対峙
――雨がそぼ降るクシミとは対象的に、ここ、スパンセの空は晴れていた。
青空の下、見るからに重そうな荷物を両手で担ぎ、二人の子供が歩いていた。
シェインとカインである。
その足は、最寄りのチャットルームへ入っていく。
そして、扉を開け二人は叫んだ。
「お届け物の到着です!」
声に、白髪の老人が反応し、シェイン達はその元に歩み寄る。
「他に荷物が沢山あって、その荷物だけどうしてもストレージ出来なくてね。助かったよ。」
老人は礼をした後、二人を席に座らせた。
シェイン達は、どうやら荷物運びの依頼を受けていた様だ。
「疲れたろう。ちょっとしたご褒美をあげようか。」
そう言い、老人はテーブルの上に手を翳した。
するとどうだろう。
何も無かったテーブルの上に、突如二つの焼き芋が現れた。
シェイン達は驚き、まじまじと見やる。
手に取った焼き芋は熱く、香しく、二人の五感を刺激した。
「すげーや音吏さん。これもタグの力なの?」
「ちょっと違うみたいだけど、気になります。」
二人は交互に焼き芋を食べ質問した。
「それは、君達の好物を食べさせたいと思いながら魔法をかけたら出て来たんだよ。」
音吏の言葉が、子供に対するはぐらかしに聞こえたのか、二人は少々ふてくされた。
「あ、もうすぐ母さんが来るから報酬は母さんに渡してください。」
しっかり者のカインは、黙々と焼き芋を食べるシェインに変わり、話を進めた。
音吏は頷きながら不敵な笑みを浮かべていた――
――こちら、ワイスのチャットルームは、スパンセの賑やかさとは一転、稀にみる静寂が広がっていた。
中に居る者全員がチャネリングをしているためである。その中には、ラーソも居た。
『以前お伝えしたネメキネシス。それを扱える素晴らしい生命、レインボー。我々もいつしかそれに届く日が来るかもしれないとしたら、あなたはどうするであろうか?』
それは、クレロワが流すチャネリングである。
ラーソは全てを聞かず目を開けた。
これ以上進化派に関われば、ヤーニのアンチ対象になりかねない身。
本来ならばチャネリングですら関わらない方が無難なのだが、ラーソにはそれが出来なかった。
頼まれたサムの面倒すらも、親であるテテに追い出され、果たせていない状態であるため、せめて他で役に立ちたいという思いが、進化派の行動を読むという思考となっていた。
「すみません!助産師かタグ師の方は居ませんか?占術師でも構いません!」
突然、叫び声が耳に入る。
見ると、一人の男がテーブルの前に立っていた。
焦り様から察するに、緊急事態なのだろう。
ラーソは思い、話を聞くことにした。
「わたくしは占術師です。宜しければお話を聞かせて頂けますか?」
ラーソの呼び掛けに安心したのか、男は少し冷静になり話を始めた。
男には、長年連れ添った妻が居るらしく、どうやら騒ぐ原因はその妻にあるらしい。
「妻は"リターン"をしている最中なのですが、後一歩の所でオーラが足りなくて…とても危険な状態なんです。」
――リターンとは、老化原因が起きる者がいつかは行わなければならない行為である。
通常、人類は肉体の最盛期を迎えると、細胞にあるテロメアという部分に変異がおき、不老の状態となる。
だが、稀に変異が起きず、そのまま老化が進む事がある。そのような者達は、生命らしい老化を授かったと誇りに思う者が多く、今の話の妻もその一人だった。
