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王子殿下の冒険と王家男子の事情について  作者: あいの あお


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15.違うからこそ

「荷物の確認はお済みですか?」

「ああ。問題ない」

「では昼食の準備が整いましたのでこちらへどうぞ」

「ああ」


 グレアムに促されてテーブルに着くと、今回もまたひとりひとりに籠が用意されている。たいして腹が空いているわけでは無いが、無条件にわくわくしてくるのが不思議なものだ。

 ちらりと横を見ればジャックと黒髪の騎士がグレアムと何か言葉を交わしている。フレデリックの視線に気が付くとジャックと黒髪の騎士が共に騎士の礼を取り離宮の方へと下がって行った。


「グレアム」

「何でございましょう?」

「あのふたりは仲が良いのか?見かける時はいつもふたりの気がするが」


 ここ数ヶ月ほどだが、彼らをフレデリックの護衛として見かけることが増えた。反対に、それまでよく見かけていた騎士を見かけなくなったが。


 がさがさと籠の中身を出しつつ彼らの後ろ姿を目線で示せばグレアムが口角を上げて小さく頷いた。


「そうですね。年齢も家の爵位も同じで性格や能力なども相性が良いそうで、ふたりで動いていることが多いようですね」


 今日の昼食はキッシュと、色とりどりの野菜と肉をひと口大にしてローストしたものが深めの器に入っている。フォークが一本入っているのでナイフで切らずに手早く食べられるように配慮してくれたものだろう。


 年齢も家の爵位も同じ、彼らもフレデリックとレナードのようにいわゆる幼馴染なのだろうか。それに能力の相性…そういえば正反対の戦い方をすると言っていたか。


「そういうものなのか?」


 早速籠から出して自分の前に並べるとローストされた人参をフォークで刺して口に入れる。味付けはハーブと塩のようだ。シンプルだが人参の甘みが引き立って美味しい。


「複数人で動くときはある程度の相性は考慮されますね、やはり効率も上がりますので」


 グレアムは話しながらもグラスに飲み物を注いでいく。ガラス製の水差しの底に沈むあの緑色の柑橘らしきものはなんだろう。レモンとは違う香りがする。


「そうなのか。外見だけ見れば正反対に見えるんだがな」


 どちらもいわゆる美丈夫だが、見た目に受ける印象が全く違う。フレデリックにはうまい言葉が見つからないが、ジャックはかじったら蜂蜜のように甘そうで、黒髪の騎士はぴりりと胡椒のような味がしそうだ。


「違うからこそ、かもしれませんよ」


 フレデリックは何となく目の前で昼食をとる側近候補のふたりを見た。


 生まれ月はほとんど変わらない。一番早いレナードと一番遅いフレデリックで三ヶ月しか違わない。


 一番背の高いのがレナード、一番低いのがアイザック、フレデリックはちょうどその間くらいだ。


 一番よく食べるのもレナード、一番食が細いのもアイザックで、レナードは肉を好むのに対してアイザックは野菜を好む。フレデリックは今のところ特に好き嫌いは無い。

 そういえばレナードが嫌うのは葉野菜だけで他は好きでも嫌いでも無いらしい。今日のローストは肉の風味がするのかむしろ嬉しそうだ。


 一番体力が有るのもレナードで一番体力が無いのはアイザック。ここはフレデリックも大差無いのでレナードがさすが武門というところだろう。


 一番弁が立つのはアイザックで、一番口下手…と言うより言葉選びに難があるのがレナード。フレデリックはふたりの会話がかみ合わないときにそれぞれの言い分を橋渡しすることができる。


 レナードは当然と言えば当然なのだが武器や騎士、山や森、獣などの知識に強いし、アイザックは歴史や貴族、文学や意外なところで建築物に強い。フレデリックはどうだろう、自分で自分を判ずるのは難しい。


