見上げる空
――この日クルトは、とある村へとやって来ていた。
目の前に佇む、土壁の丸い建物を前にし、なにやら頭を悩ませる。
やがて、意を決し扉を開けた時、複数の名を呼ぶ声が耳を通った。
「我らが偉大なるスポンサー、クルト様。もうすぐ来る頃かと思ってましたよ。」
そう言い、クルトに拍手を向けるのは六人の男女。
皆一様にクルトに対し敬意を払い、賛辞を述べた。
「全くあなたは大した人だ。あの時の俺たちが、まさかここまで売れる様になるとはね。」
拍手を止め、一人の男が陽気に口笛を吹き言った。
この男達は音楽隊である。
音楽は、写真と同じ世界三大芸術の一つで、高い人気を誇る芸能。
それに魅せられる人も多く、旅をしながら音楽を奏で、さながら吟遊詩人のような暮らしをする者も少なくない。
この男達もそんな旅芸人であったが、全く相手にされない所謂売れない音楽隊であった。
だが、ある日を境に、そんな売れない日々は終わりを告げた。
「あなたの楽曲は、わたし達に光を与えてくれました。感謝してもしきれません。」
音楽隊の紅一点「スズナ」に言われ、クルトは苦笑いを浮かべた。
そう。この者達に日の目を見せたのは、クルトが提供した音楽であった。
話は半年ほど前に遡る――
―――――――――
――カニールガーデンにある一室。そこはリリ達「進化派」の拠点としての一面がある。
この日も、リリは仲間を集め、アセンション果たすべく様々な計画を立てていた。
この日の議題は「効率の良いインディゴの魂取得方法」
この議題にいち早く飛びついたのは、音吏であった。
「…以上がこれまでの研究で明らかとなった情報でございます。」
深々と頭を下げる音吏に対し、リリは首を傾げ、考え事を始めていた。
「自殺賛歌。呪いの歌か…確かにわたしが生きた時代にもそんな話はあったけど、言わせて貰えば呪われていたのは歌じゃなくて時代のほうね。」
さしたる関心を見せないリリに、音吏はがっくりとうなだれた。
――音楽によるインディゴ確保計画。
自信がある計画だけに、リリの関心の無さが堪えた。
「まあ、温故知新って言葉もあるし、故事に習うのも良いかもね。好きにやってみて。」
気まぐれなリリはそう言うと、議題を終え、チャネリングに興じた。
喜ぶ音吏、ここから計画は始まった。
そして数週間の時間が流れた――
リリ達が拠点としている都市ヴァースには、誰も訪れる者が居ないビルが複数点在していた。
その一つ、静寂が支配する建物に、シオンとクルトは足を運んだ。
半ば強引に連れられて来たクルトは、そのビルの一室を訪れた時、言葉を失った。
緑色に統一された部屋の中、手足を縛られ、身動きを封じられた男がうずくまる光景。
それを見、暗い表情を覗かせるクルトは、部屋の陰湿さと同化し、今にも消え入りそうだった。
そして、耳に伝わる旋律が、より一層心を暗く染め上げた。
「これが、じいさんが研究して作り上げた音楽らしい。」
シオンが誇らしげに言った。
この曲には、かつて「呪われた歌」と言われた二つ曲を研究して作ったものであるという。
人の脳に危険信号を送るリズムが加えられており、さらに精神に過度のストレスを与えるという和音が取り入れている。
縛られた男は、ワンダラーであり、呪われた歌の効果を試す実験台とされていたのだった。
「こんな事をして、リリが許すと思うのか?」
クルトは怒りを見せた。
だがシオンは「研究のための犠牲」と冷静に言い切った。
怒るクルトをよそに、シオンは曲を広める場所、そしてそれを広める歌い手を提示した。
さらに、計画を遂行する役割をクルトに与えた。
計画の場所は「ミレマ」という小さな村だった。
ミレマは、標高の高い場所に存在する村で、タグを扱える場所が少ないという悪条件により、年々過疎化が進んでいた。
