バカ馴染みの方は、バイトがあってついてきていない。
まあ、あれがいなくても全く問題はないが・・・。
以前、あの日記を見つけたエリアへやってきた。
義妹もこの辺りで見つけたみたいだ。
注意深く、資料を見てみよう。