剥がれる葉
――大都市ヴァースに、夜の使者が舞い降りた。
雪に覆われた街路樹は、緑を落とし白を着飾る。
グリーズの遠征を終えたリリは、その光景の中に舞い降りていた。
いつもならば、人目を避けジョウントタグで自分の部屋へと向かうのだが、今日は堂々と都市部を闊歩していた。
道すがら出会う者達は、一様にリリに見入っていた。
と、言うより、手に持った二本の剣が気になるようだ。
それは、リリがヤーニを生み出すよりずっと以前、タルパの原理で作り上げたものだった。
右手に持った紫の剣は、あらゆる霊的対象や概念を切り裂くよう設定された、パープルプレートを原材料とした「パープルブレード」。
左手に持ったタグを縦書きした形の剣は、あらゆる物質を切り裂くよう設定された「タグレート・ソード」。
パープルブレードは物理的破壊を目的としないため、刃先が四角く、柄は握りやすい様指の形の窪みはあるが、ろくに調整はされていない。
タグレート・ソードは、
<a href="http://all" vibration="select" viblength="○"> </a>
を縦書きした形の奇抜な代物だった。
自身の生体磁場を凝固しバイブレーションタグを形付けているため、その刀身に触れたものは、たちまち超振動を受け消滅するのだ。
人混み過多なヴァースをリリは歩くが、依然その剣をしまうことはなかった。
二つの剣は、念じれば現れる体の一部の様なものであるため、リリは手ぶらで歩いている感覚でいたのだった。
気づかぬまま、ついにその足はカニールガーデンにたどり着いた。
首をあげ真下からその佇まいを眺める。
一度クスリと笑うと、一気に跳躍し、屋上近くの部屋に飛び上がる。
そこにはクレロワがソファーに深々と座っていた。
「クレ、ただいま!」
クレロワは、突然の訪問に驚き立ち上がる。
だが、笑顔で話すリリを見てグリーズ遠征の成功を理解した。
「早速だけどビデオの用意して。あの話の続き見なくっちゃ!」
リリは、ワンダラー以前に好んで見ていたテレビ放送があった。
その全てを視聴することが出来なかったため、アセンションの達成が近付く度、一話ずつ見ると決めていたのだ。
今試聴すれば、これで残りは二話となる。
「それよりリリ、そんな物騒なものを引っ提げてここまで来たのかね?」
クレロワは半ばあきれ気味に言った。
ようやく剣をしまい忘れて居るのに気付き、リリは可愛らしく言い訳をした。
「あ、そうだ!ヤーニ達が帰ってきたらパーティーでもしましょうか。」
言い訳後、とっさに話題を切り替える。
調子を合わせ、クレロワは直ぐに賛同した。
これほどに喜んでいるリリを見たのはいつぶりか… もっと喜んで欲しいという素直な感情があった。
「せっかくだから手みやげのギベオンを使ってお茶を作ろうか。私が準備をしよう。」
リリは元気に頷き、音吏や、クシミに居るヤーニと巻の帰りを待ちわびた――
―――――――――
――クシミに降る雨は止んだ。
戦いを終えたマティス達に対する祝福か、空には巨大な虹が架かる。
潟躍とネムは、激戦のため体力を著しく消費し、濡れた地面に腰を下ろしたまま動かない。
「でもまぁ、我ながら無事なのが不思議なくらいだ。」
二人は偉業を成した事に対し、素直に喜び互いの無事に安堵する。
その一方で、マティスの表情は険しかった。二人の活躍を賛辞し労うが、その声に喜々はない。
ふと、マティスは南向きに歩き始めた。
「ちょっと野暮用があってな。すぐ戻る。」
潟躍達も一緒に付き合おうとするが、心とは裏腹に身体が否を申し出る。
「お前達はここで休んでいた方がいいだろう。」
言い終え、木々の中に姿を消した。
ネムは、その背中をなにやら遠くに感じていた――
―――――――――
――森から少し南に行けば、白い砂浜の海岸がある。
