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王子殿下の冒険と王家男子の事情について  作者: あいの あお


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1.次期王太子フレデリック

シリーズ8作目です。

お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。



 九歳の第一王子フレデリックにとって、この世で最も納得がいかないのはこの国の王と王弟という存在だ。つまり、フレデリックの父と叔父。フレデリックにはどうしたって彼らが分からない。


 国王である父はいつも母に執務を任せてふらふらとしている。そうかと思ったら余計なことをして母を激怒させている。先日も、国の大切な騎士を無理やり王命で結婚させたとかで母だけでは無く様々な人に怒られていた。なぜそんなことをしたのか理由は教えてもらえなかったけれど、母の怒りっぷりから間違いなくろくなことでは無いとフレデリックは思っている。


 父の弟、王弟である叔父は兎にも角にも粗野でみっともなくてはしたない。せっかくとても綺麗な顔をしているのに、いつも服はだらしなく崩れているし動作は荒いし言葉遣いも汚い。しかもそれが似合っている上になぜだか優雅に見えるのがいっそ憎らしい。もっと貴公子として振舞ったらもっとずっと格好良いはずなのだ。


 父と叔父のやることは無茶苦茶なことが多いらしい。いつも父や叔父が悪さをすると教えてくれる文官がいるのだが、母も宰相も大臣達も皆とても困っているのだと嘆いていた。だからフレデリックには良い王様になって欲しいのだと、そのためにも力になりたいと言ってくれるとても頼りになる文官だ。フレデリックが王太子になったら彼を側近にくれるか父に頼んでみようとフレデリックは思っている。


 フレデリックにも一応側近候補はいる。ひとりはフレデリックの乳母の息子で乳兄弟のレナード。レナードの父は最近、第一騎士団の副団長になったらしい。それまでは団長補佐だったらしいが、前の副団長が不祥事で辞めさせられたことで後任に抜擢されたそうだ。

 第一騎士団の団長であるイーグルトン公爵は素晴らしい人物だと聞いているがそれ以外の第一騎士団は身分や家柄での差別が酷いのだと聞いた。フレデリックは自分が王太子になったらそういう差別も無くしていければと思っている。

 乳母のメイはフレデリックに文句ばかり言う。すぐに謝るなとか、我儘を言うなとか、品性を保てとか、本当にうるさい。貴族至上主義というやつだろう。父親も第一騎士団所属だしレナードもいずれそうなるのかもしれないと、フレデリックはレナードのこともいまいち信じ切れていない。

 物心ついた頃からずっと一緒ではあるが、レナードはどうも理性的でないというか……少し直情的で短絡的なところがあるような気がする。世間では『脳筋』と言うらしい。文官が教えてくれた。


 もうひとりは先日、初めて参加した春の茶会で側近候補になったスペンサー侯爵家のアイザックだ。アイザックは賢いし話も分かるし礼儀正しいし所作も綺麗だし悪くない。悪くないが信用できない。

 スペンサー侯爵家は『落ち目』らしく、フレデリックの側近になって権力が欲しいのだと文官が言っていた。事実、アイザックはしょっちゅうスペンサー侯爵家の特産や領地の話をするのでフレデリックを使って何かをしようと思っているのかもしれない。地位と権力だけを当てにされるのはあまり面白いものでは無い。


 そして側近では無いが、茶会で婚約者候補という令嬢何人かと会わされた。フレデリックの婚約者になる令嬢だからそれなりの高位貴族の令嬢なのだが、ひとりとんでもない少女がいた。

 口は悪いしフレデリックを見て嫌そうな顔はするしあげく、フレデリックに対して「性格が悪い」と吐き捨てた。顔はとても可愛いのにあんまりにも酷い物言いにフレデリックは呆然とした。令嬢としてありえないと思った。

 何よりもあり得ないのはフレデリック以外の令嬢令息と話している時、彼女は大きな口を開けて笑ったのだ。なんてはしたないのだろうとフレデリックは瞠目した。淑女とは柔らかな微笑みを美しくたたえるものだろう。フレデリックの母も憧れのイーグルトン公女もいつも美しく微笑んでいる。彼女のような笑い方は絶対にしない……可愛かったけれど。


 フレデリックは良い王になりたいと思っている。民の幸せのために励み、国を富ませたいと願っている。けれど、父も、叔父も駄目だ、手本にはできない。母がいなければこの国は動くこともできないだろう。

 だから母のような王になりたいと思っているのに、母はいつも困った顔をする。もっと視野を広く持って周りを良く見てごらんなさい、と困った顔で笑いフレデリックの頭を撫でてくれる。母が言うならそうなのだろう。子供のフレデリックには見えない何かがあるのあろう。

 だがそれでも父と叔父は駄目だ。ふたりとも、良いところが顔以外にさっぱり分からない。


 良い側近がいれば何とかなるのかもしれないが、父には頼りなさげな侍従が付き従っているだけだし、叔父の側近たちは皆曲者だという。特にベンジャミン・フェネリーはとてもずるがしこいのだと文官が教えてくれた。なんでも、文官たちが困るようなことをわざとして言うことを聞かせたりするらしい。それにあの怖そうな護衛の騎士だ。叔父の護衛騎士はしゃべらないし表情も無いしいつも何を考えているのかフレデリックにはさっぱり分からない。あの滅茶苦茶な叔父に付き従っている人だから余計だ。


 そうは言っても母の側近も全員が素晴らしいとは言い難い。皆、完璧な淑女だと言われているし筆頭侍女などは特に所作も美しい。だがひとり、赤毛の派手そうな侍女がいる。所作も言葉遣いもいつも美しいが美しすぎて逆に何を考えているのかが分からない。全てが演技で作り物に思えるのだ。母は赤毛の侍女を気に入っていて重用しているが、母と茶を飲むたびに作法がなっていないと赤毛の侍女に怒られやしないかとフレデリックはいつも冷や冷やするのだ。


 考えれば考えるほど、良い王になるには周りを頼れないと思うのだ。周囲の人間を信じすぎてはいけないと文官も言っていたし、フレデリックもそう思う。ただ利用されるだけなど真っ平ごめんだ。フレデリックの地位も、権力も、全ては国と民を守るために有るのだから。


 早く王太子として、ひとりの立派な人間として国政に関与したいと常々フレデリックは思っているのだが年齢ばかりはどうしようもない。それは十歳の誕生日まで我慢するとして、立太子後すぐに活躍するためにも王族として相応しいと皆が認める実績が必要だと思っている。


 そんな時だった。いつもの文官が『王家の谷』についてフレデリックに教えてくれたのは。


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