雲になりたい
雲になりたい、それが僕の夢だ。
だって勉強しなくてもママや先生に怒られることはないし、ただぷかぷかしてるだけでいいからね。
目が覚めると、僕は雲になっていた。
そう判断できる材料はそこら中にありふれていた。周りに広がる白い物体、下を見ればいつもより小さい街、そして真上には、いつもより大きい太陽。
これから勉強とかめんどくさいこと、しなくていいんだ。僕は、これからなにをしよう、と期待に胸を膨らませた。
何もできなかった。
体を動かそうとしても動かない。声を出そうとしても出ない。
結局自分の意志が、意思以外の何かを生むことはなかった。
僕は、残念に思った。それだけ。
何もできないならぼーっと青空でも眺めていよう。勉強するより数千倍はマシだ。あー、幸せ。
ママを見つけた。多分、買い物に向かう最中だろう。おーいママー!…って声出ないんだった…。
あれ…?もうママと話せないのかな…?
一瞬、胸に穴が開いた感覚がした。でも、僕はすぐにその穴を、夢への期待で包み隠した。これは僕がずっと望んでた生活!もっと楽しまなきゃ!
でも、僕がいないのになんでママは、いつも通り生活してるんだろう?
そんなことが脳裏をよぎったが、深く考えないようにした。後回しにした。多分、何かが変わってしまうから。
そのあとは、ずっと街の様子を眺めていた。結構な時間がたったと思う。
僕は、今の時間を知るために太陽を探す。あ、見つけた。
それは僕の真上にあった。
現実を突きつけられたような感じがした。夢や希望が上書きされて、今まで隠してた寂しさ、焦り、退屈…そんな負の感情が、あふれ出してきた。
僕は止めようとした。でも、もう無理だった。だって、もう止めようとしてる自分を意識してしまったから。
意識が少し朦朧としてきた。そういえば、雲の寿命なんて考えたことなかった。
やだ…死にたくない!ママ…助けて!今までわがままいってごめんなさい!僕…帰ったらちゃんとするから…勉強がんばるから…。どこにいるの…?家に帰りたいよ…かえり…たい…また…あのいえに……
薄れゆく意識の中、僕は教室で退屈そうにしている”それ”を見つけた。あー…僕にはもう帰る場所なんてなかったんだ…。僕は涙を流しながら、青空へと消えていった。
「えーっと、一般的に雲の寿命は小さいもので約10分から1時間とされています。ちゃんとノートに書いとけよー」
あー…退屈すぎる。雲の寿命とか知って何の意味があるんだよ…。僕は、不貞腐れながら外を見ると、晴れているのにもかかわらず雨が降っていた。不思議だな…と思いながら、ぷかぷか浮いている雲を眺める。
雲になりたい、それが僕の夢だ。だって勉強しなくてもママや先生に怒られることはないし、ただぷかぷかしてるだけでいいからね。




