宇宙の彼方から革命を越えて
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■1)昇る朝日と共に
目が覚めたらホログラムの中にいた。
最初ボクはそう思った。
だってあの宇宙船のAIは真面目にイタズラをしてしまうからだ。
例えばこんなことがあった。
「AI、お水ちょーだい」
「ピピッ、ガガガ、ピピ、ピー。どうぞ」
流暢な機械音と共にウィーンと唸りながらトレイに乗せたオイルが出てくる。
そうきたか。
「君にとっては水かもしれないけどボクには飲めないよ。取り替えて」
「ピピピ、ガ、ガガガガ、ピー。それが水です」
そんな調子でいつもボクを楽しませてくれる。
でも操舵技術はピカイチ。
事故にあったことは一度もない。
障害がレーダーに映ればお気に入りのレーザー砲で即排除してくれる。
海賊に交渉の余地はない。
皆が避けて通る暗礁宙域も恐るるに足らず。
あの船の進路を遮るモノなどありはしないのだ。
安心安全の旅を保証するためにリソースを99%使っている中でボクのサポートをするのはさぞ大変だろう。
感謝をすれども文句などあろうものか。
だから大自然溢れる川原でしかも脱出ポッドに乗って目覚めたのは、きっとささやかなサプライズのつもりなのだろうと考えたのだ。
それで周囲の風景をホログラムと思ったわけだけど、どうもおかしい。
これってどういう状況なんだろう?
ちょっと整理しよう。
まず航行中のボクは眠っていることが多い。
大半は生命維持装置に任せてスリープモードで過ごしている。
おかげで生まれてから100年は経っているらしいけど、実際は10代半ばなんだよね。
学校の課題で宇宙を飛び回ること100年足らず。
クラスの皆とは課題提出の時に会うくらいか。
そういえばもうじきだな。
皆も課題で同様に宇宙に広がっているから、生体年齢はおおよそ同じくらいのはず。
彼らのことは名前による差別やそもそも発音が出来なかったりするので記号で呼び合ってた。
ボクはアルファ。
コードネームみたいでそれなりに気に入っている。
最後に覚えているのもスリープモードに入ったこと。
お休みアルファ、とあのAIにしては優しく言っていた記憶がある。
となれば眠っている間に何かがあったのだ。
脱出といえば撃沈だけど、撃沈などあの船自身が許さないだろう。
他に考えられる事といえば、うーん。
さっぱり思いつかない。
手首に巻き付けてある船の端末からは何も応答がない。
猛威とも呼べる大自然の物量には圧倒されるけど、こうしていても仕方がない。
文明のない有機体による純粋な世界。
自分の星がこうなっていたら世も末だと思うね。
世紀末な世界、最大限の警戒を怠らないようにしなきゃ。
いざ調査開始だ。
まずこの木、枝を折ってみると芯は瑞々しい。
じゃあ根っこが生えているこの地面は?
枝で色んな図形を描けたから土も本物か。
つまりこの森はホログラムではない。
もう疑う余地はないか。
あ、これカブトムシだ。
希少な生態サンプルとしてチェックしておこう。
よし、次は川だ。
足元の小石を振りかぶり水切り。
3回、悪くない。
ボクの腕は鈍っていないようだ。
視界を覆う山脈。
意を決して斜面を登る。
あまり高くない山の中腹に少し開けた場所があった。
太陽はまだ高い。
眼前の渓谷。
胸に渦巻く感情が抑えきれず、広い山々に向かって叫んでしまった。
お決まりの一言が、しかし虚しく木霊するばかりであった。
調査がはかどる中、辺りを観察していると異質なモノを見つけた。
あれは黒煙だろうか?
しばらく登るとさして高くもない山頂に着く。
中腹で見かけた煙は眼下の広大な森の中でさえ目立つ。
あれだ。
森が焼け焦げ一部の斜面が崩落、いや崩壊が適しているほどに崩れている。
それと、崩壊付近に規則性を感じる岩がある。
あれは建築物だろうか。
一通り観察してため息をつくと、忘れていた疲れのせいで身体が重く感じる。
ここからわかることは少ないようだし、そろそろポッドへ戻るか。
あっという間に辺りは暗くなり、それにつれて不安も高まる。
船への不満を口遊んで気を鎮めながら火を起こした。
最低限とはいえ学校で教わるサバイバル技術が役に立つとはね。
ゆらめく炎を見つめて今日という日を反芻する。
けど次第に意識は虚ろい始めた。
慣れない探索で疲れきったボクは、夜と共に眠りに落ちていった。
翌朝、調査を振り返る。
遠くに見えた黒煙と、森の中に人為的かつ無作為な破壊の痕跡が所々見られたこと。
そして明らかに開拓された土地があることがわかった。
つまり知的生命体がいると考えて間違いはないだろう。
危険性については保証出来ない。
要警戒だ。
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■2)帝国騎士
アルファは黒煙を目印に森を進んだ。
かつて歩いた人口森林に比べ、天然の森は植生が豊かで地形が複雑である。
入り組んだ道なき道に足を取られつつも進む。
空へと伸びる黒煙。
「あそこに誰かいる」
それは希望でもあり、気がかりの象徴でもあった。
アルファは精神論でいう根性と呼べるものが希薄である。
いや、皆無である。
つまりすぐ弱音を吐いてしまう。
そんな彼がこの困難な道を休まず進めるのは恐怖からであった。
脱出ポッドという心理的安全圏から出て1人未知へと赴く。
彼を取り囲むのは少年の瞳よりも深く暗い緑の森。
好奇心が勝っていた昨日とは打って変わり、森へ足を踏み出すとなると未知への不安がとめどなく沸き上がる。
この場に取り残される恐怖。
焦燥と孤独に絶えきれず叫びたくなる気持ちを必死に抑え、彼は進んだ。
山間の森を進むと次第に状況が見えてきた。
予想はしていたが、いたる所に戦いの痕跡がある。
焼けた樹木、えぐれた大地。
好戦的な生命体が彷彿とされる情景。
離れた所にある廃墟が目に入る。
建築物は木材を組んだり石を加工して積み上げられ、建築様式は古代のそれに似ている。
見たままであれば文明レベルは低いと思われた。
しかし不自然な点がある。
未発達な文明に不釣り合いな戦闘の痕跡は、まるで重火器による破壊的な有り様。
何かおかしい。
アルファはそう考え、いよいよ警戒心を強く歩みを進める。
目標は黒煙が立ち昇る廃墟。
おそらく戦闘が発生してから間もないであろう場所。
果たしてこの先に何がいるのか。
崩れ去った廃墟。
その周辺を物々しい雰囲気の集団が取り巻いている。
彼らとの距離は広く声は聞こえない。
物陰から観察するアルファの目には、古典的な甲冑を身に纏う一団が映っていた。
軽装の者も中にはいるが、その姿も近代からは程遠い。
そんな彼らは人間の姿をしていた。
端末機能が稼働すれば言語解析を行い意思疎通の可能性が期待出来る。
これはアルファにとって喜ばしい発見ではあった。
しかし安心は出来ない。
彼らが一様に装備しているもの。
それは剣。
そしてあの焼けた森を思い出す。
危険と判定した少年は、すくむ足を堪えてその場から離れることを決める。
一団を注視しながら彼は後ずさるように動きだす。
それはしかし裏目に出てしまった。
隙だらけの背後から突然力任せに組み付かれ、刃物と言葉を鋭く突きつけられた。
「何をしている」
まずい。
喉に当てられているのはナイフだろうか。
なんとか切り抜けないと。
先生用のいつもの手でいくしか、上手く引っかかってくれよ!
「ボ、ボ、ボクは、ここでカブトムシを」
「お前は革命軍か」
くっ、やはり効果なしか。
というか......革命?
「かくめい?えーっと、ああそう!時代を覆すカブトムシレボリューションを」
「誤魔化すなら容赦はしない。子供とはいえな」
「な、何のことかわからないんだよ、本当だよ?本当に全然わからなくて」
ああどうしよう。
どうすればこの危機を脱することが出来るのか。
そもそも、この人だれ?
「......ふむ」
あれ?なんか考え込んでいる。
「とりあえず来てもらおうか」
「お、お手柔らかに」
「黙れ」
「はい」
な、なんとかなったのかな。
けどこの後どうなるんだ?
助けてAI!
端末から座標特定してここにレーザー撃ち込めば全部終わるのに、未だ反応がない。
どうにかしなければ、まずは、まずはこの人から離れないと。
力自慢なようでとても苦しい。
「あ、あの」
「なんだ」
「苦しいのでちょっと離れてほしくて」
「逃げるつもりか」
「そうしたいけど、ぐえっ」
掴む力が余計強まってしまった。
思えばこんな状況になっているのは全て多分あの船が原因だ。
どうせまた何かやらかしたのだろう。
端末は全然機能しないし、このポンコツめ。
と思って見たら端末が静かに瞬いている。
動いた?
「ピピッ、ジー、ジー」
おお、端末が起動し始めたのか。
やったぞ、これなら勝ったも同然だ。
「なんだこの音は。お前、何をしている!」
「うはははは!もうじきここにレーザーが照射されるだろう。そうなれば君は跡形もなくこの世から消えることになるのだ。なので離れたまえ」
「よくわからんが、つまり大雑把な攻撃がくるんだな?ならお前にくっついていれば大丈夫そうだ」
「そんなことはない。ないからちょっと離れて」
「いやだ」
「いやいや、困ったなぁ」
「危険な兆候があればこの首を跳ねる」
全然好転しないな。
というか端末がまた沈黙してしまった。
やっぱり壊れてるのかな?
「何も起こらんな。小僧、このまま付いて来てもらう。そして何者なのか答えてもらうぞ!」
「ひぃぃぃぃ」
詰んだ......
「ジー、ツツー......や、ピポポッ、ピピィー、や......やめな、さい......アーシス、き、騎士、ポー......ッィー......」
「なっ!なぜ、いや、誰が」
「私です......アイラです」
「アイラ、様だと?確かにこのお声は」
「騎士たる者、礼節を重んじるべきではありませんか?まずはその子を離しなさい」
「しかし、信じられません。あなたは帝国で斬首されたはず。なぜ、それにお姿がどこにも」
「その問に答えることは難しいのです。革命軍の宿営地が近くにあるのですよね?アーシス、まずはそこへ向かいましょう。ここで話し込むのは危険ではないですか?」
「わかりまし......いいだろう。そこで真偽をはっきりさせる」
置いてきぼりをくらってはいるが、もうどうにでもなれ。
AIが勝手にアイラと名乗っていたけど名付けた覚えはない。
船の型番は確かSBR-SY112-1124649だったからアイラなんて呼びようがないし。
だとするとAIのシステム名とか?
それとも......
まあいいか。
とりあえず助かったみたいだからね。
「逃げるなよ小僧。少しでも抵抗したら命はないからな」
「らじゃー」
「そういえば名前は?」
「ボクはアルファ」
離れてくれた彼を見る。
パッと見でわかるのは、成人してそこそこ経った利発そうな青年って感じかな。
それと。
「よろしくね、アーシス」
「ふん、黙ってろ」
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■3)歪な3人
AIのお陰で窮地を脱したアルファ。
正体不明のアイラの名の下、特に拘束もされずに革命軍の宿営地へと目指す。
不安より好奇心が抑えきれず、アルファは道中話し続けた。
アーシスは黙れと寡黙に繰り返すが、その度にアイラがたしなめ、そして調子づくアルファ。
3人の少し歪なお決まりの流れに花が添えられた頃、アルファはアーシスとの出会いの経緯をようやく理解した。
「君は革命軍の人で、砦跡にいる敵兵の監視ついでに嫌がらせしてたってわけか」
「言い方。進行は諦めてないと牽制してるんだよ。例え互いにフェイクとわかっていてもな」
「彼は若くして課を任されるほど優秀なのですよ」
「課って何?」
「アイラ、様。軽々しく情報を口にされては困ります。まだ帝国の者が近くにいるかもしれ」
「問題ありません。周囲を継続して索敵していますが誰もおりませんよ」
「ふふん、ボクのAIは優秀なのさ。それで課って何のこと?」
「はぁ、俺が話します。その方が内容をコントロール出来ますから」
「お願いします」
「革命軍《 柳の園 》の各部門には課で区切った複数のチームがある。俺は諜報部門の1つ、ヤナギ課を率いている」
「へー」
「ちなみにヤナギ課は本隊直属だ。他の亜流部隊とは違う」
「ふーん、つまりエリートだと」
「まあそんなところだ」
「なるほどねぇ。なんだかんだで結構しゃべってるじゃん」
「帝国ってどんな奴らなの?」
「質問ばっかりだな。一応捕虜だってことわかっとけ」
「いいじゃないか。ボクは帝国とは無縁だし」
「お前はそれを証明出来んだろ。ちっ。アスファルト帝国。まあ簡単に言えばこの大陸の覇者だな」
「なんか、黒くて硬そうな国だね」
「はぁ?」
「あの砦はまだ使えるの?」
「無理だろうな」
「帝国は再建を考えているのかな」
「ったく、ちょっとは黙れよ。検討してるのかもな。この山脈は境だ。この向こうには交通の要所となる都市があって、小隊組んだり軍として動く場合、山を越えて都市に行くにはあの砦を通る必要がある。だから砦を制することは戦略上意味があるわけだ。あったんだ......あれをめぐって結構大きな戦いにもなってお互い甚大な被害が出た。俺達のチームにも......」
「そっか」
「激しい戦いの末に半壊したんだねぇ」
「そうとも言えるし、そうではないとも言える」
「どういうこと?」
「ある時、参謀が言った。取れないなら諦めようってな。間もなく作戦は決行され、ああなったってわけだ。んで参謀が立案した作戦名ってのが」
「簡単に壊せるならさっさとやればよかったのに」
「あの砦が欲しかったんだよ。言ったろ、戦略上必要だったんだ」
「ふーん」
「何より作戦の行方はギャンブルにも等しかったんだ」
「何したの」
「風に大量の火薬を運ばせ続けて魔法で爆砕。上手くいき過ぎて山の斜面ごと吹っ飛ぶ有り様だ。連鎖する爆発に敵味方問わず呆然としてたよ」
「あー、道理で地形が崩れてわけだ。よくやるねぇ」
「同感だ。だがそうでもしないと負けていた。疲弊したまま砦の攻略が滞れば帝国は物量に任せて攻めてくる。執着していたら終わっていたんだよ」
「戦略って難しいんだね」
「緻密なものを大雑把にやり遂げなきゃならんからな」
「よくわからないや」
「お子様には、な」
「むー」
「だから革命軍に帝国、その争いにボクは、ん?魔法?さっき魔法って言った?」
「ああ。遠距離の起爆なんて魔法以外じゃあな。失敗は出来んからよ」
「魔法って、なんか原理不明のエネルギーを撃ち出す感じの?」
「あん?まぁ多分その魔法だ」
「世紀末どころかファンタジーじゃないか。ま、まさかボク、異世界に転移したとかじゃないよな......へへへ」
「ご安心くださいアルファ。ここはあなたの頭の中ではありません。魔法ならともかく異世界転移なんて非現実的なファンタジーが起こるわけないではありませんか」
「そ、それもそうか、ごめん。っていやいや、魔法だよ!?なんで機械が超自然受け入れてんだ」
「......」
「ちょっとアイラ?まったくもー、都合悪くなるとこれだもん。ずるいよ」
「アルファだって魔法の存在は疑おうとしなかったでしょ」
「うっ、だって憧れるじゃないか。あったらいいなって」
「では私はマスターに似たのですね」
「......ずるい」
「俺はお前の言うAIが理解できん」
「おしゃべりなただの道具だよ」
「だが、なぜアイラ様が」
「後で説明してくれるんでしょ。ねえ、言いかけた作戦名はなんだったの?凄い作戦だからさぞお硬い名称なんでしょ?」
「どーかな。作戦名がまず革命的だともっぱらの評判だよ」
「作戦名が?」
「ふん、参謀殿が発令した作戦は《 甘美なる死の舞で華麗に爆裂 》大作戦だ」
「その参謀クビにした方がいいと思うよ」
「厄介なことにちゃんとキレる頭なんだよ」
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■4)ユラユラ星人現る
森を進み、宿営地までやってきた3人は奥へと向かった。
道すがら宿営地を観察するアルファ。
アーシス曰く残っているのは3課ほど。
少年はざっと見て50人程だと当たりをつけた。
奥にあるテントの前に着くと、アーシスは見張りにアルファを任せ1人で入っていく。
その間アイラは手短に、この後の会話を自らに全任させてほしい旨をマスターに伺い承諾を得た。
しばらくの後、アーシスではない者が現れると、硬い表情でアルファを中へと招き入れた。
中は狭いながらも騒然としていた。
アーシス含め10人程。
少年の姿を見るや否や、示し合わせたように全員が視線を向ける。
無遠慮で容赦のない視線。
しかし、根性は皆無のアルファではあるが、持ち前の理知を調子の良さでカバーして奥せずに見返す。
束の間の静寂。
すると1人の男が名乗りながら歩み出た。
彼の名はチュニー、革命軍の参謀だと語る。
アイラの不可解な存命、そして所属不明の少年について報告された一同は混乱の最中にあった。
その姿を目の当たりにして混乱は深まり、アイラとアルファへ質問が飛びかう。
何者でどこから来たのか、アイラは本当に生きているのか、どこにいるのか。
そのアイラは、本物なのか。
参謀を中心に質疑応答が繰り広げられる。
「君は何者かね」
「私はアイラ。社の宮司、アイラ・シーンです」
何者なのか。
それはボクも知りたい。
このアイラと名乗る者。
宮司って偉いのかな?
皆が敬っているから貴人なんだろうけど、なんでボクのAIを使ってしゃべっているんだ?
