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王子殿下の冒険と王家男子の事情について  作者: あいの あお


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54.初めての側近

 血の気は少し戻ったとはいえまだ顔色の悪いレナードをソファに座らせると、グレアムがすぐに茶を温かいものと取り換えた。


「無理はいけませんよ、リンドグレン令息」


 グレアムがレナードに注意をしたのはこれが初めてだ。今までグレアムは会話はしてもレナードやアイザックに注意や小言を言ったことは無かったのだ。

 フレデリックが目を丸くしていると、それに気づいたグレアムがにっこりと笑い、もう一度レナードを見るとそのまま何も言わずにまた後ろへと下がって行った。


「殿下…アイザックから何かありましたか?」

「いや、さすがにまだ二日だしな。まずはスペンサー侯爵と話すことになっている。アイザックと会えるかどうかはその結果次第だな」

「そうですか……」


 難しい顔をして黙り込んだレナードにフレデリックは少し笑った。


「言っとくが、レナードが早すぎるんだぞ?」

「そうですか?」

「そうだろう。全員三日は確実に休むように言われていると聞いていたぞ?」


 レナードは頭を掻くと「忘れました」とばつが悪そうに視線を逸らした。


「レナード……メイの許可は取ったか?」

「母は今日、久々の茶会で……」

「取ってないんだな……」


 これはかなり怒られる。分かっていてきっとメイがいない隙をついて会いに来てくれたのだろう。協力者はリンドグレン侯爵だろうか、キースだろうか。


 それでもあまり長居をさせれば茶会から帰ったメイが気づいて乗り込んできかねない。名残惜しいが一度、家に帰さねばならないだろう。


「レナード、一度家に戻れ」

「ですが殿下」

「明日までは僕も一応謹慎なんだ。だからレナードも明日まではゆっくり休んで、明後日また来ないか?」

「朝から来ても?」

「レナードの朝じゃなく僕の朝な?」

「分かってます」


 少し眉を下げたフレデリックにレナードがぐっと口角を上げて笑った。


 レナードの朝はフレデリックよりも何時間も早い。フレデリックも早起きを心がけたいところだが、それでも朝食の時間は変わらない。早くに会えるのは嬉しいがあまりに早いと待たせてしまう。


「次の時に今後どうするかを話そう。アイザックについても…進展があれば、ちゃんと伝える」

「分かりました。………俺は今後もずっと殿下の側にいますが、一緒に側にいるならアイザックが良いです」

「ああ、僕も同じ気持ちだ。だから、一緒に考えて欲しい」

「はい、殿下」


 ふたりで視線を合わせて頷き合っていると、折良くというか折り悪くというか、扉を叩く音がした。


「メイ・リンドグレンでございます」

「げ」

「あ」


 扉越しにもいつもより低いと分かる声に、ふたり同時に声が出た。

 思わず立ち上がり、示し合わせたように応接机の前でふたりで並んで直立すると、グレアムがこぶしを口元に当てて扉を開けに行った。


「失礼いたします」


 一礼したメイは顔を上げると、仲良く並んで直立で固まっているふたりを見て呆れたようにため息を吐いた。


「仲がよろしいのは良いことですね」


 ゆっくりと部屋に入ってくるとフレデリックたちの前でぴたりと止まる。無表情のままでじっとフレデリックたちを交互に見ると、メイはひとつ頷き、背筋を正した。


「話し合いは終わりましたか?」

「ああ、終わった。メイ……レナードはこれからも僕の側にいる。良いだろうか?」

「レナード?」

「俺が望みました」

「僕も望んだ」


 フレデリックはまっすぐに、真剣な眼差しをメイに向けた。レナードも同じようにメイを見つめている。

 しばらく見つめ合った後、メイはちらりとグレアムを見るとまたため息を吐き、呆れたように、けれどとても嬉しそうに笑った。


「リンドグレン侯爵家は騎士の家です。主君を本人が定めたのなら、道を外れない限りただ黙って見守るだけですよ。ふたりとも…いつの間にか本当に大きくなりましたね……」


 メイはもう一歩近づくとその場で膝を付き、フレデリックとレナードを見上げそれぞれの頬に手を当てた。


「レナード、あなたが定めたのなら何も言わない。リンドグレンの名に恥じぬよう精一杯仕えなさい」

「はい、母上」

「殿下、レナードはあなたを主と定めました。受け止めて下さったこと、心から嬉しく思います」

「ああ」


 そこで一度言葉を止めるとひとつ頷き、メイはにっこりととても良い笑顔を浮かべ、頬に添えていた手で力強くそれぞれの頬をぎゅっとつねった。


「ですがそれとこれとは別です。しっかり反省してくださいね」

「う、ごめん、メイ」

「母上、申し訳ありません」


 手はすぐに離され、メイはスカートを払い立ち上がるとそれぞれの頭をぽん、と撫でた。ちらりと後ろを見ればグレアムはにこにこといつもよりも二割増しくらいの笑顔を浮かべている。


「殿下、今日のところはレナードを連れ帰ることをお許しくださいね」

「ああ、もちろんだ。僕もちょうど今日は帰るように言ったところだ。明日も休んでまた明後日来ればいいと」

「それがよろしいですね。一応、明日までは謹慎と伝えたはずなのですけどね…」

「僕も一応、謹慎中だ……」


 つねられた頬を撫でつつ頷くと、メイは「そうでしょうね」とまた呆れたように眉を下げた。


「メイにも、手紙を送ったんだ」

「まぁ、そうでしたか」

「うん、花も贈った」

「まぁ…茶会に出るのに入れ違いになったようですね」

「うん。良かったら読んで欲しい」

「もちろんですよ、殿下。しっかり読ませていただきますね」

「花も、喜んでもらえると嬉しい」

「ふふふ、はい」


 ずいぶんと子供っぽい物言いだったかもしれない。メイに笑われ気恥ずかしくなって隣を見ると、レナードの口角も上がり、ほんの少し目も細められていた。


「レナード…頼むからしっかり休んでくれ。森でも言ったが、僕はお前を失いたくない」

「はい。俺の主君の、仰せのままに」


 レナードは胸に手を当ててフレデリックに一礼した。フレデリックもレナードに頷く。もうフレデリックの側近候補ではない。初めてできた、初めてフレデリックが自分で選び自分で得た側近だ。

 グレアムを見ると、グレアムもまた嬉しそうに頷いた。


 やはりかなり無理をして来てくれたようでレナードは夜に熱を出してしまったらしく、実際にまた会えたのはこの三日後となった。

 無理をしたレナードはもちろんだが、レナードが王宮に行くのを手伝ったキースもメイにこってりと叱られたと復帰したレナードが教えてくれた。


 怒られはしたが、キースもレナードも嬉しそうに破顔したリンドグレン侯爵に思い切り頭をぐしゃぐしゃに撫でられたと、レナードが照れくさそうに笑っていた。


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