だが、既にその肉体年齢は百を越えていた。
このまま老化を進めれば、魂の劣化は避けられない。そこで、細胞に若返りを促す変異を起こし、肉体年齢を下げる必要がある。
それこそが、リターンである。
「俺は一体どうしたら…」
男は酷く落ち込んだ。
リターンは本来、必要な生体磁場さえ賄えれば簡単に出来る行為である。
ただ、行う人数が多ければ、その分多数の生体磁場が混ざり失敗が置きやすい。
最多でも二人。それも、常人より職業柄生体磁場の多い、助産師か占術師が望ましいのだ。
「わたくしでよければ協力しますわ。」
ラーソは全てを承知で、男の頼みを承諾した。
「あ、ありがとうございます!」
男の礼と同時に、ラーソは妻の居るリンク場所へと向かった。
そして――
―――――――――
――リターンは数分という短い時間で終わりを迎えた。
ラーソの前には、中年の男の助産師と、依頼主の男、そして、二十代程に若返った女性が居た。
「少ないですがお礼です。」
夫婦は高めの報酬をラーソに渡すと、喜々としてチャットルームを後にした。
残った助産師は、申し訳無さそうにラーソに一言。
「いやー面目ない。ただ、言い訳みたいになりますが、失敗には訳がありましてね。」
ハンカチで汗を拭い、助産師は話を続けた。
「北の町外れにちょっとした森があるでしょう。実は、この依頼の前に花を取りに出掛けたんです。ですが、なんとそこには荒らしが三人も居ましてね。逃げるのに随時労力を使ってしまったのです。」
北の町外れの森というと、サムの家がある場所である。
そこに荒らしが三人も… ラーソの胸に、不吉な思いが舞い降りた。
「私も先ほど知ったんですが、最近じゃ有名な連中みたいです。三人とも自我があって、数日前突然現れたって話でしたよ。」
更に詳しく聞くと、何人ものアフィリエイターが浄化に向かったが返り討ちにあっているとの事だった。
だが妙な事に、荒らしは倒したアフィリエイターの息の根は止めず、逃がしているらしい。
まるで、わざと自分達の存在を伝えるように。
ラーソは自分に辟易した。
有名な話にも関わらず、サムの家の近くの凶兆を見逃すとは…
ラーソは助産師に礼をすると、急いでサムの家に向かった。
――サムが危険。
なぜかは解らないが、話を聞きラーソはそう直感した――
―――――――――
――森の中をラーソは走る。
既に数時間。身体は満身創痍だった。
未だ荒らしの気配は無い。
妙な胸騒ぎだけが心を支配する。
だが、サムの家にもうすぐ着くという時、それは起こった。
強力な空気の歪み、そしてラグ。
立つことすらままならないほどの不気味な気配。
紛れもなく荒らしによるものだった。
「あれ?お前、もしかしてラーソって奴じゃないか?」
声がした上空を見上げると、三人の荒らしが見下す様に浮かんでいた。
しかし、それより驚くべき事は、自分の名前を知っていること。
ラーソは、声を振り絞りなぜ知っているかを問いただす。
荒らしは薄ら笑いを浮かべた。
「あんたの事を始末しろって言われてるぜ。依頼者からな。」
荒らしはからかったつもりだろうが、ラーソには今の話で十分な推測が出来ていた。
口振りから察するに、この荒らしは煽り屋に利用されている。
そして、自分を排除しろという指令を出す煽り屋は、当然知った仲でなければありえない。
(――テテさん…?)
