消えたスプーンの行方
カフェ「シャドウ」の小さな事件簿シリーズです
少しずつシリーズ増やそうと思います。
金曜日の夜、
閉店作業を終えたマスターは、いつものように看板猫のミントを抱えながら店内を見回していた。
最後にイチオシメニューが描いた看板を片付けた。
テーブルもカウンターも片付けは完璧。スプーンもフォークもきちんと数を揃え、引き出しにしまった。
1つ古くなって捨てようか迷っているスプーンを緑のリボンを巻いて明日の自分に分かりやすくした。
しっかり戸締まり確認をしてミントを抱えて家に帰った。
ところが翌日の朝、謎のお金がカウンターの上に乗っている。片付け忘れたか?とマスターは頭を掻いた。
そして開店準備で緑のリボンを巻いたスプーンがない。
いくら探しても見つからない。その疑問が残ったまま店は開店した。
しばらくすると、三笠君といちごちゃん親子が来店した。
「電車が遅れているなんて心配ねー。」いちごちゃんお母さんの言葉に三笠君は答える
「はい、1本早め電車に乗れてラッキーでした。」
そしていちごちゃんは力こぶを三笠君に見せながら
「電車さん元気ないならいちごが元気分けて上げる!」そんな会話に耳を貸す。
そんなことをしてる間に胡桃さんもやって来た。
カフェの中はどんどん賑やかになっている。
しかし、昨日の緑のリボンを巻いたスプーンがいくら探しても見つからない。
まさかミントが?と思ったがミントはツナを食べ終わりキッズスペースで寝ている。
「確かに昨日はここに入れといたのに……?」
私は頭を抱え、いつもの土曜日の常連さんたちに相談することにした。
「スプーンが一本なくなったんだ」
私の言葉に
いちごちゃんのお母さんが「あら、大変」と頬に手を当てる
三笠君は眉をひそめ
「本当に不思議ですね…密室からものが消えるなんて推理小説みたいです…まさか心霊現象では!?」三笠君はボールペンを強く握りしめガタガタ震えだした。
「スプーンが手と足を生やして出ていちゃったんじゃない?」いちごちゃんが手を上げる。
「盗むにしても、スプーンなんて持っていってどうするのよ」胡桃さんはその通りなことを呟いた。
みんなが首をかしげていると――。
カランカラン、とドアベルが鳴った。
見慣れない、背の高い、髪をきっちり決めたきらびやかな男で入ってきた。
このカフェ時間帯には珍しい客だ。
常連さんは珍しい客よりスプーンについてあれこれ喋っていた。
彼は黙ってコーヒーを頼み、しばらくカップを眺めていたが、やがて我慢仕切れないように私たちの話に割って入った。
「……そのスプーンのことですが」
低い声が店内に響く。
「犯人知ってるんですか!?」
マスターがすかさず聞くと
「はい、分かります」自信満々に彼は答えた。
いちごちゃんが「名探偵さんだ」と目を輝かせる。
「犯人は誰なんですか?」皆がごくりと謎の男に注目していると彼はキメ顔で答えた
「犯人は私なんです。」
一瞬、時間が止まった。
彼以外の皆は肩透かしにあったような何を言ってるか分からないみたいな顔をしていた。
三笠君はボールペンを落とし、いちごちゃんとお母さんはぽかんと口を開けたまま。
胡桃さんだけが「何それ」と笑った。
彼は眉間にシワを寄せ真剣な表情のまま語り始めた。
「昨夜、私はアイスの看板を見て、どうしてもアイスが食べたくなり閉店間際にこの店に入ったんです。
ですが……私、髪とか服とかきっちりセットしないと隣にいても気づかれないくらい影が薄いのですよ。
昨日は徹夜で仕事をして髪とかぐちゃぐちゃだったんです。だから、影が薄すぎて、マスターに気づかれなかった」
「えっ?」マスターは思わず声を上げた。
「そうこうしているうちに、あなたが戸締まりをしてしまった。私は店に取り残されたんです。
どうしようかと迷っているうちに、冷凍庫のアイスを見つけ……徹夜で判断力が鈍り、我慢できず、スプーンを取って食べてしまいました」
常連たちは呆然とする。
いちごちゃんのお母さんだけ「そんな面白いことがあるのね。」とクスクス笑っている。
彼は続けた。
「食べ終わったあと、片付けをして代金をテーブルに置きました。
けれど翌日、アイスがなくなりお金だけ置かれていたら……マスターは怖いだろうなと思ったのです。
そこで“証拠”としてスプーンを持ち帰りました」
そしてポケットから緑のリボンが巻かれたスプーンを取り出し、カウンターに置いた。
「そのあと、店内でさまよい続けて、偶然見つけた鍵を拝借して外に出て、店のポストに入れておいたんです。そして朝一番にここに向かおうと思っていたのですが電車が遅れて閉まって…」
彼は視線を床に落とし落ち込んでいた。
店内が静まり返る。
やがてこの場にいる全員が吹き出した。
「影が薄すぎて閉じ込められる犯人なんて、聞いたことないわ!」胡桃さんがお腹を抑えながらゲラゲラ笑う
三笠君も「前代未聞ですね……」と手で口を覆いながら、笑いをこらえる。
いちごちゃんは「名探偵さんはアイス泥棒さんだったんだ!」と指を差してケラケラ笑った。
マスターは苦笑しながらも胸を撫でおろす。
「まあ……事情が分かったならいいですよ。今度からはちゃんと声をかけてくださいね」
そのときだった。
太陽の光でカウンターに置かれたスプーンがキラキラ反射したのに、ミントが飛びついた。
スプーンをくわえて一目散に店の奥へ逃げていく。
「……結局、スプーンの行方は分からないままですね」マスターら呆れたような、ホッとしたような笑みを浮かべた
笑い声が店内に広がり、また謎のスプーン事件の犯人、儚木勇葵は金曜日の夜と土曜日の常連になった。
こうして「消えたスプーンの行方」は幕を下ろした。
いかがでしたか?
出来るだけ想像の斜め上に行くようにしました。
もし面白かったなら「看板猫失踪事件」も読んでくれると嬉しいです。
もしアイデアとかありましたら教えてくれると幸いです。