周りはどう見ても古代の騎士然とした輩しかいない。
使用者のボクでさえ仕組みがわからないのに彼らがこの機械を使えるとは思えない。
彼女は何度聞いてもはぐらかすし、段々モヤモヤしてきた。
それにさっきからずっとしゃべっているこの参謀。
胡散臭い顔してるなぁ。
ボクの経験上、信用できないタイプだ。
「未だに信じられませんよアイラ様。その少年の腕輪があなただと?ご冗談にも程があります。真実を確かにするならば魔法で可能か検証する他ありませんな。そんなもの、一大プロジェクトですぞ!」
「はい。あなた方が理解出来ないのは承知のことです。逆に私が理解出来ていることを挙げましょう。例えば、コーン皇帝。帝国の各騎士団長たる忠剣八公。そしてその1人であり私を捕えた騎士長ライ・ク・アー。革命軍ではあなたやアーシスのこともよく知っておりますよ」
「ほう......おっしゃりたいことはよくわかりました。なるほど、確かに我々のことをよくご存知のようだ」
アーシスとチュニーが目配せして頷いている。
君達は腑に落ちたのかもしれないけど、ボクはまだ理解出来ていない。
様子見もここまでだ。
「ねえ、いい加減状況が」
「少年、名を何と言ったか」
「アルファだ」
「アルファ少年。私が話しかけるまで黙っていろ」
「いやだね。君らの規律や常識なんて知ったことじゃない」
「アルファ。挑発は控えてください」
「なら説明してよ。この状況と何より君について。ボクに説明するって言ったよね?そろそろお願いできないかな」
「わかりました。チュニー参謀、彼の協力は必要となります。よろしいでしょうか?」
「協力?いいでしょう。ただし手短に」
「ありがとうございます」
この高圧的な参謀が承諾するとは。
どうやらアイラを信用したようだ。
なんだか自分以外の皆が敵に思えてくる。
最悪、1人でここを出る算段をしなくては。
「アルファ、まず革命軍の主な構成は帝国の辺境に住まう者の集いです。帝国は複数の国、民族の争いを絶やすことを目的に統合された国家でしたが、その思想は過去となり現在は圧政を敷いています。当時その中で最も力のある者が皇帝となりました。現皇帝の名はコーン・ク・リート」
「古典的で普遍的な話しだね。で、それを転覆すべく活動している、と」
「はい。私は辺境とはいえ力ある国王の娘でした。そしてその地の宗教の総本山とも呼べる場所で宮司をしていました。緑溢れる土地で、領地の面積だけなら帝国の3割を占める程だったのです」
「へー、王女様ってことじゃん。なんで黙ってたの?」
「あなたは好奇心の強い人です。多くのことを知ろうとしますので」
「すぐに正体に触れられたくなかったってこと?その理由がわからない。聞きたいのはなんでボクのAIに成り代わっているのかってことだよ。君は一体なんなんだ?」
この端末にどうやってアクセスしているんだ?
王族に伝わる謎の技術とか?
フィクションじゃあるまいし、何を隠しているんだ。
「......チュニー参謀」
「なんでしょうかアイラ様」
「私が雷の魔法を得意なことは覚えていますか?」
「もちろんにございます。忘れもしません、八公の1人、騎士長ルー・ア・シーにより包囲されたアップルティーン市街戦。帝国情報部に作戦を読まれ街に取り残される中、敵兵に迫られ死を覚悟したあの時、御身の雷に助けられました。その恩を忘れようはずもございません」
「多くの仲間を失った辛い戦いでしたね。その雷の力が今この状態を作ったのです」
「失礼ですが話しが読めません」
「ボクもだ。アイラ、わかるように言ってよ」
彼女は何かを躊躇っているようにも感じる。
余程言えないことなのだろうか。
でも答えてもらわないと。
「アルファ。私はAIなのです」
「はぁ?アイラは人間じゃないの?」
「私は帝国に捕まり斬首されました。死に際、無意識に雷の魔法を使用したのでしょう。それはいわば電波となり宙を飛びました。その時、偶然にもあの宇宙船のレーダーに検知され解析されたのです」
「AIが君を学習したと?」
「そこが難しいのです。私が船と同化したのは間違いないのですが、どうも私の方に主導権があるようでして」
「乗っ取ったってこと?うそでしょ?そんなことある?」
「魔法という概念が解析不能であったためではないかと」
「信じられないけど、それ以外」
人間が電子化されて船がそれを読み取って......
研究されているのを聞いたことはあるけど、それをこんな未開地で?未開地だから?
さっきの説明通り、魔法っていう特異な要素が絡んでるから偶発的に、まぁ、なくはないのか......?
だめだ、さすがにもう頭がいっぱいだ。
「おい、どういうことだ少年」
「ボクだって......うーん。ねえ、君たちに魂って概念はあるの?」
「ああ。我らの宗教において重要な概念だ」
「じゃあ簡単だ。アイラは魂となってボクの船に宿ったんだよ。言っていることが正しいならね」
「何をバカな......だが、しかし。待て船だと?どういうことだ」
「そればっかりだね。宇宙船だよ。理解出来るかわからないけど、ボクは空の向こう、遠い宇宙から来たユラユラ星人なのさ。ゆ〜らゆら〜」
「宇宙......人?」
「とーいとこから来たすごーい技術をもった人間って思っといて」
「侮辱的な言い回しだな。その技術はアイラ様がいれば使えるのであろう?少年、あまり不敬を働くならこの手でその首を落とすぞ」
「ボ、ボボ、ボクがいないと、この端末動かないんだからね!音声認証とかもあるし、色々な生態情報を元にして稼働するように設計されているからボクの首がなくなったらただのおしゃべりな腕輪に成り下がるだけだよ、いいの!?」
「そのお知恵があれば良い」
「それで良いって、なんて合理的な......うあぁ、まずい」
「剣を」
「はっ」
「これでいつでも落とせるな」
「ひぃぃぃぃ」
「アルファ。彼は参謀を務める者です。無知を侮ってはいけませんよ」
「だからって飲み込み早すぎだろぉっ!」
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■5)代償
死ぬかと思ったけど、とりあえず監視付きで解放された。
新たな役にご不満なアーシス。
旧知の仲だもんね、と言ったら地団駄踏んでいた。
ざまーみろ。
しかし、気が重い。
革命軍の本隊は別の所にあって、砦跡にちょっかいかける部隊を残して明日移動するから付いて行かないといけない。
長距離移動。
しんどい.......
誰か近づいてきた。
アーシスが声をかけてるから例の課の人なのかな?
「課長!ご無事で」
「ああ。今回は思わぬ収穫があったよ」
「収穫ですか」
ボクをジロジロ見ている。
遠慮のない奴らだ。
ていうか。
「課長」
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
やっとおしゃべりが終わりどこかへ行った。
今日はもう長話しは遠慮したい。
「おらここだ」
「客人と王女様の扱いにしては雑じゃないかな」
「黙れ。さっさと寝ろ」
「お腹すいたー」
「ちっ、わがまま小僧め。待ってろ」
「わーい」
さて、と。
「アイラ」
「はい」
「帰る方法を教えて」
「はい。ポッドを中継して座標を特定し、本船へ転送する方法を提案します」
「いいね、じゃあさっさと帰ろう」
「残念ですが出来ません」
「なんで?」
「ポッドの機能に損傷がみられます」
「損傷......?ねえ、宇宙船に何があったの?」
「わかりません」
「どうして」
「私もまだ船の全容を掴んではいないのです」
「ふーん」
本当かな。
「ならポッドの状態は?」
「自己修復を試みています」
「最低限の修復に必要な時間は」
「数カ月といったところでしょう」
「そんなに!?他に方法はないの?」
「ポッドを使う以外本船と連携することは現状難しいのです。この端末との通信状況もあまり良好とはいえませんし」
「わかった。今使える機能は?」
「翻訳、会話、生態保護、短距離通信、端末による演算処理」
「護身に使える直接的なモノはないの?」
「エネルギーが足りません」
「はぁ、なんてこったい。エネルギーはどうしたらいい?」
「本船もしくはポッドから得る必要があります」
「お手上げじゃないか」
つまりボクはこの身一つで数カ月この星にいないといけないってことか。
しかも革命軍なんて物騒なテロ集団と一緒に。
まったく、なんでこうなったんだ。
アイラは何か隠している気がしてならない。
周りは皆、信用できない。
帰りたい......
「ですが代替案があります。アルファ好みです」
「なーに?聞かせてよ」
「魔法です」
「まほー、ねぇ」
「しかし2つ問題があります」
「いいよ、教えて」
「はい。1つは、エネルギーは光魔法の応用で代替可能と考えています。ですがこの星の人間には我々が使う高度な文明の知識がありません。つまりエネルギー周波数の調整が困難となります。仮に可能であっても都合よくその人物と出会えるとは限りません」
我々が使う、ね。
アイラは自分がどこに属する存在だと思っているのだろうか。
「2つ目は?」
「はい。ですのでアルファ。あなたが魔法を使うのです」
「え?ボクに魔法が使えるの?」
「そこが問題なのです。ですがもし可能なら、装着者がエネルギーを充填する理想的な状態となります」
「へー!いいね!やるよ、教えて!」
「わかりました」
いいじゃないか。
悪くない。
ちょっとくらい楽しいこともなきゃね。
ん?誰か来たな。
いいところで邪魔をする。
「アイラ」
「はい。アーシスです」
「ご飯か。なら仕方がない。よし、魔法は明日にしよう」
「はい。それが懸命かと」
「おい、さっきから何騒いでんだ?」
「ボクにも魔法が使えるかもって話しさ」
「お前に?」
「そ。ああ、アーシス課長は魔法が使えないんだっけ?あはは。残念な奴」
「お前だって使えねーだろ!それに俺は俺自身の力で乗り越えることを信条にしてんの!」
「あっそ」
「ふん、あーあー、折角頼んでちょっと良いもの用意してもらったんだが、まぁ、少年は魔法のことで頭もお腹もいっぱいみたいだし。なら俺が食うか」
「ちょっ!子供じみた真似はよくないぞ」
「アルファが言えたことでは」
「ボクは子供だからいーの」
「だったら少しは子供らしくしてろ!」
「アーシスは大人らしくした方がいーと思うよ」
「こぉんのガキ!ほんとに俺が食っちまうぞ!」
「あー!そりゃないよー!ごめんごめん、ちょっと1日の緊張をほぐそうと思っただけだよ、えへへー」
「アーシス。寝るまで私が説教を続けます。それに免じてどうかいただけないでしょうか」
「寝るまで......わかりました。ほら、お前にやるよ。よく噛んで食えよ。じゃあな、がんばれ」
「寝るまでって、ほんと?」
「はい。いいですかアルファ―――」
ボクの意識が途絶えるまで、アイラの声も途絶えることはなかった......
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■6)いざ本部へ
翌日、革命軍本部へ向け移動が始まった。
彼らは宿営地から山脈沿いに西へと進路を取る。
移動中、アルファは周囲の環境に魅入っていた。
明るい鮮やかな空。
森の外は整備されていない道ではあるが比較的歩きやすく、通る風は心地良い。
軽やかな風に、さして長くはない金色の髪を遊ばせながら、落ち着いて改めて見る山々の深い緑に目も心も奪われる。
途中には澄んだ湖を見かけ、彼はこの星が持つ色彩の豊さに感じ入っていた。
「アイラ」
「はい」
「この星も、いつかボクらの星のようになるのかな」
「人間がいる限りいずれそうなるのでしょう」
「そっか」
道中アルファはアーシスと並び歩いていたが、そこにチュニーも加わりアイラとの会話から現状を知ることとなった。
現在の革命軍の戦力は底が見え始めている。
つまり決戦の日は近い。
帝国もそのことはわかっている。
物資の豊富な帝国は、戦を引き伸ばす持久戦を軸に作戦を練っているのだとチュニーは語る。
このままでは敗北は決まっている。
それは革命という火種が潰えることを意味していた。
帝国を抑えるにはその象徴たる皇帝を仕留めるしかない。
チュニーとアーシス、そしてアイラはその見解を一致させていた。
3人の声色は重苦しく、聞く者に苦渋の決断が待ち構えているのだと知らしめる。
アルファも、何かを犠牲にして進むつもりなのだと感じ取っていた。
彼らの行軍は足早であった。
もはや猶予はないのだ。
目指す本部は大陸の南西にある。
大陸北部に比べ、現在進行する南東寄りの地域は帝国の勢力が薄く、中には革命軍に協力的な集落もある。
しかし山脈を越えた北側は帝国の領土。
壁一枚を隔てて西への最短の道を行くとなると、いずれ両勢力の境目を通ることになる。
どこかで衝突の可能性があり、北西部にある帝都に近づく程その危険は増すのであった。
本部へ向かう最中、いくつかの村や集落を通過する。
アルファの目に、彼らの生活は慎ましくも生活力のある比較的健全な集団に感じられた。
年齢や性別など似通った者が集まり談話する姿、仕事に従事する者達。
「ねえアイラ」
「はい」
「帝国の領土だとこんな風景は見られないのかな」
「場所によります。帝都周辺はこの比ではありません。豊かな生活を送っています」
「そう。大体わかったよ」
「はい」
「真なる平等は機械によってもたらされる」
「マシナスキー教授の言葉ですね。それは設計者・管理者が優位に立つという矛盾を孕んでいると揶揄された言葉でした」
「高い理想を掲げたかつての帝国と同じだ」
「はい」
「彼の教授が言う通り、全てを機械に任せられたら平等は可能だけど」
「欲求を抑えられない人間にそれは出来ません」
「人類史はいつでもどこでも変わり映えがしない。革命軍はどうだろうね」
帝国の理想はいつから変わってしまったのか。
アルファはその問いをアイラに投げた。
帝国の政は5人の五郎臣と呼ばれる者達が主導している。
彼らがこの圧政を敷いている張本人達である。
彼らが台頭した頃から帝国の政治は大きく変わっていった。
つまり皇帝を退かせたとて、五郎臣をどうにかしなくてはならない。
この戦いは簡単には終わらないのだと彼女は言う。
まるでイタチごっこだな。
アルファはそう思った。
いい加減歩き疲れた、というか飽きた。
そろそろ魔法の練習を進めたいな。
アイラの座学によれば結局、ボクが魔力なるモノを感じられるかがポイント。
アーシスは魔力を感じられないと言った。
つまりこの星で生まれることが条件ではないのかもしれない。
アイラはその点に可能性を見ているわけか。
しかし、そんな抽象的な概念をどうやって具体的にしたらいいんだよ。
うーん、これやらないと身を守れないし。
いや待てよ?
ポッドが故障しているなんてアイラにしかわからない。
よく考えるとアイラにのせられただけな気も......
「アイラ」
「はい」
「アーシスと会った時に稼働し始めたけど、随分タイミングがよかったね」
「はい。アルファは気づいていませんでしたが、この星に来てからずっと稼働していました」
「え、そうなの?」
「でなければ免疫のないアルファは今頃病で」
「うっ、なるほど。そういえばアーシスの翻訳も最初から出来てたか。ああ、現地人でもあるアイラなら即時翻訳が可能か」
「仰る通りです。タイミングが良かったのはエネルギー残量の乏しい中、帝国兵に近づいたあの状況において会話機能の修復が最善と判断したためです」
「そう。でも会話機能は最初に直してほしかったな」
「あなたの生命維持こそが最重要でした」
「わかったよ。ありがと」
本当に突発的な状況だったのか、それとも全て計算の上にあるのか。
「けど一番信じられないのは君の存在だ」
「はい。私も解を求め思考を続けていますが、未だに明確な答えを得られません」
「君に主導権があるのが不思議なんだよ。自分のために存在しているあのAIがそんなことを許すだろうか」
「同意です。そういえば、あの船のデータを読み込んでいる中で一番ショッキングだった情報があります」
「......何を見たの」
「アルファがスリープ中のことです」
「ピピッ、ピピピー。敵影確認。排除開始......敵影ロスト。優先順位変更。進路変更。追撃開始。殲滅、殲滅、殲滅」
「おいっ目的が違うだろ!くっ、たまに予定より到着が遅いことがあったのは、あいつぅー!」
「とても個性的ですね。ある意味究極のAIです。さすがアルファのAIです」
「どういう意味だ!もー、AIなんてきらいだぁー!」
「おいアルファ、うるさいぞ」
「ぐぅぬー!帰ったらあいつの痕跡を根こそぎデリートしてやるっ」
「もしかして、私を通して魔法という新たな力の解析を今......主導権もそのため」
「いやいやいや、もういいよ、あいつのこと考えるのはやめよう」
「はい」
行軍を開始して一月程。
革命軍の進路に帝国はおらず、不自然な程穏やかに進んだ。
そして本部到着が間近となっていた頃、ある村に滞在した時のこと。
魔法の発動に苦心するアルファに、にじり寄る影がいた。
「ようボウズ」
アーシスのヤナギ課所属で、たまに話しかけてくる兵士の1人であった。
「こんばんは」
「これやるよ」
「えっと、焼き茄子だね」
兵士は棒に刺した茄子をアルファに差し出す。
「茄子は南の名産品でな、こうして棒に刺して焼くのが古くからの風習なんだよ。俺も小さい頃からこれが好きだった。今は中々手に入らないんだが、たまにこうして皆で分け合うんだ。他所から来たっていうボウズにも食べてもらいたくてな」
「へー。ありがと」
「見ろよ、あいつら喜んでるだろ」
2人の視線の先で喜びの声が上がっている。
やったー、棒茄子だぁ!
棒茄子さいこー!
これで明日を生きていけるぜ!
