株(くいぜ)を守りて
――「そういえば…ビンズさんの事ですが、あの後クロンさんの勧めで護衛役になったそうですね。」
息を荒らげ、拳を突き出しながらザックは目の前のマティスに言った。
マティスは平然と構え、右拳と共に言葉を返す。
「全く、人生の転機とはどんな風に訪れるか解らんものだな。」
風で舞い上がった砂煙が、二人の姿を一瞬隠した。
草木も生えない砂地の中。そこで二人は拳を交えていた。
立て続けに繰り出されるマティスの拳を、ザックは軽いステップで後ろに避け、逃げ失せる。
マティスがすかさず詰め寄り、右拳を伸ばした時、ザックは身体を右側に移動させ身を屈めると、力強く体当たり仕掛けた。
「見事だ。」
寸でで体当たりを止め静止するザックに、マティスは賞賛を送った。
「そろそろ戻ろうか」とマティスは言い、リンクタグを書き出した。
戻った先は、満員御礼のチャットルーム。
先ほどの砂地はチャットルームからリンクしていた空間だった。
ザックは、マティスに以前から頼まれていた武術指導を引き受けていたのだった。
そしてこの場所は、「グリーズ」というヴァースやモバンと並ぶ大都市にあるチャットルームである。
「お帰りなさい。今日のお二人にぴったりなお茶を注文しておきましたわ。」
帰った先は笑顔のラーソ。その隣の空間には「(∵)」の文字がチャットリングされていた。
それはなんだと訝しげに見やるマティスに、ザックはいじらしい笑みを見せた。
三人が集まり「(∵)」の話題に花を咲かせる中、頼んでいたお茶が届く。
「お二人の今日の幸運石を使った、ルビーティーとセラフィナイトティーですわ。」
それは、パワーティーと総称される特殊な製法で作られたお茶である。
それには二種類の製法があり、一つは無作為に選んだお茶にパワーストーンを入れ、長時間放置して完成させる簡易的な製法。もう一つは、お茶に熱した無数のパワーストーンを入れ、蒸発した蒸気を特殊なガラス機器で集め蒸留する製法である。
後者の方がよりパワーストーンの効能を摂取する事が出来るため、値段は高いが人気も高い。
ザックとマティスは、パワーティーをありがたく受け取り口に運んだ。
マティスはそれを飲み終えると、声を低くし一言呟く。
「今日でお前さん達ともお別れか。」
どこが感傷的なその口調は、ザックの心に干渉した。
それは数時間前のこと――
――ワイスにあるサムの家。
毎日のように騒がしかったこの家も、サムとちぃが好きなデフォメの話で意気投合して以来、穏やかなものとなっていた。
だが、その日は突然やって来る…
「サムの馬鹿!もういじめてあげないんだから!」
ちぃの声は、家を壊すが如く響いた。
サムも負けずに言い返す。
「ちぃなんか居ない方が清々するよ!」
その罵倒に、ちぃは散々周りに当たり散らし、家の外へと飛び出した。
『…ザックさん、大変。サム君とちぃちゃんが大喧嘩して…』
ルシータのテレパシーは、ザック達がグリーズに着いたとほぼ同時に伝わった。
しばらく喧嘩がなかった時に起きた大喧嘩… その知らせはザックを大いに悩ませた。
サム本人にテレパシーを送り、事情を詳しく聞いてみる。
サムの声は、テレパシーといえど涙で濡れていた。
『最近新しく入った高速起動隊ってやつが面白いってちぃに話したら、ちぃは好きじゃないって言って…そうしてるうちに喧嘩になって…』
泣いている上に、酷く断片的な内容の為、理解するのは難儀であったが、それでもなんとか事情を知る事が出来た。
高速起動隊が面白いとちぃ勧めたが、嫌いだと一蹴され、ついカッとなりちぃの好きなデフォメの事を馬鹿にしたらしい。
それがちぃの癇癪玉に触れ、大喧嘩となった様だった。
サムが馬鹿にしたのは「千年紀カオ」という、これまで二人で話し込んでいたデフォメ。ちぃにしてみれば、二人の絆を汚された気持ちになったのだろう… ザックは漠然と乙女心を理解した。