その純白の砂の上を、桃色の髪の少女が一人、息を切らし走っていた。
肉体年齢十八前後のその少女は、ヤーニとの戦いが始まる前、三つ巴の石の前で立ち竦み逃げ遅れていた団体の一人である。
ザックとネムに誘導され、他の者と同様、街がある北側を目指し逃げていた筈だが… なぜか今、逆方向のこの砂地にいた。
慌てていて道に迷ったのか…
不意に、少女の足が止まる。
半霊化した体を元に戻し、訝しげに辺りを見回した。
風の音に紛れ、自分を呼び止める声が聞こえ気がしたのだ。
気のせいか、と少女はため息を漏らし、再び半霊化した。
その時である…
「やはりこっちに来ていたか。」
…今度は空耳などではない。
目の前に佇む男が、その証拠となり少女の目に映る。
短刀を握り、目を光らせる男は、マティスと名乗り、切っ先を向けた。
敵意を向けられる覚えのない少女は、口やかましく罵倒した。
だが、マティスが新たに紡いだ言葉は、少女の気を変えさせた。
「この先にある洞窟に行きたいんだろう。森から近いパワースポットはそこだけだからな。図星だろう、巻。」
――巻。
その名を言われ、少女の表情は変わった。
「そうか。あなたがマティスか。音吏から聞いてるよ。」
この少女こそが、クシミでインディゴを集めていた人物「巻」である。
――ネメキネシスを元に進められていた、荒らしを引きつける旋律を荒らしの脳裏に直接送る計画。
それは、巻を媒体として行われていたため、巻は生体磁場を大幅に底上げする必要があった。
力を高めるパープルプレート、そしてパワースポットが必要不可欠。
これまで三つ巴の石を利用していたのだが、そこを追いやられたため、最寄りのこの海にあるパワースポットに来たのである。
「あなたって頭が言いのね。ヤーニからもうまく逃げれたようだし。尊敬しちゃう。」
巻は臆せず言うが、内心、僅かながらに動揺していた。
さっきまでヤーニと戦っていたのならば、自分より早く先回りするなんて出来るはずがない。 その疑問が脳裏に付いて離れない。
「ま、いいや。なんであたしに剣を向けるの?音利に使い捨てにされたのがそんなに嫌だった?」
巻の言葉を聞いた時、なぜかマティスは短刀を下方に落とした。
敵意を捨てる行為と思えた矢先… マティスは、空いた右手で強制リンクタグを書いた。
風景は思念世界に移り変わる。
「こ、ここは!?」
その中に身を置いた巻は、目を見開き取り乱した。
「久しぶりにこの地で会ったんだ。もっと感傷に浸ったらどうだ。」
そしてマティスは、再び右手に敵意を宿らせた――
――マティスと巻の邂逅から三十分ほど前…
ここ、ワイス北側にある小さな森を、ラーソは一心不乱に走っていた。
サムの家が近くにあるこの森に、三人の荒らしが現れるとの噂を聞きやって来たのである。
家がもうじき見えるという矢先、件の荒らしと遭遇したラーソは、思わぬ事実を知ることになる。
「あんたの事を始末しろって言われてるぜ。依頼者からな。」
荒らしの一人が言ったこの言葉は、ラーソに二つの事実を予感させた。
依頼という言葉からは、荒らしが煽り屋に利用されているという事。
そして、自分の名を知っている口振りからは、煽り屋は顔見知りである可能性が高いこと。
ラーソの胸には、テテの名前が舞い降りていた。
「余計な詮索は無用だぜ。」
荒らしは自らの生体磁場を竜巻状に唸らせ放つ。
ラーソはここに来るまで半霊化し走り回っていたため、体力を大幅に失っていた。そのため、避けることすらままならず身体全体に無数の切り傷を生んでしまう。
さらに荒らしは、代わる代わるに竜巻をうねらせた。
三人が作った竜巻は一つに重なり、木を次々に倒しながら傷付いたラーソに向かう。
このままでは…
「ほう。まだそんな力があったのか。」
荒らしは空ふかしの口笛を吹いた。