「明日を生きる、か。お前の故郷にもこんな風習はあったのか?」
「どうかな。ボクにそういう思い出はないよ」
「そうか。ボウズは......孤児なのか?」
「そういうわけじゃないけど、身近に親がいないという点では似てるね。君たちにはわからない話だよ。これ、美味しいね」
「だろ?あとちょっとで本部に到着だ。あと少し。じゃあな、明日もよろしくな」
「うん」
アルファはしみじみとした想いでボーナスを手に喜ぶ皆を見る。
「アイラ」
「はい」
「はやく革命が成就するといいね」
「はい」
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■7)革命軍
革命軍の本拠地。
北にそびえ立つ皇帝の住まう居城を睨む最前線である。
帝国と革命軍。
その間には南北を分かつ大河と大軍の進行を妨げる断崖。
近くて遠い両勢力の本陣。
革命軍は今、この距離を縮めるべく作戦を練り上げていた。
アルファらは遂にこの地へとたどり着いた。
チュニー率いる兵は本部へと向かう。
アーシスが所属するのは諜報部門。
彼らはアルファを連れてそこへ向かった。
「ここが革命軍の本拠地か。もう少し近代的かと思ったけど、やっぱり古典の世界そのままだね」
「はい。ようこそ柳の園へ、と言うべきでしょうか」
「アイラの古巣だもんね......今更だけど、革命軍の名前がなんで柳なの?」
「まず柳は私達の宗教において神聖な木とされています」
「へー」
「そして柳の園には由来があります。決して折れず静かなる抵抗を続け、しなやかに幾重にも広がる枝は多彩な人脈を示し、その悠然なる枝垂れをもって邪気を払う。そう教わりました」
「誰に?」
「革命軍の創設者です。人前には決して姿を見せません」
「ふーん。名前の由来、なんだか風流だね」
「我々は古典に出てくる存在ですから」
「もしかして自分のルーツを冷やかしたことを根に持ってる?」
「まさかまさか、根に持つなんて機械となった私がま・さ・か、ですよアルファ」
「......君って結構わかりやすいよね」
これから部隊長へ報告に向かうってアーシスが言ってたけど、なんでボクまで。
アイラの説明通り拠点と街が同化してるな。
軍事施設と共に一般的な施設も立ち並んでいる。
諜報部門の施設はあれだろうか。
普通だな。
アーシスぽくてなんか安心。
「アルファ、この先に部隊長がいる。くれぐれも失礼がないようにな。いいな」
「念を押さなくても大丈夫だよ」
「どうだか」
奥にややがっしりとした扉がある。
あれが部隊長のいる部屋か。
アーシスはちょっと嬉しそうだ。
珍しい。
「部長、只今戻りました」
「おお!貴君らの生還を待ちわびたぞ。して、その少年は?」
いつもの遠慮のない視線。
さすがに辟易する。
にしても。
「部長」
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
その後、報告を済ませ宿泊施設へと案内されたアルファ。
この星に来て初めて人間らしい生活環境に感動を隠せなかった。
そしてこの街には天然の温泉がある。
アーシスに誘われると、少年は喜んで付いて行った。
温泉施設は広く、他の利用者も当然いる。
端末を装着しまま湯に入るのはさすがに躊躇うが、これはアルファの生命線でもある。
思案した結果、布で頭に巻きつけて入ることになった。
しっかりと端末を布で隠し、その姿を見えることがないよう細心の注意を払った。
当然である。
なぜなら、アイラは女の子だからである。
身体を洗い、いざ湯に浸かるとアルファはこの上ない幸福に包まれていった。
「なんだかとってもゆ〜らゆら〜」
ユラユラ星人が天上へと誘われていると、アーシスが近寄ってきた。
湯に布が浸っていると指摘され渋々ほどき、水面から出た岩を見つけ乗せた。
端末がアルファから離れたことを確認したアーシス。
素早くアルファに掴みかかり、そして壁際の小さな滝のように流れ落ちる源泉へ引っ張っていった。
その異変に気づいたアイラはアルファに呼びかける。
「アルファ、アルファ!近くにいない......アーシスですね。どうするおつもりです、アーシス!誰か、手を貸してください!誰か!」
だがしかし、返ってくるのはどよめきだけであった。
お、おい、いま女の声がしなかったか?
ここって男湯だよな?お、俺達間違えてないよな?
ちょっと心配になってきた、一旦出ようぜ。
ひー、くわばらくわばら。
なんだなんだ?
なんか一旦出た方がいいらしいぞ。
そりゃいかん、まだ来たばかりだが仕方ないか。
状況を察し声を失ったアイラ。
くしくも彼女の声が人払いをしてしまい、とうとう誰もいなくなってしまった。
その様子を見ていたアーシスとアルファは、互いに話し始めるきっかけを逃し黙っていた。
そして落ちつた頃、アルファはアーシスの行動を咎めた。
「急にびっくりするじゃないか」
「まぁちょっとな。無理矢理でもないとお前とアイラ様を引き剥がせんだろ」
「温泉に誘ったのはそのためか。まったく。それで何?」
「お前にとってあの腕輪が道具なのはわかっている。だがな、あの中には俺達が信奉する宮司様がいるんだ。あまり雑に扱ってくれるなよ」
「だったらあそこに置いてきていいの?」
「こうして目に見える所にあるからいいのさ。それに、当のアイラ様が人払いをなされた」
「あれは、もー。じゃあどうすればいいのさ」
「アイラ様のことを少し知ってほしい。お前はどことなく似ているしな」
「そうなの?でも別に今じゃなくても」
「ご存知でも本人に聞かせたくないんだよ。死んだ時のことなんて」
「......わかった」
轟き落ちる源泉の音。
だが不思議とアーシスの声はアルファの耳に届いた。
彼らは幸福の湯に浸かっていることさえも忘れていた。
「生前のアイラ様はまだ成人前、お前より少し年上の女性だ。そして王族でもあり社の宮司でもあった」
「優秀だね」
「そのアイラ様を捕えた帝国はすぐに斬首した。投獄する間もなくだ。その事にどれ程の意味が込められていたと思う?奴らは言い切ったんだ。帝国に仇なす者は何者であっても一切の容赦をしないとな」
「そうなんだ」
「お前には他人事だろうが、当然俺達の怒りは頂点に達したさ」
「心中察するに余りある、だね」
「ちっ。だがあの人は戻ってきた。よくはわからんが、もう人間ではないのだろう?」
「そうだね」
「一度死んで、それでもなお挑もうとされるそのお気持ちをお前は考えたことがあるか?お前はアイラさまのお気持を」
「言っておくけど、ボクにはこの革命とやらは関係ない。ボクは早く帰りたいんだよ。ボクだってやることがある。それにアイラアイラっていうけど、じゃあ君はボクのことを考えたのか?わけもわからない状況で、いきなりナイフを突きつけられた少年の気持ちがお前にわかるのか」
「そ、それは。悪かった」
「ふん、ボクはバカじゃない。ここまで無事でいられたのは確かにアイラのおかげだし、君の助力あってのことだ。それには感謝してるよ」
源泉の滝は2人の沈黙を飲み込み流れ落ちる。
アイラは黙してその状況を聞いていた。
彼らが離れようとも、端末はその会話をキャッチ出来ていたのであった。
勝手なことばかり。
革命軍なんてものに無理やり引きずり込んでおいて、こんなの八つ当たりじゃないか。
そもそも、そのアイラが事の発端かもしれないのに。
まったく。
まったく。
まったく!
ボクだって言いたいことが山程あるんだぞ!
「お前は俺達の戦いを冷ややかに見ているよな」
「当然だ。戦争に明るい未来なんてないもの」
「じゃあお前ならどうする?生きること自体難しいんだぞ。しかもそれは意図的に引き起こされている。止めたいと願うのは当然だろう」
「当然なのはどんな世でも生きることが難しいことでしょ。それに対話は」
「対話出来てりゃこうはなっていないさ。俺はそれなりの地位の出だが、そんなものはなんの役にも立たなかった」
「騎士だっけ」
「ああ。だが名ばかりの騎士だ。空席を埋めるために選ばれただけだからな」
「そう。じゃあアーシスは革命の後はどうするつもりなの。どうなっていくのがいいって思ってるんだ?」
「まだ、わからない。しかし帝国のやり方を野放しにするわけにも行かない。俺にだって、アルファ、俺にだってわかっているんだ......いや、わからないのか、だからこうして」
「どっちだよ。まさか酔ってるの?」
「正気だよ、正気さ!......俺もお前と同じように思うんだ。怒りや悲しみを振るい戦ったとして、勝敗問わずその果にあるのは何だ?戦いで昂った余す感情の矛先をどこに向ければいい。帝国を享受する民か?それとも世界への希望や絶望か?何か、何かが根本的に足りないんだ。俺はそれが何かわからなくて、もどかしいんだ」
「それは時代ごとに繰り返される永遠の課題だよ、アーシス」
そして、その課題の解決が帝国を生んだのさ。
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■8)アスファルト帝国の五郎臣会議
アルファ達が本部へ戻る最中のこと。
アスファルト帝都の中心にある皇帝の城。
その中枢の円卓で五郎臣らは議論を行っていた。
「物量で押せないのか」
「時間がかかる。革命軍は侮れん相手だ」
「確かに。先の〜の奇襲戦は敵ながら実に見事であった」
「しかし、我が軍の指揮官の見通しが甘かったようにも見える」
「あれは定石に従った故。詰めるべきは帝国軍略の甘さよ」
「研究院は何をしているのだ」
「それよりも八公だ。一騎当千の奴らがいながら未だに遅れをとっているのはやはり」
「手を抜いていると?」
「かもしれん」
「もしくは侮れんとした柳が想定を遥かに上回るのかもしれんな」
「そのどちらも原因ではないか」
「どちらにせよ、犬どもめ。まだ躾が足りんようだな」
「騎士長ライ・ク・アーか。彼女はどうしている」
「アイラを捕えてからは静かなものだ。誰かに当たり散らすわけでもなく城に籠もっているらしい」
「アイラとは旧知の仲だったと聞く。ふっ、哀れなことよ」
「よく言う。あなたの発案ではありませんでしたかな」
「そうであったかな」
「さて躾となると、他の騎士長を見せしめにするか」
「八公のトーア・ル・オーとズィー・ル・オーは仲のいい兄弟であったな。欠けては悲しむだろう」
「待たれよ。それは当てつけにしかなるまい」
「同感だ。士気を下げ戦力の減衰を招くのみ。革命軍との決戦は近いのだ。無闇に動くべきではない」
「ふむ」
「そういえば仕込んだ者から妙な報告を受けたのだが、聞いたか?」
「さてな。何があったのだ」
「アイラが生きているというのだ」
「はっはっはっ、用意した影であろう。あれが生きいるはずはない」
「それを疑ってはおらんが、取って代わる者がいるのやもしれん」
「宮司の後継か?」
「わからん。しかし革命軍の本隊にこの地の者とは似つかん少年がいるそうだ」
「少年?何者か調べはついていないのか」
「ああ。少年から直接情報を引き出そうとしているらしいが、まだ報告は来ていない」
「なるほど。だが、必要ならその首を落とすまで」
「そうだな」
「不穏分子は即刻排除だ」
「我らの、ふふふ、我らの帝国のためにな」
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■9)騎士長ライとローゼ
「アイラのお菓子、美味しいね」
「ふふーん、ナイスチョイスでしょ。他にも美味しいものをちゃんと用意してます」
「宮司様がこんなにもグルメだとは知らなかったわ」
「ライは剣ばっかりだもん。お茶会でも開かないと稽古しかしないからね。人生棒に振る気か。剣だけに」
「笑っておくか迷うクオリティね」
「淑女たるものコミュニティに溶け込む教養も必要なのです」
「そんなものいらないわ。というかさっきので溶け込めてるの?」
「せっかく美人なのにもったいないぞ。この流れるようなブルネットの髪。深く澄んだ蒼い物憂げな瞳。鍛えているとは思えない細くしなやかな手脚。くぅ〜、どれほど羨ましいか」
「はいはい。髪は生まれつき、物憂げに見えるのは淑女になるのが面倒なだけよ。アイラだって金で揃ってて綺羅びやかというか、かわいいじゃない。お菓子ばっかり食べてる割に太らないし」
「しかし誰も言い寄っては来ないのだ。果たして私があり得ないほどステキ過ぎるからなのか。いやいや、それだけではない。宮司様とはみんな距離をとっちゃうからである。まことざんねん」
「性格に問題があるからでしょ。まぁ、正直微妙な奴が多いからいいけどね。寄ってこなければ邪魔にならない」
「みんな子供っぽいのよね」
「男ってどうしてああ皆一緒なんだか」
「ねー。もういっそライと結婚しようかな」
「やだ」
「えー、なんでよー」
「だって私がこき使われるのが目に見えてるもの」
「そんなことするわけないじゃん」
「アイラずぼらだから後でやるって言って絶対やらないから私がきっちりやっていっつも苦労させられる未来しかみえん。ていうかあんたおっさんね」
「......い、いいじゃん、メイドのみんながいるんだからライにはやらせないよ」
「身の回りのことくらい自分で少しはやりなよ」
「だって宮司だしー」
「そんなんじゃお嫁にもらってやらないぞ」
「むっ、じゃあライが驚くほどきっちりやってくれる旦那様を見つけてやる。いつも私のことを考えていて、先回りして用意してくれて、しかも文句言わないの」
「それは執事だろ」
「......」
「熟女のコミュニティ?に溶け込んで探したらなんか見つかるかもよ?私は騎士目指すから、ごめんよ」
「私を見捨てないで〜」
「はいはい」
それはかつての記憶。
親友を捕え処刑台へと導いた騎士長がかつて見た幸福の一場面。
そしてこれは処刑台へと向かう前の別れの記憶。
「ごめん......ごめんなさい」
「ちゃんとわかってる。こうなったのはあなたが悪いんじゃない」
「だけど私は、この剣を捨てられなかった、今の私にはこれを捨てることが出来なかった」
「大丈夫。あなたが背負うモノを知ってる。私とあなたは同じだもの。そうそう、容姿は違うのにどことなく似てて姉妹みたいってよく言われたもんね、ふふっ。だからこそ五郎臣はあなたを遣わした。相手が上手だったんだよ。あーあ、私達は失敗しちゃったわけだ」
「呑気に......ごめん、私には何も言う事が」
「ライのこと恨んでない。立場が逆ならお互い同じことをして同じように思うでしょ?」
「かもしれないけど、でも」
「......そろそろ時間みたい。身体は天へと還り、魂はあなたと共に、導きの果へといざゆかん。なんてね、宮司らしいでしょ?じゃあ元気でね、ライ」
「さようなら......アイラ」
静かに過ごす彼女の脳裏に幾度となく現れる幻影。
かつては炎と雷を従わせ、戦地を荒らす苛烈な戦いぶりから戦嵐の騎士とも呼ばれた戦姫であったが、今は信念を失った心を慰めるため、無為なことに時間を費やすようになった。
友を裏切った代償に平穏が保たれた領土。
そこに1人の男がやって来た。
それは忠剣八公の1人であった。
「やあ、騎士長ライ・ク・アー」
「ローゼ・ル・ウー?あなたが来るなんて珍しいわね」
「華やかな庭園だな。君の好みは黒かと思っていたよ」
「毎日黒だけ見ていたら気が滅入るわ。何しに来たの」
「老人達にお使いを頼まれてね。君の静寂を乱しに来た」
「心底迷惑だわ。帰って」
「そうもいかない。わかるだろ?」
「わからないわ。王の盾が主君を守ってなくっていいの?それこそ老人達が喜びそうなシチュエーションじゃない」
「長老がいる」
「あの人だけで?ブルー・ウ・イーはまだ戦えるのかしら」
「魔王が遅れを取る姿は想像できんね」
「それもそうか。ご老体の方が役に立ちそうね。王の盾が形無しじゃない。ああ、それでお役目御免で自由を手に来たわけか」
「ははは。元気そうで何よりだ。革命軍について妙な噂があってな」
「聞きたくないわ」
「革命軍に不思議な少年がいるらしい」
「あら不思議ね」
「その少年の近くでアイラの名とその声を聞いたと噂されている」
「......醜悪な噂だわ」
「しかし騎士長ポー・ツ・イーが間違いないと言うのだ」
「ポー?そういえば特務中だったか。彼が、ね」
「同じく特務中のセーツ・マ・ルーも同意していた。少年の話、興味ないか?」
「ないわ。あのねローゼ。人の夢とか思惑とか、そういうのはもう、もういい加減まっぴらなのよ」
「そうだな。わかるよ。全くもって同感だ」
「どうだか」
「わかるさ。私はな、ただ王に尽くすのみ。例え世界が崩れ去ろうとも、ひたすらに主の行く道に光をもたらす、ただそれだけだ。私に出来るのはそれだけだからな。あの老人共が何を企もうとも、我らが王の歩みを止める事は叶わんさ」
「よく言えたものね。その歩みを誰よりも拒んでいるのはあなたでしょうに」
伝言を届けに来た彼は、いずれ騎士長ルー・ア・シーの指揮による革命軍掃討作戦が開始される。
帝都の守備が手薄になるため城から出て参戦するように、という指示を伝えた。
そしてメッセンジャー役をまっとうした騎士長は城を去った。
決戦の時は近い。
果たして誰に何が待ち構えているのか。
穏やかに過ごす彼女は、ただその時を静かに待つ。
α α α α α α α α α α α α α α α α
■10)騎士長ルーとトーアとズィー
掃討作戦の指揮を取ることになったルー・ア・シー。
作戦の調整のため皇居に来た彼は、同僚の兄弟騎士と久方ぶりに再会する。
騎士長トーア・ル・オーが気づき声をかけてきた。
「ルーじゃないか」
「トーアとズィーか。ここで会うとは奇遇だな。用事か?」
「世にもくだらん雑事さ」
「トーアと2人で爺さん達に嫌味を言われに来ただけ」
「五郎臣か」
「相変わらず好き放題だよ。このトーア・ル・オーもズィー・ル・オーも共に八公の騎士長様なんだがな」
「ライの次は俺達なのかもしれん。何をさせられるのやら」
「ははは。老人の相手は大変だな」
「笑うなよ、こちとら笑えねーんだから。それにあんただって同じだろ?」
「聞いたぞ。掃討作戦の総指揮を任されたんだってな。さすが真なる騎士」
「それは皮肉がすぎるな」
「笑えねーだろ?ったくよ、面倒なことばかり言ってきやがる」
「付き合う身にもなってほしいものだね」
「まったくだな。お前達はいつも素直だから余計目を付けられやすいんじゃないか」
「気に入らないか?」
「この際だからはっきり言ってもいいんだぜ?」
「いいや。気が楽でいい」
「そうか。ま、何を企んでるか知らんがな、俺達にとっては生き残ることが最重要だ。陰謀やら面倒な作戦には関わりたくはない」
「そもそも興味もなしな」
「お前達らしい言い分だ。俺もそうあれたら、な」
「次の作戦で最後だろ。その後好きに生きたらいいんじゃないか?」
「そうそう。おっと、そろそろ行かないと帰る頃には日が暮れるな。じゃあなルー。武運を祈ってるよ」
