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利成君の・・。

「フローライト第二十二話」

台風の夜に花音はまた来た。今度は診断書を持って来た。その時もまだ利成が帰ってなかったので、家に上げて待ってもらった。こないだよりも少し余裕のある雰囲気で花音は部屋を見回している。


「奥さんは天城さんと幼馴染だったんでしょ?」


お茶を出すと花音が言った。


「そうよ」


「奥さんって病気だって聞いたけど、今はいいんですか?」


「病気?」


「精神病だって」


「・・・違うよ」


こないだと違ってタメ語を使った。


「そうなの?精神病で天城さんも同情したって聞いたんだけど」


「誰から聞いたの?」


「誰だったかな?」と花音が首を傾げる。


精神病・・・確かにセックス恐怖症というか男性恐怖症みたくはなっていたけれど・・・。


「何で子供死んじゃったんですか?」


いきなり聞かれてズキンと胸が痛んだ。


「それは花音さんには関係ないことだから・・・」


「関係あります。私と天城さんつきあってるんだし・・・奥さんが別れてくれないからって言ってましたよ」


「誰が?」


「天城さん」


ああ、それは嘘だろうと思った。利成ならそんなことを言うはずがない。それに利成は自分と離婚する気などないとわかっている。


連絡は入れておいたので、早めに来てくれたのか利成が花音が来てから一時間もしないうちに帰ってきた。


「すごい風だよ」と玄関で利成が言った。


「そう」と明希は答えて先に歩いてリビングに入った。


「こんばんは。こんな台風の中よく来たね」と利成が花音に言った。


明希はキッチンに入って利成にもお茶を入れた。利成は花音の座っている向かい側の一人用のソファに座った。


「天城さん、まずこれ見てね」と花音が診断書を出した。利成がそれを手に取ってみている。それから「うん、わかったよ」と言って花音に返した。明希が利成の前にお茶を置くと、利成が「ありがと」言った。


「さてと、どうしようか?」


利成がそう言ったので明希は利成の横顔を見た。かつて自分も翔太のことで追及された時と同じ言い方だった。


「こないだ言った通り、奥さんと別れて責任取って下さい」と花音はきっぱりと言う。


「そうか・・・まずそれは無理ね」


「なら認知して養育費も出して下さい」


「それをしなかったらどうするの?」


「マスコミに言います」


「そう」


利成が冷めた目をした。ああ、こういう時はかなり怒っているときだと明希は思った。でもこの子にわかるだろうか?


「天城さん、子供欲しいって言ってたじゃないですか?奥さんだとできないからって」


明希は花音を見つめた。それが明希の急所と知っててこないだから攻撃してくるのだ。けれどやり方が露骨過ぎて今回は明希もこないだのようには感情が乱れなかった。


「花音ちゃん、全部わかったよ。まず、俺は花音ちゃんと関係を持ってないからその子供も認知しない。当然養育費もださない。マスコミはご自由にどうぞ。最後に、奥さんを侮辱するような発言に関しては謝罪してくれる?」


利成の声が冷たく響いて、花音が目を見開いてびっくりした顔をした。それから明希の方を見てから「ひどい・・・」と目に涙を浮かべた。


花音がその場でグズグズと涙を流していると利成が言った。


「じゃあ、話しは終了だね。タクシー呼ぶ?」


「ひどい・・・私、訴えるから!」


花音が肩を震わせながら眉を吊り上げている。それを見た利成はため息をついた。それからスマホを取り出した。


「タクシー、お願いします・・・はい・・・」と利成が話し出したら花音がバッと立ち上がって玄関に早足で向かった。利成が通話を切る。明希は慌てて花音の後から玄関に向かった。


「花音さん、外台風で酷いからタクシー待ちましょう」


そう言ったら顔を上げてキッとした目で花音が明希見た。


「何、余裕かましてんの?あんたの旦那、外で色々やってんだよ?知らぬは妻ばかりってね!」


捨て台詞を履くと花音がドアを開けて出て行った。


(あー・・・)と暫し茫然と玄関に立ち竦んだ。ふと気がつくと、利成が少し離れたところから明希を見ていた。明希が利成の顔を見ても特に表情を変えない。明希は曖昧に微笑むとリビングに戻った。


「何だかすごいこと言われちゃった」とダイニングテーブルの椅子に座った。夕食はできていたけれど疲れて動こうと思えなかった。


「子供だから」と利成が言った。明希が利成を見ると利成が考えるような顔をして窓の方を見ていた。


「外で色々って?」と明希が聞くと、利成が明希の顔を見たけれど、特に焦った様子も困った様子も見受けられなかった。


「色々ね・・・明希は何だと思う?」


得意の逆質問だなと思ったけれど、明希は素直に考える風に首を傾げた。


「さあ・・・でも多分、女性関係のことあの子は言ったんだよね?」


「そうだね」


「今、誰か他にいるとかかな?」


「だとしたら明希はどうするの?」


「そうだね・・・どうしようかな」とぼんやりと明希も利成が見つめていた窓の方を見つめた。


風が酷いようだ。けれど嵐は永遠に続かない。明希はずっと翔太への思いを断ち切れなかった。利成はきっと外で女性とセックスすることでバランスを取っていたからこそ、明希にはいつでも優しかったのだ。


「でもまずご飯食べようか?」と微笑んだら利成が少し驚いた顔をした。それから「そうだね」と利成も微笑んだ。


フィルターから少し自由になった明希には、利成はもう小学五年生のあの頃とはまったく違う大人の男性だったけれど・・・。


(でもまだね、子供の頃のままなところもあるんだよね)


食事の準備をして一緒にテーブルについてから、「またしばらく大変かもね」と利成に向かって笑顔を見せると、利成はさっきのようにまた少し面食らったような顔をしてから言った。


「明希、何だかいい女になりすぎてない?」


「え?そう?そんなことないよ」


「でも明希は元々いい女なんだよ?」


「えー・・・それはないわ」と笑った。


自分のフィルターから出てみた世界は実はとても面白い・・・。

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