それに伴い、人々の心にも活気が薄れ、閑古鳥が鳴く光景に寂しさを隠せない。
そんな陰気な村は、人の精神を不安定にさせる音楽がまさにうって付けだった。
クルトは頑なに計画を拒んだが、長くは続かなかった。
これまで、リリの集合の指示に従わず、やる気を見せていなかった為、シオンに疑われている状態の身。
これを断ればますます立場が悪くなるのは明白だった。
――腹をくくるしかない。
クルトは、計画を進めるべくミレマに向かった。
そこで、一組の音楽隊と出会い、そして――
―――――――――
――「あの時の俺達がこうなれたのは、あなたのおかげだ。」
一年後、かつての売れない音楽隊は、この村では知らぬ者が無い程の有名人となっていた。
事に、リーダーである「ムゲ」の知名度は絶大だった。
今日で出会いから丸一年。
音吏の曲はどれほどの効果を見せているのか… それをクルトは確認しに来ていたのだった。
喜々として成功を語るムゲ達に、クルトは「村人達に異変は無いか」と聞いた。
聞いて、冗談だと思ったのかムゲは「皆、歌を歌いすぎて、村中うるさくなった」と冗談で返した。
ともあれ、なにも異変はないようだ。
それを知り、クルトはようやく本当の笑顔を見せた。
「じゃあ俺は用事があるんでな。失礼するよ。」
クルトはムゲ達に伝えると、施設を後にし、チャットルームへ向かった。
ミレマはチャットルームが他の地域より少ない場所である。
村に不慣れな者は、チャットルームを探すだけで一苦労を有する。
何度か訪れた事のあるクルトと言えど、複雑に入り組んだ地形から、すぐにそれを探すのは苦労を有した。
村人に場所を聞き、なんとか行き着いた先には、土で固められたカマクラのような建物があった。
ミレマならではの建設技術で造られた「土屋」というものである。
村にある殆どの建造物は、この土屋で出来ていた。
土の香りを鼻に通し、チャットルームに入ったクルトは、すぐさま空いた席へと腰を下ろす。
そして、休むことなくジョウントタグを用い、この村を後にした――
※赤印はミレマ。
ミレマを経由し、着いた先はスパンセだった。
光に包まれ一席に現れたクルト。
それを見、二人の子供が飛びついた。
「父さん、遅いよ!」
息子であるシェイン達である。
「少し仕事が長引いたな。」
そう言い、クルトは遅れた詫びをし、二人の頭に手を置いた。
照れくさそうに手を払うシェイン。
カインの方は、具合でも悪いのか、うつむいたまま動かない。
クルドが心配し、声を掛けようとした矢先、カインは急に前を見たかと思うと、笑顔を見せ、指を宙に突き立てた。
《おかえり》
青い文字で書かれた「おかえり」の文字。それを見た途端、クルト感嘆の声を上げた。
「そうか。出来るようになったのか!」
クルトが家に戻ってからの三日間、二人は勉強により見違えるほど成長した。
ことにカインは、これまで出来なかったチャットリングを完璧に扱えるまでに成長していた。
これも、父であるクルトの力が効いたのだろう。
そして今日は、父クルトとの勉強の最終日であった。
ここでシェイン達が父を待っていたのも、その授業を行うためだった。
クルトが示した最終課題… それは依頼を受け、無事に達成すること。
アフィリエイターを目指しているらしいシェイン達に、子供の内からそれがどんなものなのかを体験させるのが狙いだった――
――その頃、ザックはというと…
「おかしな話ですね。」
クルトの家にて、ラーソとレリクの談笑を聞いていた。
「あの人、本当変わり者なんですよ。」
レリクは笑いながら、夫クルトの話をしていた。
「ブリザードフラワーを見てみたいって言ったら、花が咲く森ごとプレゼントしますって言ったんですよ。」
昔話をするレリクは、若々しく、とても幸せそうだった。
話を聞き、ザックは益々クルトを憎めない気持ちになっていた。