「そうか、違うからこそ、か」


 この二ヶ月弱でフレデリックはふたりのことをずいぶんと知ったと思う。レナードに至ってはほぼ生まれた時から一緒にいたはずなのにこの二ヶ月弱で知ったことの方が多い気がする。

 それはきっと、フレデリックが見ようとしてこなかったからだ。見ようとしなければ、知ろうとしなければ、目の前にあってもただ流れ去るだけで何も残らない。


 ふと、リリアナが言ってくれた言葉を思い出した。興味を持てるのはすごいことだ、と。その通りだ。何かを興味を持って見るというのは、当たり前のようでいて実に難しいことだった。

 今までフレデリックはどれだけのことを見逃してきたのだろう。生まれてたったの九年ではあるが、そう思うと妙に口惜しい。早い段階で気が付くことができて本当に良かった。


「殿下、食べないですか?腹が空いてないなら俺が食べましょうか?」


 すでに自分の肉と野菜を食べ終わったレナードがキッシュにフォークを入れつつ首を傾げた。

 どうもふたりをじっと見つめたままフレデリックのフォークが止まっていたらしい。


「いや、大丈夫だ。すまない、急いで食べてしまおう。時間が惜しいな」

「すいませんレナード、僕のお肉はお願いしても良いでしょうか?あまり行儀がよろしくないのですが……」

「くれるのか?嬉しいな」


 申し訳なさそうなアイザックから嬉しそうに口角を上げて器を受け取るとレナードが嬉々として腹に収めていく。朝もそれなりに食べていたように思ったのだがそれはそれなのだろうか。

 そういえばレナードは早朝に叔父と鍛錬をしたのだったなと思い出しフレデリックはほんの少しもやっとした。

 どちらかと言えば嫌いだったはずの叔父だがなぜだろう。グレアムから話を聞いたせいだろうか、もっと知りたいと思うと同時に嫌だと思っていた気持ちが薄れているように思える。


 フレデリックも品が悪くならない程度に急いで昼食を食べると、食べ終わる頃を見計らってグレアムが食後の茶を用意してくれた。レナードはアイザックから受け取ったものまであっさりと食べ終わり、アイザックも無事、食事を終えたようだ。


 茶を飲み、離宮へ戻って用を足し森の入口へ行くと、護衛の騎士がフレデリックたちの鞄と共に待っていた。グレアムが持って来た追加の水筒をバッグにしまい鞄を背負うと思ったよりもずしりと肩に重さがかかった。なるほど、これで動くとなるといずれ肩が痛くなるかもしれない。

 ちらりとアイザックを見ると、目をぱちぱちと瞬かせている。もちろんアイザックも初めての体験だろう。「いけそうか?」とレナードに聞かれ、「まずは頑張ってみます」と大きく頷いている。


「それでは行こうか。ジャック卿、それと…」


 黒髪の騎士を仰ぎ見れば、騎士は軽く礼をして少しだけ口角を上げた。


「第一騎士団所属、ケネス・コーツです」

「ケネス卿か。今日はよろしく頼む。……面倒を掛ける」


 心の底からフレデリックは詫びた。今からフレデリックたちは護衛のふたりを振り切って森の奥へ入る。何事も無く無事に帰るつもりだが当然かなり心配を掛けるだろうし、ばれれば叱責もされるだろう。黙って巻き添えにすることを許して欲しい。後で必ずしっかりと詫びよう。


「ご随意に」

「どこへでも」


 ケネスはほんの少し笑みを深くして、ジャックは少し垂れ気味の目を細めて微笑んだ。


「ああ。ではグレアム、行って来る」

「行ってらっしゃいませ………お心のままに」

「ああ」


 グレアムは微笑むと胸に手を当てて丁寧に腰を折った。


 ふたりの騎士と従者の言葉にフレデリックは何かが引っかかったような気がしたが、それが何なのかは分からない。何となく後ろ髪を引かれるような気がしたが、軽く頭を振ると今日もアイザックを先頭に森へと入って行った。


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