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王子殿下の冒険と王家男子の事情について  作者: あいの あお


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7.離宮の朝ごはん

 リリアナのジュースのお陰かよく眠ったからか、翌朝は疲れが残ることも無くメイに起こされる前にすっきりと目を覚ますことができた。むしろ三人ともあまりにも早く目が覚めたため簡単な身支度を終えてもまだメイが起こしに来ず、三人で空腹を抱えて待つことになった。


「大した効果だな、レナード」

「エヴァレット嬢のジュースは美味しくても効果があると証明されましたね」

「リリアナさん、これを機に効果が高くても美味しいジュースを研究してくれると良いんだけどなぁ………」

「こうなるとお前の言う酷くまずいジュースにも僕は少し興味が出るな」

「俺は勧めませんが、リリアナさんは喜びますよきっと」


 またも味を思い出したのか口元を歪めて眉をしかめたレナードに、フレデリックとアイザックは顔を見合わせほんの少しだけ声を上げて笑った。


 軽やかなノックが三回。まだ起きていないと思っていたのだろう、「おはようございます」とフレデリックの返事を待たずに扉を開けたメイがすでに着替えてベッドに座っていた三人を見て目をまん丸にし、「あらあら、こんな早くからずいぶん楽し気ですね?」と口角を上げるとワゴンからカップを三つ窓際のテーブルに置き淡い黄色の茶をそれぞれに注いでいく。

 ふわりと漂ってきた香りにフレデリックはベッドから降りてメイの手元を覗き込んだ。


「この香り…エルダーか?」

「良くお分かりですね、殿下。昨日のエルダーを少し拝借して入れてありますよ」

「うわぁ……良い香りですね」

「春の香りだ。リリアナさんのお茶にも良く入ってる」


 アイザックもレナードもいつの間にか隣に並んでおり、三人三様カップを覗き込んでいる。


「あらあら、はしたないですよ。さあ、お座りになってください」


 確かにこれは少し子供っぽかったかとフレデリックが大人しく席に着くと、メイは頷きカーテンを開くとバルコニーへと続く窓を大きく開けた。とたんに眩しいほどの光と共にふわりと、外からも花と緑の香りが風に乗って入って来た。


「今日も良いお天気ですよ」


 この部屋の窓は庭園側を向いている。王宮の庭園はきっちりと区画分けがされ季節ごとに作り込まれている印象があるが、この離宮の庭園は趣が違う。

 薔薇のアーチがあったり池があったり東屋があったりもするが、この庭園全体といくつかある温室がそのまま薬草園にもなっているのだ。漂ってくるこの香りは一角を白く埋め尽くしていたカミツレだろうか。昨日、風呂上りに出された茶が蜂蜜入りのカミツレの茶だった。


「もう少ししたら朝食も届きますよ」


 朝の茶を飲むフレデリックたちの後ろでメイがてきぱきとフレデリックたちの着ていた寝間着や水差しなどを片づけていく。動き回る母親に何とも居心地が悪そうに目を泳がせるレナードが面白い。


「メイ」

「何でございましょう?」

「今日は何時まで離宮にいられる?」


 メイは手を止めるとポケットから懐中時計を取り出し、少し考えるようにすると「そうですね」と頷いた。


「午後のお茶の時間には戻るよう王妃様より言いつかっておりますので、長くてもお昼をいただいてから二時間ほどでしょうか」


 ちらりと三人で顔を見合わせ、フレデリックは頷いた。


「分かった。では朝食の後に三人で昨日キイチゴを摘んだ茂みまで散歩をしてくる。ただの往復なら昼には戻れる距離だ。構わないな?」

「お時間さえ守ってくだされば。庭園の散策はよろしいのですか?」

「キイチゴの場所をもう一度確認しておきたいんだ。今回は庭園は昼食の後に少しだな」

「あらあら、森がずいぶんとお気に召したようですね。では護衛にもそのように伝えて参ります。離宮の森は危険は少ないとはいえ必ず護衛と一緒に行動してくださいね?」

「分かっている」


 必ずですよ?と再度繰り返したメイに口うるさいなとフレデリックがこっそりと唇を尖らせると、しっかり見とがめられて「殿下、お口がよろしくないようですね?」とまたも注意されてしまった。

 何も側近候補の前でそのようなことを言わなくてもいいではないかと内心でむくれていると扉が慎重に三度叩かれ、メイの返事と共に見知った顔がワゴンを引いて入ってきた。後ろからメイドもふたり入って来る。


「おはようございます。朝食をお持ちいたしました」

「グレアム、おはよう」


 グレアム・ブライはブライ侯爵家の次男で、フレデリックが立太子して王太子宮に移った後はフレデリック専属の侍従となることが決定しているひとりだ。

 今のフレデリックは王妃宮で生活しているためグレアムはまだ自由に立ち入りができない。決められた時間やこうして王妃宮以外で何かある時に、王妃宮の侍女やメイに付いて侍従となるための研修を受けているのだ。


 グレアムは微笑み一礼するとワゴンから次々に皿を並べていく。


「本日の朝食はチャイブのオムレツとハーブソーセージ、朝採れの野菜とハーブのフレッシュサラダ、パンはローズマリーのパンとテーブルロール、各種デニッシュ、バター、蜂蜜、ジャムは冬に離宮の森で採れたブラックベリーのジャムをご用意しております。コールドミートはこちらからお好きなものをお命じ下さい。お飲み物はフレッシュミルクとオレンジジュース、食後にハーブティーか紅茶をご用意いたします。使われておりますハーブは全て離宮で採れたものでございます」


 普段ならこんなに要らないと言ってしまうところなのだが今日は早くに気持ちよく目が覚めたせいかぐぅーっと鳴るほどすっかりとお腹が空いている。レナードもアイザックもかなりお腹が空いているようで待ちきれないとばかりに目をきらきらとさせている。


「僕はコールドミートはいい、パンは両方ひとつずつ、デニッシュはナッツのものをひとつだな。ミルクはフレッシュで良いのか?」

「今朝、牧場から届いたばかりの絞りたてでございます」

「ではミルクを頼む。そうか、離宮は牧場が近かったな」


 承知いたしましたとにっこり笑ってグレアムがフレデリックの前に皿と籠を並べていく。いつも食べるよりも間違いなく三割は多いだろう。

 フレデリックの前に並べ終わるとメイドたちがレナードとアイザックの皿を用意し始めた。アイザックはフレデリックと大差ない量だがレナードは倍はありそうだ。体が一番大きいのもレナードではあるが、護衛候補として日々最も体を動かしているのもレナードだ。きっと消費する量も違うのだろう。


 フレデリックが食べ始めなければふたりも食べられないため用意が終わったのを見計らってフレデリックはすぐにカトラリーを手に取りオムレツを口に入れた。ふわりとハーブの良い香りが口いっぱいに広がる。王宮での朝食もそれなりに品数が多いがこれほどにハーブが使われることは無い。さすが離宮というところか。


 ちらりとレナードを見ると何とも言えない顔でサラダを見つめながらソーセージを口に運んでいた。

 アイザックを見るとアイザックもまた悩まし気なレナードの様子をうかがっていたようで、フレデリックと目が合うときゅっと目を細めて楽しそうに笑った。

 いつも穏やかに微笑んでいるか優雅にすましているアイザックもこんな顔をすることがあるのだなと、フレデリックもほんの少しだけ、いつもより笑みを深くした。


 結局、少し物足りなく感じてフレデリックはテーブルロールとジャムとデニッシュをひとつずつ追加でお腹におさめ、食後にはミントとレモンバームのお茶をいただき大満足で朝食を終えた。


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