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王子殿下の冒険と王家男子の事情について  作者: あいの あお


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18.白いユリと赤い綱

「そろそろ動けますか?」


 周りを見回していたレナードがフレデリックとアイザックを交互に見た。


「ああ、大丈夫だ」

「僕も行けます、申し訳ありません」

「謝らなくていい。何も悪くない。慣れてないだけだ」


 唇を引き結び頷いたアイザックにレナードが首を小さく横に振った。


「荷物、俺が持つか?」

「いえ、ここから先ずっと走るわけでは無いのなら自分で持てます」

「辛くなる前に我慢せず教えてくれ。動けなくなるのが一番駄目だ」

「そうですよね……気を付けます」


 眉を下げ俯きそうになったアイザックの肩をレナードが少し強めにばしりと叩く。驚いたアイザックが顔を上げると、レナードがにっと、口角を上げた。


「前を向いて少し力を抜け。俯いて力んでいると余計に疲れるし怪我をする」

「はい……」


 またも俯きそうになり、ぶんぶんと首を横に振るとアイザックが顔を上げた。


「行けます!」


 自分を鼓舞するように少し大きな声で言ったアイザックにレナードはまた小さく笑った。


「よし、行こうか」


 フレデリックも鞄を背負い頷くと、レナードとアイザックも鞄を背負う。


「殿下、方角は」

「あっちだな、あのユリの方角だ」


 方位磁石が指すほうにちょうど白いユリが一輪咲いている。レナードは頷くとそちらへと歩き始めた。


「不思議ですね」


 ぽつりとアイザックが言った。


「何がだ?」

「この森には白いユリが咲いているんですね」

「ああ、咲いているようだが……」


 どういうことか分からずフレデリックは首を傾げた。今フレデリックたちが歩いているすぐ先にあるのは間違いなく白いユリだ。フレデリックも庭園や花瓶に生けられたものを見たことがある。


「白いユリはこの国には自生していないはずなんです」

「そうなのか?」

「そういえば、この森以外で白いユリは見たことが無い気がするな。もっと小さい薄紅や黄色は見たことがあるが。花のつき方も違う」


 レナードも気づいたように白いユリをじっと見た。


「はい。白いユリは帝国や神聖国の東側や不毛の地に見られるものがほとんどのはずなんです。最も大きく美しい品種は更に東の海を越えた国原産だとか」

「そうなのか?王立植物園のユリもこのユリのように白くて大きかったと思うが」


 フレデリックもじっくりとユリを眺めた。遠くから見た時は真っ白かと思ったが、よく見ると花弁の内側に黄色い線とぽつぽつとした模様が入っている。花から突き出たおしべの先は赤に近い朱だ。


「はい。ですので僕も東から取り寄せたのかと思っていたのですが……もしかしたらここのユリなのかもしれませんね」

「こんな模様が入っていたか記憶に無いな……戻ったら見てみるか」

「たぶんですが、まだ咲いていないはずなんですけど…」

「そうなのか?」

「本では夏に咲くとあったんです。僕が王立植物園で白いユリを見た時ももっと暑かったと思うんですよね」


 ふーん、と三人でユリを囲んで首を傾げた。誰かが持って来て森に植えたものが増えたのだろうか?それにしては随分とぽつりぽつりと咲いている気がするが。気にしていなかったが、よく探せばまだ咲いていない蕾のものが多く見受けられる。目の前のユリも含め何輪か見かけたものはたまたま早く咲いたものだろうか。


「もしも本で読んだユリなら、根元に球根のような茎の塊があって、薬の材料になるはずなんです」


 もとより強い芳香がしていたが顔を近づけたせいかくらくらする。軽く頭痛がする気がしてフレデリックが一歩下がると、レナードが何かを思い出したように「あ」と言った。


「「あ?」」


 フレデリックとアイザックが同時にレナードを振り向いた。


「そういえばリリアナさんがなんか言ってたな。冬になったら掘り返すって」

「じゃあ、やっぱり東の品種なんでしょうか」

「それに近しいものということか?」

「さっぱりです。リリアナさんに聞けば分かるかもですね」

「やはり違う季節にも一緒に森に入りたいな」

「今回の件で無事に済んだらお願いしてみましょうか」


 レナードがまた淡々と恐ろしいことを言う。怒られる覚悟はあるが無事に済んだら、は止めて欲しい。怒られる以上がありそうだ。

 フレデリックはポケットから懐中時計を出すと時間を確認した。森に入ってからすでに一時間半。禁止区域の柵を越えてからすでに三十分以上が経過しているということは、帰り道のことを考えると探索に使えるのはどれだけ長く見積もっても一時間半がせいぜいだろう。

 いい加減、護衛のふたりもフレデリックたちが消えたことに気づいているはずだ。心配して探しているだろうか。あの抜け穴を見つけただろうか。それとも一般区域を探しているだろうか。


「無事に済むようにさっさと行ってさっさと戻るか……」


 フレデリックが懐中時計をしまい方位磁石をもう一度確認すると、「それが良さそうです」とアイザックが頷いた。フレデリックが少し北寄りの東を指さすとレナードが頷き、また歩き出した。


「きっとこうして歩いている横に生えているものも、僕らが分からないだけで貴重な薬草だったりするんだろうな」


 見たことが有るような無いような草花を横目に見ながらフレデリックが呟いた。リリアナが共にいればきっと目ざとく見つけては説明してくれただろう。あまりの寄り道に全く先に進めないかもしれないが。


「じっくり調べたら楽しそうですね」

「リリアナさんが喜ぶぞ、同志が増えたって」

「さすがにエヴァレット嬢ほどまではいけそうにないです……」

 

 アイザックが困ったように笑った。何だかんだで、本で読んだだけでこれほど覚えているアイザックならきっとリリアナに教えられるままに覚えてしまいそうだ。その記憶力がフレデリックはうらやましいと素直に思う。


 そんな風に他愛のない話をしながら歩いていると、そうかからない内に森を分断するように張られた赤い綱が目前に現れた。


「赤い綱?」

「何でしょう、これ……?」


 立ち入り禁止区域との境目は木製の柵と綱が張ってあったがどちらも茶色、というか素材そのものの色をしていた。

 だが、今目の前にあるのは木々と杭に結びつけられた綱だけだがその色は赤。立札も何もないがこれ以上進むなと、はっきりと主張するような人為的に塗られた赤だ。


「これは何だろうな」

「立ち入り禁止区域の中に赤い綱、ですか……」

「単純に考えればこの先こそが危ないからその周辺も立ち入り禁止区域にした、でしょう」


 フレデリックたちはそれぞれに赤い綱を見て森の奥を見ると、誰からともなく三人で顔を見合わせた。


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