サムを宥めつつ、サム自身にも非はあると指摘し、諫める。
「うん…ルシータさんにも言われた…確かに僕も悪かったよ。」
サムは明らかに落ち込んでいた。
落胆は、コラ化した不安定な精神状態をますます悪化させる事に繋がる。
それは、サムにとって非常に悪影響と言えた。
なら、安定させることが先決である。
ルシータの頼みもあり、ザックは急遽帰る事にしたのだった――
―――――――――
――「でも好きなデフォメの話しで争いになることは、なにも子供同士だけではないみたいですわ。」
ラーソが、カーネリアンティーを飲みながら、隣の席をチラリと見やる。
そこには、なにやら怒気を放ち口論している男達の姿が。
大の大人が、サム達と同じく、好きなデフォメの話で罵倒しあうその様は、実に下らなく、徒労を感じるものだった。
「好きなものはみんなそれぞれ違うのに、その価値観を認められない。なんだか悲しいことですわ。」
お茶を飲み終えた吐息と共に、ラーソはため息をついた。
そういえば最近そんな者が増えている… ザックも、杞憂とも言える不安を抱える。
「お前さん達、俺との別れより、下らんことに悲しんでどうする。」
マティスの不慣れな茶化しにより、その場の陰湿さは消え去った。
ひとしきり笑い終えると、ザックはマティスに別れを告げた。
ジョウントタグの費用はマティスが支払う事になっていたため、その礼をしザックはタグを書き始める。
とその時…
「写真家さんですね。是非ご依頼したいことが。」
タグを中ほどまで書いた時、一人の老婆がザックの前に現れた。
両手首に付けたアマゾナイトのブレスレット。首から下がったガーネットのネックレス。
それらは一目で解るほど純度の高いもので、老婆自身の気品を打ち消すことなく輝いていた。
「わたくしはセラと申します。あなた様に是非写して欲しい写真が御座いまして。」
そう言い、セラは深々と頭を下げた。
旅立ち前の突然の依頼… ザックは悩んだが、話を聞くことにした。
「別れの挨拶はもう少し長引きそうですね。」
マティスに言ったその声は、心なしか陽気さが乗せられていた。
だが、依頼内容を聞いた途端、陽気が陰気へと姿を変えた。
――最愛の夫の写真を収めて欲しい。
それは、ザックにしてみれば少々難儀な依頼だった。
なぜなら、ザックは自然を相手に写真を撮る写真家であって、人を相手にする写真家ではないからである。
ザックは、人を写すという行為に対し劣等感にも似た感情を抱いているため、その行為をなるべく避けていたのだった。
どうしたものかと一人門答するザックを、ラーソはじっと見守っていた。
その脳裏には、いつか二人で訪れたファンクスの桜並木が浮かんでいた。
当のザックも、ラーソと同じ情景の中にいた。
自分の意志ではないにしろ、ラーソを写真に収めた時の光景。そこから、モバンでのハルカとの出来事に移り変わる。
セラが心配し再び声を掛けようとした時、ザックは不意にラーソを振り返りこう言った。
「ラーソさん。今更ですがありがとうございます。」
そして笑顔のまま、今度はセラの依頼を引き受けると高々と告げた。
――劣等感やジンクスは、自身がそれから逃げない限り意外に脆く消え去るもの。
以前ラーソが言った言葉を、今更ながら実行しようと心に決めた。
喜ぶセラと挨拶を交わし、早速本題へと移る。
「実は…夫はこの世には居ませんの。」
予想外の言葉に、ザックは口の閉め方を忘れ、なんとも間が抜けた表情をした。
どうやら夫はこの都市の荒らし浄化を生業とするアフィリエイターだったらしい。
ここから少し離れた場所にある沼。そこで荒らしの浄化を勤めていた時、不本意にも命を落とし、周囲の岩にリスボーン(物に魂を宿す事)したとのことだった。
