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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死せる鋼鉄

作者: はと

ポストアポカリプス短編です。

ポストアポカリプスどころかsfが初めてです。

お読みいただけると幸いです。

「残弾は?」


「12発の弾倉が5個だね」


崩れかけた団地の一室で私は相棒とも言うべき同居人に問いかけた。

彼女は|タンケッテから取り外したライフルを磨いている。

朝一から仕事とは感心と言いたいところだがこの場所には暇つぶしなどこれくらいしかない。

何故か。それは簡単だ。


この世界は滅びている。

窓の外を眺めれば同じような構造の建物が並んだただの団地が広がっているが異様な雰囲気を感じるのは走り回る子ども一人見つけることができないからだろうか。

しかし今となってはそれさえも日常であり街に出ても人の子一人見当たらなくても驚くことは無くなってしまった。


「ラケータ、そろそろ狩りに行かない?」


「そうだね盟友、食料も少なくなってきたところだしな」


同居人、もといラケータはすぐに立ち上がった。

すでに普段着のワンピースの上からどこかの軍事施設で拾った防弾ベストを着て頭にはこれまたどこかの軍事施設で拾ったヘルメットを被っている。

これがラケータの正装だ。

私も多少軽装だが防弾ベストを羽織った。

これで準備は万端だ。


階段を一階まで降りれば私たちのタンケッテが待っている。

ラケータがタンケッテにライフルを取り付ければもう出発できる。

ただでさえ狭く常に体のどこかしらが触れ合っているという状況の車内はエンジンの熱でとても暑苦しい。

操縦レバーを前にいっぱいまで倒すと小柄な車体は見た目通りに軽快に走り出し車内に少しだけではあるが涼しい空気を送り込んだ。


「狩り」とは何か。

そのままの意味で言えば野生動物を弓や銃で射止めることだ。

しかしほぼ小型の動物しかいない現代ではタンケッテの20ミリライフルや車載重機関銃はオーバースペックだし私やラケータのもつハンドガンでは狙いがつかず射止めることは難しい。

ではなんだろうか?