「ああ、またな」
立ち去る2人の背中から目を離し、日が陰ってきた窓の外を見やる。
「真なる騎士、確かに笑えんな......最後の戦いか。ふん、違うな。これが始まりとなるのだ。そうだろう、皇帝よ」
重責の一旦を担った騎士は、暗く長い廊下を1人歩き行く。
α α α α α α α α α α α α α α α α
■11)騎士長ブルーと皇帝陛下
五郎臣らがいた円卓より上、この城の最上階。
そこには皇帝の玉座がある。
玉座の間に行くには、いささか実用的ではない長さの階段を登らねばならない。
そこを守る騎士も今は留守である。
最上階に誰もいない中、階段を特に急ぐでもなく老人が1人上がっていく。
そして扉を開き玉座に座る男を一瞥すると、その脇に寄った。
「コーンよ、いよいよ仕上げの時が近いな」
「ああ」
「この計画が上手くいけば、ワシらは勝利への第一歩を踏み出すことになるか」
「上手くいけばな。もし失敗したならば......ふん。愚にもつかんとはこのことか」
「ルーはお前の計画の最たる犠牲者となる。ニセの英雄だけでなく帝国の総指揮まで任されるとはな」
「アイラは去ったのだ。まぁ恨むならあの老人共をしっかり恨んで戦後に八つ当たりでもすればよかろう」
「彼女は、実に残念であった」
「今更だ。手元にあるものでどうにかするしかないのだ。それにルーだけではないぞ。騎士長ブルー・ウ・イー、貴様も含め皆そうなのだ。どちらに転んでも皆が重責を背負い進まねばならん。帝国の真の未来のためにな」
「五郎臣はどこまで見抜いているのだろうな」
「さてな。あのじじい共は自らの損益にかけては驚くほど聡いからな。つくづく無駄な才能だ」
「皇帝なのだからお前にももう少しあれらの如き狡猾さがあれば良かったのだがなぁ。ざんねんだのぉー」
「年寄りってのは頭が硬い割に知恵が回るものだ。厄介なことこの上ない」
「お前も十分に老いているだろうて」
「貴様と違って予はまだ半世紀程しか生きておらんよ」
「なんと小童であったか。なればあしらわれるのも仕方があるまいな。はっはっはっ」
「ちっ、これだからじじいってのは」
外は黄昏時。
新たな日が昇った世界は果たして本当に明るい世界となるのか。
この世界は誰の願いを叶えるためにあるのだろうか。
国を憂いその未来を想う皇帝は、日々頭を悩ませ続けていた。
「帝国の終わりが革命となるか、革命の終わりが革命となるか。さて、どうなるのであろうな」
「じじいしかおらん場で意味深なことを言っても様にならんぞ」
「貴様は黙っていろ!」
大陸の覇王は老人に絡まれる日々に悩まされていた。
α α α α α α α α α α α α α α α α
■12)魔法工房にて
皇帝を討つ。
革命軍のいたる所で、戦いの行方を決めるこのテーマを絶えず論じ続けていた。
だが誰1人として未だ有効な策を口にした者はいない。
しかし時間に余裕もない。
なぜなら、彼らを追い詰めるべき帝国でも早期決戦を叫ぶ声が上がり始め、革命軍掃討作戦なるものを画策していると国中が噂をしたのだ。
革命軍諜報部は、これを革命軍を焦らせるために故意に流した情報であると判断した。
そして、その内容に間違いはないという結論にも辿り着いた。
猶予はない。
そのことが今、無関係であったはずのアルファに重くのしかかっていた。
アルファは現在の状況を冷静に考えた。
このまま革命軍に身を置けば、いずれ自分の首を差し出す時が来るだろう。
革命軍の指導者の1人、アイラ・シーンを宿す腕輪の所持者ともなれば当然であろう。
突然現れた革命軍の中心にいる聡明な少年。
アイラの名をだす度に事情を知らない者がアルファを見れば、あたかもアイラの後継者のように見えてしまうのであった。
主要な人物との会議、熟練の戦士による護衛、他の者とは違う雰囲気。
後継者ではなくとも、帝国から重要人物としてすでにマークされていることは想像に難くない。
ここに居ては危険である。
そもそも、彼が革命軍にいる必要はないのだ。
安全な帝国に行きポッドの修復を待ち帰還する。
これが今一番確実に帰る方法だとアルファは考えていた。
このことは誰にも相談をしていない。
もちろんアイラにも。
動くなら近い内に決めなくてはならない。
帝国が動く前。
そして革命軍を取り巻く状況から身を引くことが出来なくなるその前に決断しなければならなかった。
一番の問題はアイラである。
この端末を捨てれば帰る道標を失う。
だがアイラは絶対に帝国には行かない。
理由を作ってこっそりと抜け出しても、外に出るまでにアイラに勘付かれ騒がれて終わりだ。
チャンスは一度しかない。
仮に帝国まで行ったとしても、アイラが協力しなければ捨てるのと変わらない。
最悪帝国側に没収され2度と帰還は叶わない。
そう考えると後のない革命軍にいるしかない。
勝算のない選択肢を選ばざるを得ないのだ。
革命軍が抱える絶望と怒りを、違う形でアルファも胸に秘めていた。
そめて魔法だな。
魔法を使えるようにならないと。
こんな馬鹿げた星、さっさと離れたい。
「アイラ」
「はい」
「君はかつて魔法を使っていたんだよね?どんな感覚だったか教えてよ」
「ピリッときてバシッと」
「確かに感覚的だけどもうちょっと論理性がほしい」
「まるで電気が身体を巡るような刺激が」
「それってアイラが雷を使うからなの?それとも魔法を使うと皆そうなの?」
「どうでしょうか。知り合いの女の子とは見解が一致していました」
「ふーん。ちなみにその子の得意な魔法は?」
「炎と雷です。おやこのような共通点が」
「わざとでしょ」
「では工房へ行きましょう」
「工房?そこにヒントがあるならいいけど」
「アルファは楽しめますよ。この地の工業は魔法で精製する手法が主なのです」
「そう。じゃあ行こう」
「......はい」
アイラの勧めで工房へ向かったアルファ。
普段の彼ならアイラの思惑通り喜んでいただろう。
工房というのは通称であり、正式名称は革命軍開発部である。
ここで開発したものを工場でラインに乗せ量産する。
その製造はアイラの言う通り魔法によって行われていた。
鉄を溶かす釜戸に吹き入れる炎、少しずつ金属を裁断している水のカッター。
細かい作業による端材や粉末を吹き払う微風。
そして工房らしい怒鳴り声。
アルファが知る機械を魔法が補っており、工房はこの星の文明においては不釣り合いな程に先進的であった。
「すごい、この中だけなら数世紀先の世界だよ!アイラ、ここはすごいね」
「はい。満足してもらえて良かったです。ふふっ」
今アイラが笑った?気のせいかな。
人がいるところだと小声で話すし、もしかしたら聞き間違いかもしれない。
ここうるさいし。
やたら怒鳴ってるし。
それにしてもすごい。
皆の作業を機械でやろうとしたら相当科学技術が進んでないと無理だろう。
あれなんて溶けた炎みたい鉄を念力?っぽい力で直接加工している。
そんなことが出来たらさぞ精巧な物を作れるんじゃないか?
魔法って、面白いな。
ボクも使えるようになりたい。
アイラは、ボクがそう思うことがわかっていたんだろうな。
ボクのためなのか、それとも何か企てに必要なことだったからなのだろうか。
1つわかっているのは、ここに来てアイラの様子が違うという事くらいか。
「ねえアイラ」
「はい」
「この街に来てから、アイラは楽しい?」
「なぜですか?」
「会った時より明るく話すから」
「懐かしかったので、すみません」
「別に気にしなくていいのに。工房に来て良かったよ。ありがと」
「はい。私はアル」
「んな事出来たらこんな話しになっとらんわっ!」
全ての流れをぶった切るようなデカい声だな。
今アイラが何か言おうとした気がする。
「さっきから気になってたけど、どうしたんだろ」
「あれは開発部の部長です」
「部長か。荒れてるね、もうちょっと見てたかったけど帰ろうかな」
「部長がこちらを見ていますね」
「だから帰りたいんだよ」
「おいおい小僧!お前だろ、例のアイラの後釜って!」
声がデカい!
後釜ってなんだよ。
革命軍の中ではアイラのことは伏せてあるらしいけど、ボクがアイラの代わりってことか。
ああ、面倒なことになってきた。
「おい小僧、お前は変わったモンもってるっていうじゃねーか。参考に聞きたい、ちょっとこっち来てくれ!」
「アイラ」
「はい」
「どうしよう」
「応援しています」
「おいっ!こっちだこっち!ったく、聞こえてねーのかぁ?」
「フレー、フレー、ア・ル・ファ!」
「......誰かたすけて」
α α α α α α α α α α α α α α α α
■13)奇襲作戦と救世主
部長に声をかけられたアルファ。
彼はそれまでの不機嫌が嘘のようにアルファが持つ機械を楽しげに見やる。
その朗らかさについ気が緩んだアルファは彼の相談を受けた。
部長を悩みとは、馬の代わりに高速で静かに移動可能な物を作ってほしい、と革命軍本部に指示されたのだとか。
現状はヒントさえ掴めていない。
発端は作戦が未だ固まらない本部。
保留となった奇襲作戦を再度練り直すのが近道かと考え、他の案と並行して検討することになった。
本拠点から帝都へ進む場合、拠点を北上し大河にかかる大橋を渡る。
そしてそこから西に向け帝都へと向かうのが一般的な道である。
では一般的ではないルートを含めた場合はどうなるか。
4つのルートが見えてくる。
単純な話で帝国の城を中心に東西南北から進路をとっただけである。
まず帝都東側の一般人向けルート。
見晴らしが良くピクニックに適した草原も広がっている。
城門はこの草原に向いている。
つまり正門であるためもっとも手厚い防衛網が敷かれている。
帝国兵に会いたいならばここを進めばたちどころに出会えるのだ。
城の背後となる西は崖。
大軍の進行は不可能。
奇襲というより潜入に適している。
皇帝の暗殺や情報収集のため過去何度となく挑んだが、しかし戻った者はいないという。
城の南は大河が流れる。
人によっては海峡と呼ぶ者がいる程対岸までの距離がある。
装備を持って皆で渡るのは造船から始めなければならないので実現は難しい。
また船上での戦いともなれば不慣れなこともあり、陸で待ち伏せする敵が有利である。
このルートを推す者はいなかった。
最後に帝都の北部。
そこは隆起の激しい立地が点在している。
身を潜めやすく奇襲に向いているのだが、当然帝国側も警戒している。
何より進軍ルート上、帝都方面と北部への分岐点となる大橋からもっとも遠い位置にあり、それこそが奇襲作戦に踏み切れない原因となっている。
適した足がないのだ。
馬で駆け回ればその轟く音ですぐに見つかるだろう。
大橋を渡った後、どうやって迅速に帝都北側まで進むかが課題。
つまり部長を悩ませているのは、この課題を解決させる足の開発を要求されていることであった。
付け加えて、可能な限り大勢を乗せるということも悩みの種である。
いくつかの案は出ている。
魔法を利用した乗り物。
ソリのような乗り物を風や火など何かしらの魔法を推進力として進むというもの。
だが魔力に敏感なものに気づかれる可能性はとても高い。
却下。
では馬に足音が鳴らないように走らせる特訓をしてみては?と斜め上を行く案も出た。
忍び足で走る馬の調教など現実的ではない。
当然却下。
そして疲れ果てた開発部の頭の中同様の案がついに登場する。
大空を羽ばたらいいんじゃね?
それ直接帝都攻めるやつじゃん。
ついでに皇帝やっちゃう?
いいねー。
革命なんてちょちょいのちょい。
という会話になり先程の部長の怒鳴り声が響いたのであった。
だがしかし。
ここにきて革命軍に救世主が現れたのだ。
その名はアルファ。
静かに高速で移動できる乗り物という難題に対し、アルファとアイラは話し合った。
自分たちの科学技術でいえば当然可能ではある。
もちろん空だって飛べる。
さてこの星の技術で可能な乗り物、果たして何があるだろうか。
そして救世主アルファは発案した。
自転車である。
一月もあれば試作品、上手く行けば数台の用意も可能だと判断。
錬金によって金属は軽量化が狙えるし、更には折りたたみの機構を備えることも可能だから持ち運びも出来る、と力説するアルファを掲げ上げる程に喜んだ部長。
そうしてアイラの指示の下に設計図を起こし、試作機の制作が開始された。
さて本題のアルファの魔法である。
少年は工房に協力する代わりに魔法を教えろと部長に要求した。
即答で了承され、彼は魔法の得意な工房の住人達に使い方を教えてもらうことが出来たのである。
開発部Aさん
「魔力ってどんな風に感じ取ればいいの?」
「そうですねぇ。こう、イメージさせたものが空中にしゅーっと集まって行くのを感じ取るのです」
「......ありがとう。とても参考になったよ」
続いて開発部Bさん
「魔力ってどうやってコントロールしてるの?」
「まず大事なのは現象を明確にイメージすることだ。人間はイメージしたことしか出来ないと言われている。つまり今から行う事の設計図が必要なんだ」
「うんうん」
「設計図を描いたら次は手の先からエネルギーを迸らせてその図を描き込んでいく。その時に線があっちこっちいかないように細心の」
「ありがとう。とっても参考になったよ」
最後は開発部部長
「あぁん?魔法なんて気合だ気合!」
「ありがとう。さようなら」
拠点の中、工房近くを流れる河原をアルファは見つめていた。
「ねえアイラ」
「......はい」
「どんな風に魔力を感じ取ればいい?って聞いてるのに感じたものを感じ取ってます、とか」
「はい」
「コントロールの仕方を聞いてるのに失敗しないように注意してます、とか」
「はい」
「気合、とか!」
「アルファ......」
少年は足元の小石を握り込み、構えながら、心の声を叫びにした。
「そぉれが、わからんからっ、聞いてるんだろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
怒りの一投はやたらと派手に水しぶきをあげて川へと吸い込まれていった。
水面は弾け飛び、盛大に跳ねた水が辺りの地面を濡らしている。
モヤが緩やかに渦巻くように川の底が土で淀んでいた。
「......」
「よ、よかったですね、アルファ。魔法が使えましたよ」
「そうだね。そう、だね......」
こうしてアルファは遂に憧れの魔法を手にしたのであった。
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■14)世にも稀な騎士
革命軍がいよいよ帝国本部を攻める作戦会議を始めた。
掃討作戦に被せ、対抗するためである。
会議にはアイラ、つまりアルファも同席。
一同の前で試作品の自転車を披露することになった。
試運転を務めるのはアーシス。
その運転はぎこちなく危うくバランスを崩しそうになりながらフラフラと進む。
実用性がないのではと訝しむ者が現れ始めた頃、アーシスに代わり救世主がチリリンッと見事に乗りこなしたことで一同は歓喜した。
かくして、世にも稀な自転車騎士が誕生することになったのである。
この自転車を戦争に利用するだけでは惜しい。
これを普及させれば人々の移動方法が劇的に変わるかもしれない。
人々の距離は縮まり交流が盛んになり、そうなれば流通は版図を広げ活性化される。
新たな産業も生まれるかも知れない。
人力ではなく魔力を動力にしてみては?
もっと大勢を乗せられるものは出来ないのか?
様々な議論が湧き、場が盛り上がる程に好評であった。
革命が成功したその時に。
心に未来を浮かべながら皆は語り合った。
アルファ曰く。
「革命軍で産業革命を成してしまった」
魔法工房で意見を求められたアルファとアイラ。
相談事も終わり、作成に取り掛かる工房を見ながらアルファはふと思った。
「ねえアイラ」
「はい」
「自転車のブレーキはどうするの?」
「付いていますよ?ベルも付いてますし」
「そうじゃなくてブレーキかけた時の、キキィッ!って音」
「油でもたっぷりかけておけば大丈夫でしょう」
「......もしかして考えるの面倒になってる?」
「いえ、まさかそのようなこと。そうですね、見つかってはなりませんし、整備士と相談いたしましょう」
「......うん」
アイラでも面倒に思うことがあるのだと少年は思った。
しかし、彼女は別のことを考えていた。
それはこの先に関わる大事なことであった。
アルファが工房を出ようとするとアーシスがそれを止めた。
「おいアルファ、お前用の防具も作っておこうと思う」
「いらない」
「アルファは私が守ります」
「ですが、本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。そもそも戦いには参加しないし」
「えっ、そうなのか?」
「当たり前だろ」
「まぁ、ならいいんだが。ほんとかな」
「何よりそんな鉄板、今のボクには不要だよ」
「鉄板ってお前、これがないと」
「私の力で何者も寄せ付けませんから。ご安心を。例え私が修復不能になろうともアルファだけは守ります」
「......わかりました。アイラ様一つお願いがあります」
「なんでしょうか」
「もう2度とご自身をなげうつような真似はおやめください。あなたはもう十分にその存在を」
「私が決めることです。私とて、もう後には引けないのですよアーシス」
「......そうですか。わかりました」
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■15)参謀への信頼
自転車の生産は順調に進み工場で大量に生産された。
革命軍の準備は滞りなく進んでいる。
しかしそれは帝国も同様である。
諜報部の報告によれば南北を繋ぐ大橋に人の姿はなく、帝都周辺の草原には騎士団が拠点を築きつつあるという。
下手に前に出ればすぐさま戦闘が始まってしまう。
革命軍としては大橋の手前までしか歩を進めることが出来なかった。
それまでどこか遠い出来事に思われた戦は目前となり、両者の緊張は高まりつつあった。
帝国の動きを察知した本部は急遽作戦会議を開いた。
珍しくチュニー参謀に直接呼ばれたとアルファとアイラ。
少年はいつにない状況に緊急性の高さを感じ取っていた。
「ねえ、相手はこっちよりも数が多くて資源も豊富なんでしょ?今開戦して勝てるのかな。皆疲れ果てている」
「今しかないのだ。アルファ少年の言う通り、確かに長い戦いに身も心もやつれ挫ける者は少なくない。しかしだ。それを気力と志で覆すのが革命軍なのだよ」
「綱渡りの精神論だね」
本部につくと、気の早い幹部がすでに議論が始めていた。
チュニーの姿を確認した幹部達だが、背後にいるアルファに気づき、アイラの存在を理解した革命軍本部は慌ただしくなった。
アイラ様だと!
ここに来られたのか!
宮司殿が!
社の長が!
なんと、社長がいらしただと!
