揺らぐ水面
《ミ( ∵)彡{占術、文字化け解析ならそぼろにお任せ。》
――ワイスのチャットルーム…
その中にある一際異彩を放つチャットリングは、人の目を引いていた。
ワイスに戻ってからの一週間… ラーソは毎日このような占術活動をし、人の注目を集めていた。
その甲斐あってか、「そぼろ」ことラーソ=ボローニの名は街中の噂となっていた。
「そぼろさん程見事な占術師はそうそう居ないよ。」
今日もまた、占術を受けた者がそう言い感謝を送る。
ラーソは、自分の占術にだいぶ自信を付けていた。
感謝の言葉と明るい笑顔が、何物にも代え難い報酬に思え、ミレマでの辛い事実やワンダラーの因果を浄化していく。
そんな日々の中、ラーソの元に一つの事件が舞い込んだ。
「あの…」
躊躇いがちに呼び掛ける声に反応し、ラーソは笑顔で振り向いた。
そこには、両手を後ろに組み、下を向く少女の姿が。
なにかを言いたそうにしつつも、言い出せないで居るその少女を気遣い、ラーソは優しく呼び掛けた。
すると、少女は気が楽になったのか後ろ手にした両手をラーソに突き出しこう言った。
「この子を…助けてやって下さい!」
突然の行動に、ラーソは目を丸くしたじろいだ。
少女の両手の上… そこには、小さい体を震わせる蝙蝠の姿があった――
―――――――――
――『うん。明日父さんが帰ってくるみたいなんだ!』
その頃、サムは日課のテレパシーを行っていた。
喜び話す内容は、明日帰ってくるという父に関する事だった。
隣には、サムの様子を伺うザックの姿。
サムが過度なテレパシーで体調を崩さぬよう確認するためである。
普段はルシータが行う事なのだが、用事で急遽配役が変わった状態である。
サムは、ザックの「監視」にはお構いなしに、勇んでテレパシーを行っていた。
『次は風花さんとも会ってみたいな!』
そう言われ、話し相手の「風花」という女性は、笑って「今度」とお茶を濁した。
テレパシー中一度も姿を見せた事のない変わった人物だったが、不思議と馬が合うその女性に、サムは自然と惹かれていた。
それは、遊び相手のちぃとの仲違いの悲しみを癒やし、心の隙間を埋めてくれたのが大きいのだろう。
サムが楽しくテレパシーを行う中、家の扉を叩く音が二三回。
叩き方の仕草から、ラーソであると見抜いたザックは、扉が開くより先にその前に立ち出迎えた。
…が。
「…何ですか?その蝙蝠は?」
挨拶より早く出た言葉はそれだった。
困惑し、震える蝙蝠を両手に持つ姿を見たのであっては、さしものザックも気の利いた言葉を出せず、首を傾げる事しかできなかった。
ラーソは、蝙蝠をテーブルにそっと置くと、先ほどのチャットルームでの出来事を話した。
聞いて、事情を理解出来たザックは、一緒に蝙蝠の世話を始めようと意気込みをみせた。
棚にある傷薬を取り出そうと立ち上がる。が、ラーソはそれを素早く制止した。
この蝙蝠には外傷が見当たらないからである。
弱った原因は、全ての生命の脅威である夜にあるに違いない… 考えたラーソは、ザックに蝙蝠を見るよう促すと、外へと飛び出し、急いで近くの水場に向かった。
何も出来ず立ち尽くすザック。
テーブルの上の蝙蝠は、楽しげにテレパシーを行うサムの姿を眺めていた。
それから数時間・・・
部屋に響く鳴き声は、先ほどよりも力強くなっていた。
アセンション後の蝙蝠は、体に貯めた水分を光に変え夜を凌ぐ性質を持つ。
この蝙蝠は何かの原因で水不足に陥っていた時、夜に巻き込まれたに違いない… ラーソのその読みは正しかった。
「でも、なんで蝙蝠を渡す相手をラーソさんに選んだのでしょうかね?」
少し余裕が出た所で、ザックは先ほどの話の疑問を口にした。
「"これ"につられて来ちゃったって言ってましたわ。」