自身の目的のためなら、強行策を取る進化派の一員でも、クルトだけは違って思えた。
一方ラーソは、笑顔でいつつも、どこ神妙な表情を浮かべていた。
「一旦、外の空気を吸ってきます。」
ザックが言い、席を立つと、ラーソもまた席を立ち、外へと伸びる廊下を歩いていった。
今日のフォトンエネルギーは、淡い朱色に輝いていた。
「空焼け」と呼ばれる現象である。
ザックは、朱色に染まる森の中へとラーソを誘った。
目的はない。ただ、歩いていたかった。
二人はなにも話さず、森の囁きを聞いていた。
ザックはカメラを構え、そんな静かさを切り取っていく。
一枚、枝に佇む小鳥達。
二枚、樹の幹に絡みつき、一つになる蔦の写真。
そして、三枚目。上を向き、写したものは、青い空。
撮り終え、深呼吸をした後、ザックは言った。
「…俺と一緒に旅をしませんか?」
聞いて、ラーソは目を見開いた。
思いも寄らぬ言葉に、思わずうつむく。
ザックもまた、気まずそうに頭を掻いた。
だがこれは、ラーソがワンダラーだと知ってからの三日間、ザックが悩み考えた末の決断だった。
ラーソは、最近まで自分がワンダラーだとは知らなかったらしく、そのため、かつてのワンダラー同士の争いも、進化派がどのような者達なのかも浅い知識でしか知り得ていなかった。そして最近になり、進化派から仲間にならないか勧誘を受けるようになったという。
あの時、そう自分に話してくれたラーソに対し出来る事は、ラーソを進化派の危険から遠ざけるくらいしか思い付かなかった。
「わたくし、よく解らないままなんです。受けるつもりはないですが、断ればクルトさんに迷惑が…それに…」
――以前、クレロワの臨時放送を聞いた時、すぐさま新たなアセンションを否定したが、反面、心のどこかでそれを受け入れたいと思う自分が居る…ラーソはそんな自分の不条理さがたまらなく口惜しいのだと告げた。
ザックは、進化派がこれまで行って来た強行の事実を告げた。
「…そういう人達です。それでも仲間になると言うのなら、俺は止めません。」
そして、間をおいて、自身の事を話し始めた。
進化派の強引なやり方を阻止するためにこの世界を回っている事。
ワンダラー同士が衝突した際、微妙に時間流に変化が生じる。それをチャネリングの要領で三日以上前から読み取り動きワンダラー達の戦いを抑止している事。
時間流の変化はもう何十年も起きていない。そんな中で起きた今回の件に、震える思いをしていたこと。
「でも…俺も、ラーソさんと同じなんです。今はこうして旅をしていますが、本当は彼らと争うのが正しい事なのか解りません。」
ではなぜ、戦う意志を止めないのか…そう問うラーソに、ザックは頬を指で掻きながら答えた。
「約束…しましたからね。それに、この旅を通してそれを見極めたいんです。」
自分の望みが解らない。だからこそ、この旅でそれを知りたい… その言葉に、ラーソは共感し頷いた。
「…ザックさんはやっぱり素晴らしい人ですわ。」
二人は初めて会った時のように、力強い握手を行った。
それは、新たに始まる旅を紡ぐように、きつく交わされたのだった――
―――――――――
――一方、クルト達三人は、三時間粘り抜いた末、ようやく依頼にこぎつけていた。
請け負った依頼を果たすべく、勇んで歩を進める。
子供達の背には、見るからに重そうな荷物が積まれていた。
「父さん、まさか荷物運びなんて仕事があるとは思わなかったよ。」
そう愚痴をこぼすのはシェイン。
弟のカインは、渋々ながらも寡黙に歩いていた。
依頼主はバイオレットの若い女性だった。
バイオレットは肉体的にいえば、クリスタルより脆弱である。バイオレットでは運べないような重い荷物も、クリスタルならたやすく持てる。この関係を利用した仕事は、クリスタルの重要依頼として生かされていた。