「それで盟友、じゃなかった、カノーネ。今日の『狩場』はどこにするかい?」


「この街の中心部に複合モールが無かったっけ。そこならまだ食べれる品とかガソリンが見つかるかもしれないし」


「決まりだね」


そうただの食料と燃料探しだ。

進路を中心に向けてタンケッテは速度を上げた。



「ここもダメかぁ」


複合モールの食品を片っ端から開封していってもほとんどは腐って原型を留めていないかすでに食い荒らされている。

残っている食料をかき集めてささやかなランチを食べたがお腹が膨らむ気配はしない。

それにタンケッテに食べさせる油も一滴たりとも見つかることはない。

ここも星の数ほどあるハズレの遺構の一つらしい。


「次の狩場はどこにする?」


「郊外の軍事施設とかどうかな?レーションとかn、あ、ちょっと待って」


「どうしたの?」


「遠くから地響きが聞こえる」


私にはそんな音が聞こえない。

しかし、ラケータがそう言うなら正しいのだろう。

ラケータは常にヘッドフォンを装着し大きめのリュックを背負っている。

そしてその中に収まっているのは高性能な集音器だ。

それがあればラケータは4キロも離れた場所での喧騒も隣のように聞くことができる。


「方角は?」


「多分北西だね。鉄道駅とかある方」


急いで双眼鏡を取り出して見ると北西の方角に土煙を上げながら進んでいる巨大なカニのような生き物が見える。

あれはこの星を滅ぼした最終戦争の終盤に現れた生物兵器だ。

巨大な身体は対地ミサイルを跳ね飛ばし歩兵を赤子の手を捻るように押しつぶした。

腕の巨大な鋏と口から放たれる熱光線はコンクリートさえ蒸発させるほどの威力を誇ったという。

そんなカニは戦争が終わり人類の大半が死に絶えた結果従うべき指揮官を失い野生に戻った。


「まったく、此処がアイツの縄張りなんてついてない」


カニは野生に戻った結果その強い力から縄張り意識を持つ。

そして厄介なことに人間サイズの生体反応を見つけたら敵と認識して攻撃するという性質を持っている。

カニがただの野生動物だったら小さな人間を見つけることは不可能だろうけどそこは最終戦争の技術力だ。熱源感知やレーダーを使って半径10キロ程の探知能力を有している。

この上なく厄介な相手が現れたら悪態もつきたくなる。


「どうする?多分タンケッテの20ミリライフルじゃ撃っても無駄な相手だよ、多分」


「とりあえず食べれるものだけ持って逃げよう」


「逃げると言っても何処へ?こっから5キロくらいはカニの探知範囲だ。タンケッテも速度は出ないしせいぜい死ぬ時間を伸ばすだけだね」


「いや、郊外の軍事施設なら装輪車があったはずだしタンケッテを乗せてもギリ逃げきれそうじゃない?」


「決まりだ。快速の装輪車なら悪くない」


そういうが否や光の速さで荷物をまとめてタンケッテの台車に乗せた。

さあ走ろう。鼠のようにコソコソと駆けずり回るのも悪くない。



「それで基地までどれぐらいだっけ?」


「大体6キロくらい。カニの縄張りの中心くらいに位置すると予想されるね」


「じゃあ子ガニがいるかもってこと?めんどくなりそう」


カニは体内一機内といった方が正しいか一に多数の攻撃ドローンを搭載していて縄張りの中心となる場所にその何割かを待機させておくことが多い。

攻撃ドローンは小さいが小型熱線銃を装備していて人間なら直撃すれば蒸発する程度の攻撃力を有していて排除にも小さくてすばしっこいから時間がかかるという最高に面倒くさい性能をしている。

正直相手にしたくないが殲滅しないと作業を滞りなく終わらせられない。


操縦桿を目一杯倒して全力で走っていると狭い車内でも叫ぶように会話しないと何も聞こえない。

一通り子ガニの愚痴を叫び終わるとラケータは満足したのか銃手席でうたた寝を始めた。

こっちはできる限りカニに見つからないように走っているというのにどこまでマイペースなんだこいつは。


それにしても美しい街だ。

機能的でありつつもレトロな感じからして西暦2070年代か2100年代の第4次産業革命初期に建設された建物が主の中規模都市だろう。

これ以降建築技術は停滞したため実質滅亡1世代前の建物となる。

こんな美しい街を破壊した兵たちはさぞ心苦しかったろう。


油断していたその時、突然激震が走った。

しかし視界の限定される操縦席からは土煙が立ってることしか分からない。


「熱線砲っぽいね。カニにこっちの存在がバレたみたい。」


上から声がすると思ったらラケータが銃手席に立って辺りを見渡している。


「周りってどんな状況!?」


「20メートルくらい後ろのビルが10階くらいから吹き飛んでる。30階近くあるビルを蒸発させたとは考えにくいから上は崩れたかな。3秒早かったら私たちの命は無くなってたね」


「死ぬじゃん!」


「だね。それにカニが増速してこっちに向かってる。5分後生きていられかどうか賭けてみる?私は死んでるに全ベットしてもいいくらいだけど」


私は鼓動がエンジン音に掻き消されずに聞こえてくるというのになんでラケータはこんな余裕綽々と喋っていられるんだ。


心の中で悪態を吐きながら操縦桿を倒し角を左に曲がると悪態は操縦に出ていたようで思ったよりも急旋回になったようだ。


「曲がってくれる時は言ってくれないかい?危うく倒れるとこだったよ。あと私がそんなに精神面が強いとでも思った?」


「え?違うの?」


思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「私だって死ぬかもしれないってのは怖いさ。私たち以外の人に会うことさえないこんな世界じゃ冗談の一つでも吐いておかないと頭がどうかなっちまいそうなんだよ」