ラーソは、蝙蝠に水を与えながら、右手でチャットリングをし始めた。
《ミ(∵)彡》
蝙蝠にも見えなくもないそのチャットリングは、ザックを妙に納得させ、笑いを誘う。
「チャットルームで受けた話ですから依頼には違いありません。きっと無事に完治させますわ。」
ラーソは意気込むと、優しく蝙蝠の頭を撫でた。
それに答え、蝙蝠は敬愛するかの如く小さく鳴き、羽を広げる
「あ、かわいい!その蝙蝠どうしたの?」
蝙蝠の瞳には、目を輝かせるサムの姿が映されていた。
テレパシーを終え暇になると、サムは決まってザック達にちょっかいを出す。今回も例外ではなかった。
ラーソは、チャットルームでの出来事を説明し、サムの眼前に蝙蝠を置いた。
「名前はそぼろんです。」
名を言われ、心なしか蝙蝠は不満げな声を上げた。
「そぼろん、よろしくね!」
蝙蝠の心境とはお構いなしに、二人は笑顔で名を呼び可愛がる。
その光景を、ザックはカメラを調整しながら眺めていた――
時を同じく、ここ、「ボンセクイテン」という街では…
(――あそこか。)
ヤーニは、煉瓦造りの家が建ち並ぶ街の空の上、なにかを探るように浮いていた。
軒並みの中、独りの女性を発見すると、すかさず姿勢を正し身構える。
拳にはやる気が満ち、その瞳には獲物を狙う光が宿る。
狙うはアセンションを拒むワンダラー。
音吏が話したワンダラーの事実は、ヤーニのやる気を刺激させ、使命感を駆り立てさせていたのだった。
「…ありがとうございました!」
その喜ぶ男の声は、遠くにいるヤーニにもはっきりと聞こえた。
狙いを定めた女性に対して向けられたものだと知り、ヤーニは一旦飛び出すのを止め、様子見を決め込んだ。
「ではまた。お体をお大事に。」
女性は、表情を変えずそう言うと、早々にその場を離れた。
(――好機。)
ヤーニは思い、再び構える。
女性の歩くすぐ先には、人通りの少ない荒れ地がある。
そこに女性が行くかは賭けだったが、好機の風はヤーニに吹いた。
歩む足が今、荒れ地を踏んだ。
だが、女性の方も伊達ではなかった。
降りかかる危険を第六感に感じ取り、静止。
不気味な気配を感じ取ろうとしたその時…
突如、物凄い轟音と土煙が辺りを覆った。
女性が居た地面は大きく抉られ、惨事の有り様を物語る。
「…誰?」
女性は無事だった。
また、「向かって来たなにか」に対し、冷静に自分の状況を確かめようとする余裕すらあった。
「見掛けによらず素早いね。」
背後から聞こえたからかう声。 それには流石に動揺し、一瞬の間に距離をとる。
改めて見やった先には、髭を蓄えた男が立っていた。
キャプチャーを行うヤーニである。
「恨みを買うような生き方はしてないつもりだけど?」
言われ、ヤーニは「アセンションを拒むワンダラーはアンチされなければならない」と告げ手を翳した。
――ワンダラーアンチ。
それを聞き、女性は全てを理解した。
「ヤーニ…か。…やっと来てくれたんだ。好きにしていいわ。」
それは、ヤーニにとって予想外の一言だった。
女性は両手を広げ、敵意を示さず近付いてくる。
表情は心なしか穏やかで、恐怖や策略を考える様子は見られなかった。
この無防備な行動は、ヤーニに意外なダメージを与えていた。
今なら造作もなく仕留めることが出来るはず。
ちょっとでも思念波を打ち出そうものなら、その魂は一瞬で浄化される… にもかかわらず、ヤーニはそれを出来なかった。
これまで浄化して来たワンダラーは、皆恐怖から逃げ出し、命乞いをし抵抗してきた。
だがこの女性はそれとは逆の行動をした。
その溝が、ヤーニにとって理解しがたいことだったのだ。
「解った!この姿だから僕がヤーニだって信じてないんだね。」