この事を力説するクルトだが、子供達はやはり不機嫌そうだった。
「僕たちもっとかっこいい仕事したいよ。例えば、ザックみたいに…」
言いかけ、シェインは突然表情を強ばらせた。
その脳裏には、ザックが荒らしを浄化をした時の言葉が駆け巡っていた。
軽薄な気持ちで危険に身を投じる愚かさ。それを教わったはずなのに、まだやろうとする心がある。
その事に、自分自身に嫌気が差した。
「ザックさんから大切な事を教わった様だな。その気持ちを忘れちゃだめだぞ。」
クルトは、嫌悪する息子達の肩を叩き激励した。
シェイン達は元気を取り戻し、重い荷物も何のその、力強く地を蹴り前へと進んだ。
しばらく歩き、だいぶ距離が進んだ時、クルトの元にテレパシーが送られてきた。
クルトは手頃なベンチに座り、それを受信した。
テレパシー送信者は…
『計画の成果の報告、聞かせて貰おうか。』
それは、音楽によるインディゴ誘導実験についての、シオンからの通信だった。
クルトは自信満々に、成果がまるでなかったことを告げた。
だが、シオンは微笑し言った。
『貴様の報告はやはりあてにならんな。じいさんの話では成果は着実に出ているらしいぞ。』
聞いて、クルトは怒鳴り散らしてそれを否定した。
シオンはそれを無視し、引き続きミレマを見張るように言い聞かせた。
クルトはそれを断るが、シオンは想定内であったかのように、別の提案をした。
『そんなこと…出来るわけがない。』
クルトは別の提案も断ると、通信を切り頭を抱えた。
悩む素振りを見て心配してか、子供達はクルトの頭を、普段自分達がされているように優しく撫でた。
「お前達に慰められるとはな。」
クルトは自分に呆れた風な笑顔を見せると、不意に立ち上がり、歩を進めた。
子供達もそれに続き、歩き出す。
荷物運びを始めて数時間。初めは渋っていた二人も、今は無邪気に笑い合う余裕すら見せていた。
「到着!」
そこは、町外れの一軒家だった。
家の前に立つと、依頼主の女性が出迎えた。
女性はシェイン達の前に立つと、丁寧に礼を言い、飴玉を三つ、それぞれの手に握らせた。
受け取り、しばらくそれを眺めていた二人は、不意に笑い出したかと思うと、互いの手を叩き合い喜びあった。
「父さん。良いことして誉められるのって凄く気持ちいいんだね。」
今回の経験が、二人のアフィリエイターへの夢を益々強くさせた。
帰り道、二人は仕切りに、遠くに広がる空を見上げていた。
「父さん、僕たちもいつかあの空の先まで行けるかな?」
クルトは、なにも言わず頷いた。
なにより、子供達の成長が嬉しい。同時に、自身の状況を乗り越えようとしない自分が腹ただしく思えた。
「俺も、お前達に負けないようにしないとな!」
張り上げ言ったクルトの声が、青空に吸い込まれ消えていった――
――クルト達が自分の家に着いてしばらく後、ザック達も無事家へと戻った。
家からは、庭先にいるザック達にも解るほど、子供のはしゃぎ声が聞こえていた。
中に入り、一緒に遊んでやろうかと廊下を歩いていた時、レリクが居間から現れ声を掛けた。
「ザックさん。クルトがこれを。」
言うなり、レリクが一枚の手紙を渡した。
それを見たザックは疑念に眉をひそめた。
「…なにか手伝って欲しいことがあるそうです。」
ラーソに子供達の相手を頼むと、ザックは急ぎ足で出掛けて行った――
―――――――――
――着いた先は、再三訪れた森の広場。
そこにある墓碑の前に、クルトが一人立っていた。
「君には感謝してる。親友を浄化してくれた事も含めてな。だが、こればかりは仕方がない事なんだ。」
クルトの表情は鬼気迫るものがあった。
殺気を帯びたクルトを見、ザックは全てを察した。
「…彼らからの指示ですか。」
進化派からの信頼を得なければ、自分はもちろん家族にも危険が及ぶ。
だが、ザックを倒せば信頼を得れる…