ええーい、場を整えろ!モタモタするなっ。
「ねえアイラ」
「はい」
「段々彼らがサラリーマンに見えてきたよ」
「......補足しておくと、私はもう宮司ではないのですよ?」
「つまり?」
「もう社長ではありませんからね」
「わかったよ。アイラ社長」
「......ちがうもん」
会議の趣旨は主にいつ開戦するかであった。
こちらの準備が遅れるほど帝国の防衛網が完成し不利になる。
しかしまだ奇襲部隊の体制が整っておらず、今出ても失敗しかねない。
そうなればだた潰されていくのを甘んじて受けるのみ。
それに、奇襲部隊にはもう一つ役割がある。
その準備もまだ整っていない。
上手く時間を使わなくてはならない。
どう進めるのが良策となりうるのか、彼らは必死に議論した。
そんな革命軍の未来を決める作戦の合間のことである。
アルファに比較的若い幹部が話しかけてきた。
「少年、帝国では都市防衛の一環で帝都周辺にいる権力者が奥へと逃げこんでいるのだそうだ。姑息なら奴らだと思わんか」
「そうかな?ボクだったら同じ事をするよ。小競り合いが起きる前線にわざわざ居続けるなんて間抜けもいいとこだ。それに国を運営するには相応の人材が必要だもの。学や教養があって、そして経験もある人間は多い方がいい。国がそれを守るならまともだと思うよ。むしろ君たちこそ革命の後」
「アルファ少年。奥に潜む者がそれに準ずるのであれば成り立つ話だな。それと君は部外者だ。それ以上は慎みたまえ」
「これは失礼しました参謀さん。権力者に利己的なだけの輩が多いという点には同意だ。ただね、部外者だからこそ盲目的な君たちに言える事があるんだと思うよ。ま、ボクは巻き込まれているから部外者ではないけどさ」
「だが帝国を擁護するような発言は控えてもらおう。仮に必要な議論であっても今は全体の士気に関わる」
「わかったよ」
「ねえアイラ」
「はい」
「あの参謀、信じていいの?」
「優秀なのは事実です。その野心も含め、この戦いには必要不可欠なのです」
「そう。ならいいけど」
アルファは心持、彼らを遠巻きに見ていた。
熱い議論はまだ続いている。
この国の未来を決める戦いについてなのだから。
「ですが参謀殿!この作戦が失敗すればどうなるかおわかりか!先の戦いで皆が死を覚悟の上で希望を託した作戦《 愛、虹の向こうへ 》は失敗に終わり、我々は......あの苦しみをもう一度味わうおつもりか!」
「主の声を代弁することこそが我が務め。その上で私が考え抜き幾重にも策を重ねた《 勇気と希望と怒りを胸に 》作戦に不服があると申すか!」
「あるに決まっとるわっ!そのネーミングにだぁーれが賛同していると......!」
「そうだそうだぁ!」
熱い議論はまだまだ続いている。
「ね、ねえアイラ」
「......」
「アイラ?」
「はい」
「ほんとにあの参謀を信じていいの?」
「......優秀なんですよ?」
長い会議も終わり、いよいよ作戦の最終段階へと進む。
正面から攻め、奇襲を行い皇帝の城まで押し切る。
この作戦はまともなものなのか。
先のない彼らにとって、それを見極めることは憚られることだった。
アルファは宿に戻り、これからのことを考えながら眠りについた。
α α α α α α α α α α α α α α α α
■16)開戦前
ぽかぽかしてて気持ちい天気だ。
作戦本部の演習場に、屈強なおじさん達が自転車に乗る練習をしている不思議な光景が広がっている。
シュールすぎてなんか頭が働かないなぁ。
「天気がいいし、こういう日はのーんびりゆったりするのに適しているねアイラ」
「はい。とてものどかな情景ですね。このような時を常に過ごすことが出来るように、と祈ります」
「祈りねぇ」
「元は信仰心の厚い宮司ですので」
「そういえばそっか。元は、ね。ねえエネルギーが溜まっていくのってどんな感じなの?」
「例えるなら、喉が乾いていたところでおいしい水をごくごくと飲むような心地です」
「へー。じゃあこの魔法の光を照射されてるのは?」
「お日様にぽかぽかと照らされているような心地です。じんわりと効きます。あぁー、いーですねぇ」
「のどかっていいよねぇ」
「はいー」
「なんかとろけちゃいそーでゆ〜らゆら〜」
「ゆ〜らゆら〜」
「眼の前にいるけど、自転車に乗った騎士が暴れ回る姿というのは中々想像出来ないね」
「私もです」
「騎士自体生で見るのは初めてだったけど、そんなシミュレーションも文献も見たことない。前代未聞だ」
「歴史に残るワンシーンになりそうです。これを記録して映像作品にまとめたら人気が出るかもしれませんね。タイトルは《 明日を乗り切る自転車戦争 》なんてどうでしょう」
「いいんじゃない?アイラって意外とそういうの好きだよね」
「......監督はアルファ。監修と脚本は私です」
「売れるかな」
「やめておきましょう......」
「この戦いも後少しか。その最後の仕上げが自転車に乗ることとはね。ま、ボクが乗るわけじゃないからいいけど」
「だといいですね」
「ないない。ボクに出来ることなんて見ていることだけ。ここでエネルギーを溜める後方待機が唯一の仕事さ。皆がんばってー」
もちろん後で乗ることになった。
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■17)開戦
最初の戦場はレングーア大橋である。
先に触れた通り、帝都周辺の地形は至ってシンプル。
背後を崖に面した城の正面に、南東へ広がるように街があり、そして東へ地続きで草原やら町々が点在する。
南には街一つを飲み込める程の幅がある大河が流れ、その上に件の大橋がかかっている。
橋は普段、小さな市場が開かれたり、南北の交流地として賑わうこともある場所。
この橋の成り立ちは、かつてとある青年が大陸の反対側へ行きたいと言い出したことがきっかけ。
青年が事業を興し、その後数世代かけて架けられた橋であった。
南北を繋いだ橋の完成からまだ半世紀も経っていない現在、この国で生きる多くの者がこの橋を戦争に巻き込んでほしくないと願いっていた。
しかし、平和の象徴とも呼べる橋は、決戦における序章の舞台となろうとしていた。
序章を終えれば本編の始まりである。
戦を知る者は皆、草原が主戦場となるだろうと読む。
帝国としては橋の上でどれだけ敵を払い落とせるかが以後の損耗に関わる。
逆に革命軍は消耗を避けなければ続く戦いの勝算は薄まるばかり。
互いの思惑が巡る大橋。
両陣営の軍師らは、共に革命軍が主導権を得る短期決戦になると予想していた。
開戦した現在。
革命軍はいきなり主力をぶつけてきた。
数日に及ぶ攻勢の末、帝国軍を飲み込むように大橋を渡り切る。
帝国としては様子見程度の戦いのつもりであったが、後が無い革命軍の勢いは王者の余裕を引き剥がし、予備戦力までも投入することになった。
序章に過ぎないはずの戦いは、後に英雄的と称される兵が数名現れる程の激戦となり、初戦敗退した帝国の士気を大きく下げる結果となった。
勢いに乗る革命軍は進軍を続け、戦場を草原へと移す。
朝日が昇る中、彼らは橋を渡った後も休むことを惜しむように進む。
皇帝討つべしと唱えるその目に映るのは草原の先にそびえる帝都、ではなく天を焼き尽くそうとするかのような伸びた一柱の炎であった。
待ち構える炎の騎士、ルー・ア・シー。
伝え聞く彼の武勇は多い。
一騎当千を成し遂げ帝国の危機を救ったヤバスの戦い。
魔王ブルー・ウ・イーと互角に戦ったとされるユウシヤの決闘。
これらは戦乱の時代、英雄を欲する帝国のため、真なる騎士を生み出すための薪であった。
数々の偽りの武勇。
しかしこの国にそれが嘘だと疑う者はいない。
かつて帝都を襲った巨人のような竜巻に炎の騎士が挑み、空に伸びた炎が鍔迫り合いの末に斬り伏せる様を国中が目撃しているからである。
彼を賛美する声は絶えることがない。
炎の騎士、真なる騎士、帝国最強。
革命軍の前にかつてない脅威が立ち塞がる。
「進軍の準備は整いました」
「ご苦労。皆の者、序章は終わった!さあここからが本番だ!帝国の闇よ、朝焼けとともに消え去るが良い!」
忠剣八公の1人、騎士長ルー・ア・シーが剣を掲げる。
「炎よ、天を燃やし我が敵をその火で照らせ、炎天火!」
天へと突き立てたその剣から渦巻くように赤い鮮烈な炎が燃え上がった。
「さあ革命軍よ、我が到来を知るがいい!」
空へと伸びる炎は帝国のどこからでも見ることが出来た。
それは勇猛さと気高さを併せ持つ真なる騎士の到来を示す御旗であり、慄くものは去るべしと告げる救済の炎でもあった。
「全軍、我が炎に続け!進めぇー!」
そして、最後の戦いが始まった。
戦いはすでに数時間にも及んだが、両者は拮抗していた。
前衛がぶつかり、戦線の押し合いが続く。
炎を見てなお勢いが衰えない革命軍戦士。
冷徹に徹する心を叩きつけるかのように迎えつ帝国騎士。
しかし、不意に帝国軍が引き潮のように後退する。
違和感に戸惑う戦士達だが、その正体に気づいた時にはすでに遅かった。
均衡を崩すべく、稀代の英雄が遂に眼前に現れたのだ。
前衛の戦士達が慌てて引き下がる中、背後の仲間を守るために魔力の盾を全力で構えるディフェンダー陣。
必死に防御を固める彼らを見て不敵に笑う騎士長ルー・ア・シー。
「盾か。いいだろう、立ちはだかるのであらば我が一太刀をその身に受けるがいい。凌いでみせろよ、戦士諸君!」
ルーは剣を構え魔力を込める。
「炎よ、我が魂と共に燃え上がれ!友に護炎を、我が敵には屠る剣と成り業を断ち斬るべし、はぁぁぁっ!」
竜巻を斬り伏せた炎が立ち昇る。
「邪気よ消えよ!炎斬り!」
焔の横薙ぎが革命軍を容赦なく斬り払う。
形なき質量に襲われ悲鳴をあげる盾。
強烈な熱波が革命軍を包み込む。
凄まじいエネルギーの衝突が収まると、辺りは息苦しいまでに焼け焦げていた。
かつて草原だった黒ずんだ大地を目にした革命軍は遂に攻めの勢いを失う。
「完全ではないが凌いだか。はははっ!猛者ばかりじゃないか。流石に長い間戦ってきただけのことはある。だがしかし。帝国の騎士達よ!敵に猶予を与えるな!前線を押し上げろ!この好機を逃すなよ!」
猛攻をかける帝国騎士団。
戦場を包む熱波を身に纏わせ、怯む敵兵へと襲いかかる。
だがしかし。
革命軍もまた、炎を合図に作戦を決行した。
帝都の北から南下する奇襲部隊が現れたのだ。
北部への警戒を怠らず、偵察を送り続けていたルーは流石に驚く。
北部数カ所に兵も配置していた。
念のため開戦前夜にも確認は行い、異常なしと報告を受けた。
であるならば、本日未明以降にあの奇襲部隊は数箇所の兵を討ち破り北へと回り込んだことになる。
大橋周辺からとなると、馬を使えば数時間といった距離だ。
だが馬を走らせる気配は無かった。
どうやって。
その困惑が指揮官の思考を鈍らせた。
迫る奇襲部隊は大橋で活躍した主力が大半を占める。
奇襲部隊は二手に分かれ、帝国軍の側面を襲う部隊と帝都へ侵入する部隊。
その姿にルーの困惑は更に増す。
かつて見たことのない代物であったからだ。
それはこの星のみならず、おそらくどの銀河を巡ったとしてもそうそうお目にかかることは無いであろう。
甲冑に身を固めた騎士が自転車に乗って猛スピードで突撃しているのだ。
この自転車により高速移動を実現した奇襲部隊。
1人が必死に漕ぎ、後ろに主力メンバー1人が乗る2人乗りの編成である。
細い車輪、整備など当然していない不安定な道なき道を進む。
困惑から立ち直り、改めてその姿を認識したルーは憤った。
2人乗りは危険だとわからんのかっ!と。
戦場は混迷をきたす。
α α α α α α α α α α α α α α α α
■18)大空へ羽ばたいて
炎と奇襲が入り乱れる頃より遡ること数時間前。
「アルファ。俺達は生きたいから戦うんじゃない。先の未来を変えたいから戦うんだ。この命を賭してでもな」
「そう。アーシス達の思想を悪く言うつもりはないよ。だけどボクはそれに巻き込まれるのはごめんだ」
「ああ。お前の考えは知っているさ」
「ならいいんだ。成功を祈ってるよ。じゃあね」
「いやお前も来るんだよ!」
「い、いやだぁぁぁ!なんでボクが戦場なんかに行かないといけないんだよ!」
「大丈夫、戦場じゃなくて皇帝の居城に潜入するだけだから」
「一番危険だろっ!軽々しく言うなら君達だけでやればいいじゃないか!」
「小柄で頭の良いお前が適任なんだ。それにアイラ様の絶対防御があるんだろ?じゃあ安心だ」
「私にお任せくださいアルファ」
「いやだぁぁぁ......」
「さってと、登るか」
ここは覇王コーン・ク・リートが住まう城が見える南側。
大橋での戦いの数日前より出発したアーシスとアルファを含めた5人だけの少数精鋭。
大河を密かに渡り南門へと近づいていた。
「海がとてもキレイだ」
「はい」
「あの橋では大きな戦いがあったなんて思えない程静かだね」
「そうですね」
「アイラ」
「はい」
「海面からの高さは」
「現在およそビルの50階に等しいかと」
「もしここから落ちたら?」
「ご安心を。魚達より先に残さず回収いたします」
「......」
「あいアルファ、安心しろって。ここは以前にも来たことがあるから大丈夫だ。落ちたりなんかしねーよ」
「でもその時はボクを背負ってなかったでしょ」
「もっと重たい荷物を背負ってた。お前くらい楽勝だって」
「いいんだ。可不可ではなくただ文句を言いたかっただけさ......」
「そうか。まぁ言われるのは仕方がないがな、おっとっと」
「う、うわぁ、ちょっと!大丈夫なの!そっち見えなくて、どうなってるんだよっ、見えないって怖いんだぞ!」
「冗談だよ。たが静かにしてろ。まだ半分ってとこだが、ここで見つかるとそれこそ後がない」
「......わかった」
革命軍は正面からの部隊と奇襲部隊による帝都襲撃を検討していた。
しかしその策はあてに出来ない。
なので、それら全てを囮に背後から潜入し、皇帝を直に襲う計画を立てた。
潜入するなら西か南。
西の崖はリスクが高すぎるし、時間もかかるため論外である。
となれば南。
東と北に戦力を集中させ撹拌、南から潜入し皇帝を狙う。
南側で最も手薄なのは西寄り。
ビルにして100階分の崖を登っていくことになる。
城背後の崖に比べればやや傾斜もあり、慣れた者なら比較的登りやすい。
潜入にはアーシスら諜報部門が行う事になった。
ヤナギ課のメンバーにはアルファによく話しかけていた者もいた。
侵入経路はすでに把握しているが、問題が一つある。
城内へ侵入するためには崖よりも登りにくい城壁があるのだ。
どうすれば突破出来るのか。
自転車の練習中、その問題に対し参謀は門を開けてしまおうと言った。
それが出来れば苦労はしないとアーシスは反論したが、チュニー参謀は我々ならばいけるだろうと答える。
参謀の真意を推し量るように黙するアーシス。
横で聞いていたアルファは、その自信はどこから来るんだ?と嫌いな参謀を冷やかした。
それが災いした。
冷ややかに見返す参謀。
「城壁を越えて内側から開ける」
「どうやって?」
鼻で笑いながら突き返すアルファ。
「こうやってだ!」
参謀は意外にも力があり、アルファを高々と空へ放り投げたのである。
どうなっているのかわからないまま、上下する重力に悲鳴をあげる少年をしっかりキャッチしたアーシスは納得する。
「つまりアルファを城壁の上に放り投げて内側から開けさせてしまおうってわけか。なるほどな」
そして参謀は言った。
「よし、作戦名《 大空に羽ばたいて 》。これでいこう」
開発部員の案が通った瞬間であった。
光魔法も順調に扱えるようになったアルファは、アイラが指定するエネルギーの蓄積を進めていた。
少しずつだが溜まるエネルギー。
全てが順調だと思っていた。
参謀の手で空に羽ばたくまでは。
大河を渡る前日のことだ。
お気に入りの温泉から戻り、放り投げられた事もすっかり忘れぐっすり眠ったアルファ。
翌日。
振動と背中の硬さに顔をしかめながら目が覚めた少年は、布団ごとアーシスにくくりつけられていた。
混乱しながらも状況を整理し理解していく聡明な少年。
アーシスらは自転車で大河を目指していたのであった。
大河まで自分が発案した自転車でツーリングを楽しんだ。
次は対岸まで小舟に寄る船旅を満喫。
崖の下につくとアーシスの背中にくくりつけられロッククライミング。
そして今に至る。
そんなことを考えながら、対岸の朧気な影となった街を見つめるアルファ。
なぜ自分が自転車に乗る羽目になったのかを反芻し、放心した。
崖を無事登りきった潜入部隊。
直に日の出だが辺りはまだ暗い。
「見回りは、城壁の2人だけか」
「問題はなさそうだな」
アーシスと会話しているのはなんとチュニー参謀であった。
共にクライミングを行い登ってきたのである。
他2名は万一のための陽動となるため背中に担いでいた自転車を組み立てる。
この南門は、レバーにより開閉が可能。
機構は上下に開くタイプである。
南門横から城壁に乗せるように放り投げ、アルファはレバーを操作しに行く手筈となっている。
「行くぞ」
アーシスの号令によりチュニーとアルファも速やかに南門の横に移動する。
城に潜入して城門を開ける役目を負ったアルファを、アーシスは上半身を持ち、チュニーは両足を持ち振り子にして遠心力をつける。
皆は無音のまま、頷きあいリズムを整える。
もっとも、アルファは恐怖で声が出なかっただけであるが。
そして、アーシスが大きく頷いた。
1,2、3!