ヤーニはキャプチャーを解除し元の姿へと戻る。
ワンダラー達に知られたこの姿を見れば、今度こそ悲鳴を上げる。 そう確信していたが…
「今更言わなくてもそれぐらい解ってるわ。」
…なら、力を見せつけて絶望感を与えてやろう。
ヤーニは考え、牙をむけた。
強制リンクタグで場所を岩場に変え、すぐさまバイブレーションタグを作り出す。
それにより引き起こされたフォトンエネルギーの超振動は、瞬く間に周囲の岩を粉微塵に消し去った。
「噂通りのチートぶりね。それだとわたしも楽に消滅出来そう。」
女性には恐怖の概念がないのか、力を目の当たりにしても素っ気ない態度を崩さなかった。
ヤーニは肩を落とし、両手を地に伏し脱力した。これまで一度も地に付した事のないヤーニが、武器も持たぬ女性を前に苦杯を舐めたのだ。
それは、始めて味わう「敗北」だった。
「君はタルパというのを知らないのかい!いや、君たちが一番よく知ってるはずだ。」
ヤーニの言葉に女性は足を止めた。
「昔、退化派が作り上げたタルパが、敵対するワンダラーを次々に消し去った… 僕だって知ってる話だ。名前は、む…」
「無柳。ほとんどのワンダラーは知ってるはずよ。」
知っているなら、なぜ怖がらない… ヤーニはもはやそれしか考えることが出来なかった。
女性は、ヤーニを待っていたのだと言う。
アセンションを拒むワンダラーだけを狙うなら、自分がわざと強く拒めば、それが信号となって早くにやってくるはず… 女性はなぜかそれを望んでいたのだった。
「わたしはもう十分生きた。もうなんの未練もないわ。あなたの手を借りれば楽に消滅出来るんでしょ?」
ヤーニは完全に気押されていた。 この死を望む行動に恐怖すら覚えていた。
それほどまでに女性の思考が解せなかった。
座り込むヤーニを見据え、女性はため息を漏らし、どうしたものかと考え倦ねる。
とその時、一つのテレパシーが舞い込んだ。
『…解った。すぐに行くから待っててね。』
どうやら急用らしい。
女性は立ち去ろうと歩み始めるが、急に足を止め、ヤーニの方を振り向いた。
「…一つだけ、やり残したことがあるの。手伝ってくれないかしら――」
―――――――――
――数十分後、ヤーニは緑豊かな沼地にいた。
女性の頼みを受け入れ、話はとんとん拍子。目的地であるこの場所に来ていたのだった。
沼に咲く無数の蓮は、どこか薄暗く感じる沼地を明るく着飾り、それは同時にヤーニの心にも色を添えた。
「あそこよ。」
女性が指差した先には、家とは呼べない粗雑な小屋があった。
中には先ほどテレパシーを送った人物が居るらしい。
早速家に入った時、第一に聞こえたものは、少女の明るい声だった。
「パシェルさんこんにちは!…そちらの方は?」
ヤーニは、少女を見るなり眉間に皺を寄せた。
女性―パシェルが自分の紹介をしている中でも、ただひたすらにその姿を凝視する。
「何なんだい?この人は?」
ヤーニは囁くように言った。
――ロータスコラージュ。
そうパシェルは小声で返した。
少女の体中には、蓮の花が咲き誇り、また花托が幾つか点在していた。
コラージュという現象を知らないヤーニには、その姿は衝撃的で、身震いを覚えるほどだった。
「えっと、ヤーニさんね。よろしく!」
少女には父も母も居なかった。
アバターを行った際、助産師の不手際により両親は亡くなり、少女もまたこのような姿になったのだという。
パシェルは、一旦ヤーニを外へと連れ出した。
そして、気兼ねする事が無くなった時、コラージュに関する全ての事情を話し始めた。
――コラージュを治すには、リロードという方法を行うしかないが、それには子のイメージを作り上げた両親の存在が必要になる。
仮に第三者がリロードを行った場合、両親が行う時より数千倍という生体磁場の消費を伴うとされている。