それは、先ほどシオンから言われた事だった。
クルトは殺気とは裏腹に、消え入りそうなオーラを発し、ザックに向かった。
対するザックは、急に力を抜いて、空を仰ぎ大きく深呼吸をした。
予想外の行動に、クルトは一瞬たじろいだ。
だが、次の瞬間それを後悔することになる。
視界からザックが消え、その刹那、背後から物凄い衝撃が伝わった。
立ち上がり、ザックを見やる。
半透明の身体、怒気を込めたその表情に、クルトは絶句した。
――お人好しなザックのことだ、話し合いで解決したいと言うだろう。
そうなるとどこかで考えていたクルトだけに、ダメージは大きかった。
果敢に攻めるも、ザックはそれを全て受け流した。
拳突きを右手であしらい、思念波には思念波で返し、隙をつき力のこもった右拳をあてがった。その度、クルトは地に叩き伏せられた。
立ち上がり、一旦後ろに繁る森の中へと移動し、クルトは姿をくらました。
ザックがその場を動かず、周囲を見渡している間、クルトは木陰に身を潜め、ペーストタグを書き上げる。
タグ師らしく、それは見事に反応し、体から突剣が現れた。
やるしかない。そう言い聞かせながら、疾風の如くザックに迫った。
手にした突剣がザックの右胸を刺し通る。
無事ではすまない一撃…
だが、ザックはなぜか平然としていた。
「魂の力が込められていないものでは、魂を捉えることは出来ませんよ。」
迷いのためか、クルトはバイオレットにはあるまじき、魂の力を使用しないミスを犯していた。
ザックは構いなしに、再度右拳を腹部に見舞った。
地の味を噛みしめること十回目。ついにクルトは立つことを諦めた。
降参だ、煮るなり焼くなり好きにしろ、そう言わんばかりに寝転ぶ。
ザックは、そんなクルトに歩み寄る。
「もう、十分ですね。」
そう言うと、懐からレッドオニキスを取り出した。
「これに後一回力を吹き込めばひび割れが起きます。この石を持って進化派の方達に見せて下さい。」
ザックはオニキスに力を込めた。すると、言った通り、石に僅かな亀裂が発生した。
ザックはそれを、クルトの懐へしまい込んだ。
「力の履歴を調べれば、俺の所有石だってわかるはずです。クルトさんは死闘の末ザックに勝ってこの石を戦利品にしたとでも言って下さい。」
言われ、クルトはようやく理解した。
ザックが一芝居討ってくれたのだということを。
感謝と情けなさで視界が歪んだ。
「それと、さっきはわざと痛むように強く打ち込みました。クルトさん。あなたは本当の意味で今の状況と決別しなくてはなりません。」
――一番可哀想なのは、何も知らない家族…
そう言われ、クルトはついに涙した。
大の字になり、見上げて見れば、空の青さと雲の白――
―――――――――
――「クルトさんはもうじき来ると思います。では、色々お世話になりました。」
森から帰って小一時間後。
家の前にはお辞儀をするザックとラーソの姿があった。
再び交わす別れの挨拶。だが、シェイン達は以前のような寂しい目をしていなかった。
これからはいつでも連絡しあえる。それに、もうじき自分達もザックの様に世界中を…そんな思いが寂しさを消していた。
ザック達の背中を見送る二人の瞳に、遅れてやって来たクルトの姿が映された。
傷だらけのクルトに家族中慌てたが、当の本人は笑顔を浮かべていた。
心配する家族に「猛獣駆除をザックとして、自分の不注意でこうなった」と伝えた。
「もう大丈夫だ。色んな意味でな。…お前達は俺が守る。」
急に真顔で言うクルトに、子供達は冗談かと思い笑い合った。
レリクは小さく頷くと、「よろしくお願いします。」と笑顔で言った。
その笑顔は、青空のように澄んでいた――
第十三話「見上げる空」 完
十三話登場人物集
※イラスト協力者「そぼぼん」
※登場人物一部割愛
ムゲ
スズナ
シオン=ダオリス
クルト=ブル