XXXしないと出られない部屋
「くそっ……勇者様達は無事だろうか……」
「きっと大丈夫よ。だって勇者様だもの」
「あぁ、そうだな……ちくしょう、まさかこんな形で、足を引っ張っちまうなんてな」
魔王城の地下深く。
戦士カーンと魔法使いエミリアは捉えられていた。
エミリアがトラップに囚われた時、幼馴染であるカーンは考える前にエミリアを守るために『亜空間転移』のトラップに飛び込んでいた。
勇者と聖女2人だけが魔王城に残されたことになるが、2人ならば撤退することは難しくはないだろう。
幸い、戦士も魔法使いも、勇者や聖女とは違い、換えがきく。
そう、カーンもエミリアも、自分たちが『万が一のときには切り捨てられる』という立場であることを理解していた。
世界に1人ずつしか存在しない勇者と聖者は、かわるものがいない。であれば、守る優先順位は、もはや考える必要すらないだろう。
「さて、問題は俺達がどうやってここから脱出するかだな」
「……ねえカーン、ちょっと座りなよ。焦っても仕方ないんだから」
エミリアとカーンは同じ村で生まれ育ち、まるで姉弟のように仲が良かった。
3歳年上のエミリアは魔法の才に優れ、村総出で学費を工面して、王都にある魔法学院へと進学。なんと首席で卒業して最年少で大魔道士の称号を手に入れていた。
カーンは幼少期から怪力に恵まれ、村に襲いかかる魔獣を素手で殴り飛ばすなど、武において天性の才能を見せていた。
やがて彼の怪力の噂を耳にした傭兵団にスカウトされ、カーンは戦士としてのキャリアをスタートさせた。
「ねぇ、覚えてる? 久しぶりに会った王様のお城」
「びっくりしたよな。まさかエミリアが大魔道士になってて、魔王討伐のサポートに出てくるなんてな」
「私もびっくりしたわよ? だってあの泣き虫だったカーンが戦士になってるなんてね」
「お互い、大人になったよな」
「そうね…………それで、その……」
エミリアはちら、と部屋の出入り口であろうドアの上に貼られた板に視線を向け、小さく指さした。
「あれ、どうする……?」
木製の板には『XXXしないと出られない部屋』と書いてある。
XXXは伏せ字ではない。実際に『XXX』と書かれていた。
さらに、ドアには細かい文字で注意書きが書き記されていた。
曰く、XXXはあくまでXXXであり、それ以外の何者でもない。正解は自分の頭で考えて実践すること。
曰く、たとえ大魔道士の魔法、大戦士の一撃であろうと、壁を破壊して外へ出ることは出来ない。
曰く、収容者には毎日水と、食料と、清潔な衣服が提供される。トイレは部屋に備え付けられているものを使うこと。
曰く、収容者がいる間、魔王軍は進軍を見合わせる。最大30日間、人間への攻撃は取りやめる。
曰く、収容者は監視されている。不正を試みた場合、人間たちの安全は保証しない。
「どうするもこうするも……つまり、俺達がその、『XXX』を探ってる間、魔王軍は歩みを止めるんだよな? 最大30日か……それだけの時間が有れば、勇者様も新しい前衛と、遠隔攻撃の魔法遣いを確保できるか……」
「そ、そうね……仕方ないわよね。私達が抜けた穴を、何とかしないと……」
「にしても……このXXXって何なんだろうな」
「えっ? カーン!?」
「ん?」
エミリアは、驚きを隠せない表情で幼馴染の巨漢を見上げた。
「あ、あの、カーンって……この『XXXしないと出られない部屋』って聞いたことないの!?」
「いや、知らないけど。なんなんだろうな……呪いを解除? だとしたらかなり厳しいな。敵の撃破にしては敵の気配もない……クソっ、エミリアなら知ってるんじゃないか?」
「そ、その、知ってるけど……」
「知ってるのか! さすが大魔道士だな! それで? 俺は何をすれば良い?」
「い、いや、その、待って、あの、私にも心と身体の準備っていうか、その……す、すぐにはムリだから……おねがい、ちょっと時間をちょうだい……」
「そうか……なるほど、魔法の秘術か何かなんだな。準備に時間がかかるんだろう。分かった。じゃあ俺は準備が整うまで待つ」
カーンは重たそうな甲冑を脱ぎ始める。
「ひぃっ……ままま待って、おねがいカーン、待って、あの、心の準備が……」
「ん? あぁ、分かってる。ちゃんと待つから。それにしても少し暑いな、この部屋。エミリアもそのローブ脱いだほうが良いぞ」
「ダメっ! まだ、まだダメよ! その、私もカーンだったらイヤどころか望むところっていうか、このシチュエーションなら喜んでっていうか、むしろ今さら? 感じ? なんだけど……」
「なぁエミリア、ここから出られるかどうかは、エミリア次第なんだ。まずはカラダを整えて、それからにしよう」
部屋の中で甲冑を脱いで隆々たる筋肉を顕にするカーンと、ためらいながらもローブを1枚脱いだエミリアは、不自然なくらいに距離をとっている。
その姿は、注意書きにあるとおり監視されていた。
「あぁもう! 何なのあの2人! なんのために私たちがここまでお膳立てしたと思ってるのよ! カーン! そこでガっとヤっちゃいなさいよ!」
「お、落ち着けよ、聖女がそんな言葉使うものじゃないだろ?」
「これが落ち着いてられるモンですか! あの耳年増なエミリアと? 幼馴染のカーンが? 両片思い丸出しなのを延々見せつけられておいて? もうイライラする我慢できないって言ったのは勇者でしょ!?」
戦士と魔法使いのもどかしすぎる姿は、魔鏡と呼ばれる魔道具に写し出されていた。
魔鏡が置かれているのは、魔王の居室である。
その魔王の居室で、傷だらけの男が申し訳なさそうに聖女に歩み寄る。
「あ、あの……この城って、まだ返してもらえない感じですかね……?」
「まだよ。あの2人がちゃんと出られるまで」
「いや、でもですね? その、こうしてあの、勇者……様と? 聖女様——」
「あ?」
「う、ううう美しく聡明で慈悲深い聖女様にですね? こうして降伏して、城も明け渡したワケじゃないですか?」
「何、あんた人類に敵対しておいて、城を明け渡すだけで済むと思ってんの?」
「ひいいいい! ゆ、勇者様! 助けてください!」
聖女に睨まれて、怯えたように勇者にすがりつく男こそ、魔王その人である。
ときは2日前に遡る。
カーンとエミリアが眠っている間、もどかしい2人の関係に業を煮やした勇者と聖女は、なんと2人で先に魔王城へ乗り込み、憂さ晴らしと八つ当たりの勢いのままに魔王を撃破していた。
そこで魔王を脅し——もとい、説得して作らせたのが、今カーンとエミリアが要る部屋である。
「あぁもう、見ててイライラする……ほらカーン! 行け! 押し倒せ! ガッと行けガッと!」
魔王と勇者は聖女から少し離れて、目を見開いて魔鏡に食い入る聖女を眺めていた。
「ねぇ魔王! なんかこう、いい具合の媚薬とかないの? あんだろオラ出せよ! 一服盛ってこい!」
「……ゆ、勇者様、あのオンナ——じゃなかった、あのお方は本当に、伝説にある聖女なんですかね……?」
「意外だよな……」
魔王軍降伏の報せが人間の王に届くのは、この1ヶ月後のことであった。
勇者パーティ内で、両片思いの幼馴染と「仲を進めさせたいガチ勢」がいたら、というハナシを考えてみました。