また、仮に千人が集まりリロードを行ったとしても、子を生み出す際に両親が決めたイメージを知らなければ、成功は有り得ない。
両親でなければ絶対に不可能だと言われる由縁はそれにある。
「でもあなたの力があれば、もしかしたらあの子を救えるかもしれない。」
ヤーニは、無限ともいえる生体磁場を持った存在。
それなら確かに数千倍という生体磁場を賄える。
でも、リロードを行うのは誰か… 子のイメージを決めた両親が居ないのでは、不可能ではないのか… ヤーニはそう考えるが、瞬間的に閃いた。
「そう。わたしがリロードをするの。あの子の誕生を手伝ったから、両親のイメージは理解してるし。」
パシェルの言葉に、ヤーニは首を振った。
他者の生体磁場を大量に受けた場合、魂に過度の負担が掛かるのは必須。 とてもパシェルが耐えられるとは思えないからだった。
だが、パシェルはやるという。
元々ヤーニに消されていた身。なら、最期にこの命を役立てよう… それがパシェルの意思だった。
「どうして、そんなに命を惜しまないんだい?助産師の君を必要とする人もいるはずなのに…」
ヤーニは、パシェルが男から感謝を受けている先刻の光景を思い出し言った。
が、パシェルの気は変わらない。
――協力する気になったら来て。
何も語らず家へと入る後ろ姿は、そう言っているように思えた。
ヤーニは、躊躇いがちにドアノブに手をかける。が、それを開けることが出来なかった。
ドアノブは手のぬくもりで温まり、体は風で冷やされる。
部屋の温度を纏うことになるのは、それから数十分後の事だった――
―――――――――
――再び沼地に一陣の風か吹く。
それが家の扉を叩いた時、明るい声が室内を巡った。
「パシェルさんとヤーニさんのおかげです。本当にありがとうございました!」
笑顔を見せる少女には、開いた花びらも、点在していた花托も見られなかった。
そして、パシェルの姿も見られなかった。
ヤーニは、少女に近寄り、そっと小さな皮袋を差し出した。
パシェルからの選別だというそれは、少女が自立するために必要な費用が入っていた。
「あの、パシェルさんはどこに…」
立ち去ろうとするヤーニに対し、少女は率直な質問を投げかけた。
――遠くに行った。
それだけしか言うことが出来なかった。
外に出、眺める景色は一面の蓮の池。
(――わたしも昔は進化を願うワンダラーの一人だった。)
ふと頭を過ぎるのは、先刻リロードを行う際パシェルが零した言葉だった――
ワンダラーとの争いの中、知り合った二人の男女と共に、進化を願い争い続けたというパシェル。だが、いつしか芽生えた感情は、同胞と争う虚しさだったという。
「仲間の一人は、争いの中で二度と戻らない人になったわ。…わたしは彼の事が好きだった。」
その件が、半開きになった虚しい思いを完全に開かせた。
争いを抜け、仲間とも別れ、今のような助産師の生活を始めて三十年… 虚しさは晴れることはなかった。
そしていつしか、愛する者と同じ場所に行きたいと願うようになったという。
旧文明の迷信である、「天国」という場所を信じて…
自らの思いを語るパシェルの声は、明らかにか細くなっていた。
リロードも終盤… もう魂はいつ消滅してもおかしくはなかった。
「わたしの過ち…この子さえ無事に治せたらもうなにも未練はない。」
その表情は、消え入りそうになりながらも、和やかで幸せに満ちていた――
―――――――――
――ヤーニの心は、見つめる水面同様揺らいでいた。
愛する者を失えば、自分の命さえ投げ出してもいいと感じるのか? 命を惜しむのが生命ではないのか? 例えそれで本望だったとしても、頼りにする者達を捨てての幸せなど許されるのか?