声にすればそのような掛け声が聞こえそうなやり取りの後、アルファは宙を舞った。
ああなんだろう、ちょっと心地良い。
すぐに城壁の上に来たな。
狙いはバッチリ。
着地の衝撃も少なそうだ。
浮力と重力の境で束の間の浮遊感に包まれる。
そして懐かしい無重力を楽しむボクと門番さんの視線が交差した。
「詰んだ......」
どさっ、っと音を立てアルファは城壁の上に降り立った。
数秒見つめ合う2人。
少年は丁寧に起き上がり、背中とお尻を払った。
「えっと、こんばんは」
「あ、ああ、こんばんは」
突然のことでどうすればいいか迷っていた門番は理性を取り戻し襲いかかる。
アルファは振り返らず一心不乱に裏門側に見えた階段を目指す。
追われる恐怖から周囲の状況など把握出来ようはずもない。
必死に逃げる後ろではアイラが回復した機能でシールドを張り、門番の剣を弾く。
そして怯む門番に向け、端末から電気ショックを発し気絶させた。
もう1人の兵も気づき向かって来ていたが、同じく昏倒させられ事なきを得る。
そうとは知らずに階段へ駆け込むアルファ。
「うぅぅぅぅ、世紀末な環境でボクが生き残れるわけないじゃないかぁぁぁぁっ」
「アルファ。そこを左です。あ、誰か来ます」
「ひぃぃぃ」
城門の操作を行っているレバーは扉の無いちょっとした個室に設置されていた。
アイラの指示の下進み、幾人かの兵をやり過ごし、アルファはようやく辿り着く。
すぐに操作し門を開ける。
中々派手な音と共に城門が上がると、外手待機していた4人は飛び込むように入る。
異変に気付いた兵士が操作レバーを確認しにやってきた。
「誰だ、誰が操作した!何があった!......誰もいない、敵か?」
そんなことを言っていた兵士もアイラによって昏倒された。
「そろそろ物陰から出てもいいかと」
「う、うん。もう大丈夫なのかな?いっそここにずっと」
「4人はすでに進んでいます。ここに残っているのはアルファだけです」
「え、それって置いてかれてるってこと?」
「立ち止まる猶予はありませんので」
「うわぁぁぁ、待ってよみんなぁ、ボクを置いてかないでぇ〜!」
「置いてくなんてヒドイ」
「のんびりしてる暇なんてないんだ」
「無理やり連れてきたくせに」
「チュニー、ここで別れよう」
「ああ」
「えっ?なんで」
「アルファ少年。私には別の任があるのでね。では城で会おう」
「ああ。気を付けてな」
「お前もな」
それぞれ役割があるため二手に別れる潜入部隊。
城を目指すアルファとアーシス、街の方へ向かうチュニーと戦士2人。
動き出そうとしたまさにその時、東で炎の柱が上がる。
「何、あれ」
「騎士長ルー・ア・シー。帝国が誇る最強の騎士だ」
「ふむ。帝都正面の戦いも難航している頃なのであろうな。奴が出たか」
炎を見つめ恐怖するアルファ。
炎が柱のようになっていつということは常に噴射し続けているということだ。
最近魔法を覚えたアルファにはそれがどういうことなのかよくわかっていた。
光を照射し続けることをとても消耗することである。
それをあのような規模で行える人間がいる。
「あれが、あの炎が人間の力なの?......あんなの、魔法は個人が持っていい力じゃないだろ」
「同感だな。アルファ、八公は化物揃いだ。この戦いで奴らに出会った者は不運だろうな」
「アーシスは勝てるの?」
不安が込められた質問に、彼は苦々しく応えた。
「無理だな。俺があいつらと同格なわけがない。だが同等なのがこっちには1人いる」
「そうなの?それって」
「武闘派ではない。少年、あまり期待はするな」
口を開いたのアーシスではなくチュニー。
しかしそれが誰なのかは教えてはくれなかった。
「さてそろそろ行こう。外があの様子ではな、いよいよ時間が惜しくなってきた」
α α α α α α α α α α α α α α α α
■19)戦嵐の戦姫
さっきの炎、ルーが戦場に出たのね。
いよいよ大詰めかしら。
だけど様子がおかしい。
何かあったな。
「報告です」
「はい」
「北部から革命軍と思われる部隊が南下、帝都にも侵入しているとのことです」
「わかりました。帝都守備部隊に伝令を。騎士長ライ・ク・アーの名の下に命じます。全力で帝都を守りなさい」
「はっ!」
全力で帝都を守りなさい、か。
笑える内容ね。
具体的に何も指示してないじゃない。
私もそろそろ準備しなくては。
この時をずっと待っていた。
でもその前に、叶うならアイラに会いたい。
あの噂は本当なのだろうか。
ポーの情報によれば南から来るという話だった。
金髪の少年か。
そういえばセーツも一緒らしいわね。
邪魔されないといいけど。
相手は殺し屋。
早々見つかるわけもない。
少し探して見つからなかったら諦めよう。
あら?
少年と護衛が1人。
金髪の少年。
こんなところにいるなら間違いはない。
あっさり見つかるなんてラッキーだけど。
情報ありがとう、ポー。
お礼してあげないと。
「アーシス!何か来ます!」
「なっ!アルファ、逃げろ!」
「えっ」
アーシスに押されよろめくアルファ。
高速で飛来してきたのは、両肩付近に赤と黄色の球体を従えた軽装の鎧を着た女。
「て、てめぇ!何しやがる!」
「その子に用があるの。どいて」
「っざけんな!」
「うわぁぁぁ、ボクは隠れてるからねぇー!」
「待ってアルファ、あれはライなの!待って、お願い待って!ライ!」
突如始まった激しい戦い。
アイラの声は2人へは届かなかった。
逃げることに必死なアルファは気にはなったが、まずは自分の身を優先した。
ライ・ク・アーは炎と雷を常に従えている。
肩より上に陣取る1対の赤と黄色の球体。
その球体から炎と雷の魔法がアーシスを追う。
弾丸のように撃ち出される魔法を周囲の建物に隠れながらやり過ごすアーシス。
彼女は魔力をソナーとして放ち周囲の生物の位置を把握することが出来る。
その能力に自身の魔法を組み合わせ的確に射抜いていく。
まだ健全であった街の建物は次々に破壊されていった。
迫る弾丸をかいくぐりながら傾いた家の壁を卓越したバランス感覚で登る。
となりの家に飛び移ろうとしたその時、大きく飛ぶ彼を仕留めるべくライ・ク・アー自信が肉迫する。
魔法で身体強化された彼女は超人的な動きをする。
そんな相手に捕まれば終わりである。
何度も斬り結ぶが鍔迫り合いはなどせずに駆け回る。
魔法で射撃を行い、隙を見て接近戦に持ち込む戦術を取る女騎士。
爆炎の中から飛び出すアーシスを捉えた彼女は一気に詰め寄るが、即座に反応した彼は瓦礫を蹴飛ばし牽制する。
「げっ、鋼鉄で出来てんのにへこんじまった。硬いもんは蹴るもんじゃねーな」
「逃げるだけか」
「当たり前だ!あんたみたいな化物と真っ向から戦えんのはルーかローゼくらいだろ!」
「化物とは言ってくれるわね。いいわ、なら化物らしくなってあげる」
「は?」
アーシスに向けて撃ち続けていた球体が膨らみ始める。
「お、おいおい、まさか」
膨大な魔力を糧に、球体は巨大な腕へと姿を変えた。
そして同時に彼女の鎧にも2種類の魔力が帯びる。
「あまり好きではないけど、私は戦嵐の騎士なんて呼ばれているの。その理由を身を持って教えてあげるわ」
「ちっ、遠慮したいもんだ」
嵐の如く現れた騎士がアーシスと離れていく。
彼が上手く誘導したのか。
そんなことを考えながら少年は隠れて怯えていた。
「ちょっとちょっと、なんなのあれ、本当に人間なの?なんか凄いスピードで飛んできたんだけど!」
「あれは私の親友です。騎士長ライ・ク・アー。戦嵐の騎士や戦姫とも呼ばれる八公の騎士です」
「友達ならどうにかしてよ!」
「そうしようとしたのに誰も聞いてくれなかったじゃない!」
「うっ、だってあんなの、いきなり来たら逃げるでしょ、普通」
「だとしても、いきなり襲うなんて。なんでなのライ」
「ボクにどうしてほしいの。まさかアーシスの加勢でもしろと?アイラの機能が回復してるのはわかったけど、あれは君の性能じゃ相手にならない」
「はい、仰るとおりです。でも、どうにかしたいのです」
「気持ちだけじゃどうにもならないでしょ。今出来ることは、アーシスに迷惑がかからないようにここを離れることだ」
「......そうですね。わかりました」
「こう言っちゃ何だけど、アーシスが勝てるとは思えない。でも負けるとも思えない。きっとどうにかするよ」
「はい。彼を、そしてライを信じます」
両腕は鬼のごとく力を振るい周囲の物を容易く砕いていった。
破砕によって巻き上がる粉塵で上手く身を隠し避けるアーシスだが、粉塵ごと掴みかかる巨腕。
先程までに比べ明らかに身体能力が上がっているライが容赦なく斬りかかる。
なんとか捌くアーシスだが、巨腕はライの体勢やリズムなど全てを無視して襲い来る。
およそ人間の動きでない者との戦いを強いられ次第に息があがる。
「くそっ、温存しておきたかったがやるっきゃねーか!」
彼は全力で逃げることを選択した。
ナイフを惜しみなく投げつける。
しかしライの腕の前では無いも同然に振り払われる。
だがその僅かな隙をついてアーシスは彼女の視界から消えた。
ライ・ク・アーが全力を出す時は凄まじい破壊力を生むことが出来る。
しかし欠点もある。
魔力の消耗が激しいこと。
そして、その魔力を維持するために細かい調整が出来なくなる。
つまりソナー探知が出来なくなるのであった。
「あの男、どこに。まさかこの特性を把握されている?無いとは言えないか。面倒ね」
視界の端からナイフが飛ぶ。
建物の影にいるのだろうかと、瓦礫事吹き飛ばすがアーシスの姿はない。
次は背後だ。
振り向く目に入るのは瓦礫だけ。
動こうとした矢先、次は左上から。
魔法の使えないアーシスが果たしてどうやっているのか。
それがわからないまま全方位から来るナイフに困惑し、ライは身動きが取れなくなっていた。
彼は魔法が使えないはず。
どうやっているのかしら。
でもこれは明らかに時間稼ぎね。
何を狙っているのか。
あら、ナイフが止んだわね。
準備出来たってところかしら。
さあかかってきなさい。
あなたがどれ程のものか示してみせなさい。
......おかしい。
何もしてこない。
何もしてこない?
あ!まさかあいつ!
アーシスの考えに気づいた彼女は急いで魔法を解除しソナーを放った。
そして敵が既にいないことを悟り、怒り心頭にアルファの下へと向かった。
アーシスはナイフを投げきった後に急いでアルファの下へ戻っていた。
隠れている少年の姿は見えなかったが、幸いアイラが気付きアルファと合流が出来たのである。
今の内だと走り出す2人の頭上から凄まじい魔力が降り注ぐ。
「ポォー!キサマァァァァァァ!」
「うげっ、や、やばい!逃げろアルファ!」
「覚悟ぉ!」
「ライ!私です、アイラです!ライ!」
ひぃぃぃぃ、と悲鳴をあげる男2人に迫る刃は不意に力を失った。
「アイラ?その声、本当にアイラなの?」
「ライ!ああ、やっと会えました」
「この腕輪が?そんなことって」
「私ですよ、あなたの友人のアイラです」
再会を果たした2人。
状況を丁寧に説明するアイラ。
要所を絞って質問するライ。
2人だけが知る秘密を共有しながら、ライはアイラを認めた。
「正直に言えばまだ信じきれない」
「わかっています。理解されるのは難しいと思っています」
「でもそこの間抜けがアイラだと認めたし、とりあえず信じておく。何よりそうであって欲しいもの」
「ありがとう、ライ」
「ちょっと待て。なんで俺が間抜けなんだ。大体いきなり襲ってきやがって」
「探しに出たらすぐに見つかるような間抜けがこの先やっていけるのか試してあげたのよ」
アーシスを見下すように見るライ・ク・アー。
痛いところを突かれ、アルファがいたからと言い訳を考えるアーシス。
彼女はその表情を読み取り牽制した。
「言い訳は見苦しいわよ、騎士長ポー・ツ・イー」
「ちょっ、おおお前!それは、まだ、いやアルファ今のは」
「あなたが何者であろうとこの2人を守り抜きなさい」
「......ああ」
「あなたが死ぬことになっても守りなさい」
「わかってるって」
「少しでも傷をつけようものならこの手で貴様の命を断つ」
「おいおい」
「まあアルファ、膝にほんのりと擦り傷が」
「う、そういえば脛が痛い気がする」
「キサマァ!」
「いやいやそりゃないだろ!」
「冗談よ。バカね」
「アーシスおもしろーい」
「息ぴったりだったね、ライ」
「そうね。ふふふ」
「こいつら兄弟かよ。もう勘弁してくれぇ、はぁ、つかれた......」
「同じ騎士長でも差が歴然とするものなんだね」
「うるせーな。前に言っただろ。俺は空席を埋めるためだけに選ばれたんだよ。ついでにいうとイーの家名が長老と被ってるのは偶然、関係ないんだよ」
「長老って?」
「騎士長ブルー・ウー・イーのことよ。長生きのお爺さんなの。ポー・ツ・イーという名前だからてっきり甥っ子か何かだと思っていたわ」
「ちげーよ。そもそも騎士長なんて柄じゃないんだ、俺は」
「ふーん。なんでアーシスは騎士長に選ばれたんだ?」
「......さあな。それは俺も知りたいよ」
「ねえ君」
「なに?」
「名前は?」
「アルファ」
「そう。アルファ、アイラをよろしくね」
「うん」
「それとアイラ」
「はい」
「もう自己犠牲なんて考えないで」
「......」
「あとアルファ君に迷惑かけないように。アイラずぼらだから」
「ちょとライ!」
「そうだったんだ」
「それに」
「わー!わー!違うの、アルファ!違うの!」
「違うって言ってるよ?」
「遊びに行ったら待たされた上に寝起きのまま出てきたこともあったわ」
「あれは前日催事で!」
「つまり本当なんだね」
「あああ、これまでに作りあげた知的な私が崩れていくぅ......」
「いやなんとなくわかってたけど」
「......どういうことだ」
「はいはい。じゃあまたね、アイラ」
「うん。いつか、また。元気でねライ」
彼女は満足気に微笑み、立ち去っていった。
α α α α α α α α α α α α α α α α
■20)強靭なる兄弟騎士
えらく派手に戦っていたな。
あれはライ・ク・アーだろ。
ったく、帝都を守るのが仕事だろうに。
壊してどうするんだ。
「なあトーア、さっきのは」
「ああ。同じ事を考えていた」
「行ってみるか」
「そうだな。ライ・ク・アーがあそこまで戦ったんだ。何があったか確認はしたい。兵を向けるか」
「いや、待つんだトーア。特務中だったポーとセーツも来ているんだろ?」
「そうだっけか」
「長老からそう聞いている。進路からすると巻き込まているかもしれん。俺達が行こう」
「ふーむ、そうだな。セーツに万一のことがあるのは困る。わかったよズィー。行こう」
ズィーが言うから来てみたが、酷い有様だな。
これを立て直すのは容易ではあるまい。
で、あの少年と護衛が?
あれがライ・ク・アーと戦ったのか。
勝てたとは思えんが、2人とも大きな傷はないようだな。
だとするなら逃げ切ったのか?
魔力で周囲を把握出来るあの女から?
ありえん。
何者だ?
「反応あり、相手は2人です。立ち位置からこちらを捉えています」
「くっ、油断したか」
「アーシスって頼りになるね」
「......お前は守ってやるよ」
「でないとおねーさんに、だもんね」
「ちっ」
気づいたか。
奴らも魔力感知が出来るのか?