「それはもう三年前の話になりますの。」
三年間の月日の中、そこは今では危険地帯として仕切られる地となっていた。そこで、危険地区を物ともしない屈強なアフィリエイターと、夫の魂の具合を写すことの出来る者を探し、声を掛けていたという。
マティスは、屈強なアフィリエイターは自分に対しての言葉だと理解したが「魂を写す」という意味は解せなかった。
「旧文明の時から、カメラは魂を写すことが出来る機械と言われています。セラさんはそれを知っていたのでしょう。」
得意げにザックは言った。
「人物を写す」とは若干異なる依頼となったが、ザックの瞳はいつにも増して輝いていた。
依頼を受けたのはザックただ一人。だが、ラーソとマティスも身支度を始めていた。
「今回はお前さんの仕事振りを見ることにするよ。」
ザックは頷き、笑顔を見せた。
去り際にセラは、首に下げたガーネットを御守りにと差し出した。ザックはそれを受け取ると、チャットルームを後にした――
―――――――――
――「…今回はお前さんのやることに従うとは言ったが…まさかこう来るとはな。」
マティスは、少し恨めしい視線をザックに送った。
そんなザックは、ラーソと一緒に自転車を漕ぎ、グリーズの都市を駆けていた。
穏やかに流れる美しい花々の風景。久しぶりに感じる風を切る感覚。それは自転車に乗らなければ味わえないものである。
「すみません。自転車は二台しかストレージ(物質を体内にエネルギーとして取り込むこと)していないもので…」
申し訳なさそうに話すザックに対し、マティスが返す。
「いや、そういう意味じゃ…それに俺が乗れば自転車は壊れるだろう。」
自転車のスピードに合わせ、もどかしそうに走るマティスを、周りに咲いた可憐な花達が優しく労う。
ザック達が滞在するグリーズは「発掘とガーデニングの都市」と呼ばれる地である。
ここでは、毎年優れたガーデニング愛好家を決める祭りがあり、それに備え日々美しくデコレーションを施した庭が多く点在していた。
ザック達が走りながら見ている、お洒落にガーデニングされた箱庭達がそれである。
ザックは、自転車に乗りながらカメラを構え、駆け抜ける風景を切り取っていた。
そんな様子を見、マティスはある違和感を覚えていた。
なぜ、自転車やカメラと言った旧文明の物に依存するのか。
進化した人類は、自転車で走るより速く走れ、カメラでなくとも思念写真でより美しい風景を収められる。だが、ザックはそれを行うことは滅多にない。それがどうしても解せなかった。
「地に足を着いた人間らしい生き方をしたい。…友人の受け売りですが。」
写真を撮り終え、再び自転車に跨りながらザックは応えた。
流れる自然を横目に、さらにぽつりと呟く。
「お前が柔なら、俺は剛。彼はいつもそう言ってましたっけ。」
そう話すザックは、いつになく嬉々としていた。
ラーソがそれを指摘すると、ザックは頭を掻いて羞恥した。
自転車が道を進むこと数十分。これまでなだらかに進んでいた車輪は、途端に上下に激しく揺れだし鈍い声を上げる。
悪路の中、ラーソは鈍く唸る車輪をいじめ抜き、ザックより早く沼のある森へと辿り着いた。
「自転車、とても楽しかったですわ。」
笑顔を覗かせるラーソ。その表情は、先ほどの過激な走りを見せた者とは思えぬ可愛らしさがあった。
ここからは徒歩での移動となる。
マティスが先頭を歩き、二人はそれに続く。
夜明け後なのだろうか… 辺りは妙にひんやりとし陰湿さが感じられた。
そして、目的の沼地へ着いた時、辺りに漂う奇妙なエネルギーが三人を取り巻いた。
「…ここは自然に出来たパワースポットですわ。」
ラーソが辺りを見渡し、確信に満ちた表情で二人に告げた。