そればかりが思考を支配する。
ヤーニの中で芽生えた疑問は、ワンダラーアンチを果たしても尚、晴れない曇り心を生んでいた。
「ヤーニさん!」
少女の声に、はっと我に返り振り返る。
「わたし、パシェルさんみたいな助産師になることにしました!」
その時、ヤーニは視界が微かに霞むのを感じた。
何故だか解らないが、暖かいものがこみ上げる。
それは、ワンダラーアンチを使命として者には断じてあってはならないことだった。
「…僕はもう行くよ。」
去り際、ヤーニはひたすら自分に言い聞かせていた。
この感情は消さなければならないと――
―――――――――
――ヤーニが混沌とするその時間、ラーソはワイス市街地に居た。
蝙蝠を元気付けるため、フォトンボ(体内で高濃度のフォトンエネルギーを生成する虫)から作られた光飴を買いに来ていたのだ。
だが、それをまさに買おうとした時…
『ラーソさん大変!そぼろんがいなくなっちゃった…』
ラーソは唖然とし手にした飴を床に落とした。
弱った上、檻の中に入れておいた蝙蝠が、抜け出せるはずがない…
あらゆる状況を模索しながら、数十分の家路を急いだ――
家には、事情を聞き写真活動から戻ったザックと、今にも泣き出しそうなサムが居た。
床に転がる無惨に破られた檻は、蝙蝠の力を無言に物語る。
だが、たとえ力を付けていても、完治していない状態での飛行は命に関わる。直ぐに発見する必要があった。
「僕がちょっと眠った時に…気付いたら居なくなってて…」
聞いて、ラーソは目を閉じ過去の透視を行った。
つとめて冷静に状況を鑑み、蝙蝠の飛び立った方角を確認すると、ラーソは一目散に飛び出した。
遅れてザックも飛び出すが、すでにラーソの姿は見当たらない。
数分掛けようやく追いつくザックだが…
「お恥ずかしい所を見られちゃいましたわね…」
その声は震えていた。
両手には、冷たくなった蝙蝠が…
羽が塗れているのはラーソの涙によるものか… ザックは返す言葉が思い付かず、立ち尽くす。
「わたくし、本当駄目ですわね。すぐ泣いて、すぐ落ち込んで…」
ラーソは、そんな自分に嫌悪し一層気持ちを沈ませる。
「…チャネリングの時や、チャットルームに居る時は、嫌いな自分を抜けられるんです… でも、いざとなればこの通りです。お恥ずかしいですわ。」
滔々(とうとう)と涙を流して語るラーソに、ザックは歩み寄り口を開く。
「…俺は、ラーソさんも"そぼろさん"もどちらも魅力的だと思いますよ。」
冷たくなった蝙蝠の羽を優しく撫で、更に言葉を綴る。
「それに、どんなに辛いことに慣れても、一つだけ慣れてはいけないものがあると思うんです。それが死って奴ではないでしょうか?」
ラーソは、背を向けながらも、その話をしっかり耳へと入れていた。
それから半日後――
―――――――――
――「では、行ってきます。」
家の前には、自転車に跨るザックが居た。
目的地はカニールガーデン。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。 直接リリ達に会いに行くのが狙いだった。
「ヤーニはアセンションを拒むワンダラーだけを狙ってます。なので、ラーソさんは出来る限りワンダラーの事を忘れてください。」
そして、サムの事をよろしく頼み、握手を交わす。
明日はサムの父が帰る日。父が帰ってくれば、自分が居なくなっても騒がないだろう…そう思っての旅立ちだった。
「お気をつけて。」
ラーソは一瞬顔を沈めるが、すぐに笑顔を作り見送った。
その傍らには、小さく作られたそぼろんの墓があった――
第二十六話「揺らぐ水面」 完
二十六話登場人物集
※イラスト協力者「そぼぼん」
※登場人物一部割愛
ザック=ルーベンス
ラーソ=ボローニ
サム
ヤーニ=ファイス
パシェル