自分自身、吐き気を催す考えだった。
今すぐ確かめたい。
だが、それを確かめるには、荒らしに囲まれたこの状況を打破しなくてはならない。
――死中に活を求める。
強力なラグの前に、ラーソは完全に危機に陥っていた――
――クシミに降る雨は、強い轟音に変わっていた。
青空の中で降る雨は情緒的ともいえ、事に森の中は、揺れた緑と土の香りで、風情を増していた。
それは、「三つ巴の石」と呼ばれるパワースポットも例外ではない。
雨により移り変わる雰囲気に、周りに居る人々は賑わっていた。
ただ一組、マティス達を除いては…
「…ネム!」
目の前に立つザックを前にし、潟躍は叫ぶ。
ネムはそれを受け、ペーストタグで棍を取り出した。
「ザック、お前とは戦いたく無かったが仕方がない。全力で行かせて貰うぞ。」
ザックは何も言わず、ただじっと潟躍を見ていた。
敵意を示さないその態度に潟躍は戸惑う。
いっそ、殺意を持ってきてくれた方がやりやすいとさえ感じていた。
だが、敵意を示さない者はもう一人。
呑気に短刀を手入れし、潟躍達を見据えるマティスである。
ネムが気付き呼び掛けると、マティスもようやく反応を示し、ザックを見た。
「お前さん。無柳と知り合いだそうだな。奴は今どうしてる?」
張り詰めた空気の中、緊張感の無いマティスの発言に、潟躍は苛立ちを覚えた。
だが、それがザックの動揺を誘うことになる。
「…知ってるんですか?彼の事を。」
一瞬生じたザックの隙を、潟躍は見逃さなかった。
ネムも同様、強制リンクタグを書く動作を始めた。
だが…
「まぁ待て。せっかく話し込んでる時に邪魔するとは随分野暮だな。」
マティスは依然、 動じない。
流石の潟躍も痺れを切らし、雨水と共に文句を垂らす。
だが、マティスはお構いなしに話しを続けた。
潟躍達からザックが無柳の知り合いだという話を聞いた事、そしてまた、自分も無柳と知った仲だという事をザックに告げる。
「お前さんがここに来るのもある程度予想は付いていた。」
珍しく話をもったいぶるマティスに、ネムは違和感を覚えていた。
まるで時間稼ぎをしているような、そんなまどろっこしさがあった。
ザックは話に驚き、前に踏み出す。
だが、次の瞬間…
「跳べ!」
マティスが叫んだと同時、立っていた地面が音をあげ弾け飛んだ。
その音に、周りの人達は慌てふためき、蜘蛛の子を散らす。
マティス達はなんとか飛び出し、被害を免れた。
潟躍とネムは、訳が分からず身構える。
マティスとザックはというと、なにやら上空を見上げていた。
そして、突如叫びを上げた。
「ヤーニ!」
声に反応し、冷笑を湛えたヤーニはゆっくりと舞い降りた。
「ほんとは君たちがつぶし合った後出てきてもよかったんだけどね。でも、今の僕には熱い血潮が流れていてね。」
突然のヤーニの襲撃に、潟躍は戦慄した。
「…どういうことなんだ?」
潟躍の問いに、マティスはすぐさま応える。
ヤーニは音吏の仲間だという事。そして、この襲撃に音吏が絡んでいるという事を。
「そんな馬鹿な…」
潟躍は考え込むが、当然、ヤーニはそれを待たない。
無数の光球を作り出し、殲滅とばかりに放つ。
ザックはすかさず動いた。同時にネムもタグを書く。
思念で操られた光球を、ザックが逆に操り返し、光球へとぶつけ相殺。
ネムは、逃げ遅れた人と、三つ巴の石を対象にウォールタグを書いた。
光の壁は光球をはじき、最悪の事態は免れた。
「お見事。ついでにその逃げ遅れた人を非難させてくれないかな。その方が僕にも都合がいい。」
両手をあげ、一時休戦とばかりにヤーニは言った。
ザックとネムは、怯える人達に駆け寄り逃げる様促す。
全員で六人。上は肉体年齢五十の男性、下は十五程の少女の団体。
中には、先ほどザックと出会った天気予報の得意な女性も居た。
ザック達が話し合いをしている間。マティスは、以前狼狽えている潟躍に叱咤を加えていた。
「…これで解ったろう。奴らは俺たちを利用していたんだ。」
マティスは冷淡ともいえる態度で言った。
――音吏が話した事は虚言。