見ると、半径五十メートルほどの沼の四方に、木々位の高さの尖った岩が立っていた。そして、それは全て沼の中心に向かい斜めに傾いていた。
パワースポットとは、宇宙に満ちているタキオンエネルギーを呼び寄せ、集合させると言われる場所である。
タキオンは生物の神経伝達物質のため、パワースポットは人類にとって英気の場所となる。だが同時に、荒らしを引き寄せる危険な場所という面もある。
「確か、セラさんの予想では近くの岩に魂が宿ってるって事でしたね。」
ザックは思い出し、沼の四方にある尖岩にカメラを向けた。
だがその時…突如沼が荒れ狂い、けたたましい水しぶきが巻き起こった。
宙に浮かんだ水しぶきは、徐々に大きさを増していき、意志があるかの如く三人に降り注ぐ。
マティスはとっさにラーソの体を抱きかかえ、水弾をかいくぐった。
水弾が落ちた先の地面は、大きな暗闇が口を開けていた。
「…荒らしか、わしが全て排除する。」
水しぶきが止み、沼から一人の老人が現れた。
荒らしに荒らしと呼ばれ、腑に落ちないマティスは、短刀を手に身構える。
だが、ザックはそれを制止した。
この荒らしには自我がある上、セラの夫であると感じたためだ。
それに対し、荒らしなら浄化すべきとマティスが返す。だが、ラーソからの説得もあり、渋々ながら引き下がった。
ザックはまず、荒らしに名を聞き、なぜここに留まるかを聞いた。
敵意を向けながらも、荒らしは自身の名を告げる。
その口から出た名前は、案の定、セラの夫と同じ名だった。
続いて荒らしは、ここに留まる理由を告げた。
――倒し損ねた荒らしを浄化するまでは帰れない。
それを聞き、ザックは閃いた。
なぜこの地に、荒らしの報告が無かったのか…
「これまで、ずっとここに集まる荒らしを浄化していたって事ですか。」
荒らしの浄化の最中、命を落としたため、その行為に固執し荒らしとなった後もひたすら生前のように荒らしと戦っていた…ザックは気付き、更に老人を説き伏せようと獅子吼した。
荒らしの浄化の際、命を落とした事。そして自身が荒らしとなっている事実を告げ、リスボーンするよう懇願する。
セラから預かったガーネットのネックレスを見せながら叫ぶが、それでも老人の心には届かなかった。
老人は再び無数の水弾を作り出し、警告するように宙に留める。
「もう無駄だ」とマティスは言うと、短刀を手に身を乗り出した。
だがその時、足元がえぐれ、小さな土煙が舞い上がる。
「今回は俺に任せると言ったはずです。」
それは、ザックが放った思念波だった。
二人の間に鬼気が迫る。ラーソは、いつになく威圧的なザックに一瞬怖じ気づいた。
だが、すぐにこの状況下、冷静に頭を巡らし行動に移す。
「お二人共、争う相手が違いますわ。」
その叫びは、二人の鬼を追い払った。
「では見せて貰おう。お前さんのやり方を。」
三人に、再び注ぐ水の弾。マティスとラーソはそれを避け、ザックは荒らしの下へと飛び出した。
水弾には一つ一つ生体磁場が纏われているため、半霊化したザックの身体をもってしても透過する事は出来ない。
そのため、水弾の僅かな隙をかいくぐり、老人の懐へと近付いていった。
少しずつ、だが着実に老人との距離は縮まっていく。
(――お前が柔なら俺は剛。)
ふと、いつかの友人の言葉が脳裏をよぎる。
(――俺は、またいつもの癖を…)
ザックは呟き舌打ちをした。直後、飛び交う水弾を何のその、短兵急に突き進む。
両腕で顔を防ぎながら、突撃の勢いを利用し、老体に飛び込む。そして、そのまま沼へと落ち込み沈んでいった。
二人が浮き上がって来たのはそれからしばらく後のことだった――
―――――――――
――今、マティスとラーソの目には、カメラを構えるザックが写されていた。
そのザックのカメラの先には、ガーネットのネックレスを持ち怪訝な表現で佇むセラの姿。そして、色とりどりの花達と、高く伸びる林檎の木。