その眼前には、無数の飛び散った葉が固まり合い、一つの壁となって竜巻を防ぐ光景が広がっていた。
そして、竜巻が消えた時には、荒れ果てた森の光景が。
そこにラーソの姿は無かった。
どうせすぐに見つかるだろう… 荒らしはタカをくくり、ゆっくりと三方向に飛び出した――
―――――――――
――「あ、あの…!」
ラーソは今、一人の女性に手を引かれ走っていた。
女性は何も言わず、走り続ける。
視界に、サムの家の庭先が入る。
切らした息を静かに整え、ラーソは隣にいる女性に、言い損なっていた礼をした。
「ルシータさん、助けてくれてありがとうございます。」
荒らしの猛攻からラーソの窮地を救ったのは、数日前に別れたルシータだった。
「謝らないと駄目かも知れません。荒らしから情報を聞きたくて、すぐに助けなかったのですから。」
ルシータは、ラーソと同じく、町での荒らし出没の噂を聞き駆けつけたらしい。
「でも、おかげではっきりしました。荒らしには、サム君の父親が絡んでますね。」
そしてさらに、ラーソ同様テテに疑いを持っている様だった。
同じ動機と憶測を持った二人は、互いの意見を確かめ合った。
――テテは、サムをリロードすると言うが、本当の目的は、リロード中の事故に見せかけ、サムを亡き者にしようとしているのではないか。
――事故の内容は、「荒らしによる妨害」。
その荒らしは煽り屋に頼み用意した人材。今は森に潜伏している… つまり先ほど会った三人組である。
「荒らしが討伐に来たアフィリエイターを返り討ちにした時、わざと逃がしていたのは、自分達の存在を街に知らせるためでしょう。」
森に荒らしが居るという情報は、森は危険という情報に変わり、当然、付近に住む者の危険を予感させる。
「リロード中、荒らしに襲われて失敗したとなれば、助産師にも非はなくなる。恐らく、煽り屋はリルアでしょう。そして煽り屋を雇ったのは…」
ルシータの話は、ラーソが考えていたものと全く同じだった。
未だに信じたくはないこの事実。しかし、落ち込んでは居られない。
「…行って、直接聞きましょう。」
そして二人は、サムの待つ家に向かった――
―――――――――
――「繋がらないぞ。どういう事だ?」
サムの家に、テテの声が響いていた。
不安げに顔を曇らせ、隣に居る新たな介護人、リルアを見やる。
「変ね。あたしの方も繋がらない。忙しいのかしら?」
リルアも怪訝にテテに返す。
二人はクイネスにテレパシーを送っていたのだが、なぜか繋がらない事に不信感を抱いていたのだった。
「とにかく早いとこ始めよう。リルアさん。荒らしの手配をしてくれ。」
リルアは首を縦に振った。
以前から行おうとしていたリロードを、今まさに始めようとしているのだが、当のテテは妙に浮ついていた。
二人の不穏な動きは、幸せそうに寝息をたてるサムには解らない。
「でもあなたも悪い人ね。流石の私も気が滅入るわ。」
サムの寝顔を見、リルアは話す。
と、その時、扉が開く音がした。
「…テテさん。」
そこにいたのは、表情を曇らし佇むラーソ。
そして…
「すみませんが、話があるので外に出てもらえませんか?」
扉に背もたれ、眼光鋭く毅然と振る舞うルシータだった。
テテは二人に気さくに挨拶を交わす。その傍、リルアにテレパシーを送っていた。
『どうする?どうやら気づいてるっぽいが。』
リルアは、言われた通り外に出ると即答。その後、ルシータに負けじと毅然とした態度で庭先へと向かった。
庭先に全員を集めたルシータは、自分達の憶測を包み隠さずリルアに言った。
「面白い考えね。でもちょっと傷付くわ。」
木々の鳥が囀りをやめた。
二人に動じる様子は見られない。
未だ信用を捨てきれないラーソは、テテに潔白を求めた。
鳥の羽音と共に、テテの返事が返る。
「…いや、全てルシータ君の言うとおりだ。息子の面倒がだいぶ重荷になってね。」