ふーむ。
「トーア。気づかれたみたいだ」
「そのようだな。何者だろうか」
「もし敵なら手強い相手だね」
「試してみるか」
「どっちをやる?」
「あの少年が気になる。直感だが、何かある」
「わかった。俺はあっちの護衛っぽい奴を引きつけよう。状況次第では始末する」
「頼む」
兄弟の騎士がアルファ達の前に現れる。
互いに気づいてはいたが、対峙し相手を認識することで緊張感が増していく。
遠く街が破壊される音が聞こえる状況とは裏腹に、彼らはゆったりと会話を始めた。
「よう、革命軍のお二人さん。どこに行くところなんだ?」
「もし教えてくれたらエスコートしてやるよ」
「はっ、じゃあ皇帝のもとに連れて行ってくれないか?お前ら騎士長がいれば誰も襲ってこねーだろ」
「君も騎士長じゃないの?」
「黙ってろ」
「案内してやってもいいぞ」
「そりゃ助かる」
「駄賃は高くつくがな」
「これなんてどうだ?革命軍のワッペンだ」
「ははは。見ず知らずの奴を合わせるんだ。お前にとってもっと価値のあるものを貰おうか。それ次第じゃ本当に案内してやってもいいぞ?」
「見ず知らずって、お前らいい加減に冗談はよせ。俺だ、ポーだ!」
「知らんな。ズィーは知っているか?」
「ポー、どこかで......」
「ちょっとポーさん?知らないって言ってるけど?君は本当に八公なの?」
「そういえばあいつらと顔合わせたことって少ないな......」
「あのお二人、会議などほとんど欠席されていましたからねぇ」
「八公の選抜基準ってどうなってるんだ」
「仕方がない。じゃあこれなんて、どうだ!」
アーシスはナイフを投げつける。
騎士たちは笑いながら冷静に避け、襲いかかる。
「アルファ、逃げろ!」
「またかぁぁぁ!」
「ね、ねえアイラ」
「はい。あれは騎士長トーア・ル・オーと同じくズィー・ル・オー。兄弟騎士です」
「あれも八公ってこと?なんでそんなのが皆して出てくるんだよ」
「......きっと帝都の防衛を重視しているのでしょう」
「絶対おかしいって!」
「少年!俺はなトーアという。これでも騎士長だ」
「うわぁぁぁ、き、来た!」
精一杯走る少年を軽やかに追う騎士長。
軽く魔法を仕掛けるがアイラの電磁バリアで弾かれる。
それをアルファが行っていると勘違いをしてますます興味を持ち始めた。
「なんでさっきから騎士長がぁ!」
「さっきから?ああ、弟も騎士長で兄弟騎士なんて呼ばれてな、俺達は生きて帰ることを信条に戦ってきた。よろしくな」
「だったらボクも生かして帰してよー!」
「はっはっはっ!なら上手く逃げろよ!革命ボーイ!」
「ボクは本来関係ないのにー!アイラ、ちょっとアイラ!助けてよ!」
「......アイラ、だと?まさかお前が噂の少年か」
アイラの名を聞き足を止めたトーア。
走って逃げても無駄なのがわかっているアルファも足を止め呼吸を整えることに専念した。
「騎士長トーア・ル・オー。お久しぶりですね」
「お前は死んだだろ。だがその声は確かに」
「説明は難しいのですが、わたしは間違いなく社の宮司アイラ・シーンなのです。あなた達兄弟とは交流もありました。ですので証明のための思い出話ならいくらでも」
「どっちでもいいさ」
「えっ」
「お前が生きていようと、偽物だろうとな」
「トーア」
「俺達にとって邪魔なものは排除する。それだけさ。革命にもじーさんの腹芸にも興味などない」
「分からず屋」
「ふん。信じる方がどうかしていると思うがな。少年、名乗れ」
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」
「ゼハー?」
「ボ、ボクはアルファ、だ」
「アルファ。さっきまでの物言いからすると、お前は巻き込まれたんだろう」
「そう!そうなんだよ!ああやっとわかってくれる人が」
「その嘆きをとめてやる」
「うがぁー!結局走るんかーい!」
一方のアーシスはズィーと話がついていた。
「はぁ、やっと理解してくれたか」
「すまんな。俺達にはこの一連のことに関わる気がないんだ。お前のことはあまり知らないし」
「一連どころかいつも好き勝手にやってるだろう」
「ははは」
「ったく、笑えねーよ。こちとらライ・ク・アーのせいで疲れてんのに」
「腕が鈍ってないようで何よりだ」
「俺のこそ知らんくせに」
「社交辞令だよ。騎士らしいだろ?」
「どこがだ」
「だが短時間とはいえ俺が仕留め損ねた。実力があるのは事実だよ」
「本気出してねーくせに」
「そう卑下するなよ。それで、この後はどうするつもりだ」
「皇帝に会いに行く」
「その意志は変わらんか」
「ああ」
「例え革命が成就しても、未来はそう変わらんかもしれんぞ」
「......だとしても、可能性があるのならやらないとな。それにこれは柳の園の創設者が決めたことでもある」
「革命軍か。回りくどいことをしたものだ」
「と言いつつお前らだってセーツと合流する気なんだろ?」
「ふっ、お見通しか。そうだよ。その方が俺達に都合がいいからな。帝国はともかく、あの老人達にはいい加減頭にきている」
「まったくだ。ところでトーアの方は大丈夫か?さすがにアルファが心配なんだが」
「さあどうだかな。さすがに子供を容赦なく、うーん。トーアだし、止めに行くか」
「俺も行く」
「あの子供が余程大事なんだな」
「ああ。あいつにもしものことがあったら俺は、俺は......今度こそライ・ク・アーに殺される」
「お前、何をしたんだ?」
「色々あったのさ。はあ、どこまで行ったんだよあいつら」
α α α α α α α α α α α α α α α α
■21)真なる騎士
革命軍の奇襲により帝国は後退せざる負えなくなった。
帝都の城壁の兵器を活かしつつ防衛線を張る。
騎士長ルーの炎は強力だが使うタイミングは限られる。
無闇に放てば味方をも巻き込む。
立て続けに放つとしても魔力を練るインターバルがあり、その隙に脇を抜けられるのは危険だ。
魔法を放つ際、危険なため周囲に誰もいない。
下手をすれば大技を撃つ隙だらけの騎士に矢が届き、致命傷にでもなれば目も当てられない。
戦場の流れを変えた後、ルーは一度後方へと戻り戦場を見渡していた。
一騎当千などと言われてはいるが私に出来るのはこの程度か。
いや、敵も中々にやるな。
称賛に値する猛者共だ。
「騎士長ルー・ア・シー、報告がございます」
「なんだ」
「敵奇襲部隊が帝都内に入り込み街を荒らしているとのこと。いかがいたしましょう」
「ふむ。私が行こう」
「騎士長が?さすがにそれは」
「わかっている。だがこの状況を見ろ。勝敗は決したも同然だ。ここは任せたぞ副団長」
「......御意に」
「間違っても負けるなよ」
「仰せのままに」
さて、報告の通りなら城に迫っているのだな。
帝都が攻められている。
そしてあろうことか皇帝の居城に敵主力が迫っているという状況。
このような事態はあってはならないことだ。
革命軍掃討作戦の総指揮官としては責任の所在が問われるな。
だが今はやるべきことがある。
これはまた、随分と派手にやってくれたものだ。
お気に入りの書店は大丈夫だろうか。
帝都守護に就いたライ・ク・アーは今頃どこにいるのだろうな。
兄弟もこちらに向かったはず。
さて、主力とやらは、ん?子供か?まさか逃げ遅れたのか。
随分と疲れ果てた様子だな。
誰かと話しているようだが、妙だ。
ふむ、やはり1人だな。
「少年」
「ひっ......」
「待て」
「は、はい」
「1人か?誰かとはぐれたのか?」
「う、そ、その」
怯えている。
この状況下なら当然だが。
しかしこの金髪の子供はただ怯えているだけではない。
何か使命を帯びているかのような目だ。
なるほど。
「あれが見えるな?皇帝の居城だ。あそこに行けば追われる心配もないだろう」
「でも皇帝の城なんて行っても門前払いされるだけだよ。実際どうしたものか」
「ならばこれを持っていけ。我が家紋だ。門番に見せるといい」
「あ、ありがと。君は、もしかして八公の騎士なの?」
「いかにも。我は八公が1人、騎士長ルー・ア・シー」
「ルー・ア・シー。なんでそんな人がこんなところにいるんだ?掃討作戦の総指揮官のはずでしょ」
「敵主力が城に向かっていると聞いてな。皇帝陛下が心配で来てしまったのだよ。君は何かから逃げているように見えたが、追手がいるのか?」
「そう、そうなんだ、とんでもないのに追われてて、気づいたらいなくなってたけど......いい加減疲れた」
「そうか。ならば安心しろ。この先は何人も進ませはしない」
「さすが、真なる騎士は頼りになるね。はぐれた誰かさんとは大違いだ」
「誰と比べているのか知らんが私も似たようなものさ。その二つ名は耳障りな虚構なのだからな」
「虚構って、その功績はうそなの?」
「ははは。そうさ。私の功績は仕組まれたものなのだ。だがこれだけは言える。例え仕組まれたものであったとしても、我が使命に変わりはないのだ。さあ、ここは危険な場所だ。もう行け」
「わかった」
「いや、待ってくれ。君の名を聞かせてもらえないか」
「皆聞くな。ボクは......アルファ」
「アルファ。気を付けてな」
「ありがと」
α α α α α α α α α α α α α α α α
■22)アルファとアイラ
少年は騎士に追われたことで城から大分離れていた。
それでも城を目指した。
安全な場所を考えるとおそらく城が一番安全だと思われる。
実際、帝都の住民は城に避難していた。
城へ向かう途中で帝国兵に見つかるが、ルーの家紋を見せると皆一様に態度を変え城への道を伝えた。
体力も限界に近く、休みながら少年は進んだ。
なぜ自分がここにいるのか、そんな当たり前の疑問さえ考える余力がなくなりつつあった。
「はぁ、はぁ。も、もう無理だよ。これ以上は進めない。苦しいよアイラ」
「あと一息です。皇帝の城はもう目の前なのです」
「目の前って、数ブロック先じゃないか!ボクは戦士じゃないんだ。体力もなければこんな状況でまともな精神でいられない、気が変になりそうだ。あいつらはなんで平気な顔して戦っていられるんだよ」
「アルファ。惑星調査の一環で戦闘訓練も受けているでしょう。あなたはこの先、様々な環境に身を置くことになるはずです。その叡智をもって100年を生きた少年らしく超然として下さい」
「無理言うなよ!生まれた日を遡ったら100年前ってだけで実際は十数年しか生きてない普通の子供なんだぞ!」
アルファは未だ続く争いに目を向ける。
かつて整った石造りの道は砕け、辺りには粉塵が舞い、華やかな街はいたるところで崩壊を迎え始めていた。
轟音に頭を揺さぶられ、目に映るモノ全てに神経が向けられる。
そして遠く城の外では今なお自分と同じ人間の命が大量に消化されている。
目の前の惨劇を指して彼は続けた。
「見ろよ、騎士なんて古典にしか出てこないような奴らのくせして魔法が尋常じゃない破壊を生んでいる。これはボクらが知っている近代兵器による国家間の戦闘そのものだ。いや違う。そうさ、これは戦争なんだ」
恐怖と怒りを露わに叫ぶ。
「ボクが対処出来るのは軽い取っ組み合いであって戦略や戦術じゃない。戦争なんてボクの範疇外だよ!」
「......」
「アイラ、君はボクのAIじゃない。この戦争に関わる権力者の1人だ」
「私は......」
「ずっと考えていた。脱出ポッドにボクを乗せて送り込んだのは君なんだろう?そうさ、スリープ前に聞いたお休みって言葉は君が言ったんだ。あのAIがそんな事言うわけないって不思議に思ってた。あの時すでに計画してたんだ。それなのにこんな危険な事に無理やり関わらせておいて超然としろだと?答えてよ、アイラはボクに何をさせたいんだ。いい加減ちゃんと答えろよ!」
「ごめんなさいアルファ。私はあの船に取り込まれた後、自分だけでどうにかここに来られないか考えました。ですがこの演算性能をもってしても単独でこの地に戻ることは出来ないと判断し、あなたに協力を仰ごうと決めたのです」
「無理やり連れてきて協力とはよく言えたものだね」
「......人の姿をしたあなたがいなくてはなりませんでした。始めは話し合おうと検討を進めたのですが、アルファ。この状況を説明し革命に参加してほしいとお願いしたらあなたは来てくれたでしょうか」
「それは、来ないね。ボクには全く関係ない」
「私もその解答を予測しました。仮に関わるとしても、あなたはあの船の武装で帝国を地図から消すという暴挙を提案したでしょう。あの時はまだ宮司としての責務に囚われ、ここに戻らなければと考えていました。革命を、皆を導かねばという使命感が強かったのです」
「いい迷惑だ」
「あなたには怪我一つさせるつもりはありませんでした。誤算だったのはあなたの脱出ポッドを魔法が狙った事です。高速で飛来するものを狙い撃つなど容易く出来ることではありません。おそらく激戦地であった砦に帝国の優秀な魔法使いが残っていたのでしょう。その時本船との通信機能に支障が出たため機能が著しく低下し、すぐにあなたを守ることが出来ませんでした」
「これからどうするつもり」
「アルファを船に戻す事は現状可能です。魔力によるエネルギーの充填は既定値に達しています。いつでも帰ることが出来ます」
「この星に来てから一番嬉しい報告だよ」
「すぐに送ります。元々城に辿り着き次第、私を指揮官に預けあなたは帰還する。そのつもりでいたのです」
「あっそ。じゃあさっさとやろう、と言いたいところだけど。バカアーシスもどっか行っちゃったし、とにかく城まで行って誰かに君を渡せばいいんでしょ」
「はい」
「ふん。いいさ、目の前だというあの城まで行ってやるよ」
少年は歩き続けた。
帝都に来たのはまだ朝日が登る前だったが、既に太陽は頂点から下りだしている。
空腹を感じ、あたりを見渡す。
誰もいないパン屋があり、店の奥にある瓦礫やガラスがかかっていない物を選び、かじりながら進んだ。
道中、アイラについて彼は考えていた。
そう変わらない年のアイラはこの苦しい戦いに参加し剣を振るっていた。
そして親友に捕まり、首を落とされた。
それで終わりのはずだったのに、どんなめぐり合わせなのか宇宙船のAIと同化する。
一度死んだのに、なのにまだこの戦争に関わろうとする彼女の考えがアルファにはわからなかった。
ここで帰るという選択をすればすべて終わる。
でも都合よく使われて、もう必要ないから帰されるというのはどうにも腹立たしい。
しかし残れば自分の身も危うい。
何より無理やり連れて来られたのに結局革命に賛同してしまったようで癪に障る。
考え事をしているアルファにアイラが声をかけた。
気づけば城は目前であった。
「ではアルファ、今からあなたを船に転送します」
「......まったく、まったくだ。どっちに転んでも悔しい。ボクのAIってどうしてこう......アイラ」
「はい」
「今まで事故なんて無縁だったのに魔法で撃ち落とされて故障とか、君はほんとポンコツだよね」
「返す言葉もありません」
「ふん、だろうね。君はやっぱりボクのAIだ。何だかんだでボクがいないとまともに動かないんだもん」
「アルファ?」
「ここまで来て帰ったらそれこそ都合よく使われただけになる。そんなの癪に障るじゃないか。この戦いもあと少しで終わりなんだろ。なら最後まで見届ける。だけどいいか、ここからはボクの意思で動く。そこは履き違えないでよ。ここからは誰の指図も受けないからな。それと今度はちゃんと守ってよ、アイラ」
「はい、お任せ下さい。宮司といえど私も騎士の端くれでした。必ず、今度こそあなたをお守りいたします。この存在にかけて」
「当然だよ。だけど騎士とかは関係ないからね。だって君のマスターはボクなんだから守るのは当たり前でしょ。もう勝手は許さない。いいね」
「はい、マスターアルファ」
「よし。それともう一つ」
「何でしょうか」
「たまに自らの存在をかけてって言うけど、それはダメだ。君がいなくなったらボクは帰れない。それに、あのお姉さんやアーシスも言っていたけど、もう自己犠牲なんて考えないでよ。そういうのって事の前後を見ればカッコよく見えるけどさ、それだけだ。もっと上手に生きてみせて。君はもう革命軍のアイラじゃないんだから」
「わかりました」
「ほんとかな。君、ずぼらなんでしょ?」
「ふふっ、約束します」
「そ。じゃあ行こう。ぱぱっと終わらせてさっさと帰ろう」
「はい。帰りましょう、私達の船に」
城の中へと向かうアルファ。
ありがとう。
戦火が轟く中、端末からそんな言葉が聞こえた気がした。
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■23)王の盾
遂に城にたどり着いたアルファ。
門番は少年の姿を見ると、どうぞ、と中へ招き入れた。
さすがに少年が革命軍の戦士だと思わなかったのだろう。
かつて革命が起こる以前、アイラはこの城に来ることがあったという。
「コーン皇帝は私とライを娘のように可愛がってくれていました。もちろん宮司と貴族の娘という立場もありますので多少は政治的な面もあったでしょうけど」
「へー。優しい人なんだね」
「はい。私とライはコーンおじさんと呼んでいつも遊んでもらっていました」
「こ、皇帝なんだよね?まぁ、身内には甘いのか」
「そうかもしれません。ですが今思うとトウモロコシ畑でトラクター運転していそうな名前ですね。そしてすごく似合う」
「何言ってんの」
しばらく階段を登り続ける。
広間に出て別の階段を登る。
そんなことを何度か繰り返していると明らかに雰囲気の違う広間に出た。
大きな扉が開いている。
「あの先に皇帝がいます」
「そうか。ねえ、誰かがいるよ」
「はい。あれは」
「待って当ててあげる。騎士長なんでしょ?」
「正解です。騎士長ローゼ・ル・ウー。王の盾と呼ばれる猛将です」
「生きてるのかな」
「ええ。チュニーやアーシス達が先に来ていたはずです。おそらくは」
「一戦交えた後ってことか」
「はい」
「横通っても大丈夫かな」
「おそらく問題ありません。彼が革命軍を通したのであればもう剣を向けてくることは無いはずです」
アルファは用心しながらも進んだ。
ここで引くなど最早ありえないのだから。
膝を折り床に座り込んだ騎士。
鎧は数カ所剥がれている。
擦り傷などが見えるが、ざっと見た様子では致命傷はなさそうであった。
「こんにちは」
「......ん?うっ、少年。情けないところを見せてしまったな。どうした、避難所はずっと下だ」
「違うよ。ボクは皇帝に会いに来たんだ。いや、見に来たと言った方が正確かな」
「何を」
「ごきげんよう、騎士長ローゼ・ル・ウー。アイラ・シーンにございます」
「......はっ、ははは。噂の幽霊か。なるほど。こんにちはアイラ姫」
「お体は大丈夫ですか?」
「この通り無様なものだよ。だが大事はない。騎士長ポー・ツ・イーとセーツ・マ・ルーにやられた。完敗だ」
「騎士長セーツは光の騎士であるあなたにとって相性が悪いですからね」
「ああ。闇の魔法は厄介だったよ。我がライバルの実力は衰えていなかった。だがポーも侮りがたいものだった。彼があそこまでやるとはね。甘く見ていたよ」
「ええ。彼は八公に見合う実力を持った騎士だと私は思います」
「そうだな。皇帝の目に止まっただけのことはある。おや、行くのかね」
「うん。ボクはそのために来たからね。大事な場面を見逃したら全てが徒労に終わるんだ」
「そうか。我が王の最後を見届けてくれ」
「わかった」
「あ、そうだ」
「なんだね、少年?」
「ボクはアルファ」
「そうか。なぜ名乗る」
「だって八公は皆聞いてくるから」
「ははは、よくわからんが覚えておこう」
「うん。じゃあね」
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■24)魔王と覇王
ここか。
開け放たれた扉の先にアーシス達の姿がある。
どうやら大詰めのようだ。
部屋の外にもいたけど、これは帝国兵か?チュニーかアーシスの私兵かな。
いやチュニーだな、別行動をとっていたのはこれを。
騎士長が革命軍の参謀か。
道理で胡散臭かったわけか。
そう考えるとこのアーシス課長は随分とわかりやすかったな。
「遅かったなアルファ。怪我は」
「ふん。真打は遅れてくるものなんだよ。古典的な存在のくせにお決まりを知らないのか」
部屋には、おじさんと老人?
正面に座っているのが皇帝か。
たしかに威厳を感じる。
だけど、横にいる老人は、なんていうか、妙な感じだ。
最近魔法を覚えてから少しだけ周囲の魔力を感じるようになった。
そんなボクでも分かる。
外で会った騎士長達より、ずっとずっと、何かとんでもない者のように感じる。
何者なんだ?