――世界を変えようと暗躍しているのは音吏達自身であり、自分達はその片棒を担がされた挙げ句、用済みとされている。
「じゃあ、やはりクレロワさんも…」
潟躍の呟きに、マティスは小さく頷いた。
ヤーニは、追い討ちとばかりに、指をさして騙されていた事を小馬鹿にした。
うなだれる潟躍。
だが、ここで駄目になるほど、その精神力は錆びてはいない。
マティスはそれを良く知っていた。
今の潟躍にとって一番気を切り替えられるだろう言葉を紡ぐ。
その時、ザック達がマティスの元にやって来た。
少々飽きていたのか、あくびしていたヤーニだったが、揃い踏みの状態に、目を光らせ喜んだ。
「再開だね。さぁ、僕のたぎる流れを鎮めてくれよ。」
「…上等だ!前みたく簡単にやられると思うなよ!」
ヤーニの挑発にいち早く乗ったのは、先ほどまで落ち込んでいた潟躍だった。
先ほどまでの憂鬱感はどこへやら… 変化に驚き、ネムが聞く。
「ちょいと、ザックは今まで奴らのしようとしている事を阻止していた、正義の味方だって話をしたんだよ。」
潟躍は単純な男である。
人知れず動いていたザックにすっかり触媒され、正義感が騙された事実に勝ったのだ。
いや、旧知の仲のザックが敵ではないと知った事の方が大きいのかも知れない。
「ザック一人にいい格好はさせられないからな。」
三人は、それぞれ手にした武器をヤーニに向けた。
「この前みたいに自害はさせないよ。僕にやられて君達はクラインの壺へひとっ飛び。」
その一言は、臨戦態勢だった潟躍とネムを戦慄させた。
だが、ザックだけは言葉の意味が解らず思考する。
潟躍は、以前対峙した記憶を頼りにヤーニの詳細をザックに伝えた。
「あいつはタルパで、あいつの手で浄化されれば、クラインの壺とやらに囚われちまうのさ。」
ヤーニがタルパであることはとっくに承知済みではあるが、クラインの壺に囚われるという話は初耳だった。
――おかしな話だ。
聞いて、妙な疑問が沸き上がる。
だが、今はヤーニを倒すことが先決。
気を再度引き締める。
「ザック。すまないが少しの間奴の相手をしてくれないか?」
やる気十分の潟躍達を制止し、マティスは言った。
どうやら考えがあるようだ。
ザックは一瞬躊躇うが、考えを汲み、一人ヤーニに向かっていく。
「ネム、強制リンクはするな。…これから例の連携でいく。」
ネムは、マティスの一言でその考えを全て理解した。
「今までの訓練はヤーニとの戦いに備えたものだったんだね。」
三人は、ここクシミに来て以降、ある修練を重ねていた。
その意味を知っている者は発案者のマティスだけであったため、潟躍達は今ようやくこれまでの修練がヤーニに対抗するためのものだと知ったのだった。
「いずれ奴らがこう仕向けるだろう事は予想が付いていたからな。急な依頼変更があった時がそうだと察していた。」
すかさず潟躍が、「知っていたなら話してくれたらやりやすかった」と愚痴をこぼす。
ネムは、懐にしまっていたパープルプレートを取り出した。
パープルプレートの利用回数は、ネムが残り二回、マティスが一回、そして潟躍は既に使用不可。
「この戦いはお前らが肝だ。潟躍、受け取れ。」
マティスはパープルプレートを潟躍に渡した。
マティス達が戦いの準備をしている最中、ザックとヤーニは既に火花を散らしていた。
ヤーニは自信故が、その場を動かず、タグの力のみで戦っていた。
それ故、スピードでは断然ザックが有利だった。
ザック自身、そこに付け目を見いだし、あえて距離を取り、ヤーニが放つ光球とブロックの相手をしていた。
迂闊に近付くと攻撃の合図だと見なされ、奇襲しても避けられる可能性がある。そのため、油断が生じやすい遠い間合いでザックは期を伺ったのだ。
そして、光球の相手だけで精一杯だと演じ、ヤーニにそう思いこませる。
「君の力はこんなものだったかな?いや、今の僕が凄すぎるだけか。」
案の定、ヤーニには大きな慢心と隙が生じていた。
――今が好機。
ザックは、群をなして飛び交う光球の中に自ら入り込んだ。
「ん?」
