時の審判②
「はぁ、はぁ……」
肩で大きく息をつく。
中央広場に到着する。
中央に大きな噴水。
それを取り囲むようにたくさんのベンチ、その後ろにはたくさんの草や花で埋め尽くされている。
そして楽し気な人、人、人。
「よぉ、ドリュー! これ飲みな」
サイダーの瓶が渡される。
「ありがとう! あのさ、父さんと母さん見なかった?」
「さっきあっちの海側の方で見たよ」
「ありがとう!」
サイダーを口にしながら、中央広場を移動する。
なにせ広い公園だ。
あちこちから声が掛かり、時々踊りながらも群衆の隙間を抜けていく。
現在は石化している仲間達の元気な姿を見るのは辛い。
(……でも今は感傷に浸ってる場合じゃない。やらなきゃいけないことがある)
その想いがドリューを突き動かしていた。
* * *
やがて懐かしい人の後ろ姿を見つける。
「父さ……!」
両親の後ろ姿を視界に捉え、大声で呼びかけようとした時、2人が珍しく神妙そうな顔で仲間と話している姿に口をつぐむ。
1歩1歩近寄ると、木の陰に隠れる。
息を潜め、耳を懸命に傾ける。
「ここの暮らしがつまらないっていうんだよ」
母さんの言葉に仲間が反応する。
「ドリューが? どうしてだい?」
「平和な暮らしに飽き飽きしたって。毎日同じことの繰り返しでつまらないってさ」
「!!!!!」
あの時に戻ってきたんだ。
自分が啖呵を切って、夢世界から現実世界に出て行った、あの時——。
「どうせいつかは現実世界に行って修行しなきゃならないんだ。今を楽しまないでどうするって言ったんだけどさ」
「……まぁ、気持ちは分からなくもない」
黙って離しを聞いていた父さんが頷く。
「若い時分は特にそう思うこともあるだろう。でも夢世界の素晴らしさが分かれば、いつしかその気持ちも埋もれてしまう。ドリューだってきっとそうさ」
「でも納得するかね。気持ちを押し殺してここでの生活を続けるなんて」
「それなら夢世界の素晴らしさを知るためにも、現実世界に行かせればいいさ。ドリューだってそれを望んでるんだろ?」
「でもそれは心配だよ……」
「成人すると、肝試し感覚で行く子が結構多いらしいよ。でも100%音を上げて帰ってくるからね。でもその経験のおかげで夢世界の良さが分かるんだ。比べる対象がないから、幸せな今が見えてないんだよ」
その言葉に両親が顔を見合わせる。
「ドリューは私達の大切な一人息子。わざわざ苦労をさせたくはない。そう思うのは普通だろ?」
「でも一度現実世界に行かせないと、延々と鬱屈した気持ちを溜め込むだけだろう」
「……でも万が一、万が一だけど、現実世界を気に入ったらどうするんだい? あっちに住み着くなんて言ったらもう……」
母親が顔を覆う。
「現実世界はそう甘くないよ。そこを気に入るなんてあり得ない」
母の肩を友人が叩いて慰める。
「私はドリューの意志を尊重したい」
父はしばらく考え込んだ後、決意したように呟く。
「あいつは魔法の扱いも上手い。もう成人だ。自分でどうにかできるだろう」
そんな父の言葉に母が泣き崩れる。
「……」
居た堪れなくなり、その場をそっと離れる。
両親の姿が見えなくなったところで、回れ右をして全速力で駆け出す。