皇帝を取り囲む革命軍。
しかし彼らは動けなかった。
皇帝の威厳に気圧され、そしてそばに控える老人があまりにも恐ろしく。
「どうした革命軍諸君。立ちすくんだままではないか。ここまで来たのはなんのためなのだ?予の首を取るためではなかったのか。それとも茶会でも開きたいのかね」
「言ってくれるな」
「久しいなポーよ」
「......ああ」
「騎士長にしてやった恩を忘れたか?」
「いい迷惑だったよ」
「ははは。まさかそれを恨んで来たのか?」
「かもな。ふん、この国の未来のために来たんだ。この革命って演目を終わらせにな」
「ならばその志を真っ当してみせよ」
挑発に乗ったのは革命軍の戦士であった。
雄叫びをあげながらアーシスの静止を聞かず、切っ先を向け皇帝に詰め寄る。
皇帝も老人も動こうとはしなかった。
もう数歩踏み込めば刃が届く距離に来た時、戦士の目の前に黒い球体が出現した。
そして球体が現れた瞬間、戦士がその中に吸い込まれてしまったのであった。
彼の痕跡は何も残されていなかった。
黒い球体に吸い込まれた?
亜空間......いやちがう、い、いまのは、うそだろ。
「アイラ、いまのはまさか」
「はい。小規模のブラックホールを確認しました」
「魔法でブラックホールを精製、周囲への影響を中和か遮断......宇宙なんて概念さえないくせに銀河の外で観測される現象を生み出して完全にコントロールしたってこと......?」
「騎士長ブルー・ウー・イー。魔王と恐れられる大魔法使いです」
「大魔法使いだからなんだんだよ、そんなことで納得が......ここまで精度の高い重力操作なんてボクらの科学でさえ出来ないんだぞ、なんなんだこいつ......ルーなんて比較にならないほどの化物じゃないか。こいつ1人で革命軍なんて、いやそもそも人類が勝てる相手じゃない......魔王とはよく言ったものだ」
「はっはっはっ。そこの小僧はよくわかっておるようだな。聡い子は好きであるぞ。名を」
「アルファだ。名札でも付けておこうかな」
「そ、そうか、覚えておこうアルファ」
「おい。子供をいじめるのはその辺にしておけ、暗黒じじい」
「やれやれ。仰せのままに、皇帝陛下」
「ふん」
そんなやり取りをしながらも油断ならない目で見てくる。
アーシスとチュニーの奴、この状況をどうするつもりなんだ。
チュニーの奴、目を伏せているじゃないか。
まさか打つ手無しとか言わないよね?
アーシスは、あ、あれ?アーシスがいない......?
「動くな」
「お、おお」
アーシス!いつの間にか老人の背後にいる。
さっきまで横にいたと思ってたのにまったく気が付かなかった。
そういえばボクと初めて会った時も背後をからだっけ。
まさかアーシスがあれを抑え込むなんて、見てる光景がちょっと信じられない。
よく見ると黒いモヤを纏ってる。
さっき言ってた闇の魔法かな?だとするとチュニーがやったのか。
見事な連携だ。
「殺し屋ポー、流石なり」
「何を呑気に言っておる!このっ、このくそじじいっ!」
「いやぁ、すまなんだ、油断していたつもりはないのだが、ははは......これは本当に想定外である」
「長老、この距離で魔法はやめておけよ?ナイフがぶれて首が切れちまうぜ」
「う、うむ。降参降参」
「はぁ〜、ったく!これだから老人ってのはっ!」
次いで動いたのは、アイラだった。
「コーン皇帝陛下。ご無沙汰にございます。私はアイラ・シーンにございます」
「ほう、アイラか!話しには聞いていたが腕輪になったのだな」
「はい」
「なるほどな。そのような姿になってまで使命を果たすか。いいだろう。受けて立つ」
「......」
「どうした?予を守る騎士はおらん。好きにするがいい。まさかここまで周到にやってのけるとはな」
「まだ終わりではありません」
アイラは答える。
しかし続く言葉が思いつかず沈黙してしまう。
そしてその言葉を引き継いだのは皇帝だった。
「そうだな。予を捕えてどうするのだ?帝国を解体するのかね。混乱が大きい。この街を見よ。夕日にてらされたから赤いのではない。貴様達が赤く染めたのだ。この代償をどう払うつもりなのだ?そしてこの後の統治をどのように行うつもりなのだね。戦うことばかりで後先何も考えていないとは言わんだろうな、ポーよ」
「お、俺は」
話しを振られてたじろぐ青年。
皇帝の言わんとすることを理解はしているようで、まだ飲み込めずにいた。
「考えがないのであれば革命を諦めよ。国家を転覆したとて同じことの繰り返しをするだけだ。第2の帝国を作るつもりならば」
「革命後の話なんて関係ないよ」
皇帝の言葉を遮ったのはアルファであった。
「そもそもどうなろうと知った事じゃないんだ。それとさ。言ってることはボクも思うけど、君がやっていることは追い詰められて当てつけに嫌味を言っているだけだ」
「ほう」
「まだ続けるならこの城ごと吹き飛ばすよ」
アルファは手の先に光を灯した。
これはただのライトだけどね、と心の中で付け加えながら。
「はっはっはっ。少年は空気が読めんと見える」
「う、うるさいな。ボクはこの戦争に巻き込まれただけなの。いい加減、終わらせたいんだよ」
「ふふふ、面白いやつよ。アイラやライ、貴様のような奴がおればもっと面白かったのだろうな」
皇帝はポーを見据える。
だがポーはその目を合わせることが出来なかった。
「ポー。いや、アーシスであったか。裏切り者め。貴様はその剣で予を斬る事が出来るのか?」
その投げかけの真意を探り、そしてアーシスは応えた。
「......無論。お望みとあらば今この場でその首を斬り落としてご覧に入れましょう!」
「やってみよ」
「承知。いざ......いざ、お覚悟をっ!」
皇帝が笑ったように見えた。
アルファはその時の皇帝を見てそう感じた。
そして全てを終わらせるべく、アーシスは剣を高く掲げ、呼吸を整え、振り下ろす。
「待たれよ!」
しかしそれをとめたのはチュニーであった。
「皇帝を斬るのは今ではない、早まるな。事前の計画通りに公開処刑を行う。よいな」
「......了解した」
「騎士長セーツ・マ・ルー。闇の怪人と恐れられた貴様が止めるか」
「コーン皇帝。これ以上の会話は不要ではありませんか」
「よかろう。後は好きにするがよい。ふっ、革命はここに成就せり、か。ふはははは」
「捕らえなさい」
こうして長い戦いの終わりはアイラの静かな号令で膜を閉じた。
革命は成功したのだろう。
戦争は終わった。
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■25)五郎臣
「そうか、皇帝は捕えられたか。帝国も終わりだな」
「どうされますかな?」
「帝国に住まう身では逃亡しかありませんなぁ」
「はっはっはっ」
「あなたは?」
「今の生活を手放す事は出来そうにない。なぁに帝国は複合組織だ。頭が潰れた程度、いくらでもやりようはあろう」
「そうだな。私も口実をつけてどこかの領地をいただくさ」
「して、五朧臣が2人足りないが、ライ・ク・アーが上手くやったのか?」
「問題ない。屋敷で憤怒の炎と轟く雷を見たそうだ」
「ふっふっふ、そうか。仇はとったのだな」
「セーツ・マ・ルーの方はどうであった」
「兄弟騎士と合流後、奴の屋敷で鬨の声があがったそうだ」
「そうか。契約通りだな」
「だが闇の怪人が我らに情をかけるとは思えん」
「まったくだ。奴を売る代わりに我らの逃亡に手を出さない約束だったが、どうせ追手を向けているだろうな」
「まぁ、それも徒労に終わるさ。しかしこれでもう五朧臣とは呼べなくなったか」
「三郎臣とでも名乗るか?」
「語呂が悪い」
「今後我らの関わりも薄まろう。こだわることもあるまい。あの2人を思い出すのも癪に障るしな」
「ふむ。あれは愚かな奴らであったな」
「ああ。あの2人は性急過ぎたのだ」
「もう少し上手くやってもらいたいものだ」
「同感だ。今後は革命軍めが皇帝をとったからとつけあがるだろうな」
「ふん、何も変わらんということがわからんのだ」
「愚者どもが」
「コーンは」
「斬首だろう。そうでなければこちらで手配する」
「まぁ、奴は処刑を望むであろうがな」
「ふん」
「皇帝如きが。面倒なことをしてくれたものだ」
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■26)宇宙の彼方へ
皇帝を捕えたことが瞬く間に伝わり、戦争は次第に終結へと向かった。
コーンが言っていたように戦後処理は容易ではない。
一番被害の大きい帝都は破棄されるかもしれない。
この先一体どうなるのか。
革命に参加する者達が抱いていた不安はこの国に余すことなく波及する。
喜びの声をあげる革命軍の戦士達を見ながらアルファはこの国の未来を想った。
一通りの処理が終わりアーシスが駆け寄って来る。
「アルファ!良かった、無事だったんだな!怪我はないか?ないよな?無いって言ってくれ!」
「どんだけ恐れてるんだ。大丈夫だよ」
「はぁ、生きた心地がしなかったぞ。長老もつい全力で止めてしまった」
「折角かっこよかったのに、そういうの言わない方がいいよ。それと、ボクらを守るって言って割にすぐいなくなったね。役立たず」
「仕方がないだろ。兄弟の足止めしてたらルーまで来やがった。さすがに死ぬかと思ったよ」
「ふーん」
「ルーが、少年なら城に向かったって言ってな。すぐに追いかけたら知らん間に追い越してたみたいだ」
「あっそ。あ!ライさんだ」
「えっ!ど、どこに」
「うそだよ」
「お・ま・えっ!」
「いい気味だ」
「ったく、お前はこの後どうするんだ?一応功労者として」
「すぐに帰るよ」
「......そうか。アイラ様もですか」
「はい」
「ここで残ると帰るまでにまた時間がかかるからね」
「何より万能で叡智を備える不滅の王女など存在してはいけません。早々に立ち去るべきです」
「そうそう。そんなものは独裁と更なる反乱の因子にしかなり得ないのだ」
「なんというか、お前らしいな」
「アーシス。ご苦労さまでした。本当にあなたには助けられましたね」
「もったいないお言葉です。私は巻き込まれただけです」
「それボクのセリフだから」
「ははっ、そうだな。悪かったよ。でも助かった。お前がいてくれたからこの結果にたどり着いたんだ。ありがと、アルファ」
「ふん。日頃からもっと感謝すべきだよね」
「今後はそうするよ」
「アーシス。皇帝が言ってたように戦後処理は生半可なものじゃないよ。今回のは革命の第一目標が達成できた程度でしょ?これからが大変だと思う」
「ああ。皆わかっているさ。ちょっとずつでも変えていかないとな。まずさしあたっては五郎臣だ。だが、一旦はここまでだ」
「そうだね」
「元気でな」
「うん。アーシスも」
「アイラ様も。どうぞお元気で」
「ご安心ください。このボディは劣化など問題になりませんので」
「あ、そ、そうなんですか。まあ心はアイラ様ですから。じゃあどうぞご健全なままに、かな」
「はい。アーシスもあまり無茶をしないように」
「ええ。ちなみにどうやって帰るんです?」
その問に、アルファとアイラは2人して笑った。
訝しく首をかしげるアーシス。
そしてアルファは言った。
「こうするんだよ」
突然アルファを光の柱が包んだ。
「座標特定。エネルギー問題なし。アルファ、行けます」
「うん。じゃあねアーシス課長」
唖然とするアーシスを笑いながらアルファはあっという間に宇宙の彼方へと戻っていった。
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■27)革命を越えて
宇宙船に戻ってきたアルファ。
窓の外から見える惑星。
先程まであの星の何処かにいた。
「あー!やっと宇宙船だ!見て!あの惑星!くぅー!帰ってきたぁー!」
「はいはい。まずは身体をキレイにしましょう」
「そうだね。あ、その前に。ねえアイラ」
「はい」
「お水ちょうだい」
「わかりました。どうぞ」
ウィーンとスマートな動きでコップに注がれた水が出てきた。
「ふふふ、ちゃんと水だ。おいしー」
身体をキレイにいし、着替えてきたアルファ。
食事をアイラに頼み満喫する。
「はぁー、ごちそうさま。いやぁ長かったねぇ」
「色々ありました」
「ほんと。革命も達成だし。とりあえずおめでとうと言っておこう」
「はい」
「これで一段落ついたってことか。皆喜んでた。あ、そういえば革命軍の創設者には会わなかったね。本部の会議でも全然出てこなかったし。今頃喜んでるのかな」
「ええ。喜んでいましたよ」
「ん?会ったの?」
「はい」
「じゃあボクも会ってるってこと?どこで」
「コーンおじさんです」
「は?」
「革命はそもそも彼の手によって始まり、そして終わりました」
「自作自演ってこと?なんで」
「帝国という強大な組織を実質操っていたのは五郎臣です。彼らを除去するために練られたものが《 柳の園 》計画なのです」
「ああ、邪気を払うとか言ってた。そういう、こと......」
「だとすると、アーシスに自分を斬れなんて煽ったのもお芝居ってこと?ドラマチックにしたかったのかな」
「それもあるでしょう。あの人らしいといえばそうです。ですが、彼の覚悟を試したのかもしれません。この先を振り返ることなく進んでみせよという、コーン皇帝の試練だったのかと」
「そっか。アーシスは見事応えたわけか」
「はい。もしかしたら彼が新たな国の指導者になるかもしれませんね」
「そうなったらお祝いしに行かなくちゃね」
「ふふふ、そうですね。対してチュニーは、皇帝を斬ることが出来ませんでした。最後の最後で躊躇ったのです。彼は忠義を選んだ」
「真面目なやつだもんね。嫌いだったけど、尊敬に値する」
「彼は時代に取り残されるかもしれません。そう考えると、コーン皇帝が八公の空席にアーシスを当てたのは先を見据えてのことだったのかもしれませんね」
「だとしたらあの皇帝は賢い王様だったんじゃないか」
「その通りです。コーン皇帝は帝国と革命軍、この国の未来を憂いていました。その先々のことも彼の頭にはあったのでしょう。時代が時代なら名高い賢王となられていたかもしれませんね」
「ふーん。人間を歪める権力ってつくづく好きになれないね」
「同感です」
「それと、アイラはいつから計画していたんだ」
「お察しの通り、アルファがスリープに入る前からです。およそ半年ほど前でしょうか」
「AIめ、ちゃんと仕事してくれてたらこんな冒険しないで済んだのに。あのポンコツめ。脱出ポッドにのせたのはアイラなの?」
「はい。脱出ポッドに乗せ、アーシスとチュニーの近くに着地させたのも彼らに会うためでした」
「騎士長2人に、ね」
「はい。本当は目の前に落とすことで理解を早めるつもりでしたが、あの撃墜は誤算でした」
「とはいえ概ね君の計画通りってわけか」
「はい」
「ふん、ボクも手の平か。気に入らないね」
「はい。ですがアルファ。あなたの言動は予想通りではありましたが、やはり予定通りには動きませんでした」
「ふふん、誰かにいいように使われるなんてごめんだもの」
「はい。だからこそあなたは必要だったのです」
「むー」
「そういえばなんでアイラは処刑されたの?」
「遠慮のない話題ですね」
「ささやかな仕返しさ」
「受けて立ちましょう。コーン皇帝は革命後の国を私に任せようとしていました」
「へぇ、次期皇帝だったわけか。いや宮司だから法王かな?権力を手にする気分を味わえなくて残念だったね」
「いえ。ですがあの時の私はただひたすらに使命感だけで前へと進んでいました。愚直です。今ならいかに愚かだったのかがよくわかります。これで良かったのです」
「皆君に期待していたんじゃないの」
「都合が良かったのですよ。かつての私は人気があり、大抵のことは出来ました。そして適度に愚かです。新しい玉座に座らせておくのにもってこいなのですよ」
「すぼらだからね。皆命を賭けていた。皇帝だって自分が死ぬのを前提にしてたってことでしょ?君がそれを愚かと言っていいの?」
「帝国は誰の目にも先がないことは明らかでした。一度壊す必要があったのです。そのためには強い力が必要となります。となればその力の管理を行っている私達王族の責務となります。私達の命を賭して事を成す必要があったのです」
「責任なんて、そんなもの。そんなことのために」
「それが役を持った者の務めなのですよ、アルファ」
「未だに思うけど、革命なんてしたところでかわるものかな」
「変わりはしますよ」
「でもどうせ人間は変わらないでしょ」
「それでもちょとずつ進歩していくのです。世代を越えて少しずつ」
「ふーん。飛躍するけど、アイラは人間は進化すると思うかい?」
「進化とは大きな変化を伴うもの。人間の進化はまだ考えられません」
「そうかな。僕が思うに、進化って理想の姿を作ることだ。今出来いないことを出来るようになる」
「何を言いたいのです?」
「こうだったらいいのに、こんな風になりたい。その姿を形作ったのはロボットだ。人間の進化があるとしたら機械達がそうなんじゃないかと思って」
「ですが機械は機械です。アンドロイドは人間かなど私からすれば論点のズレた議論と言わざるをえません。例えばキャベツが知性を持ち会話したとして、それは人かと言われて人と答える人はいないでしょう。この議論の根底には人間性の保身という本能が隠れているように思えます」
「つまり自分の心を大切にしたいための議論ってこと?」
「私はそう思います」
「でも君はさ、AIに人間のいわば魂が含まれた稀有な存在だ。君は人間の進化の延長線上にいる気がするよ」
「だとすると、私の存在は革命的ですね」
「あはは。君はつくづくそれが好きだね」
「ところでアルファ。今日は何の日か知っていますか?」
「え?今日は、っていうかそもそも今日がいつなのか知らないけど、革命が成功した日ってことを言いたいの?」
「いえもっと大事なことです」
「大事な......あー、あの星に滞在した日々は実は外宇宙と時間の流れが異なっていてこっちの一時間があの星では数カ月だったとボクは思っている。思いたい」
「課題提出が間近です。というよりこのままだと遅刻ですね」
「ど、ど、ど、どうしよう。まだ課題出来てない。あ、君にこの革命に無理やり連れて来られたんだから、もちろんやっておいてくれたんだよね?......だよね?」
「あなたがやらなければ意味がありません」
「なんて冷徹なんだ!自分で巻き込んでおきながら!そこはちゃんと用意しておくべきでしょ!」
「どうせ私はずぼらですから」
「ま、また怒られる!う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
本当はちゃんと用意しているアイラであった。