光球はザックの姿を隠す役割を成したと同時に、ヤーニに対し「倒したか」という錯覚を生じさせる隠れ蓑として機能した。
ザックはテレポートをし、ヤーニの背後上空に回り込む。
未だ光球群の中にザックが居ると思いこんでいるヤーニに、その気配を察知する事は出来なかった。
ザックは、右手を後ろ斜め上空に突き出し、思念波を放った。
それが身体に勢いを与え、下方のヤーニに向かっていく。
「な、いつの間に!」
気付いた時にはもう遅し。
加速し迫るザックの靴底は、ヤーニの胸部にぶつかった。
半霊化した身体は魂に触れ、不気味な感触が右足に伝わる。
躊躇のない、荒らしならば瞬く間に浄化するであろう懇親の一撃である。
ヤーニは地面に真っ逆様に落ちていく。だが、激突する瞬間、その身体は煙のように消え去った。
「…やはり君は並じゃないね。僕に傷を負わせるなんて。」
声が聞こえた瞬間、ザックの両手両足に力強いラインタグが絡まった。
眼前に広がるのは光と共に現れたヤーニの冷笑。
「あいにく、僕は無駄のない完璧な設定で生まれたタルパでね。瞬間的にリスボーンする事が出来るんだ。」
狂言の如き振る舞いで話すと、右拳をザックの腹部に見舞う。
さほど驚異的な威力では無いにしろ、無防備な状態で受けるには十分な効果があった。
「…無駄のない完璧な存在。それは違いますね。」
極限の状況下、ザックは舌の剣を武器にした。
「あなたに浄化された魂は、皆クラインの壺に向かうという。それこそ、無駄な設定です。」
タルパとは、自分の望む事を設定し、生命を生み出す能力である。
それは本来、レインボーの持つネメキネシスによって行う能力であるため、それ以外の存在が行えば、一定の「縛り」が発生する。
生体磁場を用いて作り上げるわけだが、いくら無尽蔵に生体磁場があったとしても、レインボーでなくてはそれを活かすことが出来ないためである。
「浄化した魂をクラインの壺に向かわせる」という高度な設定。
一見、リリ達が行う「魂の確保」に貢献する優秀な設定に思えるが、それは無差別に人を襲わないと意味のない事である。
ヤーニ自身、無差別な殺傷はせず、生みの親のリリもまた、その行いは嫌っていた。
「つまり、矛盾した設定なんですよ。それより効率のいい設定はいくらでもあったはず。」
ザックはきっぱり言い放つ。
ヤーニは強気に振る舞うも、明らかに先ほどの余裕は消えていた。
「…君、もういいよ。」
ヤーニは指先を向けた。 そこには、光が集中していた。
それが、身を貫くほどの強度を持つラインタグであると悟ったザックは、避けようと身を反らす。
しかし、四股に絡まったラインタグがそれを許さない。
避けきれない… 覚悟したその時――突如、強風に煽られる感覚が全身を巡った。
そして気付けば、身体は遥か上空へと飛んでいた。
「見たか。天にも届く俺たちの思念波を。」
それは、潟躍とネムが放った敵意のない思念波だった。
「ザック、待たせたな。ちょっと準備に手間取ってな。ここからは俺たちの独壇場だ。」
ザック瞬間的に潟躍達の元に駆け寄る。そして、礼と警告を同時に言った。
同時にヤーニも目の前に降り立つ。
「全く。気が変わったよ。もう一気に終わりにしよう。」
ヤーニは、スクリプトを用いタグを作り出した。
それは、全員にとって忘れられない「バイブレーションタグ」だった。
「…無駄。」
ネムもタグを作り出した。
だが、いつもの手書きではない。それは、ヤーニ同様、スクリプトによるものだった。
それにより作られたタグは…
<xm…
「…無効化タグ、馬鹿な。」
それは、バイブレーションタグを発動前に打ち消した。
スクリプトだけでも驚くべきことだが、習得が困難な無効化タグを使いこなすネムに、ヤーニは思わず歯ぎしりをした。
「見せてやろう。長年の経験と、卓越した修練が打ち出す真実というやつを。」
マティスは不敵にそう言った――
第三十二話「対峙」 完
三十二話登場人物集
※イラスト協力者「そぼぼん」
※登場人物一部割愛
シェイン
カイン
ラーソ=ボローニ