普段はあまり見ることのない弱いラケータは恥ずかしかったのか外を向いているがその表情には寂しさ、そして諦めの色が浮かんでいる。

私とある遺跡で出会った時はすでに旅を長い間続けていたラケータのことだ。

私が経験したよりも遥かに多い絶望を味わってきたことだろう。

もうこの世界で新しい仲間を見つけるという希望はすでに無くなっているのかもしれない。


「悲壮な空気は嫌だね。死の恐怖が迫っていることだ、楽しく行こうじゃないか」


もしかしたらラケータは心が読めるかもしれない。

確かに重い空気は好きじゃないし、愉快にいこうか。


「あっ、カニさん発砲用意確認。着弾予測75メートル先だね」


「着弾75メートル先了解!急減速するよ!」


ブレーキペダルを蹴るとタンケッテは体を大きく前傾させ強烈な減速Gを感じさせながら停車する。

車体が完全に止まったと同時に目の前を目が焼けるような光が通過し、目の前の建物を吹き飛ばした。

轟音が響いた後安全を確認する間もなく操縦桿を目一杯倒してタンケッテに鞭を入れる。

今度は車体が大きく後ろに傾きラケータはまたも振り落とされそうになったがなんとか踏ん張る。

まだ死ぬような時間じゃない。



なんとか基地までたどり着くことができた。

中規模都市の基地とはいえ滅亡まで残れたほどの戦力は保持しているように見える。

大半は老朽化で使い物にならなくなっているだろうが。


「死ぬまであと何分ぐらい?」


「音からして10分ぐらいは耐えれそう。あとは子ガニさんが何匹くらいいるかだけど」


周囲を見渡すと本来なら子ガニが大量に飛び回っているはずだがここには数匹が力無く飛び回っているだけだ。

もしかしたらこのカニは弱っていた?


「この子ガニの量は逆に異常じゃない?完全な状態のカニなら100機くらいは余裕で操れるはずなのにここは兵士1人か2人で制圧できる規模しかいない」


「結構な数が損傷して放置しているのを見る限り誰かが攻撃したあとっぽいね」


確かに死んだ虫のごとく仰向けになった状態で動かなくなっている子ガニが落ちている。

誰かが攻撃していったのなら少ないのも納得がいく。ついでにもしそうなら他の生存者がいるという希望の光になる。


「とにかく快速な装輪車を探そうよ。私はこんな辺鄙な場所で死にたくない」


「それも確かに大事だね」


ハンドガンを構え慎重にタンケッテから降りても子ガニが襲ってくるような気配はしない。

残っていた子ガニを叩き落とすと基地は私たちの足音以外は何も聞こえない異常な静けさに包まれる。

すぐにカニが襲ってくる距離になるとは思えないほど穏やかだがそれが不安に感じた。



「あっ、あった!」


シャッターの降りている格納庫をひとつひとつ開けていくと最後のシャッターの中にBTRが佇んでいた。

何十年、何百年と使われていないことを示すかのように埃は積もっているが車体には錆もなく誰かが定期的に点検されているように見える。

しかしいくら小型といえどタンケッテは装甲兵員輸送車に乗せられる大きさではない。


「んっしょ、見つけたのかい?」


どこから持ってきたかはわからないが台車の上に20ミリライフルとエンジンが積んである。


「流石にそのまま持ってけれる大きさじゃないけど砲とエンジンさえあればいつか再建できるでしょ」


「大好き…」


思わずそんな言葉が漏れてしまった。

タンケッテの命とも言えるライフルとエンジンをこの短時間で解体して持ってきてくれたのだ。

そんなラケータはとても顔を赤くしている。


「ちょっと待って、急な告白に心臓が鼓動止めようとしてる」


「ん、もしかして恋愛的な意味で捉えた?」


「ん、うん。だいぶ疲れてるのかもしれない。BTRの中で寝てていい?」


「仕方ないなぁ…」


ラケータは疲れが溜まるといつもの彼女とは別人のように弱々しい姿を見せる。

2日も寝れば収まるが娯楽の少ないここだと弱々ラケータの音声は聞いていて楽しいしからかう材料にもなる。

私はポケットの中の録音機のスイッチを押した。


音と振動を立ててBTRのエンジンが始動した。

広さや座り心地といった快適性は車体が大柄な分タンケッテよりも格段に良い。

タンケッテでは操縦桿だったがBTRはペダル式だ。

これは幸先がいい。


「出るよ!」


といっても隣の席のラケータは寝ているので返事はこない。

しかしそんなことは関係ない。

私たちを殺そうと熱線の射程まで近づくカニから逃れられるんだから。


じゃあね!カニさん!今回は私たちの勝ちだったよ!!

ご精読ありがとうございます。

まだ設定が甘いところも多いですがこれからも書いていく予定なので見守ってください。


注釈

タンケッテ:1940年次のイタリア陸軍の主力戦車であったL3/33のこと。武装は8ミリ重機関銃2門飲みと貧弱だが酷使され43年のイタリア休戦以降も使われた。


BTR:ウクライナ製の装甲兵員輸送車であるBTR−94のこと。装甲兵員輸送車とは装甲を備えた主に歩兵を輸送する軍用車のことでこのBTR−94は整地で100キロの最高速度を発揮する。


カニ:ビルよりも大きくなったズワイガニを想像して欲しい。カニに有効な攻撃手段として戦術核の投下や1トン爆弾の直撃などが挙げられる。

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