第壱夜・悪夢は死神を誘う
5月26日「魔方陣」誤を「魔法陣」に修正。
魔方ってどの方向だ…すみません。
私は必要のない人間だと、初めて思ったのはいつだろう?
死んでしまえば楽になれると、考え始めたのはいつからだろう?
月の夜だった。
満月だったか、三日月だったかとか、そんな事は覚えていない。
今から自殺する人間にとって、そんな事は些細なことに過ぎないと思う。
もしかすると、
「ああ。私は満月の夜に命を絶つんだわ……」
みたいな事を考える人もいるのかも知れない。
でも、私はそれは違うと思う。
その人は本当に死にたいんじゃなくて、そういう立場の自分に酔ってるだけだと思う。
だって、私は何も覚えていないもの。
何を考えて歩いたのか、何を思ってそこに向かったのか。
そんなことさえも。
気がついたら私はビルの屋上らしき場所にいた。
そこからの記憶は残ってる。
風が強かった。
髪が風に乱れた。
着ていた服が風に押し付けられた。
風が血の匂いを運んできた。
そこはすでに死んだ後の世界だったのだろうか?
黒いロングコートを着た男がいた。
その下に身につけている服も黒一色だった。
銀髪の、赤い瞳の長身の男。
それまでの私は鎌を持った髑髏をイメージしていた。
でもこの時に、そのイメージは、この男の姿に塗り替えられた。
死神だ。
男は死神だったのだ。
不思議な記号の描かれた、円の中心にその男が立っていた。
その円、恐らくは魔法陣といわれるもの、の上に数人の人間が血を流し倒れている。
あの人たちは死んでいるのだ。
私ももうすぐアレになれるんだ。
「お前は死にたいのか?」
そこにある人の亡骸を、悲鳴も上げずに呆然と見ていた私に、男は静かに語りかけてきた。
私は、頷いた。
「お前は何故、死を求める?」
「私は誰にも必要とされていないもの、私の存在する意義がないもの。生きることに疲れたもの、生きることが無駄だもの」
思っていたことが素直に言えた。
いつもは誰にも心を開けない。
開きたくもない。
こんなこと、誰にも言えない。
相手が死神だったから言えたのだろうか?
「だったら、私がお前を必要としてやろう」
死神は口元で薄く笑った。
その後は何があったのか、何をしたのか覚えていない。
気がついたら、私はいつものベットの上だった。
私は、まだ生きていた。
死神に会えたのに、死んでいない。
あれは夢?
夢だと思う。
だって、ビルの屋上で死体が発見された事件なんて報道されてない。
死神を見た夢だったんだ。
私が本当に死ねるのはいつなんだろう?