――意外。
言葉を受け、ルシータが初めに感じたのはこれだった。
知らぬ存せぬを決め込むものと考えていたため、あっさり認める様に不覚を取ったのだ。
慌てるラーソとは対称的に、その理由を冷静に思考する。
その表情は、介護師ではなく、在りし日のアフィリエイターの鱗片を感じさせた。
「俺だって息子は助けたかったさ。でも、どうやっても駄目だった。資金がいくらあっても足りやしない。」
身の潔白を必死に主張する時は、余裕の無い証拠。では逆に、あっさりと罪を認める時は…
『ラーソさん。いつでも逃げられるように心掛けて。』
全てを察し、ルシータはテレパシーを送った。
そして、こちらも。
『リルアさん。準備は出来たかい?』
リルアは、返事の変わりに小さく笑った。
何かが近付く事を、ラーソ達は気付く。
荒らしであろう事は、容易に予想出来た。
「さて、全て話したんだ。次は君たちが何かしてくれる番だ。」
――来る。
ルシータは身構えた。
「俺が望むのは、君たちが永遠に口を紡ぐ事だ!」
言ったと同時、テテはリルアを振り向いた。
――了解。
リルアはほくそ笑み、待機している荒らしに号令しようと口を開いた。
が…
(――一体みんなどうしたっていうの?)
リルアは今、全員の視線を一心に受けていた。
皆なぜか驚愕した顔をし、怯えた様子でじっと見ている。
「お、お前、どうしたんだ?その顔…」
テテの言葉を、何かの冗談かと思いながら、リルアは何気なく顔に手をやった。
人差し指が、なにやら冷たいと訴える。
そして、妙な感触が脳に伝わった。
泥に手を入れる、あの滑った感覚に似ている…
不思議に思い、手を見たその瞬間、リルアの叫び声がこだました。
手が酸に触れたごとく溶けているのである。
それは次第に腕に広がり、やがては服も溶け始める。
痛みはない。それが余計に不気味だった。
リルアの溶けていく様は、ルシータには恐怖を、ラーソには叫喚をもたらした。
「化けの皮を剥ぐ、といったところか。」
悲鳴の中、老人の声が入り込む。
ルシータはとっさに声の主を探した。
家の庭先は、遠くに森あるくらいで、見渡しは良好。にもかかわらず、誰の姿も見当たらない。
だが、ルシータがテテから目を逸らした一瞬に、それは現れた。
「な、何だ!」
テテの声に振り返ると、白髪の老人が、座り込むリルアの前に手をかざして立っていた。
リルアの顔は、もはや原型を留めていなかった。
泥混じりの雪… かつての美しさはそこにはない。
喋ることの出来ないリルアに変わり、テテが何者なのかと叫びをあげる。
「私は、お前達の様な蛮人の排除と…」
老人はいったん言葉を切り、ルシータを振り向いた。
「邪魔となるワンダラーの排除を行う者だ。」
言い終わった時、リルアは完全に消滅した。
テテは、訳が分からず腰を抜かす。
ラーソは、今の言葉から、老人が進化派の者であると察した。
そしてルシータは… 決意を固めたように、鋭い眼光を向けていた。
「音吏…ね。」
その呟きをラーソは聞き逃さなかった。
「ラーソさんは離れてて。」
瞬間、ルシータは姿を消した。
音吏の姿もない。
同時に伝わる、空気がゆがむ強い衝撃。
二人は空中高くに移動していた。
「リリから色々聞いておるよ。お前もある程度扱えるんだろう?ネメキネシスを。」
音吏は、老体とは思えぬ動きでルシータに詰め寄り、左腕を取った。そのまま引き寄せ、自分の右肘を胸部にぶつける。
強い痛みに顔を歪めるが、ルシータは引く事なく、そのまま右腕を突き出した。
音吏はそれを右手で掴む。そして、左手をルシータの右肘に押し当て、関節を逆に折り曲げた。
「何もせぬなら終わりにするぞ。」
右腕を抑えるルシータに、音吏の掌が翳された。
思念波か… だが、何も起こらない。
ルシータは距離を取り、再び身構えた。
