第参夜・悪夢は死神と交錯する
ここの最近、毎日、同じような夢を見る。
私の夢だけど、その夢の主人公は私じゃない。
主観と客観が交錯してる夢。
私は、その夢の主人公の中に存在してるのだ。
私が思うことは、主人公である「彼女」には届かない。
「彼女」の考えも、私には届かない。
「彼女」と私の関係は、視覚だけを共有する多重人格者の人格同士みたいなものだ。
だから、その夢は「彼女」の目に映ったものを、ただ見せ続けられるだけのもの。
音のない映像だけの夢。
私の意識が同居している相手が、どうして「彼女」だと解ったのか?
鏡に映った、その姿を見たからだ。
銀髪の長い髪、赤い瞳の少女。
そう。
「彼女」は、あの男と同じ身体的な特徴を持っていた。
「彼女」も死神だったのだ。
私が見る夢は、夜の闇に「彼女」が仕事をする様子。
死神の仕事。
あの世に死者を送ること。
人を、殺すこと。
「彼女」は昨日も仕事をしていた。
丁度半分に割れた月が浮かんだ夜だった。
オフィス街に「彼女」はいた。
人の気配はない。
深夜なんだ。
当然といえば、すごく当然なことだ。
オフィスビルの中には、ガードマンとかがいるんだろう。
でも、そこはビルの外だ。
「彼女」の他には、やはり誰もいなかった。
「彼女」が何かに気づいた。
左の方を見る。
たぶん、その何かはヒールの足音だったんだと思う。
だって、そこには、こちらに向かって歩いてくる女性がいたから。
年齢は20才後半くらいだと思う。
スーツ姿がとっても似合った人。
女性は「彼女」の前を横切る。
数歩、歩くと止まって、こちらを振り向く。
「彼女」が呼び止めたのだろうか?
たぶん、あの男の死神だったら、その女性は止まってなかったと思う。
女性は逃げだしたんじゃないかな?
「彼女」は見た感じ、私と同じくらいの年頃に映ると思う。
女性から見たら年下の少女だ。
だから、油断したんだろう……。
まさか、「彼女」に殺されるなんて、夢にも思わなかっただろうと思う。
女性の頭が飛ぶ。
女性の首が、「彼女」の手に現れた、大きな黒い鎌で切断されたのだ。
人が殺される夢。
最初は怖かった。
でも、もう何も感じない。
毎日、毎日、他人の死を見てきたからだろうか?
人が呼吸して、食事するみたいに、死も自然に身近にあることだと思えてきた。
だから、もう人が死ぬことをなんとも思えなくなってるのかな?
それに、これは夢でしかないんだ。
そう、夢。
だってありえないもの。
この後のことなんて、本当に夢でしかありえないことだった。
夢だから起こる、バカみたいな出来事。
「彼女」はいつもだと、人を殺した後、間を置かずに次の仕事を始める。
死者をあの世に送ることだ。
だが、その日の夢では、すぐにその仕事をしなかった。
後ろから、男に呼ばれたのだ。
殺された女性のように、今度は「彼女」が後ろを振り返った。
そこで予測不可能な、夢でしかありえない人物が登場する。
「彼女」を呼んだと思われる人物。
それは日本刀を持った、中年男性だった。
ほらね。
夢じゃないと、ありえない展開でしょ?
正直、この夢を見るまでは、本当は現実なのかも?と錯覚を起こしかけてた。
でもこの話は、現実ではありえない。
街中に刀を持って歩く人間なんていないのだから。
やっぱり、これはただの夢……。
男は「彼女」に怒鳴ってる。
なぜか怒ってるようだった。
そして、「彼女」に日本刀を向けた。
死神を相手に、人間が武器を持ったところで勝てるわけないのに……。
予想通り、勝負は一瞬で決着した。
男も女性と同じ運命をたどった。
そして、「彼女」は二人の亡骸を、いつものようにあの世に送る。
何も不思議なことはない。
これは単なる夢の話なんだ。
死神の男の夢。
あの印象を引きずった夢。
まだ死にたい気持ちは変わってない。
だから、死神の夢を見るのだろうか?
ああ、そういえば「彼女」は少し、私に似てるかも。
自殺を考える私にとって、死神は私自身なんだろうし……。
いっそ「彼女」が私を殺しに来てくれないだろうか?
そうすれば楽なのに。
不思議と自殺を実行に移せないから……。
あれ?
私は確か、自殺を決意して、一度、家を出たような……。
私はたぶん、今夜も「彼女」の夢を見ると思う。
いつまで「彼女」の夢を見るんだろう?
私が死ぬまで?