鮮やかに実った林檎は、ガーネットの様に大樹の姿を引き立たせる。
ここは、セラの家にある広大な庭の中。
沼での一戦の後、なんとか夫を説得し、魂を休ませることに成功したザックは、その足でセラの元へ戻り、自宅に案内するよう願い出ていたのだ。
「本当に、これにあの方が…?」
手にしたガーネットを見据えセラは呟く。
通常、魂は自身が最も印象に残る場所へと帰るもの。
荒らしから戻れた夫の魂は、パワースポットから解放され一番身近で印象深い物に憑依したはず…ザックはそう予想していた。
「では、撮ります。セラさん、笑って下さい。」
張り詰めた空気の中、乾いた短い音が鳴り響く。
ザックは、マティスにペーストタグで内蔵された写真を引き出すよう願い出た。
促され、マティスが写真を引き出すと、そこから林檎の木を背景に、二人の笑顔が並んだ光景が現れた。
ガーネットを持つセラの横に、僅かに写された夫の笑顔。
それを見るセラの目からは、一つ二つと滴が落ちる。
「ありがとうございます。…このガーネットは大切に保管いたします。夫が戻るその日まで。」
依頼達成の瞬間である。
「…なるほど、これがお前さんの仕事というわけか。」
涙を漏らすセラを見ながら、マティスそう言葉を漏らした――
――「そういえば、なんであの時、強引に荒らしの方へ向かったんだ?」
冷静に整った表情で拳を突き出し、マティスは目の前のザックに言った。
ザックは平然と構え、マティスの右拳を払い言葉を返す。
「友人の置き土産ってやつですかね。」
風で舞い上がった砂煙が、二人の姿を一瞬隠した。
草木も生えない砂地の中。そこは、先ほど組み手を行った場所だった。
再度同じ場で組み手をする二人。
立て続けに繰り出されるザックの拳に、マティスは軽いステップで後ろに下がり、逃げ失せる。
ザックがすかさず詰め寄り右拳を伸ばした時、マティスはその腕を左手で掴み、右拳をザックの顔面で寸止めした。
「…お見事です。」
ザックは両手を上げマティスを賞賛した。
そろそろ戻ろうか…そう言うと、マティスはリンクタグを書き出した。
戻った先は、先ほどと違い静寂が支配するチャットルーム。
「お帰りなさい。今のお二人にぴったりなお茶を注文しておきましたわ。」
帰った先は笑顔のラーソ。
隣の空間には「ミ(∵)彡」の文字がチャットリングされていた。
「なんか…さっきのやつよりパワーアップしてますね。」
「パワースポットに行ったらパワーアップしちゃいましたわ。」
ザックの呟きにラーソがほほえみ返す。
パワーアップに騒ぐ中、注文していたパワーティーが届く。
モルダバイトティーとアクアマリンティーだった。
それを喉に流した時、ザックは突然声を発した。
「お前が柔なら俺は剛…そんな彼が生み出した武術ってやつを、俺は引き継いだ身なんです。」
突然の告白に、二人はカップを置き、聞き入った。
「彼が残したものを語り継いで…受け継いでいきたい。でも俺はつい彼のそれをおざなりにして戦ってしまう。それが自分自身、もどかしくて。」
悲しげに話すザックを見、マティスは鋭く睨んで言った。
「なら、俺がその武術とやらを引き継いでやろう。お前さんはお前さんらしくしてればいいさ。」
それは、マティスなりの気遣いだとザックは知った。
小さく笑い、心遣いに感謝する。
ひとしきり会話を弾ませた後、マティスは立ち上がり、二人に別れを告げた。
そして、これまで付き合ってくれた報酬だといいジョウントタグの費用とは別の旅費を手渡した。
「ではな。中々楽しめたよ。」
最後までマティスらしい挨拶に対し、二人は見えない所で笑いあった――
第十八話「株を守りて」 完
十八話登場人物集
※イラスト協力者「そぼぼん」
※登場人物一部割愛
サム
ちぃ
セラ