その手には、小さな宝石が握られていた。
「ネメシストーンか。なるほど。それで私のネメキネシスを防いだと言うことか。」
周りの木がざわめき、落葉すると同時、二人は再び動き出した。
その戦いを、残されたテテとラーソは、唖然として見上げていた。
「そ、そうだ。ラーソ君。荒らしはどうした?連中さえ居れば奴を…」
テテは、半狂乱でまくしたてる。
だが、それ以上に動揺しているのはラーソである。
――進化派による突然の襲撃。ルシータの変貌。テテの本性…
それらが一遍に降り掛かり、心の整理が整わない。
テテに胸ぐらを掴まれ、荒らしの名を連呼されるが、その言葉が届かぬほどラーソは考え込んでいた。
と、その時……テテの足元に何かが落ちる音がした。
よくみると、それは三つの小石であった。
「お前の望んだ荒らしだよ。私特性のインディゴストーンだ。」
空から降り立ち、音吏は言った。
その背後には、地に伏したルシータが居た。
音吏の力―ネメキネシスにより荒らしは石に変化を遂げていたのだが、テテはそれを理解できず、怯えて遠ざかる。
「標的はあの女だけだったのだがね。蛮人は排除させてもらうよ。」
怯えて逃げ出すテテに、音吏の手が翳された。
途端、テテは真横に吸い寄せられるが如く飛びだした。
その先にあるのは一本の樹。
樹に激突… かと思いきや、樹はテテを受け入れ、幹と身体を一体化させた。
「徐々にお前の身体は樹と等しくなり消え果てる。その間自分の蛮行を悔い改める事だな。」
テテは阿鼻叫喚し、頭上の葉を揺さぶり落とした。
一部始終を見ていたラーソは、もはや動くことを忘れていた。
音吏の足は、地に倒れたルシータに向かう。
このままでは危険… そう思った時、無意識にラーソは音吏を呼び止めた。
向かう足が止まり、自分の方を向いた時、呼吸が止まりそうになる感覚に襲われた。
「ラーソさん。…あなたは逃げて。」
ルシータは立ち上がり、消え入りそうな声で言った。
ラーソの名を聞き、これまで興味を示さなかった音吏は不気味に笑った。
「お前がラーソか… という事はワンダラーか。仲間から勧誘を受けていたそうだな。」
目線は、ルシータからラーソに移る。
「ならば知っていよう。我々の事を。そしてそれに仇なす存在を。あの女はまさにそれだ。」
音吏は、うろたえるラーソに全てを告げた。
――ルシータは、敵対するワンダラーであり、煽り屋を戦力として使い、これまで敵意を向けてきたという事実を。
その話は、ラーソを更なる混沌へといざなった。
「…音吏!」
ルシータの声の後、周りに落ちた葉がゆっくりと舞い上がる。
途端に、葉は竜巻状に吹き荒れ、音吏の元へ向かった。
「まだそんな力があっ…」
音吏は言葉を切った。
――この現象はルシータが起こしたものではない。
唖然としたルシータの表情からそれが読み取れた。
竜巻が迫るわずか数秒間、音吏は答えを見いだし、手を向ける。
「…そこか。」
鳴り止む唸り。
変わりに聞こえる男の声…
「流石ですね。楽には行きませんか。」
服や頭に葉を飾ったその姿は、混沌としていたラーソの瞳に光を与えた。
「ザック…さん。」
名を言われ、ザックは微笑した。
だが、その表情はどこか暗い。
話は後… 今は音吏を退ける。
ザックはそう言い、ルシータ共々ラーソに逃げる様促した。
「ザックか。こうして会うのはいつぶりだったかな?」
その言葉に、ザックは鋭い視線を返す。
「…忘れたとは言わせませんよ。音吏、あなただけは…」
怒りを表すザック。
惚けた様子で話を聞く音吏。
二人の拮抗を、樹と一体化したテテが、涙ながらに見つめていた――
第三十四話「剥がれる葉」 完
三十四話登場人物集
※イラスト協力者「そぼぼん」
※登場人物一部割愛
マティス=ハーウェイ
モバンの巻
テテ
リルア
ルシータ